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    なぜ人々は不動産投資を行うのか? – 資産形成の観点から見る主な動機と利点

    不動産投資は資産形成の手段として近年再び注目を集めています。株式や投資信託など様々な運用手段がありますが、現物資産である不動産には他の金融商品にはない安定感や多面的なメリットが存在します。本記事では、不動産投資をこれから検討し始めた初心者の方に向けて、なぜ人々が不動産投資を行うのかを解説します。将来の生活設計や資産防衛という観点から、主な動機と利点を整理してみます。

    老後の生活安定と年金不安の解消

    日本では少子高齢化が進み、公的年金だけでは十分な老後資金が確保できないのではという不安が広がっています。実際、生命保険文化センターの調査では、自分の老後生活に「不安感がある」と答えた人が82.2%にも上りました。2019年には金融庁の報告書が「老後に公的年金以外で約2,000万円の資産が必要」と指摘し、大きな社会問題になった(いわゆる「老後2,000万円問題」)経緯もあります。こうした背景から、老後の生活資金を準備する手段として不動産投資に注目する人が増えています。

    不動産を購入して賃貸に出せば、毎月家賃収入という形で安定した現金収入を得ることができます。株式投資の配当金と異なり、景気変動による極端な増減が少なく、入居者がいる限り継続的に得られる収入源となります。ローンを組んで物件を購入し長期運用すれば、完済後は家賃収入がそのまま手元に残り、私的年金のような役割を果たしてくれるでしょう。公的年金の受給年齢引き上げや給付額減少が懸念される中でも、不動産からの収入なら自分のタイミングで受け取れる強みがあります。このように、不動産投資は将来の年金不足への備えとして老後の生活の安定に役立つと期待されています。

    インフレ対策と経済変動への強さ

    資産形成を考える上で無視できないのがインフレ(物価上昇)リスクです。現金や預金はインフレが進むとその実質価値が目減りしてしまいますが、不動産は物価上昇局面でも価値を保ちやすい実物資産とされています。物価が上がれば一般的に不動産価格も上昇しやすく、賃料も物価に合わせて改定(値上げ)できる傾向があります。そのため、不動産投資はインフレヘッジ(インフレ対策)として機能することが期待でき、実際に多くの投資家が資産防衛策として不動産を選択しています。

    また、不動産賃貸経営は株式市場のような景気変動の直接的な影響を受けにくい点もメリットです。景気が悪化しても住む場所は生活に必要なため、株価のように価値が急落したり入居者が一斉にいなくなったりするケースは稀です。実際、「不景気だからといって入居者が一斉退去するわけではなく、急激に家賃相場が下落することもない」という指摘もあります。このような経済変動に強い安定資産である点は、将来の不確実性に備える動機として大きな魅力となっています。

    資産の現物性による安心感

    不動産は形のある現物資産であり、この点が心理的な安心感を与えることも見逃せません。他人の経営する会社に出資する株式とは異なり、自らが所有者となる土地や建物は実体価値があり、価値がゼロになる可能性は低いとされていますが、地価下落や老朽化による損失リスクも存在します。実際、「株や投信とは異なり、現物資産を持つことで得られる安定感」が不動産投資の魅力だとする声もあります。建物自体に価値が残ることはもちろん、土地は経年劣化しないため長期保有しても資産としての土台が残ります。手元に残るのが不動産という実物であることで、将来にわたって「自分の財産を育てている」という実感を持ちやすい点も初心者にとっては安心材料と言えるでしょう。

    税制面のメリット(所得税・住民税の節税)

    不動産投資には税制面の優遇も多く、節税を動機に始める人もいます。例えば、物件を購入し賃貸経営を行うと、毎年確定申告を通じて結果的に、所得税や住民税の負担を減らせる可能性があります。不動産所得は給与所得など他の所得と合算して課税されますが、不動産経営にかかった費用を経費として計上することで課税対象となる所得を圧縮できます。この損益通算によって最終的な課税所得を減らせれば、何もしない場合と比べて支払う税金を低く抑えることができます。経費にできるものには、建物の減価償却費やローン金利、管理費、火災保険料、固定資産税、修繕費など多岐にわたります。特に減価償却費(建物の価値を耐用年数で按分した費用)は現金の支出を伴わない経費であるため、帳簿上の利益を抑えて手元資金を残しつつ節税できる点が魅力です。

    注意点として、不動産収支が黒字で利益が出ている場合は相対的に節税効果が薄れるものの、初期~中期のローン利息負担や減価償却が大きい期間は赤字を計上しやすく、結果として給与所得と相殺して税負担を軽減できるケースもあります。こうした税制メリットは資産形成を効率化するひとつの仕組みとして、不動産投資の利点に数えられています。

    相続対策・家族への資産継承

    将来、築いた資産をどのように次世代に引き継ぐかも資産形成の重要な視点です。不動産投資は相続税対策として有効な手段の一つとされています。不動産の評価額は、現金や預金と比べて相続時に低く算定される特徴があります。土地は国が定める路線価、建物は固定資産税評価額を基準に評価されますが、これらは通常実勢価格(時価)よりも低く設定されます。

    さらに、賃貸用不動産の場合は「他人に貸している」という事情が考慮され、相続税評価額が一段と下がる仕組みになっています。不動産を貸している状態だと相続人がすぐには自由に使えないため、その分評価額から一定割合控除されるのです。こうした制度を活用すれば、現金で持つより不動産で持ったほうが相続時の税負担を軽減でき、残された家族に多くの資産を渡せる可能性があります。加えて、物件を家族に遺せば家賃収入という継続的な収入源も一緒に残すことができるため、遺族の生活を支える保障的な意味合いも持ちます。

    生命保険代わりの保障効果

    不動産投資をする際に利用するローンには一般的には団体信用生命保険(団信)が付帯するのが一般的です。この団信により、ローン返済中にオーナーに万一のこと(死亡や高度障害)が起きた場合、保険金でローン残高が完済される仕組みになっています。結果として、遺された家族には借金のない不動産とそれに伴う毎月の家賃収入が残ります。これはちょうど生命保険の死亡保障でまとまった保険金が支払われるのと同じ効果であり、不動産投資は生命保険の代替として機能し得ると言われます。

    生命保険の場合、契約者は定期的に保険料を支払う必要がありますが、不動産の場合は家賃収入からローン返済(実質的には保険料も含む)を充当できるため、家賃収入をローン返済に充てることで、生命保険的な保障を得ることが可能とされていますが、空室や金利上昇などのリスクも考慮が必要です。さらに、不動産自体の価値が時間とともに上昇すれば資産そのものの増価も期待できます。保険金は契約時に金額が決まっていますが、不動産は市場動向によっては保有中に資産価値が増える可能性もあります。家族への保障と資産運用の両面を兼ね備えた手段として、不動産投資を選ぶ人も少なくありません。

    レバレッジ効果による効率的な資産拡大

    「投資はしたいがまとまった自己資金がない」という初心者でも不動産投資を始めやすい理由の一つに、金融機関からの融資(ローン)を活用できる点があります。不動産は高額な資産ですが、その取得には銀行から資金を借り入れてレバレッジ(てこ)を利かせることが可能です。レバレッジ効果とは「少ない自己資金で大きな収益を得ること」であり、例えば自己資金500万円だけで購入できる物件は500万円程度ですが、500万円を頭金にさらに2,500万円を借入れて3,000万円の物件を購入すれば、同じ自己資金でも6倍もの規模の家賃収入を得られるという試算もあります。このように融資を活用すれば、本来手の届かない大きな投資案件にも参入でき、効率的に資産を拡大できるのです。

    特に日本は長らく低金利政策が続いており、借入金利が歴史的な低水準に抑えられていることも追い風です。低利で資金調達できるため家賃収入との差額(利ざや)を得やすい環境です。わずかな自己資金でも融資を使って大きな資産を運用できるのは不動産投資ならではの利点であり、これが「資産形成を加速させたい」という人々を惹きつける大きな理由となっています。

    安定収入源の確保と資産ポートフォリオの強化

    不動産投資を始める動機には、「給与以外の安定した収入源が欲しい」という考えもよく挙げられます。サラリーマンなど本業の収入がある人にとって、不動産からの家賃収入は第二の収入の柱となり得ます。特に近年は、副業解禁やFIRE(早期リタイア)志向の広がりにより、毎月定期的に入るキャッシュフローを得て将来の選択肢を増やしたいと考える人が増えています。家賃収入は入居者さえ確保できれば大きな手間なく入ってくるため、労働時間に縛られない収入源として生活にゆとりをもたらします。実際、不動産投資は本業があっても手間がかからない資産運用法とされ、日々値動きをチェックする必要がない点で忙しい社会人にも適した投資と言われます。

    また、資産ポートフォリオ全体で見たときに、不動産を組み入れることは分散効果を高めるうえでも有効です。株式や債券と異なる値動きをする不動産を保有すれば、一つの市場が低迷しても他の資産で補える可能性があり、トータルで資産変動のブレを抑える効果が期待できます。特に日本の都市部の住宅需要は一定の底堅さがあり、大都市圏では賃貸ニーズが高水準で推移しています。安定収入と資産分散という二重のメリットにより、資産形成の土台をより盤石にできるのが不動産投資の魅力と言えるでしょう。

    日本国内の不動産市場動向と将来展望

    最後に、日本の不動産市場の動向にも触れておきます。前述の通り低金利政策に支えられて個人の不動産投資は増加傾向にありますが、それ以外にも追い風となる要因があります。例えば、東京都心部を中心に再開発プロジェクトが相次いでおり、利便性向上による都市部不動産の価値上昇が期待されています。再開発で人が集まりやすくなるエリアでは賃貸需要も高まるため、将来的な値上がり益(キャピタルゲイン)狙いも含めて投資家の注目を集めています。

    さらに、新型コロナ以降の個人投資家ブームもあり、若年層の資産運用への関心が高まったことも一因です。NISAやiDeCoなど税優遇制度の普及で「投資で資産形成する」という考え方が20代・30代にも浸透し始め、その延長線上で不動産にも興味を持つ層が増えています。不動産投資は長期視点でコツコツ資産を育てる手段として、まさに「人生100年時代」の安定資産運用の選択肢となりつつあります。

    まとめとして、不動産投資が人々に選ばれる主な理由は、将来への備えとしての安心感と他の投資にはない多様なメリットにあります。老後資金への不安やインフレリスクへの対応策として、安定した家賃収入や実物資産の価値維持は大きな魅力です。加えて、税制優遇や相続対策、保障効果、レバレッジによる資産拡大など、資産形成を有利に進める仕組みが数多く備わっている点が、不動産投資の利点と言えるでしょう。もちろん投資である以上リスクや留意点も存在しますが、初心者の方はまずこれらの動機とメリットを正しく理解し、自身のライフプランに合った資産運用の一つとして不動産投資を検討してみる価値があるのではないでしょうか。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター