日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業の完成予想図。中央に約284m・52階建ての超高層棟(C街区)、手前に保存活用される日本橋野村ビル旧館(A街区)が見えます。
正式名称: 「日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業」です。東京都中央区日本橋一丁目に位置し、施行区域面積は約3.0ヘクタールに及ぶ大規模な都市再開発計画です。事業手法は都市再開発法に基づく第一種市街地再開発事業で、再開発組合が主体となって進めています。再開発地区はJR東京駅に近接し、東京メトロ銀座線・東西線および都営浅草線の日本橋駅に直結する交通至便な立地で、成田空港・羽田空港へのアクセスにも優れています。老朽化したビルが建ち並ぶ日本橋エリアにおいて、新たにオフィス・商業・ホテル・住宅など複数機能を備えた大規模複合施設を整備し、日本橋の新たなランドマークとなる超高層ビルを含む開発プロジェクトです。総事業費は約3,243億円と試算されています。
再開発の背景と目的
背景: 再開発前の日本橋一丁目中地区は、日本橋川沿いで東京駅にも程近い一等地でありながら、街区中央部に細分化された敷地が混在し、建物の老朽化が進行して土地のポテンシャルが十分に活かされていない状況にありました。戦前からの古いオフィスビルも残り、耐震・防災面で課題を抱える一方、低層の建物が多く有効容積が活用されていないなど、都市拠点としての魅力向上が求められていました。このような背景から、地権者たちは再開発組合を組織し、行政と連携して大規模再開発に乗り出しました。
目的: 本再開発事業の目的は、土地の集約化と街区再編による高度利用を図り、複数の機能を一体的に整備することで国際競争力のある都市拠点を創出することです。具体的には、高規格な業務(オフィス)機能や商業機能に加え、国際会議やビジネス支援機能等を集積させた複合施設を整備し、地上および地下の歩行者ネットワークを強化することで回遊性の高い賑わいを創出します。さらに、歴史的建築物の保存活用や日本橋川沿いの水辺環境の再生、都市防災機能の強化を図りながら、日本橋エリア全体の魅力と活力を向上させることが目指されています。伝統ある日本橋の街並みを継承しつつ最新の都市機能を導入することで、「伝統と革新が共存」する街づくりを実現する狙いがあります。
計画内容(施設構成・規模・テナント予定等)
全体構成: 再開発地区はA街区・B街区・C街区の3棟で構成されます。A街区は日本橋野村ビルディング旧館(野村證券本店ビル)の外観を活かした低層棟で地上4階・地下1階、高さ約20m程度の建物です。B街区は新築の中層ビルで地上7階・地下2階、C街区は地上52階・地下5階、高さ約284mにも及ぶ超高層タワーとなります。C街区は完成すれば日本橋エリアで最高・最大級の高層ビルとなり、大規模なオフィスフロアを中心に様々な用途が入る計画です。
用途別の施設構成: A街区には主に店舗・オフィスが配置され、B街区には店舗と住宅(分譲または賃貸レジデンス)が入ります。最大のC街区には、大規模オフィスのほか、国際会議などに対応可能なカンファレンス施設(MICE)、企業のイノベーション創出を支援するビジネス支援施設、高級ホテル、サービスアパートメント(長期滞在型宿泊施設)、駐車場など多彩な用途が盛り込まれます。全体の延べ床面積は約38万5,000㎡にも達し、うちC街区単体で約37万3,700㎡を占めます。住宅戸数は約51戸が計画されており、主にB街区に配置される予定です。商業施設(店舗)は各街区低層部に配置され、日本橋エリアの回遊性を高める店舗群となる見込みです。さらにC街区の39階~47階部分には、ヒルトン系列の最高級ラグジュアリーホテルである「ウォルドーフ・アストリア東京日本橋」が日本初進出として出店予定であり、2026年の開業を目指しています。このホテル誘致は国際拠点としての日本橋の魅力向上に大きく寄与すると期待されています。またサービスアパートメントについても国内外のビジネスパーソンの長期滞在需要を見込み、ハイクラスの施設となる予定です。
関係企業・デベロッパー
施行者・参加組合員: 本事業の施行者は地元地権者で構成される「日本橋一丁目中地区市街地再開発組合」です。参加組合員(ディベロッパー)として、三井不動産株式会社および野村不動産株式会社が核となって事業推進に参画しています。両社は地権者として土地を提供するとともに、保留床取得者および事務局業務受託者としてプロジェクトをリードしています。さらに、再開発エリア内に本社を置く野村ホールディングス(野村證券の親会社)も地権者として組合に参画しており、自社資産である旧野村ビルの保存・活用に協力しています。これら大手企業の協働により、本再開発は官民連携の象徴的プロジェクトとして位置付けられています。
設計・施工会社: 設計は日本を代表する設計事務所である株式会社日建設計が担当し、超高層棟のデザインアーキテクトとして米国のペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ(ペリ建築設計事務所)もデザイン監修に参加しています。施工については、複数のゼネコンによる共同企業体(JV)方式が採られています。A街区(旧館改修・低層棟)は株式会社大林組が単独施工し、B街区(中層棟)は清水建設株式会社と錢高組によるJVが担当しています。最も規模の大きいC街区(超高層棟)は清水建設を代表企業とする建設共同企業体が施工を担っており、2021年末の着工以降、一体的に工事が進められています。このように国内トップクラスのデベロッパー・設計・施工各社が参画することで、高い信頼性と技術力をもってプロジェクトが推進されています。
スケジュール
再開発事業の主な経緯と予定は以下の通りです:
-
2018年3月(平成30年): 都市計画決定。
-
2018年12月(平成30年): 再開発組合設立認可(事業計画の認可)。
-
2020年5月(令和2年): 権利変換計画認可。既存建物の解体着手(既存の日本橋野村ビル旧館等の解体開始は2020年11月)もこの頃に行われました。
-
2021年12月(令和3年): 建築工事着工。再開発ビル本体の工事開始(C街区は2021年9月、B街区は2022年1月着工と段階的に着手)。三井不動産・野村不動産から着工の公式発表が行われました。
-
2026年3月(令和8年): 建築工事完了・竣工(予定)。竣工後、順次開業(住宅入居、オフィス稼働、商業開業、ホテル開業は2026年内を予定)。
現在(2025年時点)は超高層棟の躯体工事が進んでおり、街の景観に新たなシルエットが姿を見せています。竣工後の2026年には各施設が一斉にオープンし、日本橋エリアのランドマークとして本格稼働する見通しです。
都市計画・景観・環境配慮の意義・特徴
歴史的景観の継承: 本プロジェクトでは、日本橋野村ビルディング旧館(1930年竣工)の風格ある外観を保存・改修し、新しい街区の一部として活用します。安井武雄氏の設計によるこの旧館は、東洋趣味を取り入れた折衷様式の貴重な近代建築であり、中央区指定有形文化財にも指定されています。再開発にあたり旧館の外壁意匠を極力残すことで、日本橋の歴史と文化を次世代に継承しつつ、新旧が調和する景観を創出します。「残しながら、蘇らせながら、創っていく」という日本橋再生計画のコンセプトを体現する取り組みであり、単なる再開発に留まらない文化的意義を持っています。
水辺空間・オープンスペースの充実: 日本橋川に面する立地を活かし、再開発地区内には川沿いにテラスデッキや複数の公開広場(広場状オープンスペース)が整備される計画です。これにより訪れる人々や働く人々が都心にいながら「空と水と緑」に囲まれた潤いある環境を楽しめる都心のオアシス空間を実現します。例えば、オフィス棟中層部には屋外テラスが設けられ、緑化された空中庭園から日本橋川や周辺の街並みを望むことができます。また、日本橋川沿いには歩行者デッキを新設し、水辺の散策路として地域に開放します。観光面では、再開発地区付近に観光バスの乗降スペースを設け、既存の日本橋船着場(日本橋川の舟運ネットワーク)へのアクセス強化も図ります。遠方からの観光客は空路・鉄道に加え水上バスでも日本橋を訪れやすくなり、近隣住民や都内からのマイクロツーリズム層にも多様な移動手段を提供します。こうした水辺空間の充実とオープンスペース整備により、景観向上のみならず地域の賑わい創出や回遊性向上が期待されています。
環境・エネルギー対策と安全性: 本再開発は最先端の環境配慮型ビルディングを目指しており、超高層棟オフィス部分でのZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)認証取得、住宅部分でのZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)認証取得を計画しています。さらにDBJグリーンビルディング認証の取得も予定しており、建物の環境性能を第三者評価で担保します。加えて、ポストコロナ時代を見据えた高度な感染症対策技術や、大規模災害時にも事業継続が可能となる高いBCP(事業継続計画)対応性能を備えるなど、次世代の安心・安全な街づくりを実現する取り組みが随所に盛り込まれています。例えば非常用発電設備や受水槽の強化、上層階に非常時用のヘリポート設置準備、免震・制震構造の採用など、災害に強い都市拠点となるよう計画されています。環境面では再生可能エネルギーの活用や高効率空調システム導入により、テナント利用時のCO2排出削減も図ります。特筆すべきは、「日本橋一丁目スマートエネルギープロジェクト」として地区内に自立分散型エネルギーセンターを設置する点です。このエネルギーセンターでは大型コージェネレーションシステム(熱電併給)を導入し、平常時は電力と熱を地域冷暖房に供給、非常時には都市ガスから発電して停電時でも電力供給を継続可能とします。発電時に発生する廃熱は給湯・空調に再利用し、AIを用いたエネルギーマネジメントにより最適運転を行うことでCO2排出量を約25%削減する計画です。このように環境負荷低減と防災機能強化を両立させた次世代インフラを導入することで、持続可能でレジリエントな街づくりのモデルケースとなることを目指しています。
近隣再開発や街区との関連性
「日本橋再生計画」との連携: 日本橋一丁目中地区再開発事業は、三井不動産が官民一体で推進する「日本橋再生計画」の中核をなすプロジェクトの一つです。三井不動産は2004年のCOREDO日本橋開業以降、日本橋エリアで段階的に再開発を進めており、2019年からは第3ステージとして「豊かな水辺の再生」「新たな産業創造」「世界とつながる国際イベント開催」の3つを重点構想に掲げています。本再開発はこのビジョンに合致する形で、水辺環境の再生と国際ビジネス拠点機能の強化を具体化するプロジェクトです。実際、上述したように日本橋川沿いの空間整備やビジネス支援機能(新産業創出拠点)の導入など、第3ステージの目指す方向性を体現しています。周辺では既に三井不動産による「日本橋室町三井タワー」(2019年竣工)などが完成し、第3ステージが本格的に動き出しており、本プロジェクトも「GREATER日本橋構想」の一環として西エリア・東エリアを繋ぐ重要な役割を果たすと期待されます。また、再開発地区の南側に隣接する「日本橋一丁目三井ビルディング(COREDO日本橋)」(D街区)は2004年に竣工済みで、本計画と一体的に地下通路や歩行者デッキで接続される予定です。これにより、既存施設と新施設が有機的に結ばれ、エリア全体で回遊性の高い歩行者ネットワークが形成されます。
首都高速道路地下化計画との関係: 日本橋川上空を走る首都高速都心環状線(高架)は、景観改善と都市再生の観点から地下トンネルに付け替える大事業が進行中です。国・東京都・首都高速道路による計画では、2035年度に日本橋区間の地下ルートが完成し、2040年度までに日本橋付近の高架橋撤去が完了する予定です。本再開発はこの首都高地下化を見据えて計画されており、将来的に高速道路の高架が撤去された際には、日本橋川に青空が戻ることになります。それに合わせて川沿い空間の価値が一段と高まるため、再開発地区で整備中のテラスや歩行者デッキ、広場が真価を発揮するでしょう。日本橋のランドマークである日本橋(橋梁)も高架撤去により景観が蘇る見込みであり、本プロジェクトと一体となって「水と緑と歴史が調和した街並み」を創出することが期待されています。さらに、首都高地下トンネルの建設に伴う周辺インフラ整備とも調整を図っており、工事期間中の街への影響を最小限に抑えるための協議も行われています。以上のように、本再開発は近隣の再開発プロジェクトやインフラ計画と連携し、日本橋エリア全体の再生ビジョンに沿って推進されている点が特徴です。
再開発・不動産投資の観点からの注目ポイント
日本橋一丁目中地区再開発事業は、その規模と内容から都市再開発・不動産市場の両面で大きな注目を集めています。まず、延床面積約38.5万㎡という巨大プロジェクトであり、これは都心でも最大級の供給計画の一つです。特にオフィス部分の規模は約20万㎡以上と推定され、これは近年の東京オフィス市場において突出した供給量です。一般に供給過剰が懸念される規模ではありますが、東京23区のオフィス新規供給量は今後5年間の平均で過去平均を下回る見通しであり、空室率も改善傾向にあります。加えて、企業のオフィスニーズは「立地の利便性」や「ビルのグレード向上」に支えられて堅調であるとされ、本プロジェクトのような最新鋭かつ多機能な大型オフィスは高い需要が見込まれます。実際、「日本橋・八重洲・京橋」エリアは再開発が集中する注目エリアであり、本事業はその代表格として位置付けられます。このため、竣工時には国内外の優良企業の本社機能誘致や、新規ビジネス拠点としてのテナント誘致が期待されています。
また、ウォルドーフ・アストリア東京日本橋の誘致は日本初進出というインパクトがあり、不動産投資の観点からも注目されています。国際的なラグジュアリーホテルブランドが入居することで、開発全体の資産価値やプレミア感が飛躍的に向上するためです。ホテル部分は三井不動産がヒルトン社とブランディングおよび運営契約を結んでおり、安定した収益が見込まれるとともにエリアの国際評価を高める効果があります。これは近年東京が目指す国際金融都市・観光都市としてのブランド強化にも合致しており、高級ホテル進出は海外投資家や富裕層からの関心も集める要因となっています。
さらに、本プロジェクトは「国際金融拠点に相応しい6つの用途で構成される、日本橋エリア最高・最大級のミクストユース開発」と公式に謳われています。オフィス・商業・ホテル・住宅・MICE・ビジネス支援といった多用途混在型の開発はリスク分散と相乗効果の両面でメリットがあります。例えば、平日はオフィスワーカーやビジネスイベントで賑わい、週末や夜間はホテル宿泊客や住民、観光客による人の流れが生まれるため、エリアとして常時活気を維持できます。商業施設も多様な顧客を見込めテナントリーシングに有利ですし、オフィスも国際会議施設やホテルが併設されていることで企業にとって利便性の高いロケーションとなります。こうしたミクストユース開発の成功例は東京ミッドタウン日比谷や六本木ヒルズなどでも実証済みであり、日本橋一丁目中地区も同様に「24時間息づく街」を実現することで不動産価値の最大化が図られるでしょう。
最後に、本再開発は日本橋エリア全体の価値向上に波及効果を与えると見られています。再開発により創出される洗練された都市空間や高品質なオフィス供給は、周辺の不動産マーケットにも好影響を及ぼし、近隣の建て替えや開発を誘発する可能性があります。実際、日本橋周辺では本計画以外にも複数の再開発が進行・計画されています(例:日本橋一丁目東地区、日本橋二丁目地区再開発など)。これらと連動しながら、本プロジェクトは「日本橋復権」の象徴としてエリア全体のブランド力を高め、結果的にテナント需要や地価の底上げにつながることが期待されます。不動産投資家にとっても、完成後の資産価値や収益性に加え、日本橋という歴史と革新が融合する街のストーリーに投資する魅力があると言えるでしょう。総じて、日本橋一丁目中地区第一種市街地再開発事業は、都市計画的な意義と経済的インパクトの両面から注目すべきプロジェクトです。その進展と完成後の成果は、日本橋エリアのみならず東京全体の都市競争力・市場動向に大きな影響を与えるものとして期待されています。