賃貸経営を行う不動産オーナーにとって、賃貸借契約を結ぶ際には様々な注意点や落とし穴があります。本記事では、契約締結時の基本事項から契約書に盛り込むべき重要条項、よくあるトラブル事例とその対策、最新の法改正への対応、そして賃貸管理会社との連携の重要性まで、オーナー視点で詳しく解説いたします。
賃貸契約締結時にオーナーが注意すべき基本事項
契約条件の明確化
契約を締結する際には、賃料や敷金・礼金、契約期間など基本的な契約条件を明確に定めておく必要があります。口頭の合意だけで進めず必ず書面で取り交わし、双方の認識齟齬を防ぐことが重要です。賃料の金額や支払期日、支払い方法(振込先や振込手数料の負担者など)をはじめ、更新時の取り扱いや解約の条件まで具体的に取り決めて契約書に残しておきます。契約条件があいまいなままだと、後々「聞いていない」といった紛争に発展しかねません。オーナーとしてリスクを避けるため、賃貸条件は全て文書で明示し双方が署名押印する形で確実に合意しておきましょう。
重要事項説明書の内容確認
不動産会社(宅建業者)を通じて契約する場合、契約締結前に宅地建物取引士による重要事項説明書(物件や契約内容の詳細な説明書)の交付と説明を受けます。オーナーはこの重要事項説明書の内容を事前に確認し、誤りや抜け漏れがないかチェックすることが大切です。重要事項説明書には物件の権利関係(抵当権の有無等)や設備の状態、契約条件など借主に重要な事項が記載されます。記載内容に誤りがあると借主との信頼関係を損ねトラブルの原因となるため、事前に不明点は不動産会社に確認し修正させましょう。また、オーナー自身が直接貸し出す自主管理の場合は法的には重要事項説明書交付義務はありませんが、借主との認識違いを防ぐため交付が推奨されています。契約前に物件の状態や契約条件について書面で丁寧に説明し、借主の理解と同意を得ることで、後々のクレームや訴訟を予防できます。
賃借人の属性審査(入居者の信用チェック)
貸し出す前に賃借人(入居希望者)の信用力や人柄を十分に審査することも基本中の基本です。家賃の支払い能力(収入状況や勤務先・雇用形態など)に加え、過去の賃貸トラブル歴や生活態度なども可能な範囲で確認します。具体的には、収入証明書や勤務先の在籍証明の提出を求めたり、緊急連絡先や連帯保証人を確認したりします。また、近年では家賃保証会社への加入が一般的であり、保証会社による審査を通じて入居者の信用力を測ることができます。保証会社の審査で問題がないか確認することも重要です。入居者の属性審査を怠ると、夜間の騒音トラブルやゴミ出しマナー違反などマナーの悪い入居者を招いてしまうリスクがあります。現実には入居者の人柄まで完全に見抜くことは難しいものの、実績豊富な管理会社に入居審査を任せれば高い確率で悪質な入居者を排除できます。オーナーとしては、信頼できる管理会社と連携して適切な入居審査を行い、問題のある入居希望者を事前にふるいにかけることが賃貸経営の安定につながります。
賃貸借契約書に盛り込むべき重要条項
賃貸借契約書は賃貸経営のルールブックです。オーナーが不利にならず円滑に賃貸管理を行うために、以下のような重要条項を盛り込む必要があります。
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賃料および支払条件:月額賃料の金額と支払期日(通常毎月○日払い)、支払方法(銀行振込等)を明記します。万一支払いが遅れた場合の遅延損害金の有無・率についても定めておきます。
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敷金・礼金:敷金(保証金)や礼金の額を定め、その保管方法および契約終了時の精算方法を取り決めます。例えば「敷金○ヶ月分を預かり、退去時に未払い賃料や原状回復費用を差し引いて残額を返還する」旨を明示します。敷金の返還ルールは民法でも明文化されており、明け渡し時に借主の債務を差し引いた残額を返還しなければならないと定められました。この法律規定も踏まえ、敷金精算条項を明確にしておきます。礼金については返還しない特約であるため、その扱いも契約書に記載します。
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契約期間と更新:契約の種類(普通借家契約か定期借家契約か)を明示し、契約期間を設定します。普通借家契約であれば一般に2年契約が多く、借主に更新の意思があれば基本的に更新が可能です。定期借家契約であれば更新がなく契約期間満了で終了することを明記し、再契約の可否や手続きを定めます。契約期間満了前の更新手続きや更新料(後述)についても取り決めておきます。
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中途解約に関する取り決め:契約期間中に途中解約(契約解除)する場合の条件を定めます。借主から解約する場合の予告期間(一般に1〜2ヶ月前通知など)や違約金の有無を契約書に明記します。貸主から解約する場合、普通借家契約では正当事由がない限り困難ですが、やむを得ない事情(建物老朽化による取壊し等)が生じた際の対応や手続きを記載しておきます。定期借家契約の場合は原則中途解約できませんが、転勤や療養などやむを得ない事情が借主に生じた場合に解約できる条項(借地借家法第38条第5項に基づく中途解約条項)を設けることも可能です。貸主側の中途解約権については借主保護の観点から非常に限定的であり、契約書に特約を入れても法的に無効となるケースが多いため注意が必要です。
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原状回復義務の範囲:退去時の原状回復について、借主が負う範囲と内容を明確に定めます。通常使用による経年劣化や損耗(自然に生じた日焼けや擦れ等)は借主の原状回復義務の範囲外であることが民法上明記されています。したがって契約書でも、借主負担となるのは「故意・過失や通常の使用の範囲を超える損傷」に限ることを基本とし、それ以外は貸主負担である旨を記載するのが望ましいです。例えば画鋲穴や軽微な傷は通常損耗として貸主負担、タバコの焼け焦げや故意の破損は借主負担など具体的に定めます。また、通常損耗であっても借主負担とする特約(いわゆる敷引特約など)を設けるケースもありますが、借主に不利すぎる特約は無効と判断されるリスクがあるため慎重に検討してください。国土交通省の「原状回復をめぐるガイドライン」に沿った条項にしておくとトラブルを抑制できます。
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更新料:主に首都圏の住宅賃貸で見られる更新料について、発生する場合は契約書に明記します。更新料とは契約更新の際に借主が貸主に支払う一時金で、一般に新賃料の1ヶ月分程度が相場です。更新料の有無や金額、支払時期(更新契約締結時など)を定め、更新料を支払わない場合には更新を拒絶できるかどうか、といった扱いも契約書に記載します。更新料を受け取る慣行は地域によりますが、後から「説明されていない」と争いにならないよう事前に契約条項で合意しておくことが重要です。
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禁止事項:物件の使用にあたり借主が守るべき禁止事項を列挙します。典型例として、無断での転貸(また貸し)禁止、住所用途以外(事務所や民泊など)への利用禁止、ペット飼育禁止(または許可制)、楽器演奏や大音量で音を出す行為の禁止、違法薬物の持ち込み・使用禁止、火気・危険物の持ち込み禁止、近隣に迷惑を及ぼす行為の禁止(深夜の騒音など)等があります。契約書に禁止事項を明示し、違反時には契約解除もあり得ることを記載しておくことで、借主に規範意識を促しトラブル抑止につながります。例えば「借主が無断転貸等の本契約違反行為を行った場合、貸主は是正の催告を行い、改善が見られないときは契約を解除しうる」など、違反時の対処も盛り込んでおくとよいでしょう。
以上のような条項は賃貸契約書の骨子となる重要事項です。これらが欠けていたり不明確だと、いざというときにオーナーの権利を守れなかったり、借主との紛争を招いたりします。契約書を作成する際は専門家の助言も得ながら、必要条項を網羅し明確な内容にしておくことが肝要です。
よくあるトラブル事例と教訓
賃貸経営では契約後に様々なトラブルが発生する可能性があります。ここではオーナーが直面しがちな典型的トラブル事例と、その教訓について解説します。
未払賃料(家賃滞納)に関するトラブル
家賃の滞納は賃貸オーナーにとって深刻な問題です。借主が賃料を支払わない場合、オーナーは収入を失うだけでなく、滞納が長期化すると契約解除や明け渡し訴訟等の手続きを検討しなければなりません。ただし日本の賃貸実務では、借主保護の観点からたとえ滞納が発生しても直ちに契約解除や退去要求はできず、一般には3ヶ月以上連続で滞納がないと契約解除の正当事由と認められにくいとされています。そのため、滞納が発覚したら早期に借主へ督促し、支払い計画を確認するとともに、必要に応じて保証会社へ連絡して代位弁済を受けるなど被害を最小化する対応が重要です。また滞納リスクを事前に軽減する策として十分な敷金を預かる(目安として家賃2ヶ月分以上)ことや、借主に保証会社へ加入してもらうことが有効です。保証会社が付いていれば借主が家賃を滞納しても代わりに立替払いしてもらえるため、オーナーは一定の家賃収入を確保できます。家賃滞納トラブルの教訓は、契約時に滞納リスクヘッジを講じておき、滞納発生時には迅速かつ適切に対処することです。初期対策と日頃の管理体制で被害を防ぎましょう。
契約違反(禁止事項の違反)に関するトラブル
借主が契約上のルールを破った場合にもトラブルに発展します。例えば無断で物件を又貸しされたケースや、ペット飼育禁止なのにこっそり飼育していたケース、騒音禁止にもかかわらず深夜に楽器演奏を続け近隣から苦情が出たケースなど、禁止事項の違反事例は後を絶ちません。契約違反が発覚した場合、まずは借主に是正を促す通知を出し、契約に基づき違反行為の停止や原状回復(例:ペットの撤去等)を求めます。それでも改善されない場合は契約解除も視野に入れますが、実際には借主が応じずトラブルが長期化することもあります。賃貸借契約では借主保護の原則が強いため、違反即退去と簡単にはいかず話し合いや調停が必要になるケースもあるのです。契約違反トラブルの教訓として、違反を未然に防ぐ工夫と発生時の冷静な対処が挙げられます。未然防止策としては前述の通り入居審査で問題行動を起こしそうな人を避けること、契約時に禁止事項を丁寧に説明し遵守を誓約させることが有効です。また、万一違反が起きた場合も記録を残しつつ速やかに注意喚起し、こじれる前に管理会社や専門家(弁護士等)に相談して適切な対応策を取りましょう。
原状回復をめぐるトラブル
退去時の原状回復費用はオーナーと借主の間でしばしば争いになります。典型的には、借主側は「普通に住んでいただけで生じた汚れや傷は経年劣化だから自分に修繕義務はない」と主張し、一方オーナー側は「契約書に基づき借主負担で修繕すべきだ」と主張して対立するケースです。例えば、家具の設置による床のへこみや、壁紙の日焼け・黒ずみは通常損耗か否か、エアコンの取り外し跡や画鋲の穴は借主負担かどうか、といった点が揉めやすいポイントです。前述したように通常の使用による損耗は借主の原状回復義務に含まれないとのルールが法律で明確化されています。したがってオーナーが経年劣化分まで敷金から差し引こうとすると、借主から法的に争われる可能性があります。ただし契約書に特約があり借主がそれに同意している場合は認められることもあるため、トラブルの解決には契約書の精査と貸主借主双方の話し合いが必要です。原状回復トラブルを避ける教訓としては、入居時に現況を記録・共有しておくことと契約書で負担範囲を具体的に定めておくことが挙げられます。入居時の物件状態をチェックリストや写真で記録し、傷や汚れの箇所を双方認識合わせしておけば、退去時に「これは入居前からあった傷か否か」といった争いを防げます。また契約時に取り決めた原状回復ルールに従って冷静に精算すれば、多くの場合トラブルは回避可能です。万一話し合いが折り合わない場合には、地域の紛争相談センターや少額訴訟制度の活用も検討します。
トラブル回避のための実務対策
上記のようなトラブルを未然に防ぎ、安心して賃貸経営を行うために、オーナーが講じておくべき実務上の対策をまとめます。
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家賃保証会社の積極的な活用:家賃滞納リスク対策として、信頼できる家賃保証会社と契約することが有効です。借主に保証会社へ加入してもらえば、借主の滞納時に保証会社が立替払いしてくれるため、オーナーは安定した収入を確保できます。保証会社は独自の審査で借主の信用力をチェックする役割も果たすため、入居審査の一環としても有用です。但し保証会社にもピンからキリまであるので、オーナー側で信頼性の高い保証会社(国土交通大臣に登録された賃貸住宅管理業者で保証事業も行う会社など)を選定しましょう。保証委託契約の内容(保証限度額や滞納発生時の対応フロー)も事前に確認し、万全の体制を整えておきます。
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定期借家契約の活用:物件の貸し出し期間をあらかじめ限定したい場合や、将来的に確実に明け渡してもらいたい事情がある場合には、定期建物賃貸借契約(定期借家契約)の活用を検討します。定期借家契約であれば契約期間満了に伴い確実に退去してもらえるため、普通借家契約のように借主が居座って退去交渉に苦労するリスクを減らせます。例えば「転勤で不在にする2年間だけ貸したい」といったケースでは定期借家契約が適しています。また、定期借家契約でも双方合意により再契約することは可能なので、良好な借主であれば再契約して住み続けてもらう柔軟な運用もできます。ただし定期借家契約を有効に結ぶには事前の書面交付による説明や契約書面での明示など法律上の手続きを踏む必要があります。手続きがやや煩雑で借主に敬遠される傾向もあるため、募集段階で定期借家であることを周知し納得した借主と契約するようにしましょう。定期借家契約の活用は、借主都合に左右されず計画的な資産運用をしたいオーナーにとって有力な選択肢となります。
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契約書の定期的な見直しとアップデート:賃貸借契約に関する法律や判例は時代とともに変化しています。古い契約書のひな型を使い回していると、最新の法律改正に対応していない不備が生じる可能性があります。実際、2020年の民法(債権法)改正に伴い賃貸借契約書に盛り込むべき事項が変わりましたが、現在でも改正内容が徹底されておらず旧来の契約書が使われているケースもあります。オーナーは契約書を定期的に専門家にチェックしてもらい、法改正や社会情勢に合わせて条項をアップデートすることが大切です。例えば前述の保証人の極度額設定義務(2020年改正民法)に対応して契約書の保証人条項を修正する、敷金の扱いに関する明記を盛り込む、といった対応が必要です。また判例の蓄積により有効性が疑わしい特約(例:画一的な敷金全額償却特約など)が判明してきた場合には、契約書から削除・修正を検討します。最新のひな型を参考にしつつ、自身の物件や経営方針に合った契約書を整備しておきましょう。
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入居時・退去時の現況確認の徹底:トラブル防止の基本は記録と証拠です。借主が入居する際にはオーナーまたは管理担当者立ち会いのもと物件の現況を詳細に確認し、チェックリストを作成して双方で署名します。キズ・汚れ・設備不良箇所などを入居時点で共有して記録(写真撮影を含む)しておけば、退去時にそれが新たに発生した損耗かどうか明確になります。同様に退去時も立ち会いの上で現況確認を行い、入居時の記録と照合して原状回復が必要な箇所を特定します。特に細かな傷や汚れは記憶だけでは争いになりやすいため、写真や書面によるエビデンスを残すことが肝心です。現況確認書には双方で合意した補修箇所や負担区分を記載し、後日の認識違いを防ぎます。これらの入退去時の丁寧な対応が、敷金精算や補修費用負担を巡るトラブルを格段に減らしてくれるでしょう。
賃貸借契約に関連する法改正への対応ポイント
賃貸契約に関係する法律も随時改正されており、オーナーはその動向を把握して対応する必要があります。近年特に重要な改正ポイントを押さえておきましょう。
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民法(債権法)改正への対応:2020年4月施行の民法改正では賃貸借契約に関する規定が大きく見直されました。主なポイントの一つは敷金返還ルールと原状回復ルールの明確化です。改正民法では、賃貸借契約終了時に貸主(オーナー)は敷金から未払い賃料や原状回復費用など借主の債務を控除し、残額を借主に返還しなければならないことが明文化されました。従来も実務慣行で同様に扱われてきた内容ですが、法律で明確に規定されたことで敷金精算トラブルの予防につながります。また原状回復についても、通常の使用による損耗は借主負担ではないことが法律上明示されました。これも従来のガイドラインが法文化された形で、経年劣化分の修繕費をめぐる争いの抑制効果が期待できます。ただし通常損耗を借主負担とする特約自体は一概に無効とされたわけではなく、有効なケースも残されている点には注意が必要です。次に連帯保証人に関するルール強化も重要です。改正民法465条の2により、賃貸借契約で個人を連帯保証人とする場合、契約時に極度額(保証限度額)を定めなければその保証契約は無効となりました。従来は「一切の債務を保証する」と包括的に書かれることも多かった保証条項が、今後は「極度額○○万円の範囲で保証する」という文言に変更され、具体的な上限額の設定が必須です。極度額の水準は法律上の定めはなく当事者間の合意に委ねられますが、滞納家賃が長期化した場合も考慮し目安として賃料の18ヶ月分程度に設定する例が紹介されています。保証人を頼む際にはこの極度額設定を忘れないよう契約書をアップデートする必要があります。さらに事業用賃貸借に関しては、改正民法465条の10により借主が連帯保証人予定者に対して財産や収支の情報提供を行う義務が新設されました(住居ではなくオフィスや店舗等の賃貸契約が対象)。借主がこの情報提供義務を怠り、保証人がそのせいで誤解した場合には保証契約を取り消せると規定されています。オーナーとしては、事業用物件を貸す際には契約書に所定の財産状況等の記載欄を設けて借主から保証人へ情報提供させ、署名をもらうフローを取り入れる必要があります。最後に改正民法458条の2で連帯保証人から賃料支払い状況の問い合わせを受けた際の貸主の回答義務も定められました。オーナーまたは管理会社は保証人から「借主はきちんと賃料を払っていますか?」と問い合わせがあれば遅滞なく回答しなければなりません。これを怠ると、いざ保証人に滞納分の請求をしようとした際に「事前に状況を教えてもらえなかった」と保証人に主張され、支払いを拒まれるリスクがあります。以上のように民法改正点は契約実務に直結するため、契約書に反映させるとともに日常の管理業務でも順守しましょう。
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その他の関連法改正等:民法以外にも賃貸業に関わる法制度の変化があります。例えば賃貸借契約の存続期間上限が従来の20年から50年に延長されました(改正民法604条)。これにより超長期の賃貸借契約も有効に結べるようになりましたが、通常の居住用賃貸ではあまり影響はないでしょう。一方、オーナーにとって身近な改正として賃貸住宅管理業法(2021年施行)があります。これは賃貸管理業者の登録制度を設け、業務管理体制の基準や財産の分別管理義務などを定めた法律です。管理業者に一定のルール遵守を課すことでサブリース業者とのトラブル(いわゆるサブリース問題)などに対処する目的があります。オーナーが管理会社を選ぶ際には、この賃貸住宅管理業者の登録の有無や、宅地建物取引業免許の有無を確認すると安心材料となります。またデジタル化の流れで、2022年には宅建業法が改正され重要事項説明をオンラインで行えるようになるなどの変化もありました。契約書の電子署名も法的に有効になりつつあります。今後も関連法規の改正があれば内容を把握し、契約手続きや管理方法をアップデートしていく姿勢が重要です。
賃貸管理会社との連携の重要性と選定基準
最後に、賃貸管理会社(不動産管理会社)との連携について述べます。賃貸経営を成功させるには優秀な管理会社は欠かせないパートナーです。その重要性と、管理会社を選ぶ際のポイントを確認しましょう。
管理会社と連携することのメリット
管理会社に物件管理を委託すると、オーナー自身が対応する手間を大幅に軽減できます。募集業務(入居者募集広告や内見対応)、契約手続き、賃料の集金、滞納督促、苦情クレーム対応、設備故障時の業者手配、退去時精算まで、煩雑な業務をプロに任せることで本業が忙しいオーナーでも安定した運用が可能です。特に入居者の審査やトラブル対応において、管理会社の専門知識と経験は大きな助けとなります。実績豊富な管理会社であれば独自のノウハウで入居審査を適切に行い、悪質な入居者を排除してくれます。また滞納が発生した場合の督促や、近隣トラブル発生時の仲介対応、法的手続きが必要になった場合の専門家対応など、個人では難しい局面も管理会社が代行・サポートしてくれます。さらに最新の法改正情報や不動産市況にも精通しているため、契約書類の整備や賃料設定の見直しなどについて適切なアドバイスを受けられる利点もあります。総じて管理会社と上手に連携することで、オーナーは安心して賃貸経営を続けられ、空室率の低減や資産価値の維持にもつながるでしょう。
管理会社の選定基準とポイント
重要なのは信頼できる管理会社を選ぶことです。管理会社選びを誤ると逆にトラブルの原因にもなりかねません。選定にあたってチェックすべき主なポイントを挙げます。
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実績と経験:管理会社の運用実績(管理戸数や地域でのシェア)、創業年数や担当者の経験年数などを確認します。豊富な実績がある会社は入居者募集力やトラブル対処力も高い傾向があります。口コミや評判も参考に、信頼に足る会社か見極めましょう。
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管理内容とサービス範囲:賃貸管理と一口に言っても提供サービスは会社により様々です。基本的な家賃集金・滞納督促から、24時間の緊急対応、定期巡回や清掃、原状回復工事の手配、契約更新手続き代行、退去時の立ち会い精算、さらには賃料保証やサブリース(空室保証)の有無まで、その会社がどこまで対応してくれるかを確認します。自分のニーズに合ったサービスを提供してくれる会社を選びましょう。
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管理手数料(コスト):管理委託料は一般的に賃料の5%前後が相場です。料率が極端に高い場合は収益を圧迫しますし、安すぎる場合は十分なサービスが提供されない可能性もあります。手数料の金額だけでなく、契約時の広告料負担や更新手数料の配分、退去時の清算事務手数料なども含め、トータルで適切な費用体系かを比較検討します。複数社から見積もりを取り、一社だけの情報で即決せずに相見積もりで比較することが賢明です。
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対応姿勢とコミュニケーション:管理会社とは長期にわたり二人三脚で賃貸経営をしていくことになります。担当者の対応の丁寧さや、報告・連絡体制も重要な判断基準です。定期的な運営報告はあるか、トラブル発生時に迅速に連絡をくれるか、オーナーからの要望に柔軟に対応してくれるか、といった点を事前に確認しましょう。契約前の相談段階での対応を見て信頼できる担当者か見極めることが大切です。
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法令遵守と信頼性:宅地建物取引業の免許を有し適切に更新しているか、前述の賃貸住宅管理業者の登録があるかなど、法令面の信頼性チェックも欠かせません。違法な営業をしていないか、協会加入状況(全日本不動産協会や全国宅建協会連合会加盟など)も参考になります。また最近問題となったサブリース業者とのトラブルに鑑み、サブリース契約を提案してくる会社の場合は、その契約内容(借上げ賃料保証の条件や中途解約条項)も慎重に確認しましょう。
以上の点を総合的に判断し、自分の物件に最適な管理会社を選ぶことが重要です。焦って最初に営業に来た会社と即契約してしまうのではなく、時間をかけて慎重にパートナーを選定することが安定経営への第一歩です。
おわりに
賃貸契約における注意点と落とし穴について、不動産オーナーの視点から重要事項をまとめました。契約締結前の基本的な確認事項から、契約書条項の整備、起こりがちなトラブルとその対処法、法改正への対応、そして優良な管理会社との連携まで、幅広く解説しました。賃貸経営は一度契約を結ぶと長期の関係が始まります。その間のリスクを最小化し安定した収益を得るためには、事前の準備と予防策が何より重要です。オーナーとして契約内容を十分に理解・管理し、必要に応じて専門家の力も借りながら適切に対処していけば、賃貸経営のトラブルは大きく減らせるでしょう。常に最新の知識をアップデートし、信頼できるパートナーとともに健全な賃貸運営に努めていくことが、長期的な成功につながるポイントです。賃貸契約の正しい知識と備えで、安心・安全な賃貸経営を実現してください。