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    住宅ローンを活用した不動産投資はなぜ絶対に避けるべきか

    不動産投資に興味を持つ個人投資家の中には、低金利で借りられる住宅ローンを使って投資用物件を購入できないかと考える方もいるでしょう。しかし結論から言えば、自宅向けの住宅ローンを利用した不動産投資は絶対に避けるべきです。その理由は制度上の制約に加え、法的・金融的なリスクが極めて大きいからです。実際、近年では悪徳業者に唆されて住宅ローンを不正利用し、多額の一括返済を求められて自己破産に追い込まれるケースすら報告されています。本記事ではその詳細と、合法的かつ戦略的な資金調達の方法について解説します。

    住宅ローンの本来の目的と制度上の制限

    住宅ローンは本来、「自ら居住する住宅」を取得するためのローンです。契約上も「借主(利用者)が自分または家族の居住用に物件を購入するための資金」と目的が明記されており、これ以外の用途に使うことは契約違反に当たります。住宅ローンはマイホーム取得を促進する社会的な趣旨から、低金利や長期融資といった優遇がなされています。その代わり、「投資目的では利用できない」という厳格な制限が設けられているのです。

    具体的には、住宅金融支援機構の提供する長期固定金利ローン「フラット35」では利用条件として「投資用物件の取得資金には利用できない」ことが明記されています。民間の銀行が提供する一般の住宅ローンでも同様で、契約時に提出する書類や契約約款で自ら居住することが前提とされています。

    なお、住宅ローンを利用しながら例外的に賃貸として貸し出すことが許容されるケースも一部存在します。例えば、自宅の一部と賃貸部分が一体となった「賃貸併用住宅」で、自宅部分の面積が50%以上ある場合は、残りを賃貸に出しても住宅ローンが利用可能です(この場合、自宅部分については住宅ローン減税の適用も受けられます)。また、転勤等のやむを得ない事情で一時的に自宅を離れる際には、金融機関の承認を得て一時的に賃貸運用を行うことが認められるケースもあります。しかし、いずれも「本来は自分が住む家」であることが大前提であり、初めから投資専用の目的で住宅ローンを使うことは許されません

    住宅ローンを使った不動産投資の法的・金融リスク

    住宅ローンを投資目的に流用した場合、投資家は重大な法的・金融的リスクを負うことになります。その主なリスクを整理すると次のとおりです。

    • ローン契約違反による一括返済請求: 用途違反が発覚した場合、ローン契約の「期限の利益喪失」条項に基づき、残債の一括返済を直ちに求められます。もともと分割で返済する契約だったものが、一度の違反で残り全額を即座に返す義務が生じるのです。例えば住宅金融支援機構では、不正利用が判明した場合に残債務の一括返済請求を行うと明言しています。

    • 返済不能による資産失効・破産リスク: 一括返済に応じられなければ、最終的には担保である不動産の競売や差し押さえによる処分が行われます。場合によっては自宅や投資物件を手放すだけでなく、それでも負債が残れば自己破産に至る可能性もあります。実際に不正が発覚して物件を売却せざるを得なくなり、それでもローンを完済できず多額の借金だけが残った例も報告されています。

    • 信用情報への悪影響・今後の融資困難: ローン違反を起こすことは金融機関との信頼関係を決定的に損ないます。不正利用が判明すれば、金融機関からの信用を失い以後は新たな融資を受けられなくなる可能性が高まります。銀行内の記録や個人の信用情報機関にその事実が登録され、将来的に住宅ローンはおろか他のローンも組みにくくなるでしょう。

    • 詐欺罪等の法的責任: 悪質な場合、刑法上の詐欺罪に問われるリスクも否定できません。住宅ローンを投資目的と知りつつ虚偽の申請で借り入れる行為は、銀行を欺いて金銭を借りる行為にあたり、民事上は契約詐欺として契約取消の事由となり得ます。銀行が契約を取り消せば、ローンは初めから無かったことになり、結果的に残債全額の返還(不当利得返還)を請求されることになります。さらに、意図的かつ常習的に虚偽申告を行って多額の融資を受けているような悪質ケースでは刑事告発される可能性もあります。特に、居住用ローンであることを隠して住宅ローン減税(住宅借入金控除)まで受けていた場合、納税上も不正行為(脱税)となり悪質性が高いと判断されるでしょう。

    以上のように、住宅ローンを悪用した不動産投資は法的にも経済的にもハイリスクです。一見すると住宅ローンの低金利は魅力的かもしれませんが、その裏にはこれだけの危険が潜んでいます。短期的な金利差程度のメリットでは到底釣り合わない、大きな代償を払う可能性があることを認識すべきです。

    金融機関・審査側の視点:使途逸脱に対する厳しい姿勢

    金融機関は住宅ローンの不適切な利用に対して非常に厳しい姿勢で臨んでいます。銀行にとって住宅ローンは「顧客が自宅として使用するからこそ低リスク」とみなして貸し出している商品であり、その前提を崩されることは契約違反であると同時に銀行のリスクを高める行為です。そのため、ローン実行後も金融機関は借入物件の利用実態をチェックしています

    例えば住宅金融支援機構では、融資実行後に定期的に「融資住宅に実際に居住しているか」の調査を行っており、不適正利用の懸念があれば詳細な追調査を実施しています。民間の銀行でも、契約者宛の郵便物を物件住所に「転送不要」で送付し、宛先不明で返送されてきた場合に居住実態を疑われる、といった手法でチェックすることが一般的です。実際、住宅ローンを悪用した投資が金融機関に発覚する典型的なパターンは「郵送物の未達」だと言われています。物件住所に送った重要な書類が届かず銀行に戻ってくれば、「借主がそこに住んでいないのではないか?」と直ちに調査が入るわけです。

    場合によっては銀行担当者が現地を訪問して確認するケースもあります。直接訪問すれば、そこに契約者本人が居住していないことは一目瞭然ですから、契約違反は明白です。このように金融機関は様々な方法でローンの使途逸脱を監視しており、決して見過ごされるものではありません。

    そして不正利用が発覚した場合、金融機関は契約者に対して直ちに厳格な対処を取ります。前述のとおり残債の一括返済請求が行われるのはもちろん、公的機関である住宅金融支援機構では警察への通報や関与業者の行政庁への通報、さらには損害賠償請求といった法的措置も含めた対応を講じています。民間銀行でも内部的に「要注意人物」として記録され、グループ内外の金融機関に信用情報が共有される可能性があります。要するに、銀行側は住宅ローンの不正利用を重大な契約違反・信用毀損行為と捉えており、発覚すれば容赦しないということです。

    近年、住宅ローンを利用した不正な不動産投資が社会問題化しつつある背景もあり、金融機関の監視の目は一段と厳しくなっています。特に都市部(東京・大阪・横浜など)で物件価格が高騰する中、「住宅ローンを使えば楽に融資が通る」などと宣伝する悪質な業者への警戒感が強まっています。銀行にとっても自社の融資姿勢や社会的信用に関わる問題であるため、使途違反が疑われるケースには積極的に対処するでしょう。

    実際に起きたトラブル事例から学ぶ

    住宅ローンの不正利用がどれほど深刻な結果を招くか、実例を通じて確認しましょう。最近報道された事例の一部を紹介します。

    • ケース1: 大阪市 Aさんの事例 – 大阪市在住の会社員Aさん(40代)は、将来の資産作りを期待して賃貸用アパートの建築を計画しました。しかしブローカー的な人物に「フラット35で資金調達できる。セカンドハウス(別宅)名目にすれば審査に通る」と持ち掛けられ、本人は自宅用ローンであるフラット35を利用してしまいました。その結果、フラット35の利用目的違反(投資用物件への利用)が発覚し、住宅金融支援機構から約3,000万円のローン残高について一括返済を求められたのです。工事途中で融資停止となりアパート建築は頓挫、室内は未完成のまま放置される事態となりました。Aさんは「将来の資産になると思ったのに、逆に多額の借金を背負う形になってしまった」と絶望しています。このケースでは、不正を持ち掛けた業者の甘言を信じてしまったことが直接の原因でした。

    • ケース2: 栃木県 Bさんの事例 – 栃木県の会社員Bさん(30代)も、投資用物件を住宅ローンで購入したことで契約違反となり約4,000万円の一括返済を求められました。Bさんは「自分の年収からすれば途方もない負債を抱えてしまい、絶望感があった」と語っています。AさんやBさんのような被害者は全国に広がっており、同様のトラブルが各地で相次いでいます。

    • ケース3: 悪徳業者による「なんちゃって不動産投資」 – 上記のような個人を狙った手口の背景には、悪徳な不動産業者やブローカーの存在があります。彼らはセミナーや勧誘で「最近は不動産投資ローンの審査が厳しいが、住宅ローンなら通りやすい」「金利が低いからその分儲かる」などとうたい、素人投資家に住宅ローンの不正利用を唆します。一見もっともらしい論法ですが、当然ながら「居住用」と偽って投資ローン代わりに住宅ローンを借りる行為は違法です。こうした業者の口車に乗せられた結果、ローン違反が発覚して自己破産に追い込まれたケースも実在します。まさに「楽に儲けられる」という甘い話には裏がある典型例と言えます。

    以上の事例から明らかなように、住宅ローンを使った不動産投資は机上の空論ではなく現実に大きなトラブルを招いているのです。特にAさんのケースは大阪、Bさんのケースは栃木、さらに集団訴訟は東京と、地域的にも全国規模で問題が発生しています。横浜を含む首都圏や大阪圏など主要都市にお住まいの方も、「自分だけは大丈夫」という油断は禁物です。同じような誘い文句には十分注意し、自分の身を守ることが大切です。

    不動産投資に適した融資の種類と正しい使い分け

    では、不動産投資を行う場合にはどのようなローンを利用すべきなのでしょうか。結論としては、用途に適した専用の融資商品を利用することが重要です。住宅ローン以外にも、不動産投資向けのローン商品が各種提供されていますので、それらを正しく使い分けましょう。

    代表的な不動産投資向けローンには次のようなものがあります。

    • 不動産投資ローン(アパートローン) – 金融機関が提供する、投資用不動産の購入や建築のための融資商品です。名称は銀行によって様々ですが、アパートやマンションを購入・建築して他人に貸し出し、家賃収入を得るための資金を借りるローンの総称と考えてよいでしょう。利用者本人はその物件に住まず、あくまで賃貸経営目的で利用するローンである点が住宅ローンとの決定的な違いです。融資期間は物件の耐用年数に応じて20~35年程度と設定されることが多く、金利は住宅ローンより高めに設定されます。例えば現在、都市銀行の住宅ローン(金利変動型)の最低金利が年0.4%台なのに対し、投資用ローンでは年1.6%前後からが一般的です。このように金利は高いものの、家賃収入という事業収益を返済原資と見込んで融資するのが特徴で、審査でも物件の収益性や担保価値が重視されます。借り手個人の給与収入など信用力も見られますが、住宅ローン以上に「物件そのものの採算性」が重要になります。

    • セカンドハウスローン – 厳密には不動産投資ローンではありませんが、補足的に触れておきます。セカンドハウスローンとは、別荘や週末用住居など第二の住まいを取得する際に使われるローンです。一見、居住用に分類されますが、賃貸に出すことは想定されていません。セカンドハウスローンは住宅ローンより審査は厳しめで金利もやや高い傾向がありますが、それでも投資ローンよりは緩い場合があり、悪徳業者はこれを投資用物件購入に転用させようとすることがあります。しかし当然ながら契約上は禁止行為です。実際、前述の大阪市Aさんの例ではブローカーに「セカンドハウス名目なら大丈夫」と言われてフラット35を借りましたが、結果的に不正と断じられています。セカンドハウスローンも含め、名目を偽って投資に使うことはできない点に注意してください。

    以上のように、不動産投資をするなら最初から投資用ローンを利用するのが鉄則です。住宅ローンと比べて金利が高く借入条件も厳しく感じるかもしれません。しかし、それは投資という事業に見合ったリスクを織り込んだ正当な条件設定であり、裏を返せば物件選びや資金計画さえ適切に行えば融資を受けて健全に運用できることを意味します。むしろ、住宅ローンの規制をかいくぐって違法な借入れをする方がイレギュラーであり、想定外のリスクが山積みなのです。

    なお、住宅ローンと不動産投資ローンを両方活用して資産形成をしていく戦略も可能です。例えば既に自宅の住宅ローンを抱えている方が新たに投資ローンを組む場合、年収に対する総借入額の上限(年収倍率)に注意する必要があります。金融機関は個人の総合的な返済能力を見るため、住宅ローンと投資ローンを合算した借入残高が年収の何倍まで許容されるか基準を設けています。たとえば年収500万円で上限が10倍(5,000万円)なら、自宅ローン残高が3,500万円ある場合は投資ローンはあと1,500万円までといった具合です。このように枠組み自体は住宅ローンも投資ローンも共通ですので、自宅購入と投資を両立したい方は計画的な借入枠の配分が重要になります。いずれにせよ、正規の投資ローンを使えば住宅ローンとの併用もルールの範囲内で可能ですので、後ろ暗い思いをする必要もありません。

    個人投資家が合法かつ戦略的に資金調達するためのアドバイス

    最後に、個人投資家が安心して不動産投資に取り組むための資金調達上のアドバイスをまとめます。

    1. ルールを正しく理解し遵守する: 不動産投資を始めるにあたって、住宅ローンと投資用ローンの違いをしっかり理解しましょう。住宅ローンはマイホーム購入のための優遇策、不動産投資ローンは事業としての賃貸運用のための融資というように、それぞれ目的とメリット・デメリットが異なります。契約書にも用途や禁止事項が明記されていますから、サインする前によく読み込むことが肝心です。自信がなければ専門家(弁護士やFPなど)に確認しても良いでしょう。「知らなかった」では済まされない世界ですので、まずは基本的な知識武装が重要です。

    2. 甘い誘いに乗らない: 「住宅ローンを使えば楽に物件が買える」「絶対にバレない方法がある」といった甘言を弄する業者やコンサルタントには注意してください。不動産業界には残念ながら利益優先で違法すれすれの手法を勧める業者も存在します。特に初めて投資をする初心者ほど狙われやすい傾向にあります。しかし、上述の通り住宅ローンの不正利用はバレたら一巻の終わりです。万一「住宅ローンで投資しましょう」と持ちかけられたら、毅然と断る勇気を持ちましょう。楽に見える裏技に飛びつかず、地道な正攻法を選ぶことが長期的に見て最も堅実な戦略です。

    3. 融資条件をクリアできる計画を立てる: 投資用ローンは住宅ローンよりハードルが高いため、事前に綿密な資金計画を立てましょう。自己資金(頭金)をできるだけ用意し、借入額を抑える工夫も有効です。物件の収支シミュレーションを行い、金利上昇や空室などのリスクも織り込んで、融資を受けても無理なく返済できることを示せれば審査にも通りやすくなります。また、自身の信用力(年収や勤続年数、信用情報)を高めておくことも大切です。クレジットや他の借入の延滞をしない、勤め先で安定した収入実績を積むなど、銀行から見た「優良顧客」になるほど融資交渉は有利になります。

    4. 既存の住宅ローンとの両立を図る: すでに自宅の住宅ローンがある方は、無理のない範囲で投資用ローンを活用できるか検討しましょう。前述の年収倍率の概念を踏まえ、自宅ローンの残高と新規投資ローンを合わせて許容範囲に収まるか計算します。もし自宅ローンが重荷で投資余力がない場合は、繰上返済で残高を減らすことも一策です。また、銀行によっては自宅と投資物件をまとめて相談に乗ってくれる場合もあります。例えばメガバンクや一部地銀では、富裕層向けに包括的な融資プランを提案してくれることもありますので、一行で難しければ他行にも相談してみましょう。

    5. 万一違反状態に陥ってしまったら: もし不幸にも誤った誘いに乗って住宅ローンで投資物件を買ってしまい、違反が発覚しそうな状況にある場合は、できる限り早急に軌道修正を図る必要があります。具体的には、速やかに金融機関と交渉し、投資用ローンへの借り換えや契約切り替えを打診しましょう。金融機関側も返済不能で貸倒れになるよりは、金利を引き上げてでも契約を維持する方が得策なので、誠意をもって相談すれば投資ローンへ組み直す道が開ける可能性があります。それが難しければ、他の金融機関で改めて投資ローンを組んで借り換える手も模索します。それも叶わない場合は、苦渋の決断ですが物件をできるだけ高く売却して一括返済することも検討すべきです。いずれにせよ放置は最悪の結果を招きますから、専門家(弁護士や司法書士等)にも相談しつつ被害を最小限に食い止める行動を取りましょう。

    結論

    住宅ローンを利用した不動産投資の誘惑は、低金利時代の今だからこそ目にする機会があるかもしれません。しかし、ここまで述べてきたように、それは決して踏み込んではならない危険な領域です。住宅ローンの本来の趣旨から外れた利用は契約違反であり、発覚すれば一瞬で投資計画が破綻しかねません。そのリスクと比較すれば、若干金利が高い程度の投資ローンを正規に利用する方が遥かに健全で安全です。

    個人投資家の皆様には、どうか短絡的な利益に飛びつかず、長期的な視野で堅実に資産形成を図っていただきたいと思います。東京や大阪、横浜といった都市部であれ地方であれ、金融機関のルールは全国共通です。不動産投資を成功させる鍵は、適切な資金計画と金融機関との信頼関係にあります。法律と契約を遵守し、正攻法で融資を活用していけば、不動産投資は初心者であっても確実に成果を積み上げていける分野です。

    最後に強調します*住宅ローンを悪用した不動産投資は避け、適切なローン商品を使って着実な投資への一歩を踏み出しましょう。それが将来にわたって大切な資産を守り、資産形成を成功へと導く唯一の道と言えます。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。