東京駅日本橋口周辺で進む「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」は、国際金融拠点の形成と日本橋川沿いの水辺空間整備を目指す大規模プロジェクトです。2024年12月10日に起工式が行われ、南北2街区での段階的な整備が進んでいます。本記事では、この再開発事業の概要、特徴、今後の展望について詳しく解説します。
1. 事業の概要
1.1 計画の基本情報
「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」は、東京都中央区八重洲一丁目に位置し、JR東京駅日本橋口と日本橋川に隣接するエリアで進められている再開発プロジェクトです。
- 施行者: 八重洲一丁目北地区市街地再開発組合
- 所在地: 東京都中央区八重洲一丁目
- 面積: 約1.6ha(敷地面積約9,260㎡)
- 事業費: 約1,720億円
- 建築工事着工: 2024年11月19日
- 起工式実施: 2024年12月10日
- 特定業務代行者および参加組合員: 東京建物株式会社、東京ガス不動産株式会社、明治安田生命保険相互会社、大成建設株式会社
- 設計・施工: 大成建設株式会社
- 外装デザイン監修: ラグアルダ・ロウ アーキテクツ(米国ニューヨーク)
東京都都市整備局によると、事業は南北2街区に分けて実施されます。南街区には地上44階建ての超高層ビルが建設され、北街区には日本橋川沿いの水辺空間と連続する低層の商業施設が整備される計画です。
1.2 事業の主な経過と今後の予定
この再開発事業は、長年にわたる検討と準備を経て進められています:
- 2015年7月: 再開発準備組合設立
- 2019年10月: 都市計画決定
- 2021年11月: 組合設立(事業計画)認可
- 2023年9月: 権利変換計画認可
- 2024年11月: 建築工事着工
- 2029年度: 南街区竣工予定
- 2032年度: 北街区竣工予定
2. 建築計画と施設内容
2.1 南街区の計画
南街区には、東京駅日本橋口周辺の象徴となる超高層複合ビルが建設されます:
- 階数: 地上44階、地下3階
- 高さ: 約218m
- 延床面積: 約185,500㎡
- 構造: 鉄骨鉄筋コンクリート造、鉄筋コンクリート造、鉄骨造
- 主な用途:
- 低層部(地下1階~地上2階): 店舗
- 2階: 高度金融人材サポート施設
- 6~9階: 長期滞在型宿泊施設
- 10~43階: オフィス(基準階面積約860坪)
- その他: 駐車場など
特筆すべきは、6~9階に配置される長期滞在型宿泊施設「SEN/KA TOKYO by The Crest Collection(センカ東京 by クレストコレクション)」です。これはシンガポールのアスコット社が展開する最上位ラグジュアリーブランドの日本初進出となるもので、92室の客室を備え、2029年度下半期の開業が予定されています。
2.2 北街区の計画
北街区には、日本橋川沿いの水辺空間を活かした低層施設が整備されます:
- 階数: 地上2階
- 高さ: 約12m
- 建築面積: 約883㎡
- 延床面積: 約1,000㎡
- 主な用途: 店舗、交流施設
北街区は、首都高速道路の地下化に伴い整備される日本橋川沿いの水辺空間と連続した施設となり、地域の新たな交流拠点として機能することが期待されています。
3. 事業の特徴と目的
この再開発事業は、単なる建物の建て替えを超えた多面的な目的を持っています。東京建物株式会社によると、主な特徴として以下が挙げられます。
3.1 日本橋川沿いの水辺空間と歩行者ネットワークの整備
- 河川区域内の護岸上部を活用した重層的な広場空間の整備
- 日本橋川交流拠点の象徴となるゲート広場の設置
- エリアマネジメントによるにぎわい・交流空間の創出
- 地下通路や地上・地下レベルの歩行者ネットワークの整備
- 東京駅と日本橋駅を接続する地下通路の整備
- 首都高日本橋地下化事業の実現に向けた協力
3.2 国際競争力の強化に資する金融拠点の形成
- 大手町と兜町を結ぶ立地を活用した国際的な金融人材の活動支援
- 都市型複合MICE拠点との連携による国際金融・MICE機能の強化
- 高度金融人材サポート施設の設置
3.3 防災対応力強化と環境負荷低減
- コージェネレーションシステム(CGS)や地域冷暖房施設のネットワーク化
- 非常用発電施設の整備による業務継続機能の強化
- 災害時の帰宅困難者受け入れスペースおよび防災備蓄倉庫の設置
これらの特徴は、「日本橋川沿いエリアのまちづくりビジョン2021」に基づいており、地域全体の都市再生と国際競争力強化を目指すものです。
4. 地域計画における位置づけと意義
4.1 日本橋川沿いエリアのまちづくりビジョンにおける位置づけ
八重洲一丁目北地区は、中央区が策定した「日本橋川沿いエリアのまちづくりビジョン2021」において重要な位置づけを与えられています。このビジョンでは、日本橋川沿いのエリア全体を、歴史と伝統を背景にしながらも新たな創造性と活力を生み出す「日本橋川交流拠点」として再生することを目指しています。
具体的に、八重洲一丁目北地区は東京駅と日本橋方面を結ぶ玄関口として位置づけられ、周辺の再開発プロジェクトと連携しながら、水辺空間を活かした魅力あるまちづくりを進める重要なエリアとして認識されています。
4.2 首都高日本橋区間地下化事業との連携
本再開発事業は、首都高速道路日本橋区間の地下化事業と密接に関連しています。首都高速道路株式会社が進める日本橋区間地下化事業は、日本橋川上空の高架を地下化し、江戸時代からの歴史的景観を取り戻すとともに、水辺空間を活かした新たなまちづくりを目指すものです。
地下化工事は2035年、高架の撤去は2040年度の完了が予定されており、八重洲一丁目北地区の北街区は、この地下化に伴って整備される日本橋川沿いの水辺空間と一体となる計画です。
4.3 東京駅前3地区再開発との関連
八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業は、「東京駅前3地区再開発」と呼ばれる大規模な再開発計画の一環として進められています。この3地区再開発には、既に完成した「東京ミッドタウン八重洲」や、建設中の「八重洲一丁目東地区」、「八重洲二丁目中地区」が含まれます。
特に注目すべきは、これら3地区の地下空間に整備される「バスターミナル東京八重洲」で、完成時には合計20バースを有する日本最大級の高速バスターミナルとなる予定です。これにより、東京駅前の交通結節機能が大幅に強化されることになります。
5. 事業の進捗状況と今後の展望
5.1 現在の進捗状況
2024年12月10日に起工式が行われ、南街区での建設工事が本格的に始まっています。既存建物の解体はほぼ完了し、基礎工事の段階に入っています。
5.2 周辺地域との連携
本事業は単独のプロジェクトではなく、周辺の再開発事業や都市計画と密接に連携しています:
- 東京駅と日本橋駅を結ぶ地下通路の整備
- 日本橋川沿いの連続的な水辺空間の形成
- 「東京ミッドタウン八重洲」など周辺プロジェクトとの相乗効果
- 首都高日本橋区間地下化事業との連携
これらの連携により、地域全体の魅力と利便性が向上することが期待されています。
5.3 完成後の街の姿
南街区(2029年度竣工予定)と北街区(2032年度竣工予定)の完成後、この地区は以下のような特徴を持つエリアとなる見込みです:
- 国際的な金融・MICE拠点としての機能
- 高級宿泊施設を含む多様な都市機能の集積
- 日本橋川を活かした魅力的な水辺空間
- 東京駅と日本橋を結ぶ重要な交通結節点
- 防災性能の高い安全・安心な都市空間
特に、首都高速道路の地下化が完了する2040年頃には、日本橋川上空が開放され、より開放的で潤いのある都市環境が実現する予定です。
6. 事業の社会的意義
6.1 国際金融都市としての東京の競争力強化
本再開発事業は、国際金融都市としての東京の競争力強化に貢献することが期待されています。高度金融人材サポート施設の設置や、国際的なビジネス環境の整備により、金融関連企業や人材の集積を促進します。
6.2 歴史と未来の融合による都市再生
日本橋川沿いの歴史的景観を取り戻しつつ、最先端の都市機能を導入することで、歴史と未来が融合した独自の都市空間を創出します。これは日本の伝統的な文化を尊重しながら、国際的な都市として発展する東京の姿を象徴するものです。
6.3 環境と防災に配慮した持続可能な都市づくり
コージェネレーションシステムの導入や地域冷暖房施設のネットワーク化、災害時の帰宅困難者受け入れスペースの整備など、環境と防災に配慮した取り組みが組み込まれています。これらは持続可能な都市づくりに向けた重要な取り組みです。
7. まとめ
「八重洲一丁目北地区第一種市街地再開発事業」は、東京駅日本橋口周辺における重要な再開発プロジェクトです。国際金融拠点の形成、日本橋川沿いの水辺空間整備、東京駅と日本橋を結ぶ歩行者ネットワークの構築など、多面的な目的を持ち、地域全体の魅力と機能の向上を目指しています。
2024年に着工し、2029年から2032年にかけて段階的に完成する予定の本事業は、首都高日本橋区間地下化事業とも連携しながら、歴史と未来が融合した新たな都市空間を創出することになるでしょう。東京の国際競争力強化と持続可能な都市づくりに貢献する、注目すべきプロジェクトです。