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    外国人入居者との賃貸借契約における注意点とトラブル防止策

    近年、日本国内で在留する外国人の数は増加傾向にあり、2023年にはその数が全国で初めて300万人を超えたとも報告されています。人口減少と高齢化が進む中、外国人入居者の受け入れは空室対策として重要性を増しており、不動産オーナーにとって無視できないテーマです。一方で、言語や文化・習慣の違いから生じるトラブルを心配し、外国人との賃貸借契約に不安を感じるオーナー様も少なくありません。しかし、適切な対応と十分な配慮によってこれらの不安は解消でき、むしろ外国人入居者の受け入れは安定した賃貸経営に繋がり得るとされています。実際、賃貸管理のプロであるINAも、高齢者や外国人といった住宅確保要配慮者の受け入れは今後ますます重要になると考えており、家賃債務保証の活用など適切な対策によって安心して貸し出すことが可能です。本記事では、そうした前向きな視点に立ち、不動産オーナー様が外国人入居者と賃貸借契約を結ぶ際に特に注意すべきポイントと、トラブルを未然に防ぐための実務的な対策について解説いたします。

    外国人との賃貸借契約で注意すべきポイント

    外国人入居者を受け入れる際には、日本人入居者の場合と異なる配慮や準備が必要です。以下に、外国人との賃貸借契約で押さえておくべき主な注意点を示します。

    • 言語の壁と契約内容の理解: 賃貸借契約時には契約書や重要事項説明書など多くの書類がありますが、これらが日本語のみだと日本語を十分理解できない外国人入居者にとって内容を把握するのは困難です。契約内容の理解不足はトラブルの主な原因にもなりかねません。そのため、可能であれば多言語版の契約書類や専門通訳を用意し、契約条件やルールを丁寧に説明して相手の理解を確認することが重要です。言葉の壁を取り除く対応により、誤解による紛争を防止できます。

    • 契約慣行(礼金・敷金・更新料等)の違い: 日本の賃貸契約には海外にはない「礼金」や定期的な「更新料」といった独自の慣行がありますが、これらは外国人には特に理解しにくい制度です。また、契約時に預かる敷金の扱い(退去時の原状回復費用への充当など)についても、日本のルールに不慣れな外国人には十分に説明しないと誤解を招きます。実際、多くの外国人入居者は敷金は退去時に全額戻ってくるものと思い込んでおり、日本独自の原状回復費用の精算ルールを理解していないケースも見受けられます。契約前に礼金・敷金・更新料といった金銭面の取り決めや退去時の原状回復の考え方を丁寧に説明し、納得を得ておくことで、後々の金銭トラブル防止につながります。

    • 生活習慣や文化の違いへの配慮: ゴミ出しの分別方法や近隣への騒音配慮、退去時の清掃基準など、生活上のルールやマナーは国や地域によって異なります。日本では当たり前のルールでも、外国人入居者にとっては馴染みがなく守りにくい場合があります。例えば、日本では賃貸物件退去時には入居時より部屋をきれいにして返すのが一般的ですが、この習慣は海外では共有されていないこともあります。こうした生活習慣の違いによる行き違いを防ぐため、入居時にゴミ出し曜日・方法や静粛時間帯、禁止事項(ペット・又貸し禁止等)などのルールを多言語で記載した案内を用意し、事前に共有しておくことが有効です。文化の差異に理解を示しつつルールを周知することで、双方が安心して生活できる環境づくりに繋がります。

    • 連帯保証人・支払い能力の確保: 賃貸契約では通常、借主に日本在住の連帯保証人を求めますが、外国人入居者の場合は適切な保証人を確保できないことも多いです。従来、この点がハードルとなり外国人の入居審査通過が難しい側面がありました。しかし現在では、家賃保証会社(家賃債務保証)を利用することで高齢者や留学生、外国人でも契約を結びやすくする仕組みが整っています。保証会社が連帯保証人の役割を果たすため、オーナーにとっては滞納リスクをカバーしつつ幅広い層の入居者を受け入れられるメリットがあります。外国人入居者と契約する際は、必ず保証会社の利用を検討し、賃料支払いの担保を取っておくと安心です。

    • 在留資格や身元の確認: 賃貸借契約を結ぶ前に、入居希望者の在留資格(ビザの種類や有効期限)や身元をきちんと確認することも大切です。外国人入居者を受け入れる際には、パスポートや在留カードで在留期限を確認し、契約期間中適法に滞在できることを確認しましょう。併せて、入居予定人数や同居者の有無を事前に把握することも必要です。国によっては単身者向け物件に複数人で住むことが一般的な場合もあるため、契約の想定人数を超える無断入居を防ぐためにも入居者(同居者)の人数は契約前に明確に取り決めます。また、銀行口座の開設状況や緊急連絡先(携帯電話番号など)を聞いておくことも、家賃の振込や連絡手段を確保する上で重要です。これらの確認を徹底することで、契約後の思わぬトラブル発生リスクを低減できます。

    以上の点に留意し、外国人入居者とも契約前に十分なコミュニケーションと相互理解を図ることが、円滑な賃貸経営の第一歩です。国籍に関係なく公正な入居審査と説明を行い、お互いが合意の上で契約を結ぶことが何よりも重要になります。

    外国人賃貸トラブル防止のポイント

    上記の注意点を踏まえ、実際に外国人入居者とのトラブルを未然に防ぐために有効な対策をいくつかご紹介します。適切な準備と対応によって、多くのトラブルは事前に防止することが可能です。以下の外国人賃貸トラブル防止策を実践することで、オーナー様も安心して外国人にお部屋を貸し出せるでしょう。

    • 家賃保証会社(賃貸保証)の積極活用: 前述のとおり、保証会社の利用は外国人入居者との契約においてほぼ必須と言えます。入居条件として保証会社加入を求めておけば、万一の家賃滞納や入居者の突然の帰国にも備えることができます。実際、保証会社の利用率は近年非常に高まっており、2020年時点で賃貸契約の約97%で利用されているとの調査もあります。保証会社を通じて賃料回収の仕組みを整えておくことで、オーナーは安定した家賃収入を確保でき、滞納リスクによるトラブルを防止できます。

    • 入居審査の徹底(在留期間・入居人数の確認): 外国人入居者だからといって特別な差別をする必要はありませんが、契約前の入居審査は日本人以上に慎重に行うことが望ましいです。具体的には、在留資格の種類と在留期間を確認し、契約期間を全うできる見込みか評価します。加えて、入居予定者全員の氏名や続柄を把握し、契約者以外の無断入居がないように取り決めます。契約書に居住者の範囲を明記し、同居人の追加は事前許可制とするなどの措置も有効です。また、収入証明の提出を求める、勤務先や学校の在籍確認を行うといった基本的な審査も怠らず実施しましょう。これら審査の徹底により、トラブルの芽を事前に摘み取ることができます。

    • 外国人入居者対応に強い専門業者への委託: 言語や文化のギャップによるトラブルを防ぐには、外国人入居者のサポート体制が整った不動産管理会社や仲介業者を活用するのも一案です。外国人入居者の対応経験が豊富な業者であれば、契約時の重要事項説明や入居後の生活ルールの説明を英語など他言語でスムーズに行ってくれます。オーナー自身が対応しきれない細かなコミュニケーションやクレーム対応も、専門会社に管理委託しておけば安心です。例えば、稼働中の物件にバイリンガルスタッフを配置しているような管理会社であれば、日本語が苦手な入居者からの相談にも母国語で対応でき、結果的に物件の対象入居者層を広げることにも繋がります。信頼できるプロの手を借りることで、オーナー様の負担を軽減しつつトラブル防止と早期対応が可能になります。

    • 国土交通省のガイドラインや多言語ツールの活用: 国もまた、外国人の民間賃貸住宅への円滑な入居を推進するための施策を整備しています。国土交通省が作成した「外国人の民間賃貸住宅入居円滑化ガイドライン」では、賃貸人や不動産業者向けに実務対応のポイントがまとめられており、多言語で利用できる各種チェックリストが公開されています。例えば、入居希望の外国人が希望条件を記入できる「希望条件チェックシート」や、入居時・退去時のルールやマナーを周知するための「入居の約束チェックシート」(ハウスルールの多言語説明資料)、入居審査に必要な書類リストなどが用意されており、英語をはじめ主要な外国語に翻訳されています。これら公的なツールを活用すれば、言語の違いによる説明不足を補い、入居者との認識共有を図ることができます。オーナー様ご自身も一度ガイドラインに目を通し、活用できる資料を契約実務に取り入れるとよいでしょう。公的ガイドラインの活用は、外国人賃貸対応における心強いサポートとなります。

    以上の対策を講じることで、外国人入居者との賃貸契約に伴うリスクを大幅に軽減し、安心・安定した賃貸経営に近づけることができます。

    まとめ

    外国人との賃貸借契約は、最初こそ言語や制度の違いに戸惑う点もあるかもしれません。しかし、誠実で前向きな姿勢で相手と向き合い、上述したような適切な対策を講じれば、多くの問題は未然に防ぐことができます。日本人入居者と同様に公平な基準で審査・契約し、互いの立場や文化を尊重したコミュニケーションを図ることです。外国人入居者を積極的に受け入れることは、空室リスクの低減や賃貸経営の安定化にも繋がります。グローバル化が進む社会のニーズを捉え、新たなビジネスチャンスとして外国人入居者との賃貸契約に前向きに取り組んでみてはいかがでしょうか。オーナー様の誠意ある対応があれば、国籍を超えて信頼関係を築くことができ、双方にとって実りある賃貸契約となるでしょう。最後に、不動産オーナーとして専門知識と柔軟な姿勢を持ち合わせ、安心できる住環境を提供することで、外国人入居者との円滑な賃貸関係を実現していただきたいと思います。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。