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    九段南一丁目地区再開発事業を徹底解説|高さ170m超高層ビルで変わる九段下駅前の未来

    東京都心、千代田区で始動した注目の大規模プロジェクト「九段南一丁目地区第一種市街地再開発事業」について、不動産の専門家の視点から詳しく解説いたします。2025年11月7日に東京都より組合設立の認可が発表され、計画が本格的に動き出しました。この再開発は、九段下駅前の風景を大きく変え、新たな価値を創造する可能性を秘めています。本記事が、不動産投資家の皆様、そして地域の未来に関心をお持ちのすべての方々にとって、有益な情報源となれば幸いです。

    九段南一丁目地区第一種市街地再開発事業とは

    事業の概要と背景

    本事業は、東京メトロ「九段下」駅に隣接する約0.6ヘクタールの区域を対象とした、第一種市街地再開発事業です。施行者は「九段南一丁目地区市街地再開発組合」であり、老朽化した建物の更新と土地の高度利用を目指しています。千代田区が定める都市計画マスタープランにおいても、九段下駅周辺は『高度機能創造・連携拠点』として位置づけられており、業務、商業、文化、公共公益といった多様な都市機能の集積を通じて、首都東京の国際競争力強化に貢献することが期待されています。

    プロジェクトの規模と施設概要

    本計画では、地上32階、地下3階、高さ約170メートル、延床面積約81,260平方メートルにも及ぶ超高層複合ビルが建設されます。低層部には店舗や公共公益施設、中高層部には高機能なオフィスが配置される計画です。総事業費は約932億円を見込んでおり、その規模の大きさが伺えます。以下に施設概要をまとめました。

    施設概要一覧
    項目 内容
    所在地 東京都千代田区九段南一丁目
    地区面積 約0.6ha
    階数 地上32階、地下3階
    高さ 約170m
    延床面積 約81,260㎡
    主要用途 事務所、店舗、公共公益施設、駐車場等
    総事業費 約932億円(見込み)

    事業スケジュール

    本事業は、長期的な視点で段階的に進められます。2025年11月の組合設立認可を受け、今後は権利変換計画の策定、そして実際の建設工事へと移行します。竣工は2033年度が予定されており、今後約10年をかけて九段下の新たなランドマークが誕生することになります。

    事業スケジュール一覧
    項目 時期(予定)
    都市計画決定 2024年3月
    組合設立認可 2025年11月
    権利変換計画認可 2026年度
    工事着手 2028年度
    建物竣工 2033年度

    第一種市街地再開発事業の仕組みとメリット

    第一種市街地再開発事業とは

    ここで、本事業で用いられる「第一種市街地再開発事業」について、その仕組みを簡単にご説明します。これは、都市再開発法に基づき、老朽化した木造建築物が密集する市街地などにおいて、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図る事業です。特に「第一種」は、権利変換方式を用いる点が特徴です。これは、事業施行前の土地や建物の権利(従前資産)を、事業完了後に完成する新しいビル(施設建築物)の床(権利床)に、原則として等価で置き換える手法を指します。

    地権者にとってのメリット

    権利変換方式は、地権者の皆様にとって多くのメリットをもたらします。まず、従前資産の価値に見合った新しいビルの床を取得できるため、資産価値の大幅な向上が期待できます。また、再開発事業には、固定資産税や都市計画税の減免といった税制上の優遇措置や、国や地方公共団体からの補助金制度が適用される場合が多く、事業参加への負担が軽減されます。これにより、地権者の皆様は、少ない自己負担で、より安全で快適な資産を形成することが可能となります。

    地域社会にとってのメリット

    市街地再開発事業は、個々の資産価値向上に留まらず、地域社会全体にも大きな恩恵をもたらします。細分化された土地を集約し、耐震性・耐火性に優れた共同建築物を建設することで、都市の防災機能が飛躍的に向上します。また、道路や公園、広場といった公共施設を一体的に整備することで、歩行者空間の快適性や地域の利便性が高まります。九段南一丁目地区の再開発は、まさにこうした都市機能の更新と、安全で魅力的な街づくりを実現するものです。

    九段南一丁目地区再開発がもたらす3つの事業効果

    東京都の発表によれば、本事業は主に3つの効果を目指しています。これらは、九段下エリアの未来像を具体的に示すものです。

    1. 駅とまちが一体となる駅前広場を中心とした地域の拠点形成

    本計画の核となるのが、地下鉄九段下駅と直結する重層的な駅前広場の整備です。これにより、駅とまちがスムーズに結ばれ、交通結節点としての機能が強化されます。また、周辺には日本武道館などの大規模集客施設が存在することから、イベント開催時に多くの人々が滞留できる空間を確保し、地域全体の賑わいを創出する拠点としての役割を担います。

    2. 歩行者ネットワークの形成と水とみどりが連続するまちづくり

    本事業では、快適な歩行者空間の創出にも力が入れられています。日本橋川沿いの区道を拡幅し、内堀通り沿いには庇(ひさし)のある歩行者空間を整備することで、雨の日でも快適に移動できるネットワークを形成します。さらに、日本橋川沿いには親水性の高い歩行空間を創出し、内堀通り沿いは緑化を進めることで、皇居の豊かな緑へとつながる「水とみどりのネットワーク」を創出し、潤いのある都市景観を実現します。

    3. 都市機能の更新と防災拠点機能の拡充

    本再開発ビルには、最新の設備を備えたオフィスや商業施設が集積し、周辺の行政機能とも連携しながら、地域全体の都市機能更新を牽引します。同時に、災害発生時には帰宅困難者を受け入れる一時滞在施設としての機能も担います。広場空間は避難場所としても活用でき、周辺地域と連携した防災拠点としての役割を果たすことで、地域全体の安全・安心に貢献します。

    九段下駅周辺エリアの特性と再開発の意義

    九段下駅の立地特性

    九段下駅は、東京メトロ東西線、半蔵門線、都営新宿線の3路線が乗り入れる、都内でも有数の交通の要衝です。皇居や日本武道館、靖国神社といった日本の歴史と文化を象徴する施設に隣接する一方、大手企業の本社も集まるオフィス街としての顔も持ち合わせています。このように、ビジネスと文化、歴史が融合するユニークなエリア特性が、九段下ならではの魅力を形成しています。

    千代田区における都市計画上の位置づけ

    千代田区は、その「都市計画マスタープラン」において、国際競争力の強化と、安全で快適な都心環境の実現を掲げています。本再開発事業は、まさにその方針を具現化するものです。「中枢機能創造・連携拠点」として、高度な業務機能や商業機能を集積させるとともに、南側隣接地で進行中の「(仮称)SMBC九段プロジェクト」といった周辺の再開発プロジェクトとも連携し、エリア全体の価値向上に貢献することが期待されています。

    不動産投資家・地権者が知っておくべきポイント

    権利変換のプロセスと注意点

    地権者の皆様にとって最も重要なのが、権利変換 のプロセスです。今後作成される「権利変換計画」では、皆様が現在所有されている土地や建物の価値(従前資産評価額)が算出され、それに見合う新しいビルの床面積(権利床)が定められます。この評価額や権利床の算定根拠を十分に理解し、納得のいく形で合意形成を進めることが不可欠です。また、権利変換を希望せず、地区外への転出を選択する場合には、正当な補償を受ける権利があります。専門家への相談も視野に入れ、慎重に検討を進めることをお勧めします。

    周辺不動産への影響

    大規模再開発は、周辺の不動産市場にも大きな影響を及ぼします。一般的に、再開発によって地域の利便性や魅力が向上すると、地価や賃料相場は上昇する傾向にあります。特に、九段下のような交通利便性の高いエリアでは、高機能オフィスの供給が増えることで、新たな企業の流入が促進され、賃貸需要が一層高まる可能性があります。不動産投資家にとっては、新たな投資機会が生まれる一方で、市場の動向を注意深く見守る必要があります。

    参画企業と事業の信頼性

    本事業の成否を占う上で、参画企業の信頼性は極めて重要です。本プロジェクトには、業界を代表する企業が名を連ねており、事業の安定性と高い品質が期待されます。

    参画企業一覧
    役割 企業名
    参加組合員 住友不動産株式会社、日本郵政不動産株式会社
    事業協力者 住友不動産株式会社
    事業コンサルタント・基本設計 株式会社日建設計

    参加組合員として名を連ねる住友不動産と日本郵政不動産は、いずれも豊富な実績を持つデベロッパーです。また、基本設計を手がける日建設計は、国内外で数多くの大規模プロジェクトを成功に導いてきた日本を代表する組織設計事務所です。こうした一流企業が結集することで、質の高い都市開発が実現されることでしょう。

    まとめ

    「九段南一丁目地区第一種市街地再開発事業」は、単なるビルの建て替えに留まらず、九段下エリアの未来を創造する壮大なプロジェクトです。高さ約170mの超高層複合ビルの誕生は、都市機能の高度化、防災機能の強化、そして水と緑の豊かな景観創出に大きく貢献します。2033年の竣工に向けて、地権者の皆様、投資家の皆様、そして地域社会が一体となって、この歴史的な街づくりに参加していくことが期待されます。今後も、権利変換計画の策定など、重要なプロセスが続きます。

    よくある質問(FAQ)

    Q1: 九段南一丁目地区再開発事業の竣工はいつですか?
    A1: 本事業の建物竣工は、2033年度(令和15年度)を予定しています。工事着手は2028年度(令和10年度)の予定です。
    Q2: 第一種市街地再開発事業における権利変換とは何ですか?
    A2: 権利変換とは、再開発事業の施行前に地権者が所有していた土地や建物の権利を、事業完了後に完成する新しいビルの床(区分所有権)に、原則として等価で置き換える手法です。これにより、地権者は従前資産の評価額の範囲内であれば、大きな自己資金負担を抑えつつ新しい資産を取得できる仕組みです。ただし、増床や仕様の選択等により追加負担が生じる場合もあります。
    Q3: 地権者はどのようなメリットを受けられますか?
    A3: 主なメリットとして、①耐震性・耐火性に優れた安全な資産の取得、②土地の高度利用による資産価値の向上、③固定資産税等の税制優遇措置、④事業費補助による負担軽減、などが挙げられます。
    Q4: 周辺の不動産価値にどのような影響がありますか?
    A4: 一般的に、大規模再開発は地域の利便性やブランド価値を向上させるため、周辺の地価や賃料相場にプラスの影響を与える傾向があります。特に、駅直結の複合施設が誕生することで、オフィスや店舗の需要が高まり、不動産市場の活性化が期待されます。
    Q5: 再開発組合への参加企業はどこですか?
    A5: 参加組合員として住友不動産株式会社と日本郵政不動産株式会社、事業協力者として住友不動産株式会社、事業コンサルタントおよび基本設計として株式会社日建設計が参画しています。
    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター