「不動産管理士」という言葉で検索する方も多いですが、実はこの名称の資格は存在しません。正確には「賃貸不動産経営管理士」という国家資格を指しており、しばしば略して「賃貸管理士」と呼ばれています。名称が長いため混同されやすく、「不動産管理士」と誤って表現されることが少なくありません。この記事では、この賃貸不動産経営管理士の資格について、概要や取得メリット、活用場面を詳しく解説します。誤解をやさしく正しつつ、資格取得を検討している方に役立つ情報をお伝えします。
賃貸不動産経営管理士とは – 資格の概要
賃貸不動産経営管理士は、賃貸住宅の管理に関する専門知識・技能・倫理観を備えた賃貸管理のプロフェッショナルです。不動産オーナー(貸主)と入居者(借主)の双方の利益を守り、賃貸物件の適正な管理を行う重要な役割を担います。例えば入居者募集から入居審査、契約後のトラブル対応、設備の維持管理、退去時の原状回復まで、賃貸管理業務全般に関与します。またオーナーから物件の管理を委託され、周辺の家賃相場を調査して適正な賃料を提案したり、物件価値を高めるためのアドバイスを行ったりもします。こうした幅広い業務知識を持つ専門家として、業界で重要視される資格です。
国家資格化と法的な位置づけ: 賃貸不動産経営管理士は2007年に創設された比較的新しい資格ですが、現在では賃貸住宅管理業法に基づく国家資格として位置付けられています。2021年の法改正により国家資格化され、2022年6月15日以降は従来の民間資格から正式な国家資格へ移行しました。賃貸住宅管理業を営む会社では「業務管理者」と呼ばれる有資格者を各事務所に1名以上置くことが義務付けられており、その要件となる資格が賃貸不動産経営管理士です。つまり、この資格を持つ人は法律上も重要なポジションを担うことになります。国家資格となったことで社会的信用度も増し、不動産業界でますます注目されている資格と言えるでしょう。
賃貸不動産経営管理士を取得するメリット
賃貸不動産経営管理士(不動産管理士)の資格取得には、多くのメリットがあります。ここでは主なメリットをいくつか紹介します。
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顧客対応力の向上: 賃貸管理に必要な法律や建物・設備、税務知識まで幅広く学ぶため、資格取得を通じて総合的な実務力が身につきます。豊富な知識があることで、現場での様々な問題解決やクレーム対応がスムーズになり、入居者からの質問にも的確に答えられるようになります。その結果、入居者やオーナーとの信頼関係を築きやすくなり、顧客満足度の向上につながります。要望や苦情に適切に対処できなければ入居者の退去を招く恐れもありますが、賃貸不動産経営管理士としての専門知識があればトラブルを円滑に解決できるでしょう。
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専門性の担保(高い専門知識の証明): 国家資格である賃貸不動産経営管理士の合格者ということ自体が、賃貸住宅管理に関する高度な専門知識・スキルを持っている証明になります。業界統一の資格として国土交通省に登録された資格ですので、名刺や肩書きに記すことで専門家としての信用力が高まります。特に賃貸管理業務を行う企業では資格保持者を優先的に採用する傾向もあり、資格手当の支給や昇進の要件に設定する企業もあります。つまり、資格を持つことで業界内で「賃貸管理のプロ」として認められ、信頼を獲得しやすくなるのです。
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キャリアアップと業界での信頼獲得: 前述のとおり、この資格は法令上必要とされる業務管理者になれる要件でもあるため、不動産管理会社での昇進や役職登用に直結します。将来的に独立開業を目指す場合にも大きな武器になります。賃貸住宅管理業を自ら営むには業務管理者を置かなければならず、資格保持者であれば自分自身がその要件を満たせます。加えて、宅地建物取引士(宅建)など他の不動産資格と併せ持つことで、賃貸・売買両面に精通した人材として活躍の幅が広がり、クライアントからの信頼もより厚くなるでしょう。
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顧客や取引先からの信頼向上: 賃貸管理の知識があることで、オーナーや入居者とのコミュニケーションも円滑になります。不動産管理士(賃貸管理士)はオーナーや入居希望者、修繕業者など様々な人と関わる仕事です。資格に裏付けされた知識と倫理観を持つことで、「この人になら安心して物件管理を任せられる」「この担当者なら信頼できる」といった評価を得やすくなります。業界内外での信用力向上は、長期的なキャリア形成にも大きなメリットと言えるでしょう。
賃貸不動産経営管理士の具体的な活用場面
資格を取得すると、実務の様々な場面で不動産管理士(賃貸不動産経営管理士)の知識・スキルを活かすことができます。以下に具体的な活用シーンを紹介します。
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賃貸管理業務全般での活用: 賃貸物件の管理業務では、入居募集から契約手続き、入居中のクレーム対応、設備メンテナンス、退去時の精算・原状回復まで多岐にわたります。賃貸不動産経営管理士の知識は、こうした一連の賃貸管理業務を適正かつ効率的に進める上で大いに役立ちます。例えば、賃料滞納が発生した際の法的対応策を適切に講じたり、建物設備の法定点検を漏れなく実施したりといった判断を下せるのは、専門知識があってこそです。資格で学んだ契約や法律の知識により、リスク管理を徹底しトラブルを未然に防ぐことができます。
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入居者への対応・サポート: 賃貸経営において入居者対応は最も身近な顧客対応業務です。資格学習で得た知識により、入居者からの質問や相談に対して的確な回答・アドバイスが可能になります。例えば、「退去時の敷金精算のルールはどうなっていますか?」といった質問にも法的根拠に基づいて説明できるため、入居者も安心できます。また、騒音トラブルや設備不良などクレームがあった場合でも、冷静かつ専門的な対応で速やかに解決へ導くことができます。こうした対応力の向上によって、入居者満足度が高まり、長期入居や紹介増加といったプラス効果も期待できるでしょう。
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オーナー(貸主)への説明・提案: 賃貸物件のオーナーに対しても、賃貸不動産経営管理士の知識は大いに活かされます。物件の管理を受託する際には、オーナーへの重要事項の説明や契約内容の確認、運用プランの提案などを行います。この資格保有者であれば、賃貸経営に関する法制度や市場動向に精通しているため、オーナーに対し根拠のある説明が可能です。例えば「近隣相場を踏まえた適正家賃の設定」や「空室対策のためのリフォーム提案」、「最新の賃貸借契約に関わる法律改正の説明」といった場面で専門家としてアドバイスできます。資格を持たない担当者よりも説得力が増し、オーナーからの信頼獲得につながります。結果として、管理契約の継続や物件数拡大の依頼をいただけるケースも増えるでしょう。
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社内での役割・キャリアアップ: 賃貸管理部門のある不動産会社では、賃貸不動産経営管理士の資格保有者は貴重な戦力です。法令で定められた業務管理者として社内で責任ある立場を任されたり、後進への指導役になったりすることもあります。資格取得者が社内にいることで会社全体のコンプライアンス意識も向上し、対外的な信用力アップにも寄与します。将来的に独立開業する際も、自身が業務管理者となって賃貸管理業を営むことができるため、大きな強みとなります。
おわりに:資格取得を検討する方へ
「不動産管理士」と誤って呼ばれることもある賃貸不動産経営管理士は、賃貸管理のプロとして活躍できる魅力的な資格です。正式名称を知ることで業界の理解が深まり、資格取得後の具体的なキャリアイメージも描きやすくなったのではないでしょうか。顧客対応力の向上や専門性の証明、業界内での信頼獲得など、多くのメリットがあるこの資格は、不動産業界で長く活躍したい方や賃貸管理のスペシャリストを目指す方にとって大いに役立つでしょう。もちろん資格取得には努力が必要ですが、その先にはプロフェッショナルとして成長できるフィールドが広がっています。ぜひ前向きに検討してみてください。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター