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    管理計画認定制度とは?中古マンション市場への影響とメリット・デメリット

    2022年4月、分譲マンションの管理状態に公的なお墨付きを与える「管理計画認定制度」がスタートしました。この制度では、マンションの管理組合が策定した管理計画が一定の基準を満たせば地方公共団体から認定(=管理計画認定マンション)を受けられます。管理状況を「見える化」して市場に情報提供することで、中古マンションの資産価値や流通にも大きな影響を与えると期待されています。

    管理計画認定制度の概要と目的

    管理計画認定制度の概要: マンション管理計画認定制度とは、マンションの管理計画が国土交通省の定める一定の基準を満たす場合に、地方公共団体から公式に認定を受けられる仕組みです。2020年のマンション管理適正化法改正によって創設され、2022年4月から本格的に運用が開始されました。認定の主体は各自治体(市区町村、都道府県)で、国が示した基準※に基づきマンションの管理状況を審査し、適切に管理されているマンションに「認定通知書」を交付します。

    認定基準の例: 管理組合の運営状況(総会を定期開催しているか)、管理規約の整備状況、管理費・修繕積立金の経理区分と滞納への対応、長期修繕計画の内容(30年以上の計画期間に複数回の大規模修繕を含むか、積立金額が適切か)など、多岐にわたる項目でチェックされます。これら5分野・17項目にわたる基準すべてを満たすマンションが「管理計画認定マンション」として認定される仕組みです。認定の有効期間は5年間で、更新時には再申請が必要となります(申請費用は自治体により異なる)。

    制度導入の目的: 管理計画認定制度が導入された最大の目的は、全国のマンションの管理水準を底上げし、適正な維持管理を促進することです。マンションの老朽化・高齢化問題に対応し、「健全な管理」と「老朽マンションの円滑な再生」を促すために国土交通省が創設しました。従来、マンションの管理は各管理組合の自主性に委ねられてきましたが、今後は国と自治体が積極的に関与していく姿勢が示されています。具体的には、本制度によって管理状態の優れたマンションに公的なお墨付きを与える一方、管理状態が不適切と判断されるマンションには自治体が助言・指導・勧告を行うことになりました。認定マンション一覧は公益財団法人マンション管理センター等のサイトで公開されるため、第三者(購入検討者や金融機関など)もその管理状況をチェックできるようになります。こうした施策により、マンション管理組合が主体的に管理改善に取り組む好循環を生み出すことが期待されています。

    制度導入の背景と国土交通省の意図

    老朽化と高齢化という課題: 管理計画認定制度が生まれた背景には、日本全国で進むマンションストックの老朽化と、所有者・居住者の高齢化という深刻な課題があります。国土交通省の調査によれば、築40年超のマンションは2022年末時点で約125.7万戸にのぼり、10年後の2032年には約260万戸(約2.1倍)、20年後の2042年には約445万戸(約3.5倍)にまで増加する見込みです。築年数の古いマンションが急増する一方で、管理組合を担う人材も高齢化し、役員のなり手不足が各地で問題化しています。実際、「永住するつもりで今のマンションに住んでいる」という人の割合が増加し、建物も住民も高齢化する中で修繕積立金の不足重要事項の合意形成困難といった事態が懸念されています。

    このように放置すれば、管理不全マンション(適切な維持管理が行われず荒廃したマンション)が増加しかねません。管理不全に陥ると建物や設備が放置されるだけでなく、管理費滞納の増加や防災・衛生・景観面で周辺地域にも悪影響を及ぼす恐れがあります。事実、過去には管理会社の倒産により修繕積立金が失われ、マンション維持が困難になる事件も発生していました。国土交通省はこうした事態を未然に防ぎ、将来増えていく老朽マンションの再生を円滑に進めるために本制度を導入したのです。

    国土交通省の狙い: 本制度には「マンションの管理の適正化を国の主導で進め、住宅ストックの質を維持向上させる」という国土交通省の強い意図があります。具体的には、国が基本方針と認定基準を定め、地方公共団体がそれをもとに認定制度を運用することで、マンション管理の質を底上げし、市場で評価される仕組みを整えることが目指されています。また、管理状況の情報開示を進めることで、区分所有者(オーナー)自身が自分のマンションの状態を把握・認識し、適切な管理への意識を高める効果も期待されています。国交省は「マンションは管理を買え」という言葉に象徴されるように、「住まいの資産価値は管理の良し悪しで決まる時代」に備えた環境整備を進めているのです。

    中古マンション市場への影響:資産価値と流通はどう変わる?

    管理の見える化による差別化: 管理計画認定制度の導入により、マンションの管理の質が市場で評価される時代が本格的に始まりつつあります。これまでは中古マンションの資産価値評価といえば「立地」「築年数」「専有面積」などが重視され、管理状況は外からは把握しにくい要素でした。しかし認定制度によって、「そのマンションが適切に管理されているかどうか」が公的に証明されるため、購入希望者にとって重要な判断材料となります。実際、「そのマンションが認定を受けているか否か」は資産価値に直結する指標になり得ると指摘されています。認定を受けているマンションは管理状態が良好な証明として市場で高く評価され、反対に認定なしの場合は相対的に評価が下がる可能性があるという見方です。

    資産価値への影響: 国土交通省自身も、本制度によってマンションの管理状況が「見える化」されることで、中古市場で適切に評価される環境が整うと期待を示しています。例えば、管理計画認定マンションを購入する場合、住宅ローン【フラット35】の金利引き下げ優遇が受けられる仕組みがすでに用意されており、こうした金融上のメリットは認定マンションの方が購入しやすくなる(売りやすくなる)要因と言えます。また、大手不動産情報サイトのアットホームは2024年5月より、物件情報ページに「管理計画認定マンション」であることを明示するサービスを開始しました。これにより、消費者は物件検索の時点でそのマンションが認定取得済みか一目で分かるようになっています。不動産ポータルが管理情報を掲載するのは異例であり、それだけ市場でも認定マンションが注目され始めている証拠と言えます。

    さらに、情報開示の進展に伴い「管理の質が価格に反映される」傾向もデータで示されています。横浜市立大学・鈴木准教授の分析によれば、民間のマンション管理適正評価制度(※マンション管理業協会による☆評価制度)で星5つ(満点)の評価を受けたマンションは、未評価のマンションに比べて売買価格に約11%のプレミアム(上乗せ)が確認できたとのことです。これは第三者による管理評価が高いマンションほど市場価格が高い傾向にあることを示しており、管理計画認定制度においても同様に、管理良好なマンションほど資産価値を維持・向上しやすくなると考えられます。

    資産価値の向上と管理の質の改善 – オーナーにとってのメリット

    資産価値の安定・向上: 実際にマンションに居住するオーナーにとって、管理計画認定制度の最大のメリットの一つは資産価値の安定もしくは向上です。認定を受けたマンションは市場で高く評価されやすくなるため、将来的に売却を検討する際にも有利に働きます。例えば、築28年のマンションを売却したあるオーナーは、管理組合で認定を取得していたことで査定額が予想より80万円も高くなり、近隣の未認定マンションより好条件で売却できたと証言しています。不動産会社からは「認定マンションは管理状態が良い証明になるので、同じ築年数でも高く売れる傾向があります」と説明を受けたそうで、認定取得に協力して本当に良かったと振り返っています。このように、認定制度によってマンションの資産価値が守られ、場合によってはアップすることが期待できます。

    住み心地・管理品質の向上: 認定を受けるためには、管理組合の運営体制や長期修繕計画、資金管理など様々な面で一定水準を満たす必要があります。その過程で管理上の問題点を洗い出し、改善する契機になるため、結果的にマンション全体の管理の質が向上します。たとえば、「総会の開催頻度を増やす」「修繕積立金の長期見通しを精査し不足があれば増額する」「名簿や記録類を整備する」といった取り組みが行われ、建物や設備の維持管理体制が強化されます。これによって日常の住み心地や安全性も高まり、安心して暮らせる環境づくりにつながります。実際、認定取得をきっかけに「居住価値(快適さ)が向上した」「管理への関心が高まった」といった声も聞かれます。適切な管理が行われているマンションは共用部分が清潔に保たれ、設備不良やトラブルの発生も抑えられるため、長期的に見てマンションの寿命延伸効果も期待できます。

    税制・金融面の優遇措置: 管理計画認定マンションには、行政による経済的な支援策も用意されています。例えば、認定マンションが一定の要件を満たす場合には固定資産税の減額措置を受けられる制度があります(※老朽マンションの長寿命化を促進する税制特例)。また、前述のとおり認定マンションを購入する際の住宅ローン金利優遇(フラット35の金利引下げ)に加え、認定マンションで共用部の改修工事を行う場合に低利のリフォーム融資を受けられる制度、修繕積立金を運用する「マンションすまい・る債」の金利優遇など、多角的な金融支援も用意されています。居住オーナーに直接恩恵が及ぶものとしては、毎年支払う固定資産税の負担軽減や、将来リフォーム実施時の金利負担軽減などが挙げられ、認定を受けておくことで長期的なコスト面でも有利になる可能性があります。

    コミュニティへの安心感と信用力向上: 認定を受けたマンションは、客観的に見て「管理の行き届いた優良なマンション」であると証明されたものです。そのため、オーナーや居住者にとっては自分たちの住まいに対する誇りや愛着が高まる効果もあります。実際、認定や評価制度を利用しているマンションでは「理事会の努力に感謝」「認定を受けて嬉しく思う」「資産価値が上がると思う」といった居住者の声が多く集まったとの報告があります。マンション全体で管理意識が共有されることで、住民同士の協力体制も強まりやすく、良好なコミュニティ形成にもプラスに働きます。さらに、認定マンションであることは金融機関や将来の買い手からの信用力向上にも寄与します。マンションを担保にローンを組む場合や売却時の査定でも、「このマンションなら管理面のリスクが低い」という安心感を与えるためです。総じて、管理計画認定制度の活用は居住オーナーにとって資産的メリットと生活面のメリットの両方をもたらすといえるでしょう。

    想定されるデメリットや懸念点

    メリットが多い一方で、管理計画認定制度にはいくつか注意すべきデメリットや懸念点も指摘されています。

    • 管理組合の負担増: 最大の懸念は、管理組合の事務負担が増加することです。認定を取得・維持するためには、申請書類の準備や自治体への提出手続き、必要書類の整備など、通常の管理業務に加えて追加の業務が発生します。特に書類作成や要件のチェックには専門知識も必要なため、マンション管理士などの専門家に相談したり、場合によっては委託したりするケースもあります。その分の時間的・金銭的コストは管理組合(ひいては区分所有者)の負担となります。さらに、認定の有効期限は5年で定期的な更新手続きが必要なので、一度認定を取った後も継続して手間がかかります。

    • 管理内容見直しによる負担: 認定基準を満たすために、現状の管理体制を見直さなければならないマンションも少なくありません。例えば、修繕積立金の不足が判明した場合は積立金の増額(値上げ)を検討する必要があります。実当然ながら、追加の金銭負担に対して居住者の合意を得るプロセスは容易ではない場合もあります。高齢の方や経済的負担増を懸念する方が反対すれば、組合内で調整が必要になるでしょう。このように、認定取得のためのハードルをクリアするには組合内の合意形成や追加負担といった現実的な課題が伴います。

    • 認定されないマンションのリスク: 認定制度はあくまで任意取得であり、認定を受けなくても直接的なペナルティ(罰則)が課されるわけではありません。しかし、市場の視点では将来的に「認定マンション」か否かで評価に差が出るリスクがあります。周辺の類似マンションが次々と認定を取得する中、自分のマンションだけ認定を取れていない場合、購入希望者から「管理に不安があるのではないか」と見られたり、資産価値が相対的に下がったりする懸念があります。特に築年数が経過して設備や構造に不安がある物件ほど、認定がないことで敬遠される可能性が高まるでしょう。また、本制度の運用により各自治体は管理不全とみられるマンションに助言・指導・勧告を行うことになっています。仮に自分のマンションが勧告対象となった場合、社会的に「管理不全マンション」という烙印を押されるようなものです。そうなると資産価値の低下は避けられず、将来的な建て替えや売却も一層困難になるリスクがあります。

    • 制度効果への不透明感: 管理計画認定制度そのものの市場における効果は未知数な部分もあるとの指摘もあります。制度開始からまだ数年程度であり、認定取得が長期的にどの程度マンションの価値向上につながるかは今後の市場動向次第です。現時点では「資産価値が上がるケースが増えている」といった肯定的な報告がある一方で、「制度創設の影響は冷静に見極める必要がある」という慎重な意見も聞かれます。極端に楽観視して無理に認定取得を目指すのではなく、自マンションの状況や周辺相場を踏まえて戦略的に判断することが重要です。

    以上のように、認定制度にはメリットだけでなく一定のコストやリスクも伴います。特に管理組合の運営力が弱いマンション(高齢化が進んで役員が不足している等)では、認定取得のハードルが高く感じられるかもしれません。しかし、そういったマンションほど本来は認定基準を参考に管理状況の改善に取り組む価値があるとも言えます。デメリット面も把握しつつ、マンションの実情に応じた対応策を検討することが望まれます。

    現時点での市場の反応や事例

    認定取得の広がり: 管理計画認定制度は始まってからまだ日が浅いものの、徐々に市場での認知度が高まりつつあります。制度開始から2年が経過した2024年5月時点で、全国で800件超のマンションが認定を取得しています。2023年初時点では400件台でしたので、ここ1年ほどで倍増している計算です。特にマンション戸数が多く管理組合の体制がしっかりした大規模物件や、管理状況に自信のある管理組合が率先して認定にチャレンジしている傾向があります。例えば横浜市で管理計画認定の第1号となったマンション(築35年以上・約600戸)では、理事長自ら制度を知って迷わず申請を決断し、見事認定を取得しました。同時に民間の管理適正評価制度にも挑戦して星5つ(100点満点)を獲得しており、専門家(弁護士・建築士・マンション管理士・会計士等)の助言を仰ぎつつ管理組合運営の適正化に尽力するなど、先進的な管理への取り組みを行っています。このマンションでは5年前に修繕積立金の積立方式を見直すなど継続的に管理改善を重ねており、その成果が高い評価につながったといいます。居住者からも「理事会の努力に感謝」「認定を受けて嬉しい」「やはり資産価値が上がるのでは」といった声が寄せられ、認定取得が住民の士気向上にもつながった良い事例と言えるでしょう。

    市場からの評価: 中古マンション市場において、管理計画認定制度への注目度は確実に高まっています。不動産業界でも「いよいよ管理の質が市場で評価される時代になってきた」との声が上がっており、購入希望者が物件選びの際に管理状況を重視する傾向が鮮明になりつつあります。実際、前述のようにポータルサイトで認定情報が掲載され始めたことや、専門家の調査で管理評価が高いマンションに価格プレミアムがついていることは、市場が管理の良いマンションに高い価値を認め始めた証拠と言えるでしょう。さらに、国や自治体もセミナーやガイドラインを通じて本制度の周知・啓発に努めており、「認定マンション=資産価値が保たれた安心できるマンション」というイメージが徐々に浸透しつつあります。

    他方、現状では未だ認定を取得していないマンションの方が多数派であり、市場全体に与える影響は今後の普及次第とも言えます。特に小規模マンションや築浅マンションでは認定取得の動きがそれほど活発でなく、「そこまで手間をかけなくても…」と様子見の管理組合も多いのが実情です。しかし、中古マンションの流通促進や安心できる住宅ストック形成の観点からは、本制度が果たす役割は大きく、今後さらに認定物件が増えていくことが予想されます。マンションオーナーにとっては、自身の資産価値を守り高める一つの手段として、管理計画認定制度へのチャレンジを前向きに検討してみる価値があるでしょう。

    まとめ: 管理計画認定制度は、分譲マンションの「見えにくかった管理の質」を可視化し、市場の信頼につなげる画期的な取り組みです。適切な管理が行われているマンションには確かな資産価値が宿り、そうでないマンションとの差別化が進む時代が訪れています。実際に制度開始から僅かながらもポジティブな事例が報告されており、制度の効果は徐々に現れ始めています。もちろん取得に向けたハードルや負担はありますが、メリットとデメリットを正しく理解し、専門家の力も借りながら対策を講じていけば、マンションの将来価値と安心な暮らしを守る大きな武器となるでしょう。「マンションは管理を買え」と言われる今、オーナーとして賢く制度を活用し、ご自身のマンションの価値向上に役立てていただきたいところです。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。