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    閉鎖謄本・登記簿とは?

    不動産の売買や登記手続きで「登記簿謄本」や「閉鎖謄本」という言葉を耳にしたことはないでしょうか。登記簿謄本(現在では登記事項証明書といいます)は、土地や建物の所在、面積、所有者、抵当権などの権利関係を記録した不動産登記の書類で、不動産購入や売買には欠かせない重要書類です。一方、閉鎖謄本とは、合筆(ごうひつ)や滅失などによって現在の登記簿から外れた過去の登記記録を確認するための書類です。過去の土地・建物の情報を知ることで、不動産取引後のトラブル回避にも役立ちます。本記事では、登記簿と閉鎖登記簿の定義や違い、取得方法をわかりやすく解説し、ケーススタディを通じてその活用ポイントを紹介します。地主法人オーナー富裕層の方に向けた専門的な補足情報も交えていますので、ぜひ不動産調査の参考にしてください。

    本文(定義・違い・取得方法・ケーススタディ)

    登記簿(登記簿謄本)とは何か?

    登記簿とは、不動産(土地・建物)の権利関係や物理的現況に関する情報を法務局が管理する公的な帳簿(登記記録)です。例えば、ある不動産について「誰が所有者か」「どんな不動産か(所在地や面積など)」「誰がどんな権利(抵当権など)を持っているか」といった情報が登記簿に記載されており、一般に公開されています。この登記簿の内容を書面に出力・証明したものが登記事項証明書で、かつては登記簿謄本と呼ばれていました(現在でも慣習的に「登記簿謄本」と言われることがあります)。登記事項証明書は不動産取引(不動産売買や相続など)において提出・確認が必要になる重要書類で、法務局に備え付けの端末や窓口で取得できます。誰でも手数料を支払えば取得可能で、不動産登記制度にもとづき交付される公信力のある証明書です。

    閉鎖登記簿(閉鎖謄本)とは何か?

    閉鎖登記簿とは、ある土地や建物の登記記録が何らかの理由で閉鎖された際に、その閉鎖された記録を保存するための帳簿(またはデータファイル)のことです。具体的には、以下のような場合に登記簿は閉鎖され、以後その不動産情報は現行の登記簿からは見られなくなります。

    • 土地の合筆・分筆や建物の滅失によって、元の地番や家屋番号が消滅した場合(例:複数の隣接地を法的に1つにまとめた、建物を取り壊して更地にした 等)

    • 登記簿のコンピュータ化に伴い、従来の紙の登記簿が電子登記簿に置き換えられた場合(このとき旧紙簿は閉鎖扱いとなります)

    閉鎖登記簿には保存期間が定められており、土地の閉鎖登記簿は50年間、建物の閉鎖登記簿は30年間保存されます(※昭和63年7月1日以前に閉鎖された古い登記簿は保存期間が20年で既に廃棄されている場合があるため注意が必要です)。閉鎖登記簿は基本的に誰でも閲覧・取得することが可能で、請求すれば「閉鎖謄本」(閉鎖登記簿のコピー)の交付を受けることができます。

    📝用語補足:閉鎖謄本と閉鎖事項証明書の違い
    閉鎖謄本とは、紙の閉鎖登記簿をコピーした書類のことで、閉鎖登記簿の「謄本」(原本を写したもの)に当たります。一方、登記情報が電子データ化された閉鎖登記簿については、その内容を印字した証明書が発行されますが、これは厳密には「閉鎖謄本」ではなく「閉鎖事項全部証明書」略して閉鎖事項証明書)と呼ばれます。呼称は異なりますが、閉鎖謄本と閉鎖事項証明書に記載される情報の内容は同一です。本記事では便宜上まとめて「閉鎖謄本」と表記する場合があります。

    現行登記簿と閉鎖登記簿の違い(比較表)

    現在効力を持つ現行の登記簿(登記事項証明書)と、過去の記録である閉鎖登記簿(閉鎖謄本)には、どのような違いがあるのでしょうか。役割や取得方法の違いを下表にまとめました。

    項目 現行の登記簿(登記簿謄本/登記事項証明書) 閉鎖登記簿(閉鎖謄本/閉鎖事項証明書)
    役割・目的 現在有効な不動産の権利関係を公示する(取引の安全を図る) 過去の権利関係や土地・建物の履歴を保存・閲覧する(参考資料)
    記載内容 表題部(不動産の所在地・面積・構造など)権利部(所有者や抵当権などの権利者・権利内容) 現行登記簿と同様の項目(表題部・権利部)が、閉鎖時点でどうであったかを記載(過去の所有者や権利の状態)
    対象 現存する土地・建物ごとに作成(現在も存在する不動産) 合筆・滅失などで現存しない土地・建物ごとに作成(過去に存在した不動産)
    管理形式 原則データ管理(電子登記簿)。全国どの法務局からも閲覧・発行可能 古いものは紙台帳で保管、新しいものはデータ保存。電子化済みのものは全国の法務局で発行可能。紙のみのものは旧管轄法務局で保管
    保存期間 不動産が存在する限り半永久的(閉鎖されるまで保存) 土地:50年建物:30年(閉鎖後)保存※旧法では20年の場合あり
    閲覧・取得方法 法務局の窓口、郵送申請、オンライン請求(登記事項証明書)で取得可能※誰でも取得可 電子化済みの場合:現行と同様に全国の法務局窓口・郵送・オンライン請求で取得可能紙のみ保管の場合:閉鎖当時の管轄法務局に窓口または郵送で申請(オンライン不可)

    ※登記事項証明書には「全部事項証明書」「現在事項証明書」「一部事項証明書」など種類がありますが、本記事では不動産調査で用いられる全部事項証明書(いわゆる謄本に相当)を前提に説明しています。

    登記簿謄本・閉鎖謄本の取得方法

    では、現行の登記簿謄本および閉鎖謄本は具体的にどうやって取得すればよいのでしょうか。基本的な請求方法は共通していますが、一部手続きに違いがあります。ここでは一般的な取得方法と注意点を解説します。

    • 現行の登記簿謄本(登記事項証明書)の取得方法: 最寄りの法務局窓口で交付請求する方法、郵送で請求する方法、そしてオンラインで請求する方法があります。窓口では登記事項証明書交付申請書に必要事項を記入して提出し、登記印紙で手数料を納付します。オンラインの場合は、法務省の「登記・供託オンライン申請システム」上で利用者登録を行い、Web上で請求手続きをします。オンライン請求した証明書は郵送受取もしくは窓口受取が可能です。いずれの方法でも、請求から即日~数日程度で交付されます。

    • 閉鎖謄本(閉鎖登記簿)の取得方法: 登記記録が電子化された後に閉鎖された不動産については、その内容を証明した閉鎖事項証明書を取得します。閉鎖事項証明書は現行の証明書と同様に、全国どこの法務局でも交付請求が可能で、郵送請求やオンライン請求にも対応しています。申請方法や申請書様式も登記事項証明書の請求時とほぼ同じですが、申請書のチェック欄で「コンピュータ化に伴う閉鎖登記簿」等の項目に印を付ける点が異なります。
      一方、古い閉鎖登記簿(紙台帳のみで管理され、電子化されていないもの)については注意が必要です。この場合、閉鎖当時の管轄法務局でしか交付請求ができません。インターネットによるオンライン申請や他の法務局では取り扱いがないため、該当法務局の窓口へ直接出向くか、当該法務局宛てに郵送で申請を行う形になります。請求の際は、調べたい不動産の所在地や地番・家屋番号、閉鎖年月日などを特定する必要があります。こうした情報は権利証(登記済権利証)や固定資産税の課税明細書などで確認できるほか、不明な場合は法務局に電話で問い合わせれば教えてもらえることもあります。

    なお、閉鎖登記簿そのものを直接閲覧したい場合は、法務局備え付けの端末で閲覧請求(閉鎖事項証明書と同額の手数料)を行うことも可能です。また、司法書士や土地家屋調査士などの専門家、宅地建物取引業者であれば、民事法務協会が提供する「登記情報提供サービス」を利用してオンライン上で閉鎖登記簿情報を閲覧・取得することもできます。一般の方でもこのサービスに登録すれば、有料ではありますがパソコンから閉鎖登記簿の内容を確認できます。ただし、電子化されていない閉鎖登記簿情報はオンラインでは提供されないため、その場合はやはり紙の請求が必要となります。

    閉鎖登記簿を確認するケーススタディ

    現行の登記簿謄本は売買時に必ず確認されますが、閉鎖登記簿を確認すべきケースは限られます。しかし、以下のような場合には閉鎖登記簿の情報が大いに役立ちます。一般消費者だけでなく、地主や法人オーナー、富裕層の不動産取引においても重要となるケースを見てみましょう。

    • 地主のケース(合筆・分筆の履歴確認): かつて複数の土地を合筆して大きな土地にした地主の方が、一部を売却したり分筆し直したりする場合、閉鎖登記簿で元の各筆ごとの情報を確認できます。閉鎖登記簿には元の地番や地目(用途)、面積、公図上の位置関係などが記載されているため、境界の確認や過去の権利関係の把握に役立ちます。例えば、昔分かれていた土地ごとの持分や地役権(通行権など)の状況が把握でき、後々の境界トラブル防止や適正な資産評価に繋がります。

    • 法人オーナーのケース(開発用地のリスク調査): 企業が土地を取得して開発を行う際には、その土地の過去の利用履歴を調査しておくことが重要です。閉鎖登記簿を確認すれば、以前その土地にどんな建物が建っていたか(建物の種類や構造)が分かります。例えば、閉鎖登記簿の表題部を見ることで、過去にその土地に工場やガソリンスタンドが存在したことが判明すれば、土壌汚染のリスクについても事前に考慮できます。また、過去に葬祭場などがあった土地なら心理的な敬遠要因になりうるため、再開発時に配慮が必要かもしれません。このように、閉鎖登記簿の情報は企業のリスクマネジメントや事業計画にも役立つのです。

    • 富裕層のケース(高額物件の履歴・権利チェック): 資産価値の高い不動産を取得する富裕層の方や投資家は、物件の履歴を重視する傾向があります。閉鎖登記簿を取得すれば、その土地や建物の過去の所有者や権利関係の変遷を追跡することができます。例えば、過去に所有者が頻繁に入れ替わっている物件であれば、何らかのいわく(事件・事故や経営破綻など)が隠れていないか注意が必要です。閉鎖登記簿によって旧所有者や差押えの履歴などを把握できれば、安心して購入できるかの判断材料になります。不安要素が見つかった場合は、売主や仲介業者に詳細を確認したり、必要に応じて契約条件に反映させたりすることもできるでしょう。

    • 一般消費者のケース(古家付き物件の購入): 中古戸建てや古家付きの土地を購入する際にも、閉鎖登記簿が役立つ場合があります。例えば、現地は更地だけれども数年前まで古い住宅が建っていたというケースでは、閉鎖された建物登記簿を取り寄せることで、その建物の構造や滅失(取り壊し)登記の有無・時期などを確認できます。適切に滅失登記が行われていれば安心ですが、もし長年滅失登記がなされず放置されていた場合、法律上は建物が存在する扱いになっている可能性もあります。閉鎖登記簿でそうした事実を把握しておけば、後で不要な固定資産税を請求されるリスクを減らせますし、古家解体後の手続漏れに起因する問題を未然に防げます。購入前の一手間で、安心を買うことに繋がるでしょう。

    以上のように、閉鎖登記簿は過去の不動産の姿を映すタイムカプセルと言えます。現在の登記簿には現れない情報でも、閉鎖登記簿を調べることで土地や建物の「履歴書」を読み解くことができます。特に高額な不動産取引や複雑な権利関係のある物件では、閉鎖登記簿まで目を通すことで得られる安心感・発見が少なくありません。

    まとめ(ポイント整理とCTA)

    登記簿謄本閉鎖謄本は、不動産の現在と過去を映し出す大切な記録です。登記簿謄本(登記事項証明書)で現在の権利関係を正確に把握し、必要に応じて閉鎖謄本で過去の履歴を紐解くことで、不動産購入におけるリスクを大きく減らすことができます。一般の方には馴染みが薄い閉鎖登記簿ですが、記事内で述べたように特定のケースでは確認しておくメリットがあるものです。

    不動産取引では「知らなかった」では済まされない事態が起こりうるため、疑問点があれば登記簿や閉鎖登記簿を積極的に活用し、情報収集することが大切です。それでも判断に迷うときや専門的な解釈が必要なときは、遠慮なく不動産の専門家(司法書士や土地家屋調査士、不動産業者など)に相談してみましょう。プロの目線で登記情報を読み解いてもらうことで、思わぬ権利関係の見落としを防ぎ、安心して不動産購入・売却を進めることができます。

    大切なマイホームや貴重な資産を扱うからこそ、少し手間をかけて登記簿を確認したり閉鎖謄本を取り寄せたりする価値があります。不動産の現在と過去をしっかり調べて、ぜひ安全・安心な不動産取引を実現してください。まずは気になる物件の登記簿をチェックし、必要に応じて閉鎖謄本も取得するところから、不動産調査を始めてみましょう。

    よくある質問(FAQ)

    Q1. 登記簿謄本と登記事項証明書は何が違いますか?
    A. 登記簿謄本は、もともと法務局に備え付けられた登記簿原本を「謄写(コピー)」した書類を指す用語です。現在、登記記録はコンピュータ管理となり原本が電子化されたため、登記簿謄本に相当する証明書は登記事項証明書と呼ばれています。名称は異なりますが、記載内容に大きな違いはありません。一般には「登記簿謄本」といえば現在の登記事項全部証明書を指すケースが多く、日常的にはほぼ同義と考えて差し支えありません。

    Q2. 閉鎖登記簿謄本と閉鎖事項証明書は同じものですか?
    A. 閉鎖登記簿謄本は紙の閉鎖登記簿をコピーしたもの、閉鎖事項証明書は電子化された閉鎖登記簿を印字した証明書という違いがあります。厳密には名称が異なる別書類ですが、両者に記載される情報は同じであり、いずれも閉鎖された登記記録の内容を証明するものです。不動産取引の現場では明確に区別せず「閉鎖謄本」と総称することも多いです。

    Q3. 閉鎖登記簿謄本は誰でも取得できますか?
    A. はい、閉鎖登記簿謄本(閉鎖事項証明書)は原則として誰でも請求・取得可能です。現行の登記事項証明書と同様、取得に特別な資格や利害関係は要求されず、どなたでも法務局で交付請求できます。ただし、請求には物件を特定するための所在や地番などの情報が必要ですので、事前に調べておきましょう。なお、古い閉鎖登記簿の場合は管轄法務局でしか取れない点に注意してください。

    Q4. 閉鎖登記簿の情報はインターネットで閲覧・取得できますか?
    A. 一部可能です。登記記録が電子化された後に閉鎖された物件であれば、法務省のオンラインシステムを利用して閉鎖事項証明書を請求できますし、民事法務協会の「登記情報提供サービス」でも閉鎖登記簿情報を閲覧できます。オンライン請求の場合、郵送で取り寄せたり法務局窓口で受け取ったりでき、手数料も若干割引になります。一方、電子化されていない古い閉鎖登記簿はオンライン非対応のため、インターネット上で閲覧・取得することはできません。その場合は該当する法務局に直接請求する必要があります。

    Q5. 閉鎖登記簿はどのくらいの期間保管されていますか?
    A. 閉鎖登記簿の保存期間は法律で定められており、基本的に土地は閉鎖後50年間、建物は閉鎖後30年間保管されます。したがって、例えば30年前に閉鎖された建物の登記簿であれば現在も取得できます。しかし非常に古い閉鎖登記簿(昭和63年7月1日以前に閉鎖)は旧法下で保存期間が20年とされていたため、すでに廃棄済みで入手できない場合があります。古い物件の履歴を調べる際は、この保存期間の制約に留意してください。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター