近年、富裕層の間で不動産投資への関心が高まっています。野村総合研究所の最新調査によると、日本の富裕層・超富裕層は合計約165万世帯に達します。
本記事では、INA&Associates株式会社として、個人の超富裕層をメインにビジネスを展開する私の経験を踏まえ、富裕層が不動産投資を選ぶ理由を詳しく解説いたします。また、2025年の市場環境を踏まえた具体的な投資戦略についても言及し、読者の皆様の資産運用の参考にしていただければと思います。
富裕層が不動産投資を選ぶ7つの理由
1. 安定的な不労所得の確保
富裕層が不動産投資を選ぶ最大の理由の一つは、安定的な不労所得を確保できることです。株式投資や債券投資と異なり、不動産投資は毎月の賃料収入という形で継続的なキャッシュフローを生み出します。
2025年第1四半期の市場データを見ると、区分マンションの表面利回りは3-5%、一棟マンションや一棟アパートでは約8%の利回りが期待できます。これらの数値は、長期金利が1.1%という現在の金融環境において、魅力的な投資収益率を示しています。
私がこれまでお客様にご提案してきた案件では、都心部の優良物件において年間5-7%の安定した利回りを実現するケースが多く見られます。特に立地条件が良く、管理状態の優れた物件では、空室リスクを最小限に抑えながら長期的な収益を確保することが可能です。
不労所得の魅力は、投資家自身が日々の業務に追われることなく、資産が自動的に収益を生み出すことにあります。富裕層の多くは本業で多忙を極めているため、このような「お金に働いてもらう」仕組みは非常に価値があります。
2. 高い節税効果の活用
不動産投資における節税効果は、富裕層にとって極めて重要な要素です。特に所得税率が高い富裕層にとって、不動産投資による損益通算は大きなメリットをもたらします。
不動産投資では、建物の減価償却費、管理費、修繕費、借入金利などを経費として計上できます。これらの経費により帳簿上の赤字を作り出し、給与所得や事業所得と損益通算することで、総合的な税負担を軽減することが可能です。
具体的な例を挙げると、年収2,000万円の富裕層が不動産投資により年間300万円の減価償却費を計上した場合、所得税・住民税合わせて約150万円の節税効果を得ることができます。これは実質的な投資収益率を大幅に向上させる要因となります。
また、法人を活用した不動産投資では、さらなる節税メリットを享受できます。個人の所得税率が高い富裕層の場合、法人税率との差額分だけ税負担を軽減できるため、多くのお客様が法人設立による不動産投資を選択されています。
3. 相続税対策としての有効性
富裕層にとって相続税対策は避けて通れない重要な課題です。不動産投資は、この相続税対策において極めて有効な手段となります。
不動産の相続税評価額は、実際の市場価格よりも大幅に低く設定されています。土地については相続税路線価(市場価格の約80%)、建物については固定資産税評価額(市場価格の約70%)で評価されるため、現金で保有するよりも相続税評価額を圧縮できます。
さらに、小規模宅地等の特例を活用することで、最大80%の評価減を受けることが可能です。例えば、1億円の評価額の土地であっても、この特例を適用することで2,000万円の評価額に圧縮できるため、非常に大きな相続税軽減効果があります。
賃貸物件の場合は、貸家建付地の評価減も適用されます。借地権割合×借家権割合(通常30%)による評価減により、さらなる相続税軽減効果を期待できます。
相続税対策の種類 | 評価減率 | 適用条件 |
---|---|---|
小規模宅地等の特例 | 最大80% | 330㎡まで、居住・事業用 |
貸家建付地の評価減 | 約30% | 賃貸物件の土地 |
建物の評価減 | 約30% | 固定資産税評価額ベース |
4. レバレッジ効果による効率的投資
不動産投資の大きな魅力の一つは、レバレッジ効果を活用できることです。金融機関からの借入により、自己資金の何倍もの投資を行うことができ、投資効率を大幅に向上させることが可能です。
現在の金利環境では、優良な物件に対して1-2%台の低金利で融資を受けることができます。物件の利回りが5-7%であれば、借入金利との差額分が実質的な投資収益となり、自己資金に対する利回りは大幅に向上します。
例えば、1億円の物件を自己資金2,000万円、借入8,000万円で購入した場合を考えてみましょう。年間賃料収入が600万円(利回り6%)、借入金利が1.5%とすると、年間の借入金利は120万円となります。実質的な年間収益は480万円となり、自己資金2,000万円に対する利回りは24%という高い収益率を実現できます。
ただし、レバレッジ効果はリスクも伴います。空室率の上昇や金利上昇により、期待した収益を得られない可能性もあるため、慎重なリスク管理が必要です。私がお客様にご提案する際は、必ず複数のシナリオを想定したシミュレーションを行い、リスクを最小限に抑えた投資計画を策定しています。
5. ポートフォリオの多様化
富裕層の資産運用において、ポートフォリオの多様化は極めて重要です。株式、債券、現金といった金融資産に加えて、不動産という実物資産を組み入れることで、リスクの分散を図ることができます。
不動産は株式市場とは異なる価格変動パターンを示すため、株式市場が低迷している時期でも安定した収益を確保できる可能性があります。実際に、2008年のリーマンショックや2020年のコロナショック時においても、優良な不動産物件は比較的安定した価格を維持していました。
私がお客様にご提案するポートフォリオでは、通常、総資産の30-50%を不動産で保有することを推奨しています。これにより、安定した収益を確保しながら、市場変動リスクを効果的に分散することが可能です。
6. インフレヘッジ効果
近年、世界的にインフレ懸念が高まる中、インフレヘッジ効果を持つ不動産投資への注目が集まっています。不動産は実物資産であるため、インフレ時には物価上昇に連動して価値が上昇する傾向があります。
日本においても、建築資材費の高騰や人件費の上昇により、新築物件の価格は継続的に上昇しています。これにより、既存の不動産物件の相対的価値も向上し、長期的な資産価値の保全が期待できます。
また、賃料についてもインフレに連動して上昇する傾向があります。特に都心部の優良立地では、賃料の上昇圧力が強く、インフレ環境下でも安定した実質収益を確保することが可能です。
私がこれまで手がけた案件では、10年間で賃料が20-30%上昇したケースも珍しくありません。これは年率2-3%の賃料上昇に相当し、インフレ率を上回る実質的な収益向上を実現しています。
7. 価格変動リスクの低さ
株式投資やFX投資と比較して、不動産投資は価格変動リスクが相対的に低いという特徴があります。不動産価格は短期的な市場心理に左右されにくく、長期的な需給バランスや経済ファンダメンタルズに基づいて形成される傾向があります。
2025年の不動産市場を見ると、供給減や低金利環境により、全体として価格上昇が進んでいます。特に都心部の優良物件では、需要が供給を上回る状況が続いており、価格の安定性が保たれています。
ただし、価格変動リスクが低いとはいえ、立地選択や物件選定は極めて重要です。私がお客様にご提案する際は、以下の要素を重視して物件を選定しています:
- 立地条件: 駅徒歩10分以内、主要路線沿い
- 周辺環境: 商業施設、教育機関、医療機関の充実
- 将来性: 再開発計画、人口動態の予測
- 建物品質: 構造、設備、管理状況
これらの要素を総合的に評価することで、長期的に安定した価値を維持できる物件を選定し、価格変動リスクを最小限に抑えています。
富裕層向け不動産投資の具体的戦略
投資対象物件の選び方
富裕層の不動産投資において、物件選定は成功の鍵を握る最も重要な要素です。私がこれまで多くのお客様にご提案してきた経験から、以下の基準で物件を評価することを推奨しています。
立地条件の重要性
不動産投資の格言に「立地、立地、立地」という言葉があるように、立地条件は物件価値を決定する最も重要な要素です。特に富裕層の投資においては、以下の立地条件を満たす物件を選定することが重要です:
- 主要駅から徒歩10分以内のアクセス
- 複数路線が利用可能な交通利便性
- 商業施設、教育機関、医療機関の充実した周辺環境
- 将来的な再開発計画や都市計画の恩恵を受ける立地
物件タイプ別の投資戦略
物件タイプ | 期待利回り | 投資金額目安 | 特徴・メリット |
---|---|---|---|
区分マンション | 3-5% | 3,000万円-1億円 | 管理が容易、流動性が高い |
一棟マンション | 6-8% | 1億円-5億円 | 高利回り、コントロール性が高い |
一棟アパート | 7-9% | 5,000万円-2億円 | 比較的低価格、高利回り |
オフィスビル | 3-5% | 5億円以上 | 安定性が高い、大型投資向け |
商業施設 | 4-6% | 3億円以上 | テナント次第、専門知識が必要 |
デューデリジェンスの重要性
富裕層の投資においては、物件の詳細な調査(デューデリジェンス)が不可欠です。私がお客様にご提案する際は、以下の項目について徹底的な調査を実施しています:
- 建物の構造・設備の状況調査
- 過去の修繕履歴と将来の修繕計画
- 賃貸市場の動向と競合物件の分析
- 法的リスクの確認(建築基準法、都市計画法等)
- 収支シミュレーションの精度検証
法人活用による税務メリット
富裕層の不動産投資において、法人の活用は税務上の大きなメリットをもたらします。個人の所得税率が高い富裕層にとって、法人税率との差額を活用した節税効果は極めて重要です。
法人設立による節税効果
個人の所得税率が45%(住民税含む55%)の富裕層が、法人税率23.2%(中小企業の場合)で不動産投資を行うことで、約30%の税率差による節税効果を得ることができます。
年間の不動産所得が1,000万円の場合、個人では約550万円の税負担となりますが、法人では約232万円となり、年間約318万円の節税効果を実現できます。
法人活用の具体的メリット
- 所得の分散効果: 家族を役員にすることで所得を分散し、累進税率の影響を軽減
- 経費の拡大: 法人では個人よりも幅広い経費計上が可能
- 退職金の活用: 将来的に退職金として受け取ることで税負担を軽減
- 相続税対策: 法人株式として相続することで評価額を圧縮
法人設立時の注意点
法人を活用した不動産投資には多くのメリットがありますが、以下の点に注意が必要です:
- 法人設立・維持にかかるコスト
- 社会保険料の負担
- 法人税の申告業務の複雑さ
- 個人への資金移転時の税務リスク
私がお客様にご提案する際は、これらのメリット・デメリットを総合的に検討し、お客様の状況に最適な投資スキームを設計しています。
出口戦略の重要性
不動産投資において、出口戦略は投資開始時から検討すべき重要な要素です。富裕層の投資においては、特に相続や事業承継を見据えた長期的な出口戦略が必要です。
売却による出口戦略
物件の売却による出口戦略では、以下の要素を考慮する必要があります:
- 市場サイクルの把握: 不動産市場の周期性を理解し、適切な売却タイミングを見極める
- キャピタルゲインの最大化: 購入時からの価値向上要因を分析し、売却価格を最大化
- 税務上の配慮: 譲渡所得税の軽減措置や買い替え特例の活用
相続による出口戦略
富裕層にとって、相続による出口戦略は極めて重要です:
- 評価額の圧縮: 相続税評価額を最小化する物件選定と保有方法
- 納税資金の確保: 相続税の納税資金を確保するための流動性の確保
- 分割対策: 複数の相続人がいる場合の公平な分割方法の検討
事業承継による出口戦略
法人で不動産投資を行っている場合の事業承継戦略:
- 株式の段階的移転: 贈与税の基礎控除を活用した計画的な株式移転
- 事業承継税制の活用: 特例措置を活用した税負担の軽減
- 後継者の育成: 不動産投資に関する知識・経験の継承
私がお客様にご提案する投資計画では、必ず複数の出口戦略を想定し、市場環境や家族状況の変化に柔軟に対応できる仕組みを構築しています。
まとめ
富裕層が不動産投資を選ぶ理由は多岐にわたりますが、その根底には安定した資産形成と効率的な税務戦略への強いニーズがあります。本記事で解説した7つの理由は、いずれも富裕層特有の資産運用課題を解決する重要な要素です。
重要なポイントの再確認
- 安定的な不労所得: 毎月の賃料収入による継続的なキャッシュフロー
- 高い節税効果: 減価償却費や経費計上による所得税・住民税の軽減
- 相続税対策: 評価額圧縮による相続税の大幅な軽減効果
- レバレッジ効果: 借入活用による投資効率の向上
- ポートフォリオ多様化: リスク分散による安定した資産運用
- インフレヘッジ: 実物資産による購買力の保全
- 価格変動リスクの低さ: 株式等と比較した安定性
2025年の投資環境を踏まえた提言
現在の市場環境では、金利上昇局面にありながらも、不動産投資市場は堅調に推移しています。2024年の不動産投資額は5兆円に達し、2025年も買い手・売り手双方にとって良好な投資環境が続くと予想されています。
ただし、金利上昇による投資期待利回りの上昇や建築コストの増加など、注意すべき要因も存在します。これらの環境変化を踏まえ、以下の点を重視した投資戦略を推奨いたします:
- 立地条件の厳選: 将来性のある優良立地への集中投資
- キャッシュフローの重視: 安定した賃料収入を確保できる物件の選定
- 適切なレバレッジ: 金利上昇リスクを考慮した借入比率の設定
- 出口戦略の明確化: 市場環境の変化に対応できる柔軟な戦略
次のアクションに向けて
不動産投資は、富裕層の資産運用において極めて有効な手段ですが、成功のためには専門的な知識と経験が不可欠です。物件選定から税務戦略、出口戦略まで、総合的な視点での検討が必要です。
INA&Associates株式会社では、個人の超富裕層のお客様に対して、一人ひとりの資産状況や投資目標に応じたオーダーメイドの不動産投資戦略をご提案しています。「人財」と「信頼」を経営の核に据え、お客様の長期的な資産形成をサポートすることが私たちの使命です。
不動産投資に関するご相談やより詳細な投資戦略の検討をご希望の方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。豊富な経験と専門知識を活かし、お客様の資産運用目標の実現をお手伝いいたします。
よくある質問
Q1. 富裕層の不動産投資における最低投資額はどの程度でしょうか?
A1. 富裕層の不動産投資における最低投資額は、投資目標や戦略によって大きく異なりますが、一般的には3,000万円以上からスタートされるケースが多く見られます。
区分マンション投資の場合、都心部の優良物件では3,000万円から1億円程度の投資額となります。一方、一棟マンションや一棟アパートへの投資では、1億円から5億円程度の投資額が必要です。
重要なのは投資額の大きさではなく、投資目標に応じた適切な物件選定です。相続税対策が主目的の場合は評価額圧縮効果の高い物件を、安定収入が目的の場合は利回りの高い物件を選定することが重要です。
私がお客様にご提案する際は、総資産に占める不動産投資の割合を30-50%程度に設定し、リスク分散を図りながら段階的に投資規模を拡大していく戦略を推奨しています。
Q2. 不動産投資の節税効果はどの程度期待できるのでしょうか?
A2. 不動産投資の節税効果は、投資家の所得水準や投資規模によって大きく異なりますが、適切に活用することで年間数百万円から数千万円の節税効果を実現することが可能です。
所得税・住民税の節税効果
年収2,000万円の富裕層が1億円の収益物件に投資し、年間500万円の減価償却費を計上した場合、所得税・住民税合わせて約275万円の節税効果を得ることができます(最高税率55%適用時)。
相続税の節税効果
相続税対策としての効果はさらに大きく、1億円の現金を不動産に投資することで、相続税評価額を5,000万円程度まで圧縮することが可能です。相続税率50%の場合、約2,500万円の相続税軽減効果を実現できます。
法人活用による節税効果
法人を活用した不動産投資では、個人の所得税率と法人税率の差額分だけ節税効果を得ることができます。所得税率45%の富裕層が法人税率23.2%で投資を行う場合、約22%の税率差による節税効果を期待できます。
Q3. 相続税対策として不動産投資を始めるタイミングはいつが最適でしょうか?
A3. 相続税対策としての不動産投資は、できるだけ早期に開始することが重要です。相続税の節税効果を最大化するためには、十分な準備期間が必要だからです。
最適なタイミングの考え方
- 健康状態が良好な時期: 物件選定や契約手続きには相当な時間と労力が必要
- 相続発生の3年以上前: 相続開始前3年以内の贈与は相続税の対象となるため
- 市場環境が良好な時期: 優良物件を適正価格で取得できる市場環境
年齢別の投資戦略
- 50代: 積極的な投資拡大期。レバレッジを活用した効率的な投資
- 60代: 安定性重視の投資。相続税対策を本格化
- 70代以上: 流動性を考慮した投資。相続税納税資金の確保
私がお客様にご提案する際は、相続税の試算を行い、必要な節税効果を算出した上で、段階的な投資計画を策定しています。早期に開始することで、より多くの選択肢の中から最適な物件を選定することが可能です。
Q4. 不動産投資のリスクと対策方法について教えてください。
A4. 不動産投資には複数のリスクが存在しますが、適切な対策を講じることでリスクを最小限に抑えることが可能です。
主要なリスクと対策
リスクの種類 | 具体的な内容 | 対策方法 |
---|---|---|
空室リスク | 入居者が見つからない | 立地条件の厳選、適正賃料の設定 |
家賃下落リスク | 市場賃料の低下 | 需要の安定した立地の選定 |
金利上昇リスク | 借入金利の上昇 | 固定金利の活用、借入比率の調整 |
災害リスク | 地震、火災等の被害 | 保険の加入、耐震性の確認 |
流動性リスク | 売却時の困難 | 流動性の高い立地・物件の選定 |
リスク管理の基本原則
- 分散投資: 複数物件への投資によるリスク分散
- 立地の厳選: 需要の安定した優良立地への集中投資
- 適切な保険: 火災保険、地震保険等の加入
- 定期的な見直し: 市場環境の変化に応じた戦略の調整
私がお客様にご提案する投資計画では、必ず複数のリスクシナリオを想定し、それぞれに対する対策を事前に検討しています。リスクを完全に排除することはできませんが、適切な管理により投資の安全性を高めることが可能です。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター