不動産オーナーにとって、所有物件の情報や賃貸経営の状況を正確に把握することは極めて重要です。物件ごとの家賃収入や経費などの収支を整理した管理台帳をつければ、賃貸経営の健全性を常に確認でき、適切な経営判断につながります。また、正確な帳簿管理は税務申告や金融機関とのやり取りでも必要不可欠であり、家賃収入・管理費・修繕費など多岐にわたる取引を漏れなく記録することが求められます。昨今は不動産業界でもデジタルトランスフォーメーション(DX)が進み、クラウド会計ソフトや管理システムの活用により煩雑な帳簿作業を省力化し、エラーを減らすことが可能になっています。本記事では、不動産オーナー自身が管理台帳を作成・運用する方法について、エクセルとクラウドの活用法やDXによる自動化のポイントを解説します。
1. 項目設計と入力ルール:基本項目と統一ルールの設定
管理台帳を作成する第一歩は、どの項目を記録するかを設計することです。賃貸物件の管理に最低限必要な基本項目として、以下のようなカテゴリと情報が挙げられます。
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物件情報:物件名、所在地、物件種別(アパート・マンション・戸建て等)、規模(部屋数や面積)、取得日 など
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契約情報:部屋番号、契約者名、契約開始日・終了日(更新日)、賃料(月額家賃)、敷金・礼金 など
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入居者情報:入居者氏名、連絡先、入居日、退去予定日、緊急連絡先 など
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収支情報:毎月の家賃、共益費や駐車場代などの収入項目、管理費・修繕費・固定資産税などの支出項目、各月の入金日・入金額、滞納の有無 など
項目を洗い出したら、入力ルールの統一も欠かせません。日付の書式は「YYYY/MM/DD」に統一する、金額は円単位で揃える(千円単位で区切らずフル桁で入力する等)、物件名や入居者名の表記ゆれをなくすといったルールを事前に決めておきます。例えば、「東京都」と「東京」のように表記が揺れると検索・集計時に漏れの原因となるため、正式名称に統一することが重要です。入力ミスや表記ゆれを防ぐために、必要に応じてエクセルのデータ検証機能を使ってプルダウンメニューから選択入力する仕組みを取り入れるのも有効でしょう。また、データは定期的に更新する習慣をつけます。家賃の入金状況や経費支出は毎月確認し、遅れなく台帳に反映させます。契約更新や入退去があった場合もその都度契約情報や入居者情報をアップデートし、常に最新の情報を維持することが大切です。さらに、エクセルで管理する場合は定期的なバックアップを取り、ファイル破損や紛失に備えるようにしましょう。
複数の物件をお持ちの場合、エクセルブックを複数のシートに分けて管理する方法もあります。例えば、「物件マスタ」「収入」「支出」「サマリー」のようにシートを分割し、物件ごとの基本情報は物件マスタに一覧化、日々の入金は収入シートに、経費支出は支出シートに記録し、それらを集計した総合サマリーを設けるという構成です。このようにしておけば、物件数や取引件数が増えても各シートに追記する形で一元管理でき、全体の収支状況を集計シートで即座に把握できます。また、エクセルの関数や条件付き書式を活用すれば、手作業の手間を減らしデータの見落としを防止できます。例えば、家賃の入金額と請求額を比較して自動的に「◯(入金済)」「×(未入金)」を表示するIF関数を組めば、目視で滞納をチェックするより確実です。このように統一された項目設定と入力ルールの徹底によって、管理台帳は誰が見ても分かりやすく実用的な経営ツールとなります。
2. エクセルとクラウドのメリット比較:使いやすさ・コスト・共有性・保守性
管理台帳を作成・運用する方法には、大きく分けてエクセル(表計算ソフト)を使う方法と、クラウド型の管理システムを使う方法があります。それぞれにメリット・デメリットがあるため、使いやすさ、コスト、データ共有性、保守性などの観点で比較してみましょう。
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使いやすさ(操作性):エクセルは多くの社会人が基本的な操作知識を持っており、手元のパソコンにインストールされていればすぐ使える手軽さがあります。自由度が高く、自分好みにカスタマイズした表を作成できる点も利点です。一方、クラウド型の不動産管理システムは賃貸管理に特化したUIが用意されており、初期設定さえ済めば専門知識がなくても入力しやすい工夫がされています。例えば家賃や支出を入力するだけで自動計算・自動仕分けされるなど、人為的なミスを防ぎやすい設計になっています。操作に不慣れな場合でもサポート体制が整っているサービスが多く、安心して利用できるでしょう。
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コスト:エクセルによる管理は、既にソフトを所有していれば追加費用がかからず始められるという大きなメリットがあります。また、クラウドサービスでも簡易なものは無料プランが用意されている場合もあります。しかし、機能が充実した賃貸管理クラウドや会計ソフトは月額料金や初期導入費用が発生するのが一般的です。例えば、物件数やユーザー数に応じたサブスクリプション料金が設定されています。ただし、そのコストは業務効率化による時間短縮やミス削減の効果と天秤にかけて検討すべきです。特に物件数が増えて管理業務が煩雑になってきた場合、有料の管理システム導入によって得られる効率化メリットは、支払う費用以上の価値を生むことも多いです。
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共有性(コラボレーション):エクセルで作成した台帳は、ファイルを関係者と共有することで複数人で閲覧・編集できます。しかしメールでのやり取りでは最新版の管理が煩雑になり、同時編集すると競合が発生するリスクがあります。クラウド型システムでは、インターネット経由でデータベースにアクセスするため、いつでもどこでもPCやスマホから最新情報を確認・更新できる利点があります。複数のユーザーが同時にログインしてもリアルタイムにデータが反映されるため、担当者間での情報共有がスムーズです。例えば、オーナーご自身と税理士や不動産管理会社スタッフが同じデータを参照しながら状況を把握する、といったことも容易に実現できます。
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保守性・安全性:エクセル管理では、ファイル破損や誤って削除してしまうリスク、パソコン故障時のデータ消失リスクなどに注意が必要です。またファイルを社外に持ち出すと情報漏えいの危険もあります。一方クラウドシステムでは、データはサービス提供者のサーバ上に安全に保管され、自動バックアップやアクセス権限の設定機能が備わっていることがほとんどです。万一PCが故障してもクラウド上のデータは残り、ログインすれば復旧できます。セキュリティ面でも、通信の暗号化や二要素認証などが導入されているサービスを選べば、個人で管理するより高い安全性を確保できるでしょう。システムのアップデートもプロバイダ側で適宜行われるため、常に最新の機能や法改正への対応が提供される点も安心です。
以上をまとめると、少数の物件を自身で細かくカスタマイズして管理したい場合やコストを極力かけずに始めたい場合にはエクセルが適しています。一方で、管理物件が増えて業務量が膨らんできた場合や複数人で効率的に運用したい場合には、クラウド型システムの導入が有力な選択肢となります。実際、「エクセルでの管理はデータ量が増えると入力ミスや二重入力が発生しやすくなるが、クラウドの賃貸管理ツールは操作が簡単でミスを防ぎやすい」との指摘もあります。まずは現在の物件数や業務形態に合わせて適切な方法を選び、必要に応じて段階的に移行を検討するとよいでしょう。
3. DX連携で自動更新を実現する方法:会計ソフト・管理アプリとの連携
データ入力や更新の手間をさらに削減し精度を高めるには、デジタル技術との連携(DXの活用)が有効です。具体的には、管理台帳と他のシステムを連携させることで、手動入力せずともデータを自動更新できる仕組みを構築します。以下に主な連携例とそのメリットを紹介します。
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会計ソフトとの連携:既に会計ソフト(例えば「会計freee」や「マネーフォワードクラウド会計」など)で不動産収支を管理している場合は、管理台帳と会計システムを同期させると効率的です。クラウド会計ソフトは不動産賃貸業向けの機能も備えており、銀行明細の自動取得や領収書スキャンによる経費計上の自動化など、煩雑な記帳作業を大幅に軽減できます。管理台帳で物件ごとの収支を集計し、それを会計ソフトに取り込んで財務全体を管理する、またはその逆に会計ソフトのデータから物件別の収支レポートを生成するなど、二重入力を防ぐ運用が可能です。例えば、賃貸管理ソフトの中には既存の会計ソフトと連携できるものもあり、導入時にデータをスムーズに移行できるケースもあります。
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銀行口座・決済サービスとの連携:毎月の家賃入金の確認作業はオーナーにとって大きな負担ですが、銀行API連携を活用すれば自動化が可能です。複数物件・複数の入居者がそれぞれ異なるタイミングで振り込む家賃を、人手で照合するのは手間とミスのもとです。近年では、銀行の入出金明細を一括取得できる金融APIを活用したサービスが登場しており、一度設定しておけば毎日自動で口座情報を取得し最新化してくれます。例えばクラウド賃貸管理ソフト「ReDocS(リドックス)」では、このAPI連携により各入居者からの家賃支払いを自動で消込(照合)する機能を実現しています。従来は月末月初の入金確認にアルバイトを雇って対応していたようなケースでも、システム導入後は人手を介さず正確に入金チェックが完了し、「一人当たりが管理できる戸数が増えた」など大きな効率化効果が報告されています。銀行口座や決済代行サービスとの連携により、家賃の自動引き落としや入金通知メールの自動送信、未入金時の自動督促といった機能を提供する仕組みも実現可能です。これにより、オーナー自身が毎月通帳と照合して台帳を更新するといった手間から解放され、入金漏れの見逃しも防げます。
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入居者管理アプリとの連携:不動産テックの発展により、入居者向けのスマートフォンアプリや入居者ポータルサイトを提供するサービスも増えています。それらと管理台帳を連携すれば、入居者情報や契約状況の更新を自動化できます。例えば、入居申込から審査・契約までをオンラインで行うシステムを利用すれば、新規契約が成立した際に物件情報や契約者情報が管理台帳に自動登録されるといった仕組みも可能です。さらに、INA&Associatesのように設備の不具合報告や修繕依頼があった場合に、その内容が管理システム上でチケット化され履歴として蓄積されるようにしている管理会社もあります。他にも、大手不動産ポータルサイト(SUUMOやホームズ等)と空室情報を連携し、物件の空室状況を台帳からワンクリックで更新・反映できる機能を備えたクラウドシステムも登場しています。これにより、別途サイトにログインして情報更新する手間を省き、空室募集のタイミングを逃さないようにすることができます。
このように、管理台帳と周辺システムを連携させることで、入力作業の自動化・一元化が実現できます。人手に頼る部分を減らせばヒューマンエラーも減少し、常に最新データに基づいた経営判断が可能となります。将来的に「物件管理に関わるすべての収支を一元管理する」ことを目指して、様々なDXソリューションを組み合わせて活用する動きも進んでいます。現在は難しく感じられる場合も、例えば銀行口座の自動連携から試してみるなど、できる範囲でDXを取り入れていくとよいでしょう。
4. 自主管理の限界とプロに任せる意義:専門知識・法務対応・業務効率の観点から
以上、自ら管理台帳を整備し運用する方法を見てきました。しかし、不動産賃貸経営を取り巻く業務は帳簿管理だけではありません。物件の維持管理、入居者対応、契約手続き、トラブル対応、法改正への対応など、多岐にわたる実務が伴います。自主管理にはコスト削減や自由度の高さといったメリットもありますが、同時にいくつかの限界やデメリットが存在することも認識しておく必要があります。
まず、自分で全ての管理業務を行う場合、時間と労力の負担が大きくなります。特に本業が別にあるオーナー様にとって、賃貸経営に割ける時間には限りがあるでしょう。物件数が増えるほど日々の管理業務は膨大になり、せっかく台帳を用意しても入力やチェックが追いつかなくなる恐れもあります。また、賃貸管理には不動産や契約法務、建物設備に関する専門知識が要求される場面が多々あります。例えば、入居者から法律に関わるクレームがあった際の適切な対処、賃料滞納が発生した場合の法的手続き(督促や明け渡し訴訟等)、老朽化した設備の改修計画立案など、専門家でなければ対応が難しい事案も起こりえます。最新の法令改正(賃貸借契約におけるルール変更など)や補助金制度の情報を常に把握しておく必要もあり、個人で全てをフォローするのは容易ではありません。
さらに、賃貸経営では24時間体制の緊急対応が求められる場合があります。深夜に水漏れや停電などのトラブルが発生した際、オーナー自身で対応しなければならないとなると大きな精神的負担です。管理会社に委託していれば、こうした緊急連絡も代行対応してもらえるため安心です。自主管理では入居者からの問い合わせや苦情処理も全て直接引き受けることになり、「クレーム対応や家賃督促を自分で行うのは精神的にも負担」と感じるケースも少なくありません。
以上のような理由から、プロに任せる選択肢を検討する意義は大いにあります。専門の不動産管理会社に委託すれば、煩雑な実務や緊急対応を任せることができ、オーナー様は経営の戦略部分(物件の選定や資金計画等)に注力できます。また、管理会社は豊富な経験と知識に基づき、入居者募集のノウハウや契約更新の手続き、退去時の精算対応まで一貫してサポートしてくれます。法改正や市場動向にも精通しているため、最新の情報に沿った適切な対応が可能です。例えばINA&Associatesでは、自社開発の管理システムを駆使して契約・更新手続きや家賃送金明細の報告をオンラインで完結し、入居者からの問い合わせも24時間対応のコールセンターで受け付ける体制を整えています。その結果、最小限のスタッフでも多くの物件を効率良く管理できる仕組みを実現し、低コストかつ高品質なサービス提供を可能にしています。実際にINA&Associates株式会社では、賃貸管理業務を1戸あたり月額1,000円という定額料金で受託するプランを打ち出し、契約・更新、入居者対応、家賃集金・送金、滞納督促までを包括的に代行しています。プロに任せることで、オーナー様は煩わしい日常管理から解放されるとともに、入居者満足度の向上や資産価値の維持向上といった面でもプラスの効果が期待できます。専門会社ならではのネットワーク(修理業者やリーシング営業力)を活用できる点も見逃せません。
もちろん、管理委託には費用がかかりますが、前述のとおり最近ではDXの活用により非常に安価なサービスも登場しており、管理料以上の価値を提供できるケースが増えています。自主管理による節約と、管理委託による効率化・安心感のバランスを考慮し、物件数やご自身の状況に応じて最適な判断をすることが重要です。
5. おわりに:まとめとINAへの相談を促すメッセージ
不動産管理台帳の作成方法から、エクセル・クラウドの比較、DX連携による自動化のポイント、そしてプロに任せることの意義まで、一通り解説いたしました。管理台帳は不動産オーナーにとって経営の「羅針盤」のようなものであり、正しく整備・運用することで収益管理の精度が高まり、将来的な投資判断の助けともなります。まずはご自身の手で基本的な台帳を作成し、小規模なうちはエクセル等で運用するのも良いでしょう。しかし、物件数の増加や業務負担の拡大を感じ始めたら、無理に全てを抱え込まずプロへの委託を検討するタイミングかもしれません。
幸いなことに、昨今はテクノロジーを活用して低価格で質の高い賃貸管理サービスを提供する企業も登場しています。INA&Associatesもその一つで、最新のDXを取り入れた効率的な運用でオーナー様をサポートしています。「管理のプロに任せる」という選択肢は、オーナー様に安心と時間的余裕をもたらし、結果的に不動産経営の安定化・拡大につながることでしょう。管理台帳づくりに挑戦した上で、「もっと効率化したい」「専門家の力を借りて安心したい」と感じられましたら、ぜひ一度INA&Associateにお声掛けください。経験豊富なプロフェッショナルが、オーナー様の大切な不動産資産を守り育てるお手伝いいたします。管理台帳と適切なパートナーを味方につけて、安心・安全で効率的な賃貸経営を実現していきましょう。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター