首都圏の賃貸不動産オーナーにとって、物件の稼働率(入居率)向上は最重要課題の一つです。人口流入が続く東京エリアでも、新規供給の増加やニーズの多様化により空室リスクは常に存在します。こうした課題への解決策として注目されているのが、管理業務と仲介業務を一体で担う管理会社の活用です。管理と客付け(仲介)の両輪を持つ企業に運営を任せることで、空室期間の短縮や賃料収入の安定化、入居者満足度の向上といったシナジー効果が期待できます。本記事では、その具体的なメリットを実例やデータとともに解説します。最終的に、「仲介も行える管理会社を選ぶこと」が長期的な稼働率・収益の安定につながる理由を明らかにします。
管理と仲介を一体化することによるシナジー効果
管理会社と仲介会社が分離している場合、物件の管理(家賃管理・設備メンテナンス等)と入居者募集(広告・内見対応等)が別々の担当者・会社で行われます。これに対し管理と仲介を一体運営する方式では、一社がオーナー代理として入居者募集から契約後の管理まで一貫対応します。これにより次のようなシナジー効果が生まれ、稼働率向上に直結します。
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空室期間の大幅短縮: 管理・仲介一体の会社は空室発生時に即座に自社で入居者募集を開始できるため、募集開始から成約までの期間を劇的に短縮できます。例えば、2023年のデータでは東京23区の平均募集期間が約4.55ヶ月(約135日)とされていますが、弊社の事例では平均1ヶ月程度で成約に至っています。この差は家賃収入に換算すると3ヶ月以上の違いとなり、オーナーにとって大きなメリットです。実際、月額家賃5万円の部屋が4~5ヶ月も空室になると約30万円の家賃収入が失われる計算になり、さらに募集のための広告料(AD)負担も増えれば合計40~50万円の機会損失となりかねません。一体型管理会社に任せて空室期間を1~2ヶ月に抑えられれば、こうした損失を防ぎ賃料収入を維持できます。
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適正賃料の維持と収益安定: 管理・仲介一体運営では市場動向に精通したリーシング担当が物件の魅力や競合家賃を把握しているため、適切な賃料設定と柔軟な募集戦略が可能です。空室が長引けば家賃の値下げも検討せざるを得ませんが、一体型の運営なら迅速に入居者を確保できるため、安易な賃料引き下げを避けつつ適正家賃で契約を結びやすくなります。結果として、表面利回りを損ねずに賃料水準を維持でき、長期の収益安定につながります。また、仲介部門と管理部門が情報共有することで、退去予告を受けた時点から次の入居者募集を先行的に行うなどプロアクティブな対応も可能です。空室期間が最小化されれば年間稼働率も上昇し、賃料収入のブレが減るためキャッシュフローが安定します。
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入居者満足度の向上: 管理と仲介を一社で行うことで、入居前から入居後まで一貫したサービス提供が可能になります。入居募集時の物件案内から契約手続き、入居後のフォローまで同じ会社が責任を持って対応するため、入居者にとっては窓口が一本化され安心感が高まります。入居希望者への丁寧な対応が成約後の管理にもスムーズに引き継がれ、「聞いていた話と違う」といったミスマッチやトラブルも減少します。また、入居者からのクレームや要望にも管理会社が迅速に対応しやすく、結果的に入居者満足度が向上します。満足度の高いテナントは長期入居する傾向が強く、退去率の低下(入居期間の長期化)によりオーナーは安定した家賃収入を得られます。こうしたテナントロイヤルティの向上も、管理・仲介一体型運営ならではのメリットと言えるでしょう。
以上のように、管理と仲介の連携強化によって空室期間短縮・賃料維持・入居者定着という好循環が生まれ、物件の稼働率アップに直結します。
首都圏における管理・仲介一体型運用の成功事例
東京をはじめ首都圏の賃貸市場は需要が高く、一般的な平均入居率は95%前後と全国でも高水準です。しかし、そうした都市部においても管理手法の違いで稼働率には差が生じます。管理と仲介を一体で手掛ける企業は、他より高い入居率・稼働率を達成しているケースが多く報告されています。
例えば、不動産業界団体の調査データによれば、通常の管理委託物件よりも一括借上(サブリース)物件の方が約3%入居率が高いという結果が出ています。首都圏では管理委託契約の平均入居率が94.4%なのに対し、サブリース物件では97.3%と極めて高水準であり、実質的にほぼ満室経営が実現できていることがわかります。このサブリース方式は管理会社が借上げて転貸するモデルですが、管理会社自らが客付けまで責任を負う点で管理・仲介一体運営と共通しており、空室リスク低減に大きな効果を発揮しているといえます。
さらに、自社で仲介部門を持つ管理会社の方が物件オーナーへの情報提供や改善提案もリアリティを持って提案できます。例えばINA&Associatesでは、空室が発生した際に周辺競合物件の募集状況や賃料相場、内見者からのフィードバック情報をオーナーに迅速にフィードバックし、募集条件の見直しやリフォーム提案など適切な打ち手を講じています。その結果、築年数が経過した物件でも高い入居率を維持しているケースが多数あります。首都圏エリアでは、このような管理一体型のきめ細かな運用により高稼働率を実現した成功事例が年々増えてきています。
以上の事例から、管理と仲介を一体運営する企業に管理を任せることが、首都圏においても競争力の高い安定経営に直結することがわかります。他社比較でも稼働率の差となって表れるため、オーナーにとって心強いパートナーとなるでしょう。
CRM活用や内見DX導入による運用改善と収益最大化
管理・仲介一体型の強みをさらに伸ばすものとして、近年はCRM(顧客管理システム)や内見DXなどのデジタル技術の導入が注目されています。先進的な管理会社はテクノロジーを活用して運用効率と入居率の向上、収益最大化を図っています。
◎ CRM(顧客管理)の活用: 不動産業向けのCRMシステムを導入することで、見込み入居者(リー ド)や既存入居者の情報を一元管理し、適切なフォロー営業・サービス提供が可能になります。具体的には、問い合わせのあった入居希望者の属性・希望条件・過去対応履歴などをCRM上で蓄積し、担当者全員で共有します。これにより、「問い合わせに対する初動対応のスピードアップ」や「一貫性のある対応による信頼構築」が実現し、成約率の向上につながります。実際、不動産業界ではインターネット経由の問い合わせ増加に伴い、CRMで効率的に顧客管理を行うことで契約成約率を高めている企業が増えています。例えば、ある管理会社ではCRM導入によりメールや電話での反響対応時間を大幅短縮し、迅速な提案で他物件との差別化を図っています。その結果、内見から契約への移行率(歩留まり)が上昇し、空室期間短縮と賃貸収益の底上げを達成しています。またCRMは既存入居者対応にも効果を発揮し、入居者からの問い合わせやクレームへの対応履歴を残して分析することでサービス品質を向上させ、顧客満足度の向上にも寄与します。満足度向上は更新率アップにもつながり、結果的に長期の収益最大化に貢献します。
◎ 内見DX(デジタル内見)の導入: 空室期間を短縮し成約率を上げるには、「内見(物件見学)」プロセスの効率化・高度化も欠かせません。近年、多くの管理会社や仲介会社がVR内見やオンライン内見といったデジタル技術を導入しています。VR内見とは、360度カメラ等で撮影した室内映像をオンライン上で閲覧できる仕組みで、遠方にいる入居希望者でも自宅にいながら物件の内部をリアルに体感できます。一方、オンライン内見はビデオ通話等を用いて担当者が現地から中継し、リアルタイムで物件案内を行う方法です。これらの内見DXにより、時間的・地理的制約が大きく緩和されます。例えば、平日日中に内見のために現地へ赴く必要がなくなり、忙しい社会人や遠隔地から転勤予定の人でも気軽に複数物件を見比べられるようになります。その結果、内見機会の増加と成約率アップが期待できます。SUUMOの事例では、VRコンテンツ導入により集客力が飛躍的に向上し、より多くの内見希望者を獲得できたとされています。内見者数が増えれば成約数も増える可能性が高く、空室解消のスピードアップにつながります。また、オンライン内見の普及率も年々上昇しています。リクルート住まい研究所の調査によれば、首都圏の賃貸契約者で「オンライン内見を経験した人」の割合は2021年度時点で27.5%に達し、前年度比で約8ポイント増加しました。特にオンライン内見のみで契約を決めた人も2割を超えており、コロナ禍を契機にデジタル内見が一気に一般化してきたことが分かります。こうした流れに対応している管理会社は、物件のVRツアー動画を制作したり、Zoom等でのリモート案内体制を整備したりすることで、空室期間の短縮と顧客満足度向上を同時に実現しています。内見DXは単に効率化だけでなく、「いつでもどこでも内見できる」という利便性が入居希望者の物件探し体験を向上させ、他物件との差別化要因にもなっています。結果として早期成約・稼働率向上・広告費削減といった収益最大化効果が期待できます。
以上のように、CRMによる顧客管理高度化と内見DXの活用は、管理・仲介一体型運用のメリットをさらに押し上げる施策です。これらを積極的に導入している管理会社であれば、オーナー自身が対応しきれない煩雑な募集・管理業務をデジタルの力で最適化し、物件の収益ポテンシャルを最大限に引き出してくれるでしょう。
まとめ:仲介も担える管理会社が長期安定経営のカギ
ビジネス環境が変化し競争が激化する首都圏賃貸市場で、安定した満室経営を続けるには「管理」と「仲介」の連携が欠かせません。管理と客付けを一体で担える管理会社に運営を任せれば、空室期間の短縮・賃料維持・入居者満足度向上による稼働率アップを実現でき、オーナーの長期的な収益安定に直結します。実例に見るように、一体型運用で高い入居率(稼働率)を維持している物件は、空室損失や機会費用を大幅に削減し、資産価値を高めています。また、CRMやVR内見等の先進技術も取り入れている管理会社であれば、より効率的で質の高い運用が期待できます。
反対に、管理と仲介が分断された従来型運用では情報伝達の遅れや対応のミスマッチが発生しやすく、機会損失につながるリスクがあります。長引く空室や度重なる賃料見直しに悩むオーナーほど、発想を転換し「仲介もできるが情報の囲い込みはしない管理会社」という選択肢を検討すべき時期かもしれません。
最後に強調したいのは、仲介まで行える管理会社をパートナーに選ぶことが、将来的な物件稼働率と収益の安定に繋がるという点です。物件運営のワンストップサービスを提供できる会社は、オーナーの頼れる参謀として市場動向に合わせた最適運用を提案し、資産価値の維持・向上をサポートしてくれるでしょう。稼働率向上に課題を抱える首都圏オーナーの方は、ぜひ管理・仲介一体型の実績ある管理会社への委託を前向きに検討してみてください。それが長期安定経営への第一歩となるはずです。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター