働きながら不動産投資を始める際、職業上の制約や個人の信用力・収入の条件によっては、投資を進めにくい場合があります。以下では、就業規則や副業禁止規定により制限を受けやすい職種と、信用力・収入面で融資審査のハードルが高くなるケースについて整理します(最終的には各自の勤務先規定を確認する必要があります)。
就業規則や副業禁止規定で制限を受けやすい職業
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公務員(国家公務員・地方公務員): 公務員は法律(国家公務員法・地方公務員法)で原則副業禁止となっています。そのため不動産投資にも厳しい制約があります。ただし、人事院規則により一定の小規模な不動産賃貸であれば副業に当たらないとされており、具体的には「戸建てなら5棟未満」「マンション区分なら10室未満」といった規模(人事院規則14-8運用通知(2023-04) )であれば許容される可能性があります。さらに年間家賃収入が500万円未満であることや、自ら物件管理に従事しない(管理業務は業者に委託する)ことなども推奨されます。これらを超えると副業と見なされ禁止対象になります。公務員が不動産投資を行う場合は、これら法律上の基準を超えない範囲で慎重に検討する必要があります。
国家公務員法第103条(1947-10)/地方公務員法第38条(1950-12) -
金融機関勤務者(銀行員・証券会社社員など): 銀行や証券会社といった金融業界の社員は、職業上社内の投資取引ルールが非常に厳しく定められています。例えば、インサイダー取引防止の観点から株式投資やFX取引を禁止したり事前届出を義務付けたりしている企業がほとんどです。不動産投資に関しては各金融機関の内規によって対応が分かれますが、社内規定で投資全般を禁止(相続で取得した場合のみ例外的に認める等)としているケースも見られます。したがって、金融機関にお勤めの方は社内コンプライアンス部門の指示や規程を十分に確認しなければなりません。
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士業などの専門職(弁護士・公認会計士・医師 等): 弁護士や会計士、医師などの士業専門職は、公務員とは異なり法律上は副業が禁止されているわけではありません。そのため、不動産投資も基本的には自己資産の運用として行うことが可能です。むしろこれら国家資格を持つ職業は信用力・安定性が高く、定年もないため融資を受けやすい職業とも言われます。ただし、勤務先の法律事務所や会計事務所、病院など所属組織の内規で副業が制限されている場合もあり得ます。また本業が多忙な職種でもあるため、不動産賃貸業が本業に支障を来さないよう注意が必要です。これら専門職の方も、勤務形態によっては事前に雇用主や所属団体に副業の可否を確認しておくことが望ましいでしょう。
(※上記以外にも、一般の民間企業でも副業禁止規定を設けている会社があります。ただし不動産投資は多くの場合「資産運用」とみなされ副業に当たらないケースが多いとはいえ、会社ごとに解釈が異なるため事前確認が重要です。)
信用力・収入面で不動産投資が難しいケース
不動産投資ローンの融資審査では、借り手の収入や職業の安定性、負債状況など個人の信用力に関する項目が厳しくチェックされます。それらの要件を満たさない場合、ローンを受けられず不動産投資が難しくなる可能性があります。主なケースを挙げます。
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勤続年数が短い場合: 勤務先での勤続年数が浅いと、「今後も安定した収入を継続できるか」という点で金融機関からマイナス評価を受けやすくなります。多くの金融機関は最低でも2~3年の勤続を融資条件と考えており、勤続年数が短いと長期返済に耐えうる安定性が欠けると見なされます。特に転職したばかりで勤務年数がごく短い場合、融資審査のハードルはかなり高くなるのが実情です。勤続1年未満だとローン審査で苦戦する可能性が高いでしょう。
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雇用形態が不安定な場合(非正規雇用・自営業など): 正社員以外の雇用形態で働いている場合も、融資審査では不利に働きやすいです。派遣社員・契約社員など期間の定めがある雇用や、フリーランス・自営業者として収入が変動しやすい場合、金融機関は返済の継続性に慎重になります。実際、大企業の正社員は審査上有利ですが、中小企業勤務者や自営業者は不利になる傾向があるとされています。収入が安定しない職業属性だと、「安定して返済できる見込みがあるか」を厳しく見られ、融資審査の大きな障壁となってしまいます。
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年収が低い場合: 不動産投資ローンでは一定以上の年収が求められることが多く、年収が低いと返済能力が不足すると判断されがちです。一般的に年収700万円以上あれば融資審査をスムーズに通過しやすい目安と言われる反面、年収500万円程度だと融資審査に通過できない可能性があります。金融機関によって基準は異なりますが、例えば都市銀行では年収の最低ラインを500万円~600万円台に設定しているケースもあります。年収が基準に達していない場合、自己資金を多めに用意するか、あるいは公的金融機関(日本政策金融公庫など)を利用するなどで補完しない限り、不動産投資のスタートは難しくなるでしょう。
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他の借入が多い場合: すでに住宅ローンや自動車ローン、カードローンなど複数の借入を抱えている場合も、新たな不動産投資ローンの審査には不利に働きます。年収に対する債務の比率(返済負担率)が高いと判断されるためで、借入総額が年収の8倍を超えるあたりから審査が厳しくなる傾向があります。実際、金融機関によっては総借入額の上限を「年収の10~20倍程度」と定めており、それを超える借金があると返済に滞りがなくても新たな融資審査は通過できません。たとえ本人の年収が高くても、既存の借入負担が大きければ「将来的に滞納リスクが高い」と見なされるため、新規の不動産投資ローンは断られる可能性が高まります。したがって、投資を始める前に他の借入状況を整理し、返済比率を下げておくことが望ましいでしょう。
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年齢が高い場合: 借り手の年齢も融資可否に影響します。特にローン完済時の年齢が80歳を超えるような長期プランになると、銀行から融資承認を得るのは難しくなります。金融機関は返済期間中の安定収入を重視するため、高齢の申込者だと退職による収入減少リスクを懸念されるからです。多くの金融機関で完済時年齢の上限を80歳程度に設定しており、この年齢を超える計画では審査に通りにくくなるのが一般的です(一部に85歳未満まで認める機関もあります)。そのため、50~60代以降で不動産投資ローンを組む際は、完済時年齢に注意しなければなりません。
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信用情報に問題がある場合: 個人の信用情報(クレジットヒストリー)に傷があると、ローン審査上致命的な支障となります。過去に金融事故(長期延滞や債務整理など)が記録されている場合、新規の融資は極めて難しくなります。そこまで重大でなくとも、クレジットカードの延滞履歴があったり、借入件数が多すぎたりするだけでも信用力は低下します。金融機関も申込者の信用情報を照会し問題がないか確認しています。例えば使っていないクレジットカードを何枚も持っているだけでもリスクと見なされる可能性があるため、不要なカードは解約するなど信用情報を良好に保つ工夫が大切です。不動産投資ローン審査では住宅ローン以上に信用状況が厳格にチェックされますので、自身の信用情報に不安がある場合は事前に改善しておく必要があります。
最後に:勤務先の規定を必ず確認すること
上記のように、公務員など一部の職種を除けば不動産投資は基本的に自由に行えますが、会社ごとに就業規則や副業ルールは異なります。たとえ法律上問題なくても、企業によっては独自に副業を制限している場合や、一定以上の規模になると届け出を求めるケースもあります。そのため実際に不動産投資を始める前に、必ず自分の勤務先でどのように規定されているかを確認しておきましょう。必要に応じて上司や人事部に相談し、許可や届出が必要かどうかを明確にしておくことが安全策です。また、融資面についても自身の収入・勤続・信用状況を踏まえて事前に金融機関と相談し、無理のない計画を立てることが重要です。個別の事情によって条件は異なるため、勤務先のルール確認と自身の属性の見直しを十分行った上で不動産投資に臨むようにしてください。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター