一般の旅行者にとって、ホテルの「星の数」は宿泊先を選ぶ重要な目安です。星一つから星五つまで様々なグレードがありますが、それぞれどのような基準で評価され、サービスや設備にどのような違いがあるのでしょうか。本記事では、一つ星から五つ星までのホテルグレードの定義と基準(国内・海外の違い)、サービスや設備・ホスピタリティの具体的な違い、グレード別の代表的なホテルチェーン、宿泊料金の相場(国内・海外)、利用目的に応じたグレードの選び方、さらに不動産業の視点から見たホテルグレードが街や地域にもたらす影響について、ビジネス的な観点も交えながら分かりやすく解説します。
ホテルグレードの定義と基準(国内・海外の違い)
まず初めに、ホテルの星による格付けの基本を押さえましょう。ホテルグレードの星の数は本来1から5までの5段階で、星の数が多いほど一般的には高級なホテルとされます。しかし世界的に統一された公式基準は存在せず、国ごとや評価団体ごとに基準が異なるのが実情です。
日本においても明確な全国統一基準は定められておらず、各ホテルが自主的に定めた基準や、大手旅行会社・予約サイト・出版社など外部機関の独自基準による格付け表示が大半です。たとえば楽天トラベルやExpediaといった予約サイトごとに星の数の付け方や評価基準が異なるため、同じホテルでもサイトによって「星4つ」と評価されたり「星5つ」と評価されたりする場合があります。海外でも状況は類似しており、各国の観光当局(例:アメリカのAAA、自動車協会やイギリスの観光庁など)やミシュランガイド、フォーブストラベルガイドといった民間格付け機関がそれぞれ独自の基準で星を付与しています。つまり、「星付きホテル」と一口に言っても、誰が評価したかによって基準は様々なのです。
とはいえ、一般的な目安として「星が一つ増えるごとに求められる水準が上がる」ことは共通しています。以下に一般的に言われるホテルグレード(星1つ~5つ)の定義をまとめます。
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★☆☆☆☆(1つ星):格安ホテル – 小規模で個人経営の宿が多く、基本的なサービスのみを提供するエコノミーな宿泊施設です。客室は必要最低限の設備(ベッドと簡易な家具程度)しかなく、トイレやバスルームは共有の場合も多いです。ハウスキーピング(清掃)サービスが毎日行われないこともあり、フロント対応時間にも制限があるなど、サービスはごく簡素です。とにかく宿泊費を抑えたい人向けの「寝るだけ」の施設と言えます。
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★★☆☆☆(2つ星):廉価ホテル – 中小規模のホテルが中心で、清潔さや基本設備は確保されたスタンダードな宿泊施設です。全室にユニットバスなど個人用のバスルームが備わるケースが多く(シャワーのみの場合あり)、室内にテレビや電話が置かれていることも一般的です。館内にレストランが付いていないか、あっても簡易的な朝食(コンチネンタルブレックファスト程度)の提供に留まることが多いです。料金重視で設備やサービスは最低限ですが、「寝泊まりできれば十分」という利用には適したクラスです。
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★★★☆☆(3つ星):中級ホテル – 規模は比較的大きく有名チェーン系列のホテルも多いです。都市部や観光地でアクセスの良い場所に位置し、サービスや設備の充実度は実用性重視で快適さを確保しています。たとえば館内にレストランやバーが併設されていることが多く、全室に質の高い寝具や椅子が備えられ、広めのバスルームを持つホテルもあります。スタッフ数も1~2つ星より増えており、必要に応じてポーター(手荷物係)等のサービスが受けられる場合もあります。ビジネス客や団体旅行客の利用が多く、「とりあえず不自由なく泊まれれば十分」というニーズに応えるクラスです。
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★★★★☆(4つ星):高級ホテル – 世界的に有名な大手ホテルチェーン系列のホテルや、地域資本でも格式のある大型ホテルがこのクラスに該当します。高品質な設備と充実した接客サービスを備えた上質なホテルで、客室は広く高級感のあるインテリアでまとめられています。館内に複数のレストランやバー、フィットネスジムやプールなどの施設を完備し、24時間対応のルームサービスやランドリーサービス、コンシェルジュ対応などきめ細かなサービスも提供されます。総合的に見て一流に近いクオリティを持つホテルが多く、ビジネス・観光問わずワンランク上の滞在を求めるゲストに選ばれます。
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★★★★★(5つ星):最高級ホテル – 世界的に一流とされるホテルブランドが多く名を連ねる最上級クラスです。豪華で洗練されたインテリアに広々とした客室、スイートルームも充実し、設備・接客・料理すべてにおいて最高級との評価を得ています。館内にはミシュラン星付きの高級レストランやスパ施設、クラブラウンジなどが備わり、専属コンシェルジュによるパーソナルな対応やバトラーサービス(執事のような個人付きサービス)を提供するホテルもあります。教育の行き届いたスタッフがフォーマルで行き届いたおもてなしをしてくれるのも特徴で、お客様の名前を覚えて呼ぶようなきめ細かなホスピタリティが期待できます。まさに「非日常の極上体験」を提供するためのホテルグレードと言えるでしょう。
以上が星の数ごとの一般的な定義です。繰り返しになりますが、日本には公式の星付与制度がないため、例えば「このホテルは日本政府により5つ星認定された」というような仕組みは存在しません。海外では国ごとに観光局等がホテル格付けを行っているケースもありますが、それでも世界共通の絶対的な基準はなく、あくまで目安として捉える必要があります。ただし国内外を問わず、星の数が多いホテルは設備・サービス面で総じて質が高いのは確かであり、実際日本でも出張で利用するホテルは一般的に三ツ星クラスが多いといった傾向が指摘されています。次章では、そうした星の数による具体的なサービス・設備・ホスピタリティの違いを見ていきましょう。
サービス・設備・ホスピタリティの具体的な違い
ホテルのグレードが上がるにつれて、利用できるサービスや設備、おもてなしの内容も格段に充実していきます。それぞれの星ランクでゲストが受けられる具体的なサービスや設備の違いを確認してみましょう。
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1~2つ星(エコノミーホテル): 提供されるサービスはごく基本的なものに限られます。フロント受付は時間限定の場合もあり、深夜はスタッフ不在となることもあります。1つ星では特に、客室内にバス・トイレがなく共同利用となる場合が多く、アメニティも石鹸やタオル程度で必要最低限です。2つ星になると全室にシャワー付きバスルームやトイレを備えるホテルが増え、24時間対応のフロントや毎日のハウスキーピングサービスが提供されるケースも一般的です。ただし高級な備品はなく簡素で、館内施設も朝食ルームや簡易なラウンジがある程度です。レストラン併設は少なく、食事は朝食(パンやシリアル中心の簡単なもの)のみ提供というところもあります。要するに、宿泊に最低限必要な清潔さと安全性は確保されていますが、付加的なサービスは削ぎ落としているのがこのグレードです。
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3つ星(スタンダードホテル): サービスと設備の両面で快適さを重視し始めるのがこのクラスです。フロントは24時間対応が基本となり、ポーター(荷物運び係)やベルスタッフが常駐するホテルも増えてきます。館内にレストランやバーを備えるホテルが多く、朝食ビュッフェやルームサービスに対応している場合もあります。客室は1~2星より広めで、座り心地の良い椅子や質の高いベッドが置かれ、ワークデスクやクローゼットなどビジネス用途にも十分な機能的設備が整っています。Wifiやテレビ、冷蔵庫、電気ケトル等の基本備品は全室に完備され、バスルームもユニット式ながら浴槽付きでゆっくり疲れを癒せます。ハウスキーピングも毎日入るのが通常です。スタッフ対応も丁寧で、例えば荷物を部屋まで運ぶサービスがあったり、必要に応じて手荷物預かりやタクシー手配なども快く対応してくれるでしょう。要するに、過度な豪華さはないものの不自由なく快適に滞在できる設備・サービスが一通り揃っているのが3つ星ホテルです。
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4つ星(高級ホテル): サービスの質がワンランク上がり、設備も非常に充実したフルサービスホテルとなります。エントランスにドアマンが立ち、車寄せではポーターが荷物を預かってくれるといったフォーマルなお出迎えが一般的です。ロビーは広く豪華なインテリアでまとめられ、各所に談話スペースやコンシェルジュデスクが設けられています。客室には高級家具や調度品が配され、キングサイズのベッドや上質なリネン類、ふかふかの枕・羽毛布団が用意されるなど贅沢な内装になっています。バスルームも大理石調で広く、上質なアメニティ(高級ブランドのシャンプー類やバスローブ等)が揃います。館内施設として、複数のレストラン&バー、フィットネスジム、プール、ビジネスセンターなどが完備されるのも特徴です。さらにランドリーサービスや靴磨きサービス、24時間対応のルームサービスも提供され、要望に応じたきめ細かな対応が受けられます。スタッフは研修を積んだプロフェッショナルで、笑顔の挨拶はもちろん、お客様からの問い合わせに迅速かつ丁寧に対応します。言語対応も国際的で、主要言語を話せるスタッフが常駐するため海外からのゲストも安心です。総じて、4つ星ホテルでは高級感ある空間と高度なサービスによって、ビジネス・観光いずれの目的でも満足度の高い滞在が期待できます。
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5つ星(ラグジュアリーホテル): このクラスになると、提供される体験は「滞在」というよりも「最高のおもてなしによる非日常体験」と表現した方が適切かもしれません。教育の行き届いたスタッフがフォーマルで行き届いたサービスを提供し、まさに究極のホスピタリティを味わえます。例えば到着時には複数のスタッフが笑顔で出迎え、チェックイン手続きをしている間にウェルカムドリンクやおしぼりが提供されることもあります。コンシェルジュはゲスト一人ひとりの要望を事前に把握し、レストラン予約や特別なリクエストにも即座に対応します。客室係(バトラー)が付きっきりで世話をしてくれるホテルもあり、荷解きから紅茶の用意、靴磨きに至るまで至れり尽くせりです。客室はスイートルームでなくとも非常に広々としており、リビングスペースやウォークインクローゼットを備え、バスルームもジャグジー付きの大理石風呂やレインシャワーなど豪華そのものです。館内にはスパ・エステ施設やプール、サウナ、エグゼクティブラウンジなどが揃い、スパではトップレベルのセラピストによるトリートメントが受けられます。また、ミシュラン星付きシェフが監修するグルメレストランや、夜景の見えるバーラウンジなども併設され、食の面でも最高級を堪能できます。スタッフはゲストの名前や好みを把握し、例えば「〇〇様、お帰りなさいませ。本日は○○のオプショナルツアーはいかがでしたか?」などとパーソナルに声を掛ける光景も珍しくありません。形式ばった中にも心配りの行き届いた対応で、ゲストは特別な存在として扱われます。要するに5つ星ホテルでは、物理的な豪華さ(ハード面)と最高のおもてなし(ソフト面)の両方が極まっており、それゆえ宿泊料金も非常に高額になります(後述する料金相場をご参照ください)。
以上のように、星の数が上がるにつれてサービス内容もグレードアップしていくことがお分かりいただけたかと思います。低グレードでは「セルフサービス」が多く高グレードになるほど「フルサービス」になるというイメージです。例えば1~2つ星ではベッドメイキングもシーツ交換もチェックアウト後のみという場合が多いですが、4~5つ星では夜間にベッドを休める状態に整えるターンダウンサービス(就寝前のベッドメイク)を行うホテルすらあります。また高級ホテルではゲストの希望次第でレイトチェックアウトやアーリーチェックインへの柔軟対応、記念日のサプライズ演出など、プラスアルファの気配りも期待できます。このように星の数によって受けられる体験は大きく異なるため、宿泊先を選ぶ際にはご自身がどの程度のサービスや設備を求めるのかを考慮すると良いでしょう。
各グレードの代表的なホテルチェーン・ブランド例
次に、星の数ごとに代表的なホテルチェーンやブランドの例を見てみましょう。国内外には数多くのホテルブランドがありますが、グレードごとに概ね以下のような名前が挙がります。
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1つ星クラス(エコノミー・簡易宿泊): ユースホステルやバックパッカーズ向けゲストハウス、カプセルホテルなどが該当します。例えば、日本のカプセルホテルチェーンである「ナインアワーズ」や「安心お宿」といった施設は1つ星クラスと言えるでしょう。海外では個人経営の安宿やホステルが多く、国際的なチェーンは少ないですが、一部にはYHA(ユースホステル協会)系のホステルなど共通ブランドも存在します。基本的に低価格を最優先する旅行者向けのカテゴリーです。
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2つ星クラス(バジェットホテル・ビジネスホテル): 比較的低価格ながら一定の品質を保つチェーンホテルが数多く存在します。日本国内で代表的なのは「東横イン」や「アパホテル」、「ドーミーイン」など全国展開しているビジネスホテルチェーンです。これらは客室数が多く、駅チカ立地でシンプルかつ清潔な部屋を提供することで出張や旅行の定番となっています。海外の例では、アメリカ発の「ホリデイ・イン (Holiday Inn)」やフランス発の「イビス (Ibis)」などが挙げられ、これらは世界的に展開しているエコノミーホテルチェーンです。2つ星~3つ星クラスとしてビジネス客や団体ツアー客に広く利用されています。
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3つ星クラス(スタンダードホテル): 中級クラスには有名チェーンから独立系まで幅広いホテルが含まれます。海外チェーンではホリデイ・インやイビスの他にも、「ベストウェスタン (Best Western)」や「ノボテル (Novotel)」、「コンフォートホテル (Comfort Inn)」などが世界的に知られる3つ星クラスのチェーンです。日本国内では、都市部のシティホテルや地方のシティホテル相当の施設がこのグレードに当たります。例えば「ホテル法華クラブ」や「三井ガーデンホテル」、地方で展開する「〇〇観光ホテル」といった独立系ホテルも、中規模でサービスが充実している場合3つ星格付けになることがあります。3つ星クラスはチェーン名だけでは判断しづらく、同じチェーンでも立地や設備次第で星の数が異なるケースがあります。ですが、おおむね「大衆的な有名チェーンホテルは3つ星前後」というイメージを持っておくとよいでしょう。
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4つ星クラス(高級ホテル): 世界的ホテルグループの主要ブランドがひしめく層です。例えば「ヒルトン (Hilton)」や「マリオット (Marriott)」、「シェラトン (Sheraton)」、「ハイアット リージェンシー (Hyatt Regency)」などは一般的に4つ星クラスに分類されることが多いホテルブランドです(ホテルによっては5つ星相当の評価を受ける場合もあります)。日本国内の老舗高級ホテルである「帝国ホテル」や「ホテルニューオータニ」も、伝統と規模から見て4つ星~5つ星クラスの評価を受けることが多い存在です。また国内資本の「ホテルオークラ」や「京王プラザホテル」、「神戸ポートピアホテル」なども、高品質なサービスで知られる4つ星相当のホテルです。4つ星ブランドはいずれも世界的な知名度があり、設備・サービス面でも高評価を得ています。
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5つ星クラス(ラグジュアリーホテル): 世界最高峰のラグジュアリーブランドが集うカテゴリです。代表格として「リッツ・カールトン (Ritz-Carlton)」、「フォーシーズンズ (Four Seasons)」、「パークハイアット (Park Hyatt)」、「マンダリンオリエンタル (Mandarin Oriental)」、「セントレジス (St. Regis)」、「コンラッド (Conrad)」などが挙げられます。これらは世界中の大都市やリゾート地で展開し、最高級のサービスを提供するブランドです。日本国内にも、東京や大阪、京都、沖縄などにリッツ・カールトンやフォーシーズンズ、パークハイアットなどが進出しており、近年は地方都市にも超高級ホテルが誕生しつつあります(例:奈良県に開業したJWマリオットホテルなど)。また、日本の最高級宿泊施設として「星野リゾート(星のや)」や「アマン (Aman)」なども挙げられます。特にアマン京都やアマン東京は海外からの評価も高く、5つ星クラスのラグジュアリーホテルとして知られています。こうしたブランドは名前自体が一種のステータスであり、「ここに泊まるために旅をする」というファンも存在するほどです。
以上、各星ランクの代表的なブランドを例示しました。もちろん世界には他にも無数のホテルブランドがあり、また同じブランドでもホテルごとに星評価が異なる場合もあります(例えばマリオットグループにはリッツ・カールトンやセントレジスのような5つ星ブランドもあれば、コートヤードやフェアフィールドのような3~4つ星ブランドもあります)。しかし大まかには、「エコノミーホテル=バジェット系チェーン」「中級ホテル=世界的チェーンの標準ブランド」「高級ホテル=グローバルチェーンの上位ブランドや老舗ホテル」「最上級ホテル=ラグジュアリー専門ブランド」という棲み分けになっていると言えるでしょう。
ホテルグレード別・宿泊料金の相場(国内・海外)
ホテルのグレードが上がるにつれて宿泊料金も高額になります。ここでは国内と海外それぞれにおける、ホテルグレード別の1泊あたり宿泊料金の大まかな相場を示します。実際の料金は地域や時期によって大きく変動しますが、目安としてご参考ください。
まず日本国内の相場です。ビジネスホテルから高級ホテルまで、都市部か地方かによっても差はありますが、一般的な価格帯は以下の通りです。
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1つ星クラス: 1泊あたり約2,000~5,000円程度(カプセルホテルや簡易宿所のドミトリー料金相場)。都市部でも素泊まり専門のホステルならこの範囲に収まります。
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2つ星クラス: 1泊あたり約5,000~10,000円程度。地方都市のビジネスホテルや小規模旅館の素泊まり料金がこのレンジです。都市部でも早期予約やオフシーズンなら1万円以下で泊まれるビジネスホテルが多く存在します。
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3つ星クラス: 1泊あたり約8,000~20,000円程度。都市のシティホテル標準的な客室で1万円台前半~中盤、地方高級旅館の2食付きプランなどで2万円程度が目安です。ビジネス需要が多い東京・大阪でも、3つ星クラスなら1万5千円前後で快適なホテルが見つかります。
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4つ星クラス: 1泊あたり約15,000~40,000円程度。国内の高級ホテル(帝国ホテルやヒルトン東京など)では2万円台~3万円台が標準的です。地域高級旅館のハイシーズンプランや、スイートルームだと4万円を超えることもありますが、スタンダードなお部屋なら3万円前後で宿泊できる場合が多いでしょう。
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5つ星クラス: 1泊あたり概ね30,000円以上が相場です。東京の超高級ホテルではスタンダードルームでも3~5万円、スイートクラスになると10万円以上の設定も珍しくありません。地方の高級旅館(露天風呂付き客室など)でも5~10万円といった価格帯の商品があります。ただし海外ブランド系でも新規開業直後のプロモーション価格などで稀に2万円台後半というケースもありますので、絶対的な価格帯というより「最低でも数万円~」というイメージです。
次に海外における相場です。海外の場合、国や都市による差が非常に大きいため一概に言えませんが、北米やヨーロッパの主要都市を想定した場合のおおよそのレンジは以下になります(※新興国や東南アジアではこれより安価に泊まれるケースが多々ありますので補足します)。
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1つ星クラス(海外): 1泊あたり約5,000~8,000円程度。米国や欧州のドミトリー式ホステルで20~50USD程度が目安です。発展途上国ではこの価格で個室に泊まれる場合もあります。
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2つ星クラス: 1泊あたり約8,000~20,000円程度。エコノミーホテルやモーテルで50~150USD前後のレンジです。例えばアメリカのモーテルチェーンや欧州の2つ星ホテルはこのくらいの価格帯になります。
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3つ星クラス: 1泊あたり約25,000~50,000円程度。主要都市の中級ホテルで200~400USD程度が目安です。ニューヨークやロンドン、東京などでは3つ星でもこの範囲、逆に物価の安い国では同程度のホテルが100USD以下で泊まれることもあります。
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4つ星クラス: 1泊あたり約50,000円以上が一つの目安。高級ホテルになると300~500USD以上、上限は都市によって異なりますが際限がなくなってきます。欧米の大都市では4つ星でだいたい300~400USD程度が一般的です。
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5つ星クラス: 価格差が最も大きいのがこのカテゴリーです。ニューヨークやロサンゼルスなどでは平均7~8万円超/泊というデータもありますが、東南アジアの都市では同じ5つ星でも1万5千~2万円台/泊というケースもあります。つまり「海外の5つ星料金」は地域差が極端であり、一概にいくらとは言えません。例えばコロナ禍のデータではありますが、2023年時点で、日本人旅行者が支払った5つ星ホテルの1泊平均料金はロサンゼルス約7.95万円、ホノルル約7.43万円、東京約6.08万円である一方、クアラルンプール約1.64万円、バンコク約2.04万円という統計もあります。このように、海外では「高級ホテル=必ずしも超高額」とは限らず、旅行先によっては比較的手頃な価格で最高級ホテルに泊まれることもあります。
以上をまとめると、国内の宿泊費はおおむねグレードに比例して上昇し、海外は地域による差が大きいということが言えます。旅行先が決まったら、その土地での相場観を事前に調べ、自分の予算と求めるグレードを照らし合わせてホテルを探すことが重要です。
利用目的に応じたホテルグレードの選び方
ホテルグレードは単に豪華さの違いだけでなく、「どんな目的の旅行・宿泊に適しているか」の観点でも選ぶ必要があります。ビジネス出張なのか、家族旅行なのか、記念日の贅沢旅行なのか、といった利用目的によって最適なホテルのグレードは異なります。ここでは代表的なシーン別に、どのようなグレードを選ぶべきかの目安を解説します。
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ビジネス出張: コストパフォーマンスと利便性を重視するビジネス利用では、無理に高級ホテルを選ぶ必要はありません。一般的に出張では三ツ星クラスのビジネスホテルが多く利用されています。理由は、3つ星程度であれば必要十分な快適さ(清潔な部屋、デスクとWi-Fi環境、朝食サービス等)が確保でき、かつ宿泊費が抑えられるからです。特に日本国内には全国チェーンのビジネスホテルが多数あり、主要駅周辺に立地しているため移動の利便性も高く、まずハズレがありません。したがって日常的な出張であれば2~3つ星(ビジネスホテル)で問題ないでしょう。ただし、来客対応や重要な会議をホテル内で行う場合や、役員クラスの出張などワンランク上の接遇が必要な場合には4つ星クラスのシティホテルを選ぶこともあります。例えば帝国ホテルやオークラなど老舗ホテルは信頼感があり、商談の舞台として適しています。また海外出張では、日本のような手頃なビジネスホテルが少ない国もあるため、治安やサービス品質を考慮して現地の星評価で4つ星以上のホテルを選ぶのが無難な場合もあります。いずれにせよ、ビジネス利用では「快適だが過剰な贅沢ではない中級ホテル」を軸に、状況に応じてグレードを調整すると良いでしょう。
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家族旅行: 家族でのレジャーや観光旅行では、快適さと娯楽性のバランスを考えてホテルを選びたいものです。お子様連れであれば部屋の広さやプール・キッズルーム等の設備もポイントになります。一般的には3つ星~4つ星クラスのホテルが家族旅行には適しています。例えばリゾート地への旅行であれば、設備の充実したリゾートホテル(多くは4つ星クラス)が理想的です。実際、リゾートホテルは「家族旅行や子ども連れの旅行」におすすめとされており、敷地内でプール遊びやアクティビティを楽しめるため滞在そのものが思い出になります。都市観光の場合でも、子ども歓迎の雰囲気があるホテル(ファミリールームがある、レストランにキッズメニューがある等)を選ぶと安心です。価格帯的にも家族4人で複数泊となると高級ホテルでは予算オーバーになりがちですから、中級クラスで設備充実度の高いホテルが現実的な選択肢となります。例えばディズニーリゾート旅行であればオフィシャルホテル(4つ星クラス)やミリアルリゾートホテルズ系列のホテルが家族向けに最適でしょう。一方、三世代旅行や特別なお祝いを兼ねた家族旅行ならば奮発して5つ星高級旅館や高級ホテルに泊まり、非日常を味わうのも素敵です。要は家族旅行では「みんなが快適に楽しめること」が最優先ですので、その基準でグレードを選びましょう。
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記念日・ハネムーンなど特別な滞在: 誕生日や結婚記念日、ハネムーン、新婚旅行など特別な日を過ごすホテルには、ぜひとも最高のグレードを選びたいところです。ラグジュアリーホテル(5つ星クラス)はこうした特別な用途にこそ真価を発揮します。実際、最高級ホテルは「特別な記念日やハネムーン」に人気があり、スタッフも記念日向けのサプライズ演出や要望に慣れています。例えば事前に相談すれば、チェックイン時に花束やシャンパンを用意してくれたり、ルームサービスでケーキを届けてくれたりといった対応も受けられるでしょう。高級ホテルの中にはアニバーサリープランを用意しているところも多く、スパ招待券やディナー付きの特典が組まれていることもあります。また、ハネムーンであれば景色の良い高層階の部屋やプライベートプール付きヴィラなど、非日常感を極めたお部屋を予約すると一生の思い出になるでしょう。費用は張りますが、人生の節目を彩るには5つ星級の贅沢な環境がおすすめです。なお、予約時には必ず「記念日利用」であることを伝えておくとホテル側も配慮してくれることが多いので、ぜひ活用しましょう。
以上のように、宿泊目的によって適するホテルグレードは異なります。まとめると、ビジネスなら実用的な中級ホテル、家族旅行なら快適さと遊びが両立する中~高級ホテル、特別な日は奮発して最高級ホテルというのが一つの基準になります。ただし旅行者それぞれの予算や価値観もありますので、「バックパッカーの世界一周だけどあえて5つ星に泊まってみる」「出張だけど疲れを癒やすためにあえて温泉旅館(高級)を手配する」など、個人の工夫で基準からあえて外れる選択をする場合もあるでしょう。大切なのは、ホテルグレードの特徴を理解した上で、自分の旅の目的に合った滞在体験を選ぶことです。
ホテルグレードが街や地域にもたらす影響(不動産業の視点)
最後に、ホテルのグレードが街や地域に与える影響について、不動産業や都市開発の視点から少し考えてみましょう。一般に高級ホテルが存在する街はブランド価値が高まると言われます。実際、東京・大阪・京都など主要都市には外資系を含む高級ホテルが多数存在しますが、近年では地方自治体も街の価値向上策として高級ホテルの誘致に力を入れるケースが増えています。自治体が専門のアドバイザーを公募し、市の再開発計画の核として一流ホテルの誘致を掲げるなど、ホテルが「街づくりの中核拠点」として期待されているのです。
高級ホテルがもたらす地域へのメリットとして、まず富裕層観光客の誘致があります。最高級の宿泊施設がなければ富裕層はその街に滞在しません。例えば奈良県では長らく国内資本の老舗ホテル(奈良ホテル)はあるものの外資系高級ホテルが皆無であったため、富裕層観光客は奈良観光後に京都や大阪に移動して宿泊してしまい、奈良にはお金を落としていないという課題がありました。そこで奈良県は念願だった外資系高級ホテル(JWマリオット)の誘致に成功し、富裕層が滞在できる環境整備を進めています。このように5つ星ホテルがひとつあるだけで、これまで泊まれずに素通りしていた旅行者層を呼び込める可能性が生まれるのです。また、高級ホテルは宿泊だけでなくレストランやバー利用、イベント開催など地域住民や他地域からの来訪者も集める拠点となります。地元の雇用創出や関連ビジネス(タクシー、食材納入、観光施設など)への経済波及効果も大きいでしょう。
さらに、国際会議や大型イベントの開催にも高級ホテルの存在は欠かせません。実際に2019年のG20首脳会議開催地選定で、立候補していた福岡市は「世界のVIPが宿泊する高級ホテルが少ない」という理由の一つから大阪市に開催地を譲る結果となりました。裏を返せば、世界的イベントを誘致するにはVIP対応可能な5つ星ホテルの存在が重要ということです。福岡市ではこの反省から、その後リッツ・カールトンの誘致計画が進められ実現しています。このように、高級ホテルの有無が都市の国際競争力やイベント開催力に影響するケースもあるのです。
不動産価値の観点では、著名ホテルがある地域は地価が上がる傾向が指摘されます。例えば東京の日比谷・丸の内エリア(帝国ホテルやペニンシュラなど高級ホテルが林立)は商業地価が高水準で推移していますし、また高級ホテルが新規開業するニュースが出ると周辺の再開発も活性化します。ホテルそのものも不動産投資の対象となるため、グレードの高いホテルが運営されている物件は資産価値が高い傾向があります。また、高級ホテルはその街のランドマーク的存在となり、「〇〇ホテルに泊まるためにその街を訪れる」という観光動機にもなり得ます。これは街のブランドイメージ向上につながり、長期的には地域全体の不動産価値や知名度を底上げするでしょう。逆に言えば、一流ホテルが一軒もない都市は国際観光の誘致で不利になったり、高級消費が生まれにくい(土産物店や高級飲食店が育ちにくい)という側面もあります。
総合すると、ホテルのグレードは単に宿泊者の満足度に留まらず、都市の経済・ブランド価値や不動産市場にも影響を及ぼす重要な要素と言えます。特に最高級ホテル(5つ星クラス)の存在は、その街を世界水準に引き上げる効果が期待できるため、各地で誘致合戦が繰り広げられているのです。街歩きの際には、「なぜこの場所にこのグレードのホテルが建っているのか?」という視点で見てみると、その土地の戦略やステータスが見えてきて興味深いでしょう。
おわりに
ホテルの星(グレード)について、国内外の違いやサービス内容の差、代表的ブランドから街への影響まで幅広く解説しました。星の数はあくまで目安ではありますが、多くの場合ホテル選びで失敗しないための有用な指標となります。ご自身の旅の目的や予算に合わせて、最適なグレードのホテルを選択することで、滞在の満足度は大きく向上するでしょう。
ビジネスであれば実用性の高いホテル、家族旅行なら快適で楽しいホテル、特別な日には奮発して最高のホテルと、状況に応じて賢く選び分けてみてください。ホテルは単なる宿泊場所ではなく、その旅の体験価値を左右する重要な要素です。適切なグレードのホテルに泊まることで、「あの旅は本当に良い思い出になった」と胸を張って言えるような素晴らしい時間を過ごせることを願っています。
最後までお読みいただきありがとうございました。これからホテルを予約される方は、本記事の内容を参考に、ご自身にピッタリのホテルを見つけてください。きっと旅先での夜が、より充実したものになることでしょう。なお、予約サイトの星評価は各社で基準が異なるため鵜呑みにせず、公式情報や口コミも参照しながら最終判断することをおすすめします。皆様の旅が快適で実り多いものになりますように!

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。