東京都大田区上池台で今夏開業する大型シェアハウス「スタイリオウィズ上池台」と、新設クリエイター育成拠点「上池台トキワソウルーム」は、既存集合住宅を“食”と“創作”のコミュニティへ再生する先進的プロジェクトです。本稿では、コンセプト設計・地域連携・資産価値の視点から、シェアハウス再生がもたらす新たなビジネス機会を考察します。
もともと1975年築の建物を2014年にリノベーションして再生した物件であり、広々とした約500㎡に及ぶ共用フロアには、プロ仕様の大型キッチンやダイニング、ラウンジ、ワークスペースなど充実した設備が整えられており、入居者同士が交流しながら快適に生活できる空間がデザインされています。特に共有キッチンはレストラン顔負けの最新設備を備えた自慢の空間で、入居者であれば誰でも自由に料理を楽しむことができます。
こうした多彩な共用部により、住人のライフスタイルや創作活動を支える環境が実現されています。インテリアには温かみのある無垢材の家具や照明、緑豊かな観葉植物が配されており、都会にいながら自然の中にいるような安らぎを感じられる工夫がなされています。一部住戸には専用のアトリエスペースが付属しており、自室以外でも創作に没頭できるよう配慮されています。
立地の優位性と地域との関わり
本物件の立地は、都営浅草線「西馬込」駅から徒歩14分、東急池上線「洗足池」駅から徒歩16分と複数路線が利用可能で、都心へのアクセスも比較的良好です。周辺は穏やかな住宅街でありながら、徒歩圏内に昭和の下町情緒を感じさせる上池台商店街が広がっており、日々の買い物に便利なだけでなく飲食店も多彩なエリアです。静かな環境と生活利便性を兼ね備えたロケーションは、入居者にとって創作に集中しやすく、かつリフレッシュもしやすい魅力的な条件と言えるでしょう。
本物件は東急と地域団体との協働プロジェクトとして展開される点も特徴です。2025年7月には、漫画家志望者を中心としたクリエイター向けシェアハウス企画『上池台トキワソウルーム』が本物件内で開業予定であり、これは特定非営利活動法人LEGIKAが運営する「トキワ荘プロジェクト」と東急の協働によるものです。東急が物件提供や事業企画・地域連携面をサポートし、LEGIKAが入居者選考やクリエイター育成プログラムを担うことで、地域に根差した創作コミュニティ拠点を築く狙いです。この取り組みは、昭和の漫画家アパート「トキワ荘」に倣い、若いクリエイターたちが「共に暮らし、共に競い、共につくる」環境を提供することを目指しています。
デザインコンセプトと入居ターゲット
『スタイリオウィズ上池台』のデザインコンセプトは、一貫して「交流」に重きが置かれています。
当初の入居ターゲットは「食」に関心の高い若者や、将来フード業界での活躍を目指す人、料理好きな人などでした。実際に男女問わず様々なバックグラウンドを持つ住人が集まり、日常的に一緒に料理をしたりパーティを開いたりと、食を媒介に交流を深めてきました。
開業から数年が経ち、本物件はシェアハウス愛好者の間で知名度を上げ、地域にもすっかり馴染んだ存在となっています。そうした実績を踏まえ、2025年夏からは新たに「クリエイター支援」という切り口を加えた運営がスタートします。
先述の『上池台トキワソウルーム』は、マンガ創作に情熱を持つ若者を主な入居対象としています。特に大田区内の専門学校に通う学生など、プロの漫画家を本気で目指す上昇志向の強い世代を支援する狙いがあります。55室のうち34室には専用アトリエ付きのプランが用意され、入居者は自室とは別に創作に打ち込める作業スペースを確保できます。また共用のワークスペースやラウンジは、切磋琢磨できる仲間との情報交換や合同企画の場として機能し、自然とお互いを高め合う「現代のトキワ荘」を目指しています。LEGIKAが運営中の既存施設(東京都日野市の「多摩トキワソウ団地」など)では、入居クリエイターが自身の作品展示や地域交流イベントに取り組んだり、自治体と協働して街の未来ビジョンをマンガで描くプロジェクトに参画した実績もあります。同様に本物件においても、入居者の創作活動が地域社会と接点を持つ機会を積極的に設ける方針で、クリエイターの成長と地域貢献を両立させる場となることが期待されています。
資産価値と将来的展望
不動産業界においてシェアハウスは、近年コンセプト重視の資産運用モデルとして注目されています。『スタイリオウィズ上池台』のように既存建物をリノベーションし、明確なテーマとターゲット戦略をもって再生する手法は、物件自体の資産価値向上に寄与すると同時に、地域価値の向上にも波及効果をもたらします。実際、本物件は老朽化した集合住宅に創意工夫を凝らすことで新たな需要を喚起し、高い入居率を維持してきました。共有設備の充実による付加価値提供や、多様なテナントを受け入れる運営ノウハウは、不動産の長期安定収益に繋がる重要な要素です。さらに、コミュニティ形成や人材育成といった社会的価値を創出する取り組みは、単なる物件の利回り以上に持続的なブランド価値を生み出していると言えるでしょう。
私も。「企業の本質は短期的な利益追求ではなく、明確なビジョンのもとで関わるすべての人々の幸福を追求する持続可能な成長にある」と考えており、最も重要な資産は「人財」であると確信しています。
人の創造力や情熱こそが新たな価値を生み出し、長期的に組織や社会の発展を支える原動力になるという信念をもっています。
その理念に照らせば、若いクリエイターという“人財”に住まいの場から投資し育成を図る『上池台トキワソウルーム』の試みは、不動産ビジネスの枠を超えて未来の産業を支える人的資本への投資だと位置付けることができます。まさに本件は、人財重視・持続可能な成長・社会貢献といった先進的事例と言えるでしょう。
今後、本物件からは次世代のプロ漫画家やクリエイターが続々と巣立っていくことが予想されます。ゆくゆくは著名な作家を輩出する「伝説の住まい」として語り継がれる可能性もあり、その場合物件自体のブランド価値は計り知れないものとなるでしょう。東急沿線の他地域でも、同様に地域資源と人材育成を融合させたコンセプト住宅が展開されることが期待されており、不動産業界における新たな潮流として注目を集めています。人を軸とした持続可能な街づくりを志向する取り組みが増えれば、市場全体が健全に発展し、不動産が真に価値ある資産として未来に受け継がれていくはずです。『スタイリオウィズ上池台』と『上池台トキワソウルーム』の挑戦は、人と街と資産の三位一体の価値創造を実現するモデルケースとして、これからの不動産業界関係者にも大きな示唆を与えることでしょう。