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    検査済証とは何か?検査済証がない物件のリスクと対策

    検査済証は建築物の完成後に完了検査に合格したことを示す書類で、建築基準法で定められた建築物が法令に適合していることを証明します。例えば完成前に「確認済証」を受け取らないと着工できず、完成後に完了検査を受けて合格すれば「検査済証」が交付されます。建築基準法(第7条など)は工事完了後4日以内に完了検査を申請するよう義務づけており、検査済証は当初から取得が想定されていました。近年では住宅ローンを受けるために検査済証の提出が求められ、ほとんどの新築住宅で取得されています。

    検査済証の定義と法的背景

    検査済証とは、建築確認申請に基づいて工事完了後に受ける完了検査に合格した場合に交付される証明書です。建築基準法は「完了検査を受けること」を規定し、検査に適合すると検査済証を交付するよう定めています。検査済証の目的は法令順守の証明であり、これにより建物の安全性や品質が担保される仕組みです。なお、かつては検査済証がなくとも登記や融資が可能であり、所有者にとって意識が低い時期がありましたが、現在では住宅ローンなどで必要とされるため、完了検査率は90%以上に高まっています。

    検査済証がない物件はなぜ存在するのか

    かつては検査済証の取得率が非常に低い時代がありました。国土交通省の資料によると、平成10年(1998年)頃の完了検査率はわずか約40%程度でした。昭和時代や平成初期に建てられた住宅では、建築確認申請は行われていたものの、完成後の完了検査を受けないままそのまま使用された物件が非常に多く存在します。

    時代別の完了検査率の推移を見ると:

    • 昭和60年(1985年)頃:約12%
    • 平成10年(1998年)頃:約40%
    • 平成15年(2003年)頃:約70%
    • 現在(令和5年頃):約95%以上

    2003年に国土交通省が金融機関に対して「新築の建築物向け融資において、検査済証を活用するなどの方法により融資対象物件が建築基準関係規定を遵守しているか配慮すること」通達したことから、検査済証取得の重要性が認識され、取得率が大幅に向上しました。

    その他要因も含めてまとめると、検査済証のない物件が存在する主な理由としては、以下のようなケースがあります:

    • 築年数が古い住宅:昭和~平成初期に建てられた住宅では、検査の認知度が低く完了検査を受けないまま使用された物件が多数ありました。例えば平成10年(1998年)の完成建物では完了検査率が約38%と低く、それ以前になるとさらに低率でした。近年建築の物件はほぼ検査済証が取得されていますが、築20年以上の中古物件では検査済証がないケースが多い傾向があります。

    • 確認申請不要の建物(4号建築物など):敷地面積が一定以下の倉庫や小規模住宅など、法律上「4号建築物」に該当する場合は建築確認申請や完了検査が免除されており、そもそも検査済証が交付されません。このような建物は完成後すぐ使用可能とされているため、検査済証の取得対象外となります。

    • 未申請・違法建築:建築確認申請をそもそも行わずに着工した物件や、確認図書と異なる増改築を行った場合には法令違反となり、完了検査を受けられません。意図的に手続きを省略して建築してしまうと検査済証は発行されず、違法建築物の可能性が出てきます。

    • 検査済証の紛失:本来取得されているにもかかわらず書類を紛失して手元にないケースもあります。紛失の場合は、市区町村の建築台帳に記録が残っているため「台帳記載事項証明書」の取得で代用できます。一方で台帳にも記録がない場合は、建築当時に検査自体が行われていなかったと判断されます。

    検査済証がない物件の主なリスク

    検査済証のない物件には、以下のようなリスクがあります:

    • 融資(住宅ローン)の制限:多くの金融機関は住宅ローン申請時に検査済証の提出を求めます。2003年には国土交通省が検査済証のない建物への融資を控えるよう通達を出しており、現在でもローン審査では検査済証が必須です。検査済証がないと住宅ローンの審査が通らず購入資金の調達が難航する可能性が高いです。

    • 違法建築の疑い:検査済証がないと、その建物が建築当時に法令適合していたか証明できません。そのため購入者や銀行は「違法建築物ではないか」と懸念します。特にコンプライアンス意識の高い企業や融資審査部門では、検査済証なし物件の取り扱いを避ける傾向があります。

    • 売却・資産価値の低下:検査済証がない物件は売りにくく、相場より割安でないと売却できないケースが多いです。検査済証の有無は購入希望者の反応に大きく影響し、無しでは買い手が敬遠するため、価格交渉で値引きを求められるリスクが高まります。

    • 増改築・再建築の制限:検査済証がない建物は法令適合の証明がないため、増築や用途変更など追加工事の際に役所から確認申請を受理してもらえない場合があります。また、建替え時には現行基準で適合しない部分に関して既存不適格と判断され、新たな確認手続きや調査が必要になる可能性があります。特に「建て替え制限」がかかったり、制震耐震などの補強が求められるリスクがあります。

    融資面での影響

    検査済証の有無は住宅ローン審査に直結します。前述のとおり、ほとんどの銀行では申込み時に検査済証の提出を求められ、ない場合は審査が通らない可能性が非常に高いです。たとえばフラット35など公的ローンでも適合証明書が必要になることが多く、検査済証がない物件では利用できません。地域の信用金庫や地方銀行では、場合によっては建物の耐震診断や適合調査の報告書を条件に融資検討するケースもありますが、一般的には検査済証なしでは住宅ローンを組めないことが常識となっています。そのため自己資金で購入するか、中古住宅向けのリフォームローンなど別商品を検討する必要が生じます。

    検査済証がない物件のメリット

    検査済証がない物件には、主に価格面でのメリットがあります。検査済証のない物件は市場での競合が少なく、売却時も買い手が限られるため、相場より割安で取引される傾向があります。購入者にとってはこれが交渉の余地となり、値段を抑えて購入できる可能性があります。また、築年数の古い物件には歴史的な趣や立地条件が魅力的な場合もあり、リノベーション向けにお得に買えるチャンスでもあります。もちろん、後述のリスク・対策を十分に検討したうえでの判断が必要です。

    検査済証がない物件を購入する際の対策

    検査済証のない物件を購入する場合は、以下のような対策が重要です:

    • 建築士による現況調査:信頼できる建築士に依頼して建物の状態を詳しく調査してもらいます。耐震性や違法箇所の有無、修繕の必要性などを見極め、「建物状況調査報告書」などの形でまとめてもらいましょう。これにより、将来の補強工事費用や法適合性の判断材料が得られます。

    • 行政相談・確認手続き:事前に市区町村の建築指導課に相談し、状況を確認します。検査済証を紛失している場合は、建築台帳記載事項証明書を役所で取得して交付記録を確認できます。検査自体が未実施の場合でも、建物が法令に適合すると推定されるなら、建築基準法第12条第5項報告や国交省ガイドラインによる適合状況調査を行う手段があります。これらの調査結果を確認済証の代替書類として提出することで、増改築や融資審査を進めやすくなります。

    • 再取得や代替書類の取得:既に検査済証が発行されている建物で紛失している場合は、前述の「台帳記載事項証明書」が公式な代替証明になります。なお、検査済証自体の再発行は法律上できないため、代わりに適合調査報告書や建築士作成の復元図面などを活用します。

    • 融資条件の相談:銀行に相談し、条件付き融資を検討してもらう方法もあります。場合によっては検査済証がなくても耐震診断書や調査報告書の提出で審査通過を検討する金融機関があります。特に地元の信用金庫やフラット35(住宅支援機構)などは、中古物件向けに柔軟な対応をすることもあります。

    まとめ

    検査済証は建築物が建築基準法に適合していることを証明する重要な書類ですが、特に築年数の古い物件では検査済証がない場合が少なくありません。検査済証がない物件は、住宅ローンの審査が通りにくい、将来的な増改築や用途変更が制限される、売却時に価値が下がるなどのリスクがあります。

    一方で、検査済証がない物件は相場より割安で購入できる可能性があり、資金に余裕がある方や投資目的の購入者にとっては魅力的な選択肢となる場合もあります。

    検査済証がない物件を購入する際は、建築士による現況調査を実施し、建築基準法適合状況調査報告書を取得するなど、リスクを軽減するための対策を講じることが重要です。また、融資については事前に金融機関と相談し、調査報告書や耐震診断書などの提出を条件とした住宅ローンの可能性を探ることをおすすめします。

    検査済証の有無は物件購入時の重要なチェックポイントの一つです。本記事の情報を参考に、物件選びや購入判断の際に検査済証について正しく理解し、適切な対策を講じることで、安心して不動産購入を進めていただければ幸いです。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。