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    都市再生の新たなランドマーク - 内神田一丁目再開発が切り拓く神田と大手町の共創空間

    東京都ホームページより引用

    不動産業界において、都市開発とは単なる建物の建て替えではなく、地域の価値向上と人々の暮らしの質を高める重要な取り組みです。近年、東京都心部で進む再開発プロジェクトの中でも、特に注目されているのが千代田区内神田一丁目における大規模再開発事業です。本記事では、神田と大手町の結節点に位置するこの再開発事業の概要と特徴、そして地域にもたらす価値について、最新情報をもとに解説していきます。

    内神田一丁目再開発計画の概要

    内神田一丁目地区第一種市街地再開発事業(通称:大手町ゲートビルディング)は、三菱地所株式会社が施行者となり、東京都千代田区内神田一丁目に位置する約1.0ヘクタールの敷地で進められている大規模再開発プロジェクトです。総事業費約551億円をかけ、地上26階・地下3階、高さ約130mの高層複合施設を建設する計画となっています。

    この計画は2020年9月に都市計画決定され、2021年2月に第一種市街地再開発事業の施行認可を取得、同年4月から既存建物の解体工事が始まりました。2022年5月には新築工事が着手され、2026年7月の竣工を目指して現在も工事が進められています。

    計画の特徴と都市機能の革新

    1. 神田と大手町をつなぐ結節点の創出

    本計画の最大の特徴は、これまで日本橋川や首都高速道路によって分断されていた神田エリアと大手町エリアを有機的につなぎ、都心の回遊性を高める「結節点」としての役割です。大手町川端緑道から敷地へと人道橋を架け、約1,000㎡の交流広場を整備することで、人の流れを創出し、両エリアの賑わいの連続性を生み出します。

    日本橋川沿いには、かつての「鎌倉河岸」をイメージした防災船着場を新設。平時は観光や水上交通のために活用し、災害時には緊急物資の輸送や避難経路として機能する計画です。これにより、水辺空間を都市の貴重な資源として活かす新たな試みが実現します。

    2. 地域防災性の向上を目指した施設整備

    都心部における防災機能の強化も本計画の重要な柱です。交流広場や建物内エントランスホールは災害時の一時滞在施設として活用されるほか、上述の防災船着場を防災拠点として医療施設等との連携体制を整えます。さらに、大手町エリアのエネルギーネットワークを神田エリアへ延伸させることで、災害時のエネルギー供給の安定性も確保されます。

    3. ビジネス・産業支援機能の集約

    建物の低層階には、入居企業が利用目的や成長フェーズに応じて活用できるオフィススペースや、企業間交流を促進するサロンが整備されます。特に、アグリ・フード分野を中心としたビジネス・産業支援機能を配置することで、イノベーションの創出を促進。神田エリアの既存産業と大手町エリアの国際的企業との交流を通じた新たな価値創造が期待されます。

    地域特性を活かした都市デザイン

    内神田一丁目エリアは、北側に神田駅西口通り商店街や出世不動通り商店街といった賑わいのあるエリアが形成され、南側には大手町の国内外の大企業の集積や皇居、国際級ホテルが位置しています。この立地特性を最大限に活かし、新たな都市空間を創出することが本計画の狙いです。

    現状では、建物の老朽化による防災性の低下や、日本橋川に対して背を向けた建物配置などの課題がありました。本計画では、これらの課題を解決すべく、日本橋川を正面に据えた開放的な建物配置と、歩行者ネットワークの強化による回遊性の向上を図ります。

    また、北側区道の無電柱化・美装化などの公共空間整備により、歩行者にとって快適で安全な都市環境を実現。丸の内から大手町へと連続する「仲通り」の機能を神田エリアへと延伸させることで、都心部における歩行者ネットワークの強化にも貢献します。

    再開発がもたらす地域への影響

    1. 経済活性化と新たなビジネス機会の創出

    本再開発は、単なる建物の建て替えにとどまらず、地域経済の活性化にも大きく寄与すると考えられます。約85,000㎡の延床面積を持つ複合施設の完成により、新たなオフィス需要の受け皿となるだけでなく、低層階の商業施設やビジネス支援機能を通じて、神田エリアの既存の商店街や企業との相乗効果も期待できます。

    特に、大手町と神田の結節点というロケーションを活かすことで、これまで分断されていた両エリアの経済活動が融合し、新たなビジネス機会が創出されるでしょう。ビジネス・産業支援施設の設置は、スタートアップ企業の育成やイノベーション創出の場となり、地域の産業構造にも好影響をもたらすことが期待されます。

    2. 都市景観と環境の改善

    高さ約130mのランドマークタワーの出現は、神田エリアの都市景観を大きく変化させます。特に日本橋川沿いの水辺空間の整備と合わせて、これまで背を向けていた川に対して開かれた景観が形成されることで、エリア全体の魅力が向上するでしょう。

    また、広場や緑地の整備、無電柱化による歩行空間の拡充は、都市の環境改善にも貢献します。ヒートアイランド現象の緩和や歩行者の快適性向上など、都市環境の質的な改善も本計画の重要な成果となるはずです。

    3. 災害に強い安全・安心な都市づくり

    内神田一丁目エリアは、老朽化した建物が多く、防災面での課題を抱えていました。本再開発により、最新の耐震性能を備えた建物への更新と、前述した防災機能の強化が実現します。帰宅困難者の受け入れ施設や防災船着場の整備などにより、災害時の安全性が大幅に向上するでしょう。

    エネルギーネットワークの拡充による自立分散型エネルギーシステムの導入も、災害時のレジリエンス(回復力)を高める重要な要素です。これにより、神田エリア全体の防災性能が底上げされ、安全・安心な都市環境の実現に寄与します。

    今後の課題と展望

    内神田一丁目の再開発計画は、2025年11月の竣工を目指して着実に進行していますが、いくつかの課題と今後の展望について考えておく必要があります。

    1. 地域コミュニティとの融合

    新たに整備される大規模複合施設と、歴史ある神田の地域コミュニティとの融合をいかに図るかは重要な課題です。計画されている交流広場やビジネス支援施設を通じて、地域住民や既存商店街との協働の場を創出し、地域に根差した施設となることが望まれます。

    2. 持続可能な都市開発のモデルケースとしての可能性

    本計画では、エネルギーネットワークの拡充や水辺空間の活用、歩行者中心の都市空間形成など、持続可能な都市開発の要素が多く含まれています。これらの取り組みを通じて、環境負荷の少ない都市開発のモデルケースとなることが期待されます。

    3. ポストコロナ時代の都市機能への対応

    新型コロナウイルス感染症の流行を経て、オフィスの在り方やワークスタイルに大きな変化が生じています。本計画においても、柔軟な働き方に対応したオフィス空間や、デジタル技術を活用した新たなワークプレイスの提供など、ポストコロナ時代の都市機能に対応した施設づくりが求められるでしょう。

    おわりに

    内神田一丁目の再開発は、単なる一地区の更新にとどまらず、神田と大手町という異なる特性を持つエリアをつなぎ、新たな都市の価値を創造するプロジェクトです。歩行者ネットワークの強化、水辺空間の活用、防災機能の充実、ビジネス支援機能の導入など、多面的なアプローチによって、都市の課題解決と新たな可能性の開拓を同時に目指しています。

    大手町ゲートビルディングが完成する2026年、東京の都心部には新たなランドマークが誕生し、人々の働き方や都市での過ごし方に新たな選択肢を提供することでしょう。不動産業界に携わる者として、この画期的なプロジェクトの進展を引き続き注視し、その成果を広く共有していきたいと考えています。

    人と人とのつながりと信頼関係を育む場としての都市づくりが、今後も持続的に進められることを願ってやみません。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。