住宅購入は人生における最も重要な決断の一つです。多くの方にとって、住宅ローンの選択は将来の生活設計に大きな影響を与える重要な要素となります。
住宅ローン選びは、単に金利の高低だけで判断すべきものではありません。ご自身のライフプランや収入の安定性、将来の金利動向への考え方など、様々な要素を総合的に検討する必要があります。本記事が、皆様の住宅ローン選択における重要な判断材料となることを願っております。
フラット35の基本概要
フラット35とは何か
フラット35 は、住宅金融支援機構と全国300以上の民間金融機関が提携して提供する、最長35年の全期間固定金利住宅ローンです。この商品の最大の特徴は、借入時に返済終了までの金利と毎月の返済額が確定することにあります。
「フラット35」という名称の「35」は、最長借入期間の35年を表しています。ただし、実際の借入期間は15年以上35年以下の範囲で設定可能であり、申込者の年齢や希望に応じて調整することができます。
住宅金融支援機構の役割
フラット35を理解する上で重要なのが、住宅金融支援機構 の存在です。住宅金融支援機構は、国土交通省と財務省が所管する独立行政法人であり、国民の住宅取得を支援することを目的として設立されました。
住宅金融支援機構は、民間金融機関が融資したフラット35の住宅ローンを買い取り、それを担保として債券(住宅金融支援機構債券)を発行することで長期資金を調達しています。この仕組みにより、民間金融機関は長期固定金利の住宅ローンを安定的に提供することが可能となっています。
全期間固定金利の意味
固定金利 とは、借入期間中の金利が変動しない金利タイプのことです。フラット35の場合、借入時に設定された金利が完済まで継続されるため、将来の金利上昇リスクを回避することができます。
これは変動金利型の住宅ローンとは大きく異なる特徴です。変動金利型では、市場金利の変動に応じて適用金利が見直されるため、金利上昇局面では返済負担が増加するリスクがあります。一方、フラット35では借入時に返済計画が確定するため、長期的な家計管理がしやすいという利点があります。
フラット35の金利と最新動向
2025年6月の最新金利情報
2025年6月現在、フラット35の金利 は以下のような水準となっています。住宅ローンを検討される際の重要な判断材料として、最新の金利動向を正確に把握することが必要です。
借入期間 | 金利範囲 | 最頻金利 | 前月比 |
15年~20年 | 年1.500%~年3.620% | 年1.500% | - |
21年~35年 | 年1.890%~年4.010% | 年1.890% | +0.07% |
2025年6月のフラット35金利は、前月と比較して上昇傾向を示しています。特に21年~35年の借入期間では、最頻金利が前月より0.07%上昇し、年1.890%となりました。この上昇は、長期金利の動向や市場環境の変化を反映したものです。
融資率による金利差
フラット35では、融資率(住宅価格に対する借入額の割合)によって適用金利が異なります。融資率が9割を超える場合、金利が上乗せされる仕組みとなっています。
融資率 | 借入期間21~35年の金利範囲 | 最頻金利 |
9割以下 | 年1.890%~年4.010% | 年1.890% |
9割超 | 年2.000%~年4.120% | 年2.000% |
この金利差は、頭金の準備状況によって返済負担に大きな影響を与えます。可能な限り頭金を住宅価格の1割以上準備することで、より有利な金利での借入が可能となります。
他の住宅ローンとの金利比較
フラット35の金利水準を適切に評価するためには、他の住宅ローン商品との比較が重要です。2025年6月時点での主要な住宅ローン商品の金利水準は以下の通りです。
ローン種類 | 金利タイプ | 代表的な金利水準 | 特徴 |
フラット35 | 全期間固定 | 年1.890% | 金利変動リスクなし |
メガバンク変動金利 | 変動 | 年0.345%~0.475% | 金利上昇リスクあり |
ネット銀行変動金利 | 変動 | 年0.298%~0.380% | 金利上昇リスクあり |
10年固定金利 | 当初固定 | 年1.200%~1.500% | 固定期間終了後は変動 |
この比較表からも分かるように、フラット35の金利は変動金利と比較すると高い水準にあります。しかし、全期間にわたって金利が固定されるという安心感は、変動金利にはない大きなメリットです。
金利動向の背景と今後の見通し
フラット35の金利は、10年国債利回りを基準として決定されます。2025年に入ってからの金利上昇は、日本銀行の金融政策正常化への期待や、世界的なインフレ圧力の影響を受けています。
住宅購入を検討される方にとって重要なのは、現在の金利水準だけでなく、将来の金利変動リスクをどのように考えるかです。金利上昇リスクを回避したい場合は、フラット35のような全期間固定金利が適している一方、当面の返済負担を抑えたい場合は変動金利も選択肢となります。
フラット35の審査基準と利用条件
申込者に関する基準
年齢要件
国籍要件
収入に関する基準
年収 | 返済負担率の上限 |
400万円未満 | 30%以下 |
400万円以上 | 35%以下 |
勤続年数の制限なし
借入条件
借入額
借入期間
借入期間は15年以上35年以下で設定可能です。ただし、申込者本人または連帯債務者が満60歳以上の場合は、10年以上での設定も可能です。
住宅に関する技術基準
主な技術基準
1.住宅の規模
•劣化対策に関する基準
物件検査の実施
審査の流れと期間
フラット35の審査は、以下のような流れで進行します。
審査期間は金融機関や申込時期により異なりますが、事前審査から融資実行まで1ヶ月~1ヶ月半程度を見込んでおくことが適切です。
フラット35のメリット・デメリット
フラット35の主要なメリット
1. 全期間固定金利による安心感
フラット35の最大のメリット は、借入時に完済までの金利と返済額が確定することです。これにより、将来の金利上昇リスクを完全に回避することができます。
例えば、3,000万円を35年間で借入した場合、金利が1%上昇すると月々の返済額は約2万円増加し、総返済額は約700万円増加します。フラット35では、このようなリスクを借入時に回避することができます。
2. 返済計画の立てやすさ
毎月の返済額が一定であることにより、長期的な家計管理が容易になります。教育費や老後資金の準備など、他のライフプランとの調整がしやすく、将来の収支見通しを立てやすいという利点があります。
3. 保証人・保証料が不要
フラット35では、保証人や保証料が不要です。多くの民間住宅ローンでは、保証会社への保証料として数十万円の費用が必要となりますが、フラット35ではこの費用が発生しません。
ただし、団体信用生命保険(団信)に加入する場合は、保険料相当額が金利に含まれています。団信に加入しない場合は、金利が0.2%程度低くなります。
4. 融資手数料が比較的安価
フラット35の融資手数料は、多くの金融機関で借入額の2.2%(税込)程度に設定されています。一部の金融機関では定額型の手数料体系を採用しており、借入額にかかわらず一定の手数料となっています。
変動金利の住宅ローンでも同様の手数料体系が一般的ですが、フラット35では全期間固定金利でありながら、手数料負担が過度に高くないという特徴があります。
5. 審査基準の柔軟性
フラット35では、年収の下限や勤続年数の制限がありません。また、自営業者や契約社員、派遣社員の方でも申込みが可能です。これは、住宅取得の機会を広く提供するという住宅金融支援機構の方針を反映しています。
ただし、返済負担率の基準は厳格に適用されるため、収入に見合った借入額での申込みが必要です。
フラット35の主要なデメリット
1. 変動金利と比較して金利が高い
フラット35の最大のデメリット は、変動金利と比較して金利水準が高いことです。2025年6月現在、フラット35の金利は年1.890%程度である一方、変動金利は年0.3%~0.5%程度となっています。
この金利差により、当初の返済負担はフラット35の方が重くなります。3,000万円を35年間で借入した場合、月々の返済額の差は約3万円~4万円程度となります。
2. 金利下降局面でのデメリット
全期間固定金利であることは、金利上昇局面ではメリットとなりますが、金利下降局面ではデメリットとなります。市場金利が大幅に下落した場合でも、フラット35の金利は変更されません。
3. 頭金不足時の金利上乗せ
融資率が9割を超える場合、金利が0.11%程度上乗せされます。頭金を十分に準備できない場合、さらに返済負担が重くなるという点に注意が必要です。
可能な限り、住宅価格の1割以上の頭金を準備することが、有利な条件での借入につながります。
4. 住宅の技術基準による制約
フラット35を利用するためには、住宅が住宅金融支援機構の技術基準を満たす必要があります。特に中古住宅の場合、築年数や構造によっては基準を満たさない可能性があります。
また、物件検査費用として数万円の負担が発生することも、デメリットの一つです。
5. 繰上返済時の制約
フラット35が向いている人・向いていない人
フラット35が向いている人
1.金利上昇リスクを回避したい人
•民間住宅ローンの審査が厳しい
•収入の安定性に不安がある
フラット35が向いていない人
1.当初の返済負担を抑えたい人
住宅ローンの選択は、個々の状況や価値観によって最適解が異なります。金利水準だけでなく、将来のライフプランや金利観、リスク許容度などを総合的に考慮して判断することが重要です。
フラット35Sと金利引き下げ制度
フラット35Sの概要
フラット35S は、省エネルギー性や耐震性などに優れた質の高い住宅を取得する場合に、フラット35の借入金利を一定期間引き下げる制度です。この制度は、良質な住宅ストックの形成を促進することを目的として設けられています。
フラット35Sを利用することで、通常のフラット35よりも有利な条件で住宅ローンを借入することができ、長期的な返済負担の軽減が期待できます。
2025年4月からの制度改正(ポイント制の導入)
ポイント制の仕組み
合計ポイント | 金利引き下げ幅 | 金利引き下げ期間 |
1ポイント | 年0.25% | 当初5年間 |
2ポイント | 年0.25% | 当初10年間 |
3ポイント | 年0.50% | 当初5年間 |
4ポイント | 年0.50% | 当初10年間 |
5ポイント | 年1.00% | 当初5年間 |
ポイント付与の条件
項目 | 条件 | ポイント |
ZEH | ZEH、Nearly ZEH、ZEH Ready、ZEH Oriented | 1ポイント |
長期優良住宅 | 長期優良住宅の認定取得 | 1ポイント |
耐震等級 | 耐震等級3の取得 | 1ポイント |
省エネ等級 | 断熱等性能等級5以上かつ一次エネルギー消費量等級6 | 1ポイント |
項目 | 条件 | ポイント |
子育て支援 | 18歳未満の子を有する世帯または夫婦合計年齢が80歳未満 | 1ポイント |
地域連携 | 地方公共団体と住宅金融支援機構が連携した取組み | 0.25ポイント |
フラット35子育てプラス
対象となる世帯
金利引き下げの内容
子どもの人数 | 金利引き下げ幅 | 金利引き下げ期間 |
1人 | 年0.25% | 当初5年間 |
2人 | 年0.50% | 当初5年間 |
3人以上 | 年1.00% | 当初5年間 |
良質な中古住宅取得時の金利引き下げ
対象となる住宅
金利引き下げの内容
金利引き下げ制度の活用方法
複数制度の併用
制度利用時の注意点
金利引き下げ効果のシミュレーション
金利引き下げ内容 | 通常金利 | 引き下げ後金利 | 月額軽減効果 | 総軽減効果 |
0.25%・5年間 | 1.89% | 1.64% | 約4,000円 | 約24万円 |
0.50%・5年間 | 1.89% | 1.39% | 約8,000円 | 約48万円 |
1.00%・5年間 | 1.89% | 0.89% | 約16,000円 | 約96万円 |
まとめ
フラット35の主要なポイント
1.全期間固定金利による安心感
•フラット35Sによる性能向上
•住宅への優遇子育て世帯への支援制度
検討時の重要な判断要素
住宅ローンの選択は、単に金利の高低だけで判断すべきものではありません。以下の要素を総合的に検討することが重要です。
•ライフプラン:教育費や老後資金の準備計画はどうか
次のアクションステップ
フラット35の利用を検討される場合は、以下のステップで進めることをお勧めいたします。
INA&Associatesでは、お客様の住宅取得を総合的にサポートしております。フラット35をはじめとする住宅ローンのご相談から、物件選びまで、専門的な知識と豊富な経験を基にアドバイスいたします。お気軽にご相談ください。
よくある質問
Q1. フラット35と変動金利、どちらを選ぶべきですか?
A1. 選択の判断基準は、金利観とリスク許容度によります。
重要なのは、ご自身のライフプランと価値観に合った選択をすることです。専門家に相談し、複数のシナリオでシミュレーションを行うことをお勧めします。
Q2. フラット35の審査は厳しいですか?
A2. フラット35の審査は、他の住宅ローンと比較して特徴的な部分があります。
総合的には、収入の安定性よりも返済能力を重視する審査となっています。
Q3. フラット35Sの金利引き下げを受けるには何が必要ですか?
A3. 2025年4月からのポイント制では、以下の条件でポイントが付与されます。
合計ポイント数に応じて金利引き下げの内容が決定されます。詳細は住宅金融支援機構の公式サイトでご確認ください。
Q4. 中古住宅でもフラット35は利用できますか?
A4. はい、中古住宅でもフラット35は利用可能です。
中古住宅の場合は、事前に技術基準への適合性を確認することが重要です。
Q5. フラット35の繰上返済はどのように行えますか?
A5. フラット35の繰上返済は以下の方法で行えます。
繰上返済を行う際は、手元資金とのバランスを考慮し、計画的に実施することが重要です。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター