東京都心・有楽町駅周辺で、大規模な再開発計画「有楽町駅周辺地区まちづくり」が進行しています。約3.2ヘクタールに及ぶ対象エリアには、JR有楽町駅西側に位置する東京交通会館や東京イノベーションベース(旧有楽町インフォス)などが含まれ、2023年6月には関係地権者による再開発準備組合が設立されました。本記事では、本プロジェクトの概要と関係者、都市デザインの方向性、用途構成、歩行者空間や景観への配慮、行政政策との関連、そして今後のスケジュールについて最新情報をお伝えします。
再開発計画の概要(エリア・規模・時期)
「有楽町駅周辺地区まちづくり」計画は、有楽町駅西口側の一帯約3.2haを対象とする大規模再開発プロジェクトです。この地区では長年、駅前広場の未整備や老朽建物の更新停滞、歩行者ネットワークの分断による回遊性不足などの課題が指摘されてきました。本計画はこうした課題解決を目的に、旧東京都庁舎跡地など都有地を活用した官民連携で街づくりを進め、国際ビジネス・都市観光拠点としての機能強化を図るものです。具体的には、MICE(国際会議等)機能の充実や駅前広場の整備、そして後述する「東京高速道路(KK線)」の上部空間活用による歩行者ネットワーク拡充が柱となっています。
本再開発は2022年3月に関係権利者間で検討開始に合意し、2023年6月に市街地再開発準備組合が正式に設立されました。現在(2025年春時点)は再開発ビルの規模・具体計画は公表されておらず、今後都市計画決定や再開発組合の設立を経て本格的な事業化へ移行する見通しです。着工は2025年度以降、完成は2030年前後を目指すスケジュールが想定されており、実現すれば有楽町駅前の街並みは今後10年で大きく様変わりすることになります。
関係事業者(民間・行政・鉄道事業者等)
再開発の主体となる関係地権者は、民間と行政あわせて5者です。具体的には、道路上空地を保有する東京高速道路株式会社(KK線運営会社)、有楽町駅前の商業ビルを運営する株式会社東京交通会館、大手デベロッパーの三菱地所株式会社、読売会館(有楽町マリオン)等を所有する株式会社読売新聞東京本社、そして土地所有者である東京都です。これら5者によって2023年6月に市街地再開発準備組合が結成され、現在は事業計画の具体化に向けた協議が進められています。なお、鉄道関連ではJR東日本や東京メトロも駅改良やアクセス強化の観点から協力が見込まれます。特にJR有楽町駅西口に新たな駅前広場を整備する計画であり、鉄道事業者とも連携して利便性向上が図られる予定です。行政側では東京都に加え千代田区も本計画を支援しており、都市計画の調整や地元調整に関与しています。
街区整備のコンセプトと都市デザイン
本プロジェクトは、「出逢い・交流・発信」をキーワードに、国際ビジネス拠点にふさわしい都市機能と賑わい創出を目指すコンセプトが掲げられています。有楽町エリア全体の将来像として、人と人が出会い交流する場づくりや、ビジネスイノベーションを生み出す拠点形成が重視されています。都市デザイン面では、「有楽町を体感できる空間デザイン」や「人中心の重層的な交通デザイン」の実現が目標とされており、歩行者に優しい街並みと多層的な動線計画によって回遊性を高める方針です。例えば、地上・地下・デッキそれぞれのレベルで回遊性を確保し、誰もが快適に滞留・移動できる空間づくりを目指しています。また、東京国際フォーラムなど周辺の文化施設との近接性を活かし、文化芸術とビジネスが融合する洗練された景観形成も図られる見込みです。防災面・環境面にも配慮し、災害に強くサステナブルな都市基盤整備によって、国際都市としての信頼性・競争力向上にも資するデザインコンセプトとなっています。
用途構成(商業・オフィス・住宅など)
再開発後の施設用途は正式発表前ですが、都心一等地であることからオフィス主体の超高層複合ビルになると予想されています。具体的な規模は未定ながら、延べ数十万㎡規模の大規模プロジェクトとなる可能性が高く、最新設備を備えたハイグレードオフィスフロアが計画の中心となる見通しです。加えて、低層部には商業施設が配置され、駅前という立地を活かした商業・サービス機能が充実する見込みです。現状でも東京交通会館には飲食店や物販店が多数入居していますが、新ビルでも地域のにぎわいを支えるショッピングゾーンやレストラン街が整備されるでしょう。
また、本計画はMICE機能の強化が目的に掲げられており、カンファレンスホールやイベントスペースなど国際会議・展示会に対応できる施設の導入も検討されています。さらに、官民連携によるイノベーション創出拠点の形成も謳われており、スタートアップ支援施設や交流ラウンジなど、新産業育成のための空間が盛り込まれる可能性があります。ホテル・宿泊機能について公式言及はありませんが、国際ビジネス拠点として海外来訪者も視野に入れる場合、高級ホテルやサービスアパートメントの併設も今後検討される余地があります。住宅用途は当該エリアが業務中心地区であることから計画には含まれない見込みです。ただし再開発ビル全体としては多目的な複合施設となり、業務・商業を核に、誰もが快適に過ごせる多彩な都市機能を備えることが求められています。
歩行者空間・緑地・景観への配慮
歩行者ネットワークの大幅な強化は本計画のハイライトの一つです。まず、再開発に合わせてJR有楽町駅西口前に駅前広場が新設される予定で、歩行者が安全かつ快適に集える空間が創出されます。現在は駅前に十分な広場がなく混雑していましたが、再開発により広々とした歩行者広場と車寄せが整備される見込みです。加えて、地下通路の延伸計画も進行中です。有楽町駅東口側(東京国際フォーラム方面)から西口側の地下広場まで、地下通路を接続延伸する計画があり、駅を挟んだ東西の回遊性が飛躍的に向上すると期待されています。これにより雨天時でも駅を横断して各方面へ移動しやすくなり、地下空間の賑わい創出にもつながります。
さらに、本計画は東京高速道路(通称KK線)の上空部の活用とも連携します。老朽化した高架道路であるKK線は2025年に車両通行を停止し、ニューヨークのハイラインのような緑豊かな歩行者デッキ「東京スカイ回廊(仮称)」として再生される計画です。東京都は2021年3月にこの方針を策定済みで、約2kmにわたる高架空間を歩行者中心の公共空間へと改装する事業が進められています。有楽町駅周辺地区はこの「空中回廊」が接続する位置にあり、再開発ビルともデッキで直結する構想です。空中回廊には庭園や緑地、展望スペース等が整備される計画で、有楽町エリアの新たな観光スポット・憩い空間となるでしょう。再開発計画ではビル側にも歩行者デッキやテラスを設け、空中回廊と一体となった緑豊かな動線とすることが期待されています。
景観面では、銀座・丸の内に隣接する立地特性を踏まえ、高品質で調和の取れた都市景観形成に配慮します。超高層ビル群の一角として周囲と調和するデザインとすると同時に、有楽町ならではの文化的薫りを感じさせる意匠が検討される見通しです。低層部のファサードには歩行者の目線に潤いを与える緑化や広場空間を充実させ、街に開かれたデザインとする計画です。夜間景観についても、国際観光拠点にふさわしいライトアップ演出など、安全かつ魅力的な街角演出が検討課題となっています。
都市政策(東京都・千代田区)との関連
有楽町駅周辺の再開発は、東京都および千代田区の都市政策とも深く連携しています。東京都は都心の国際競争力強化と都市の持続性向上を掲げており、本計画はその具体策の一つと言えます。東京都都市整備局によれば、有楽町エリアには国際ビジネス・都市観光拠点の形成が求められており、官民連携により回遊性が高くMICE機能を備えたまちづくりを進める方針です。また本プロジェクトは国家戦略特区の枠組みにおける「都市再生プロジェクト」に位置づけられており、2023年度中に都市計画の特定認定を受けることが目標とされました。これにより容積率の大幅緩和や税制支援など行政支援措置を受けつつ、民間活力を最大限活用した開発が促進されます。
千代田区も本計画を後押ししています。大手町・丸の内・有楽町地区まちづくり委員会の下部組織として有楽町まちづくりビジョン策定委員会が設置され、2023年11月に「有楽町まちづくりビジョン(将来像)」が取りまとめられました。このビジョンでは、有楽町エリアの20年後を見据えた空間像や整備の指針が示されています。複数街区の適切な役割分担のもと段階的に都市基盤を強化していく必要性や、エリア全体で魅力を高め日本経済を牽引する拠点となることが謳われています。今回の駅周辺再開発はこのビジョンの中核を成す事業であり、隣接する他の再開発(後述の有楽町ビル・新有楽町ビル建替計画等)とも協調しながら、エリア全体の価値向上を図る「共同貢献事業」と位置付けられています。千代田区は地区計画の変更や道路計画調整など行政手続きをサポートするとともに、歩行者に優しいまちづくり(ウォーカブル推進)の観点から都や事業者と連携しています。
今後のスケジュールと見通し
有楽町駅周辺地区再開発は、今後数年で本格始動する見通しです。工事期間中は周辺への影響を抑えるべく段階施工や仮設デッキによる歩行者確保などの対策が講じられるでしょう。複数棟にわたる再開発の場合、段階的に竣工させる計画も考えられますが、現時点では単一の巨大複合ビルとして一括開業するシナリオが有力です。
完成目標時期は2030年前後と見られており、東京高速道路の空中歩廊化工事(~2030年予定)ともタイミングを合わせて、新生・有楽町が姿を現すことになりそうです。開業後は国際会議やイベントの誘致、国内外企業のオフィス誘致が本格化し、都心随一のビジネス交流拠点として稼働することが期待されています。また、銀座・日比谷エリアとも連携した回遊性向上により、エリア全体の集客力・滞留促進が図られるでしょう。
足元では、有楽町エリアでは既に他の再開発も動き出しています。例えば、三菱地所が所有する昭和期竣工の有楽町ビルディングおよび新有楽町ビルディングは老朽化のため2023年に解体が進められました。さらに帝国劇場・国際ビル(丸の内3丁目)の建替計画も控えており、2025年2月に両施設が閉館するなど、周辺は大きな転換期を迎えています。これら周辺開発と歩調を合わせる形で、有楽町駅周辺地区の再開発も具体化していく見通しです。関係者によれば、「2025年春時点で新施設の詳細は未発表だが、今後の検討次第で順次明らかになる」とされており、2020年代後半に向けて段階的に情報公開や工事着手がなされるでしょう。
この再開発が完了すれば、有楽町駅前の風景は劇的に刷新されるはずです。昭和の象徴であった東京交通会館や有楽町マリオン(読売会館)といった建物も新街区に生まれ変わり、戦後から続く駅前の姿が新時代のランドマークへと更新される見込みです。ビジネス関係者にとっては、都心部の一等地に誕生する最新鋭のオフィス空間やMICE施設が、新たなビジネスチャンス創出の場となるでしょう。一方、地域住民や訪問者にとっても、歩いて楽しい緑豊かな空中回廊や洗練された商業空間が提供され、誰もが集い憩うことのできる有楽町へと進化することが期待されています。
以上のように、「有楽町駅周辺地区まちづくり」計画は官民連携の下で着実に準備が進められており、東京都心のランドスケープを今後大きく変えるプロジェクトとして注目されています。今後の正式発表や工事の進展に引き続き注視しつつ、その動向を速報・報告してまいります。