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    不動産管理業務の基本と法令遵守ガイド(初心者オーナー向け)

    不動産投資を始めたばかりのオーナーは、賃貸物件の管理業務や関連法規について「何から学べば良いのだろう」と不安になることが少なくありません。本記事では、そうした初心者オーナーの不安解消のために、不動産会社(宅建業者)が行う賃貸管理業務の基本的な枠組みと法令遵守のポイントを解説します。宅地建物取引業法(以下、宅建業法)と賃貸住宅管理業法という2つの重要な法律の違いを整理し、重要事項説明や管理委託契約の際に押さえておきたいポイントを示します。さらに、コンプライアンス(法令順守)を強化するための具体的なチェックリストもご紹介します。専門的な内容をできるだけかみ砕き、実務に役立つ視点を敬体で丁寧にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

    宅建業法と賃貸住宅管理業法の違い

    まず、賃貸経営に関連する代表的な法律である「宅地建物取引業法(宅建業法)」と「賃貸住宅管理業法」について、その役割と違いを整理します。

    宅建業法は、不動産の売買や賃貸借の媒介(仲介)や代理を業として行う宅建業者を規制する法律です。宅建業者(不動産会社)が物件の取引を公正に行い、取引の当事者(購入者や借主)の利益を保護することを目的としています。具体的には、物件を紹介して契約をまとめる際に重要事項の説明(重要事項説明書を用いた事前説明)や契約締結時の書面交付(37条書面と呼ばれる契約書の交付)を義務づけ、業者に宅地建物取引士(国家資格者)を設置することなどが定められています。宅建業法により、不動産取引の際には宅建士が重要な事項を説明し、契約内容を文書で交付することで、借主や買主が後から「聞いていなかった」という事態を防ぎ、安心して取引できるようにしています。

    一方、賃貸住宅管理業法は、賃貸物件の管理業務(入居者対応や家賃管理、建物維持管理など)を行う賃貸管理業者を規制する比較的新しい法律です。2020年に成立し、2021年6月に施行されました。この法律は、物件オーナーと賃貸管理業者との関係を適正化し、管理業務の質を向上させることを目的としています。背景には、サブリース(いわゆる一括借上げによる家賃保証)を巡るトラブルの多発があります。過去には「将来も家賃◯◯万円を保証」などと謳いながら、家賃相場の下落リスクや減額の可能性を十分説明せずに契約を結び、後からオーナーに不利益が生じるケースが問題となりました。こうした事態を未然に防ぐため、賃貸住宅管理業法ではオーナーへの事前説明の徹底誇大広告・不当勧誘の禁止などが義務づけられたのです。

    賃貸住宅管理業法の施行により、賃貸管理業者には国土交通大臣への登録制度が導入され、特に管理戸数が200戸以上の場合は登録が義務となりました。登録業者は事務所ごとに業務管理者と呼ばれる資格者(「賃貸不動産経営管理士」など一定の要件を満たす者)を設置し、社内で管理業務の監督責任を負わせる必要があります。2022年6月の経過措置期間終了後は、業務管理者を置いていない業者は業務停止処分など厳しい罰則の対象ともなりました。このように、賃貸住宅管理業法は管理会社側の体制整備とオーナー保護に重点を置いた法律と言えます。

    両法の違いをまとめると、宅建業法は入居者(借主)や購入者の保護を目的に宅建業者の業務(契約時の説明義務など)を規制しているのに対し、賃貸住宅管理業法は物件オーナーの保護と管理業務の適正化を目的に管理業者の業務(事前説明や報告義務など)を規制している点が大きな違いです。もっとも、共通点もあります。どちらの法律でも契約前の重要事項説明と契約時の書面交付が義務づけられており、取引の透明性確保という目的は共通しています。実際には、多くの不動産会社が賃貸仲介(宅建業)と賃貸管理の両方を手がけており、宅建士がそのまま業務管理者を兼務しているケースも一般的です。そのため、オーナーから見ると一つの会社に見えても、背後では宅建業法に基づく業務(入居者募集・契約業務)と賃貸住宅管理業法に基づく業務(賃貸管理業務)が連携して進められていることを理解しておくと良いでしょう。

    契約・説明のポイント

    続いて、実際の賃貸運営の場面で重要になる「重要事項説明」と「管理委託契約」について、オーナー目線での留意点を解説します。入居者との賃貸借契約時に行われる説明と、オーナーと管理会社の間で結ぶ管理契約それぞれにポイントがあります。

    賃貸契約における重要事項説明

    賃貸物件に入居者を迎える際、契約前に必ず行われるのが重要事項説明です。これは宅建業法に基づき、不動産会社の担当者(宅地建物取引士)が借主(入居予定者)に対して物件や賃貸条件の重要な事項を説明する手続きです。例えば、物件の設備や条件、契約期間や更新料、禁止事項、現況や瑕疵(欠陥)の有無、ライフラインの整備状況など、契約に影響する事柄が網羅されます。重要事項説明は書面(重要事項説明書)を用いて対面で行われるのが原則ですが、近年では国交省によりITを活用したオンライン説明(IT重説)も本格的に解禁され、遠方でも対面同様に説明を受けることが可能になっています。いずれの場合も、宅建士が記名押印した説明書を用い、借主が内容を十分理解した上で契約へ進むことが求められます。

    オーナーとしては、管理会社や仲介業者が入居者に対してこの重要事項説明をきちんと実施しているか意識しておくことが大切です。重要事項説明が不十分だと、後々入居者との間で「聞いていない事項」が発覚しトラブルになる可能性があります。例えば、オーナー独自の物件ルール(使用規則)や特約事項がある場合には、重要事項説明書や賃貸借契約書とは別にその内容を伝えてもらう必要があります。管理会社が自社で管理している物件であれば細部まで把握しているため漏れも少ないですが、他社が管理する物件を仲介する場合などは画一的な説明で終わりがちです。家賃の支払い方法(振込や口座引落の手順)や細かな利用ルール(ゴミ出しや設備の使用制限など)まで含め、説明漏れがないようチェックリストを用いて確認するなどの配慮が望ましいとされています。オーナーは事前に管理会社と打ち合わせを行い、自身が入居者に伝えておきたい事項がきちんと重要事項説明や契約書に反映されているか確認すると良いでしょう。

    管理委託契約の留意点

    物件の管理業務を不動産会社に委託する場合、オーナーと管理会社との間で賃貸管理受託契約(管理委託契約)を結びます。賃貸住宅管理業法のもとでは、管理委託契約を締結する前に管理会社からオーナーへの重要事項説明が義務化されました。これは先述の入居者向け重要事項説明と紛らわしいですが、内容と相手が異なるものです。管理会社がオーナーと契約する際に、管理業務の内容や条件を詳細に書面で説明し、理解と合意を得る手続きが新たに求められています。オーナーはこの段階で提示される説明資料に目を通し、不明点は遠慮なく質問してクリアにしておくことが大切です。

    管理委託契約書には、管理業務の範囲や費用、契約条件など重要な取り決めがすべて明記されます。以下に、管理会社と契約する際に特に確認しておきたいポイントをリストアップします。

    • 管理業務の範囲:どこまでの業務を管理会社に委託するのかを確認します(例:入居者募集、契約手続き、家賃集金、クレーム対応、退去立会い、清掃点検など)。また、管理会社がその業務を他の業者に再委託する可能性があるかも重要です。契約書に再委託の可否や条件が記載されています。

    • 管理報酬(手数料)と支払方法:管理会社に支払う管理料の金額(賃料収入に対する○%など)や支払方法・時期を確認します。さらに、管理料に含まれない業務が発生した場合の料金負担についても把握しておきましょう(例えば、設備故障時の修理手配費用や訴訟対応費用など)。

    • 家賃や敷金の管理方法:入居者から支払われる賃料や預り敷金等を管理会社がどのように保管・管理し、オーナーへ送金するかを確認します。法律上、管理会社はオーナーの財産である家賃や敷金等を自社の資金と分別して管理する義務があります。したがって、オーナー名義の口座への振込や信託口座の利用など、適切な金銭管理方法が取られているかチェックしましょう。

    • 定期報告の方法・頻度:物件の収支報告や入居者の状況報告をどの頻度で、どんな方法で受け取れるのか確認します。一般的には毎月の家賃送金時に送金明細や管理報告書が提供されますが、口頭での報告のみになっていないか、書面またはデータで記録が残る形で報告を受けられるかがポイントです。

    • 入居者対応の方針:入居者からの苦情・問い合わせや、設備故障時の緊急対応などを誰がどのように行うかを確認します。24時間対応の連絡先があるか、深夜や休日のトラブルにどう対処するかといった体制も重要です。管理会社がオーナーの代理人として入居者対応する以上、丁寧かつ迅速な対応が期待できますが、その分野での経験やマニュアル整備状況なども把握しておくと安心です。

    • 契約期間と解約条件:管理委託契約の有効期間(例えば1年ごとの自動更新など)や、途中解約する場合の条件についてもしっかり確認します。特に解約の方法や違約金の有無は見落とせません。契約解除にあたって高額な違約金を請求する会社や、サブリース契約でオーナー側からは中途解約できない条件を設けている会社もあります。不利な条件に後から気付くことのないよう、解除条項を入念にチェックしましょう。

    • 免責事項:管理会社が責任を負わない範囲(免責条項)が定められている場合、その内容も理解しておきます。例えば「自然災害による建物損壊に対して管理会社は責任を負わない」等の条項です。こうしたリスクに備えてオーナー自身が保険に加入するなど、必要な対応も検討すると良いでしょう。

    以上のポイントは、管理委託契約前の重要事項説明書にも詳しく記載され、実際の契約書にも盛り込まれます。契約時にはこれらを一つひとつ確認し、双方が合意した証として契約書に署名・押印します。契約締結後、管理会社から契約書の写し(宅建業法37条書面に相当する書面)がオーナーに交付されるので、必ず受け取り大切に保管してください。口頭の説明だけでなく書面で取り決めを残すことが、トラブル防止と法令順守の観点から不可欠です。不明点が残ったまま契約してしまうと後々揉める原因になりますので、少しでも疑問があれば契約前に確認し、必要に応じて契約内容の修正や追記をお願いすることも可能です。信頼できる管理会社であれば、オーナーが内容を十分理解し納得した上で契約できるよう丁寧に対応してくれるでしょう。

    コンプライアンス強化のためのチェックリスト

    最後に、オーナーが賃貸管理業務における法令順守を強化し、安心して運用するためのチェックリストを示します。管理会社に任せきりにせず、オーナー自身も以下の点を定期的に確認することで、違反の未然防止や信頼関係の維持につながります。

    • 管理会社の免許・登録状況を確認:契約する管理会社が宅建業の免許を有し、有効期限内かを確認しましょう。加えて、管理戸数が多い場合は賃貸住宅管理業者の登録番号もチェックします(2021年施行の賃貸住宅管理業法により200戸以上を管理する業者は国土交通大臣への登録が義務化されています)。免許番号や登録の有無は、会社のホームページや名刺、オフィスに掲示された標識などで確認できます。

    • 重要事項説明が適切に行われているか:入居者への重要事項説明が契約前に宅建士によって書面交付の上で実施されているか確認します。昨今はIT重説も普及していますが、対面と同等に重要事項説明書を事前提示して説明していれば問題ありません。オーナー自身が管理会社と管理契約を結ぶ際にも、重要事項説明書を交付され十分な説明を受けたか振り返りましょう。もしサブリース契約(一括借上げ)を検討している場合は、家賃減額リスク等について事前に詳しい説明(重要事項説明)を受けることが法律で義務づけられているので、口頭だけでなく書面でリスクや条件を提示してもらっているか確認してください。

    • 契約書の内容と保管:賃貸借契約書や管理委託契約書の内容はすべて把握しておきましょう。特に手数料や契約期間、解約条件など重要事項に不明点がないようにします。契約解除時の違約金の有無なども重要チェックポイントです。契約書類は署名捺印後に双方で1部ずつ保管するのが基本です。オーナーも受け取った書面をファイリングし、必要に応じてすぐ見直せるようにしておきましょう。

    • 金銭管理の適正性:家賃や敷金などオーナーの財産に属する金銭が、管理会社において適切に分別管理されているか確認します。毎月の送金明細や口座照会で、入居者から支払われた金額が契約どおりオーナーに送金されているかチェックしましょう。万一遅延や不足があればすぐに問い合わせ、原因を確認します。信頼できる管理会社であればオーナーの資金と会社運転資金を明確に分け、トラブル時にも速やかに報告・精算してくれるはずです。

    • 定期報告の受領:管理会社からの定期報告が契約どおりになされているか確認します。月次報告書や賃料送金明細書が予定のタイミングで届いているか、不明点はないかをチェックしましょう。報告内容に不備や疑問があれば、そのままにせず担当者に質問し、必要なら追加情報をもらいます。オーナーが報告をしっかり確認する姿勢は、管理会社側の緊張感維持にもつながり、コンプライアンス強化に寄与します。

    • 入居者対応状況の確認:入居者から苦情や要望があった場合の管理会社の対応状況についても把握しておきます。定期報告や随時の連絡の中で、どんな問い合わせやトラブルが発生し、どう対応したか共有してもらいましょう。必要に応じてオーナー自身が入居者アンケートを行い、管理会社の対応に問題がないか確認するのも一案です。24時間緊急対応サービスの契約がある場合はその内容(例:水漏れや鍵紛失時の初動対応)も把握し、いざという時に迅速に対応できるようにしておきます。

    • 社内体制・法改正への対応:管理会社の社内コンプライアンス体制(業務管理者によるチェックなど)が機能しているか見極めることも大切です。担当者任せではなく、社内で複数人が関与してミスや違法行為を防ぐ仕組みがある会社は安心できます。また、不動産業界の法改正情報にもアンテナを張りましょう。例えば近年は電子契約の解禁など大きな法改正が相次いでいます。重要事項説明書や契約書の電子交付が可能になったことで契約実務が効率化されていますが、その際も法令に従った手順が踏まれているか確認が必要です。管理会社任せにせず、オーナーも最新動向を把握し対応していく姿勢が、コンプライアンス違反の防止と健全な賃貸経営につながります。

    まとめ

    不動産の賃貸管理に関わる宅建業法賃貸住宅管理業法の基本的な枠組みと違い、そして契約・説明時の留意点やチェックリストについて解説しました。最初は難しく感じるかもしれませんが、それぞれのポイントを理解しておくことで賃貸経営に対する不安は軽減されるでしょう。法令を順守することは単に役所の指導を避けるためだけでなく、オーナー自身の資産を守り入居者との信頼関係を築くことにも直結します。実際、賃貸住宅管理業法の目的も「貸主(オーナー)と借主双方の利益保護を図り、双方にとってWin-Winの関係を目指すこと」にあります。コンプライアンスを強化することで、こうしたWin-Winの賃貸経営に近づくことができるのです。

    初心者オーナーの方は、本記事で挙げたチェックリストを活用しつつ、信頼できる不動産会社や専門家と協力しながら一つひとつ対応策を講じていけば問題ありません。分からないことは管理会社の担当者や賃貸不動産経営管理士、不動産コンサルタント等に相談し、知識を蓄えていきましょう。幸い、不動産業界は法制度の整備が進んでおり、ルールに沿って運営していけば大きなトラブルを避けられるケースがほとんどです。法令順守という土台の上に、オーナーと管理会社・入居者の良好な関係が築かれていけば、安定した賃貸経営による収益確保という目的に近づいていきます。ぜひ基本を押さえた上で実務に臨み、安心・安全な不動産オーナーライフを実現してください。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。