「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業」は、東京都千代田区内幸町一丁目に位置する大規模再開発プロジェクトです。内幸町一丁目街区は北・中・南の3地区に分かれており、本事業はその南地区における再開発計画になります。日比谷公園に隣接する約2.0ヘクタールの敷地に、地上46階・地下3階、高さ約230m、延床面積約29万㎡にも及ぶ超高層複合ビル「(仮称)サウスタワー」等を建設する計画で、2025年4月1日に着工し2029年3月の竣工を予定しています。このプロジェクトは、周辺の北地区・中地区を含めた街区全体の再開発構想「TOKYO CROSS PARK構想」の一部であり、その第一弾となる事業です。
再開発区域の範囲と所在地
本再開発事業の対象区域は、千代田区内幸町一丁目の南側街区一帯(敷地面積約1.9~2.0ha)です。北側に日比谷公園が広がり、東側は日比谷通りを挟んで官庁街の霞が関方面に接しています。南側・西側は新橋・虎ノ門エリアに連なり、周辺には帝国ホテル東京(北地区)や旧みずほ銀行内幸町本部ビル跡地(南地区の一部)などが含まれます。住所表記では内幸町一丁目1000番他となっており、日比谷公園のすぐ南隣に位置する立地です。街区全体は北地区・中地区・南地区に区分され、本事業はその南端部分(南地区)を対象としています。
主要事業者(デベロッパー・設計・施工 等)
当該再開発事業は、第一生命保険株式会社、中央日本土地建物株式会社(代表施行者)、東京センチュリー株式会社、東京電力パワーグリッド株式会社(共同施行者)およびTF内幸町特定目的会社(共同施行者)の5社が共同で推進しています。TF内幸町特定目的会社は東京電力グループの東電不動産株式会社が出資するSPCであり、地権者や事業パートナーとして参画しています。設計は日本を代表する設計事務所株式会社日建設計が基本設計・タワーデザインを担当し、清水建設株式会社が実施設計・監理および施工を担います。都市計画コンサルやランドスケープデザインにも日建設計や英国のPLPアーキテクチャーなどが関与しており、再開発事業全体のマスターデザイン戦略に取り組んでいます。
再開発のコンセプトと都市計画上の位置づけ
本事業は「TOKYO CROSS PARK構想」と題する街区全体の開発コンセプトの一環として位置付けられており、都心部における駅・街・公園が一体となった新しい都市空間の創出を目指しています。計画地は大手町・丸の内・有楽町、銀座、霞が関、虎ノ門・新橋といった日本有数の業務・商業集積地の結節点に位置し、皇居・日比谷公園にも隣接する恵まれた環境です。この立地特性を活かし、本再開発では周辺地区と連携した歩行者ネットワークの形成、防災機能の強化、環境負荷低減といった都市計画的な目標が掲げられています。具体的には、地下レベルと地上低層部を活用して都営三田線「内幸町駅」およびJR・東京メトロ「新橋駅」方面への接続通路を整備し、日比谷公園・日比谷駅方面とも繋がる回遊性の高い歩行者動線を実現します。南地区の低層部には街区の玄関口となる「(仮称)アクセスコア」を設け、駅・街・公園を結節するハブ空間として機能させる計画です。また、災害時に備えた広場での一時避難スペースや帰宅困難者受け入れ機能、老朽化した電力インフラ施設(変電施設等)の更新・集約による都市インフラ強化も盛り込まれています。環境面では、フィルム型ペロブスカイト太陽電池を高層ビルに本格導入する世界初の試みを予定しており、街区全体のエネルギーセンターから電力・熱供給を受けることで省エネ・創エネを図る先進的で持続可能な都市づくりを目指しています。都市計画上は、2021年11月に本再開発計画に係る都市計画決定(内幸町一丁目北特定街区の決定等)がなされ、2022年8月に市街地再開発事業の事業計画が東京都により認可されています。併せて内幸町一丁目北地区には「再開発等促進区」を定める地区計画が策定されており、当街区一体となったまちづくり方針の下で本事業(南地区)が位置付けられています。
施設構成(オフィス・ホテル・商業・公益施設 等)
南地区の主たる建物であるA棟(サウスタワー)は、延床約28万0180㎡の超高層複合ビルで、オフィスを中心にホテル、商業店舗、ウェルネス促進施設(健康医療・フィットネス等)が導入されます。具体的な用途配分は、地上1~8階にウェルネス施設・ホテル・商業店舗、11~44階にオフィスフロアを配置予定で、7階にオフィスロビー、29階にスカイロビーを設けて上下層のオフィスを結ぶ計画です。オフィス部分の貸床面積は約15万㎡に達し、基準階面積は約1,400坪(約4,600㎡)の無柱空間を確保するなど、大規模なオフィス需要に応える最新鋭の執務空間となります。ホテルは現時点でブランド名は公表されていませんが、都市型高級ホテルを想定しており、ウェルネス施設(仮称)にはオフィス就業者や宿泊者も利用できる健康増進サービスを提供する計画です。住宅(分譲・賃貸)は南地区には含まれていません(※街区全体では将来的に他地区で住宅機能導入の計画あり)。
このA棟に加え、南地区には再開発事業に伴うインフラ施設等を収容するB棟およびC棟が整備されます。B棟は延床約8,850㎡で、非常用発電装置や変電設備・監視中枢など都市インフラ機能を担う施設棟です。東京電力パワーグリッドが共同施行者として参画しているのは、この街区内にあった老朽化した電力インフラを本事業で更新し、B棟に集約する目的があるためです。C棟は延床約1,260㎡と小規模で、商業店舗等が入る低層施設棟として計画されています。加えて、本再開発では公共貢献施設として広場1号と呼ばれる広場空間(地上部およびデッキ部あわせ約6,000㎡)が街区中央部に整備されます。この広場は日比谷通り沿いに面した高さ約31m(百尺)の歴史的景観ラインに合わせて低層部上に設けられる「31m基壇部上広場」となっており、周辺地区から人々を惹きつけ回遊性を高める緑豊かなオープンスペースとして機能します。広場や低層デッキは日比谷公園とビル内部空間とを緩やかに繋ぐ役割も果たし、都心における新たな憩いと交流の場が創出される予定です。交通結節面では、前述のように地下で内幸町駅や新橋駅方面と直結する動線が確保され、バリアフリー対応の動く歩道等も備えた快適なアクセス環境が整備されます。駐車場は地下に設けられ、必要な台数の自動車・自転車駐輪スペースを確保します。なお、本事業における公益施設という位置づけのものは特段ありませんが、防災設備や公共広場の整備が公益性の高い施設整備として位置づけられています。
想定される完成時期と進捗状況
本プロジェクトは2029年3月の完成(竣工)を目指して進められています。既に2022年8月に東京都から事業計画の施行認可を受け、2022年12月に権利変換計画の認可も下りています。その後、南地区に存在した既存建物(旧みずほ銀行内幸町ビル等)の解体工事が2022年9月から段階的に進められ、準備工事を経て2025年4月1日付で新築工事着工となりました。2025年4月3日には施工者・施行者連名で着工の公式発表がなされ、現在は基礎工事等の初期段階が進行中です。建物本体の工期は約4年弱を予定しており、令和6年度末(2029年3月)の竣工を目標としています。その後内装工事・テナント入居準備期間を経て、オフィスや商業施設等の開業時期は2029年中頃から下半期にかけて順次予定される見込みです。
一方、内幸町一丁目街区全体(北・中・南地区)の完成は段階的に行われる計画で、街区全体の竣工・開業は2037年度以降と見込まれています。南地区完成後、帝国ホテル本館の建て替えを含む北地区や中地区の再開発が引き続き進められ、最終的に街区全体が完成するのは2030年代後半になる計画です。2023年現在、北地区では帝国ホテルによる本館建替計画の準備が進行中であり、2024~2025年に帝国ホテル本館の一時閉館と建替着手が予定されています。中地区についても詳細計画はこれから策定・公表される段階ですが、街区全体で一体的なエネルギー供給網やデジタル基盤(都市OS)を整備し、段階的に街区全体を運用していく方針が示されています。以上より、南地区(サウスタワー)は2029年竣工予定で順調に進捗しており、街区全体としては約15年後を見据えた長期プロジェクトとなっています。
関連する行政発表や報道資料
本再開発事業に関しては、これまでに多くの公式発表や報道発表資料が公表されています。主なものとして、2022年3月24日に事業者10社(NTT都市開発、三井不動産、帝国ホテル他)により街区全体の事業構想「TOKYO CROSS PARK構想」の発表が行われました。続いて2022年8月9日付で東京都都市整備局から本事業(南地区)の市街地再開発事業施行認可に関するプレスリリースが出され、駅・街・公園を繋ぐ歩行者ネットワークの形成、防災機能の確保、電力インフラ更新による都市機能向上等、本事業の意義が謳われています。その後、2025年4月3日に第一生命保険、中央日本土地建物など施行者5社連名で「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業 着工」のニュースリリースが発表されました。同資料には事業概要、完成イメージパース、歩行者動線計画や環境への取り組みなど詳細が記載されており、官民双方から本計画の公式情報が提供されています。
近隣再開発プロジェクトとの関連性
内幸町一丁目街区南地区の再開発は、周辺で進行中の虎ノ門・新橋エリアの大型再開発プロジェクトとも密接に関連しています。まず、本事業で整備される地下歩行者通路により、南側の新橋駅方面と直結される計画となっており、これにより新橋駅東口地区~内幸町~日比谷方面へと人の流れがシームレスに繋がります。新橋駅と虎ノ門を結ぶ新虎通り(創生児童遊園通り)沿いでは、森ビルによる虎ノ門ヒルズをはじめとした再開発や、JR東日本による新橋駅周辺整備計画が進行中です。内幸町南地区の地下接続により、これら虎ノ門・新橋エリアと日比谷・霞が関エリアが地下で連絡する形となり、都心南西部の歩行者ネットワーク拡大に貢献します。さらに、本街区北側では帝国ホテル建替や隣接する第一生命日比谷ファースト等の建替計画も予定されており、日比谷エリア全体の再編と歩行者動線強化が図られます。つまり、内幸町一丁目南地区再開発は単独のプロジェクトに留まらず、虎ノ門~新橋~内幸町~日比谷~丸の内に至る広域エリア再生の鍵となる位置にあります。東京都心の主要拠点(大丸有地区、霞が関、虎ノ門・六本木、新橋・汐留等)を繋ぐハブとして、本事業は周辺の再開発プロジェクトと補完し合いながら都市機能の強化・更新を進めていく計画です。今後、虎ノ門ヒルズ周辺の開発動向や、新橋駅街区の再整備(例えば将来構想されている新橋駅西口広場の再編など)とも連携し、歩行者デッキや地下通路網で一体化したウォーカブルな都市空間が創出されることが期待されています。総じて、「内幸町一丁目街区南地区第一種市街地再開発事業」は、日比谷・内幸町エリアのみならず隣接する虎ノ門・新橋エリアを含めた都心の都市再生において重要なピースとなるプロジェクトだと言えるでしょう。