不動産投資を検討される際、「競売物件なら安く購入できるのではないか」とお考えになる方は少なくありません。確かに、競売物件は市場価格より2~3割程度安く購入できる可能性があり、一見すると魅力的な投資対象に見えます。
しかし、INA&Associates株式会社で多くの不動産投資案件を手がけてきた経験から申し上げますと、競売物件での不動産投資には通常の不動産取引では考えられないリスクが潜んでいます。実際に、「安いから」という理由だけで競売物件に手を出し、想定外のトラブルに巻き込まれるケースを数多く見てまいりました。
本記事では、競売物件での不動産投資をお勧めしない理由と、実際に発生したトラブル事例をご紹介いたします。これらの情報を通じて、皆様が安全で確実な不動産投資を実現していただければと考えております。
競売物件とは何か
競売物件について正しく理解するために、まず基本的な仕組みからご説明いたします。
競売物件の定義と種類
競売物件とは、債務者が住宅ローンなどの返済ができなくなった際に、債権者の申し立てにより裁判所が強制的に売却する不動産のことです。競売には主に3つの種類があります。
強制競売は、税金の滞納や裁判での支払い命令に応じない場合に実施されます。住宅ローンの担保設定がなくても、債務者の不動産が差し押さえられ、競売にかけられることがあります。
担保不動産競売は、住宅ローンや事業ローンの担保として設定された不動産が、債務不履行により競売にかけられるケースです。これが最も一般的な競売の形態となります。
形式的競売は、共有物分割や遺産分割に伴い、法律上の手続きを満たすために行われる競売です。債務の精算を目的としていない点が他の競売と異なります。
競売物件の情報確認方法
競売物件の情報は、「3点セット」と呼ばれる書類で確認します。物件明細書では不動産の権利関係や法的制約、占有者の引渡し条件などが記載されています。現況調査報告書は執行官による現地調査の結果で、物件の使用状況や占有者の有無、建物の構造・設備などが写真付きで報告されます。評価書は裁判所選任の不動産鑑定士による市場価値の評価で、売却基準価額の算定根拠となります。
競売物件の現状と統計データ
競売物件市場の現状を数値で確認してみましょう。
2024年の競売物件動向
2024年の競売物件数は11,415件となり、前年比329件の増加を記録しました。これは2009年以来、実に15年ぶりの増加となります。リーマンショック後の2009年には6万件を超える競売物件が出品されていましたが、その後は毎年減少傾向が続いていました。
しかし、首都圏に限定して見ると、期間入札に付された競売物件数は減少しており、2024年上期の物件数は10年前の約半数まで減少しています。これは地域による格差が存在することを示しています。
価格動向と落札状況
平均落札額については、関東地方で1,356万円、近畿地方で1,160万円となっています。一方で、競売物件の価格は下落傾向にあり、入札本数も減少している状況です。
これらのデータが示すのは、競売物件市場が決して安定した投資環境ではないということです。物件数の変動が激しく、価格の予測も困難な状況にあります。
競売物件での不動産投資をお勧めしない理由
長年の不動産業界での経験を踏まえ、競売物件での不動産投資をお勧めしない主な理由をご説明いたします。
契約不適合責任の免責
最も重要な問題は、競売物件には契約不適合責任(旧:瑕疵担保責任)が適用されないことです。通常の不動産取引であれば、物件に重大な欠陥が発見された場合、購入後でも売主に修繕費用を請求できます。
しかし、競売物件の場合、いかなる問題が発生しても裁判所は一切の責任を負いません。購入後に雨漏りやシロアリ被害が発覚したり、耐震性に問題があることが判明したりしても、すべて購入者の自己責任となってしまいます。
専門的サポートの不在
競売物件では仲介業者が介入しないため、入札手続きから引き渡しまですべて自分で行う必要があります。通常の不動産取引では、仲介業者が物件の調査や契約書の作成、金銭の受け渡しなどを代行してくれますが、競売物件ではそういったサポートは一切ありません。
不動産取引の専門知識が不足している場合、思わぬトラブルに巻き込まれる可能性が高くなります。特に、法的な手続きや権利関係の確認において、専門家のサポートがないことは大きなリスクとなります。
高額な保証金と資金調達の困難
競売物件の入札には、売却基準価額の20%相当の保証金が必要です。例えば、売却基準価額が2,000万円の物件であれば、400万円もの保証金を事前に納める必要があります。
さらに、競売物件はローンを組みにくいという問題があります。金融機関は競売物件を「何らかの問題があって競売にかけられている」と判断し、担保としての価値を低く評価する傾向があります。そのため、現金一括での購入を余儀なくされるケースが多くなります。
物件調査の制約
競売物件では、債務者が居住している場合、内覧ができません。敷地の外からの確認のみで物件の状態を判断しなければならず、隠れた瑕疵を発見することは極めて困難です。
建物の構造的な問題や設備の不具合、周辺環境の問題など、実際に内部を確認しなければわからない重要な情報を得ることができないのは、投資判断において致命的な制約となります。
実際に発生したトラブル事例
ここからは、実際に競売物件で発生したトラブル事例をご紹介いたします。これらの事例は、競売物件投資のリスクを具体的に示すものです。
事例1:想定外のリフォーム費用
ある投資家の方が1,500万円で競売物件を落札されました。外観からは特に問題がないように見えた築15年のマンションでしたが、引き渡し後に内部を確認したところ、深刻な問題が次々と発覚しました。
まず、浴室とキッチンの配管が老朽化により破損しており、水漏れが発生していました。さらに、電気設備の配線に不具合があり、安全上の問題から全面的な交換が必要となりました。屋上からの雨漏りも発見され、防水工事も必要でした。
最終的に、これらの修繕費用は500万円を超え、当初の投資予算を大幅に上回る結果となりました。物件価格と修繕費用を合わせると、近隣の同様物件の市場価格を上回ってしまい、投資としては完全に失敗となってしまいました。
事例2:前所有者の居座り問題
別の事例では、競売で戸建て住宅を落札した投資家が、前所有者の立ち退き問題に直面しました。落札から3ヶ月が経過しても前所有者が退去せず、賃貸経営を開始することができませんでした。
交渉を試みましたが、前所有者は「引っ越し先が見つからない」「引っ越し費用がない」などの理由で退去を拒否し続けました。最終的に弁護士に依頼して法的手続きを進めることになり、強制執行まで約8ヶ月を要しました。
この間の弁護士費用や強制執行費用は約80万円に上り、さらに8ヶ月間の賃料収入を失うことになりました。当初の投資計画では1年目から黒字化を予定していましたが、実際には2年目まで赤字が続く結果となりました。
事例3:管理費滞納の引き継ぎ
マンションの競売物件を落札した投資家が、前所有者の管理費滞納を引き継ぐことになった事例もあります。落札後に管理組合から、過去3年分の管理費と修繕積立金の滞納分として180万円の支払いを求められました。
管理規約により、新所有者が滞納分を引き継ぐ義務があることが判明しましたが、この情報は事前に把握することができませんでした。プライバシーの観点から、管理組合は滞納の有無や金額を事前に開示することはありません。
この予期せぬ出費により、投資収支が大幅に悪化し、当初計画していた利回りを大きく下回る結果となりました。
事例4:建築基準法違反の発覚
築古の戸建て物件を競売で取得した投資家が、建築基準法違反の問題に直面した事例もあります。物件の一部が建築基準法に適合しておらず、賃貸として貸し出すことができない状況が判明しました。
具体的には、増築部分が建築確認を取得しておらず、現行の建築基準法に適合していませんでした。賃貸経営を行うためには、違法部分の撤去または適法化工事が必要となり、その費用は300万円を超えました。
さらに、適法化工事の期間中は賃貸募集ができず、予定していた賃料収入を得ることができませんでした。
事例5:境界問題と近隣トラブル
土地付き戸建ての競売物件で、境界問題が発生した事例もあります。隣地との境界が不明確で、隣地所有者との間で土地の使用範囲について争いが生じました。
前所有者が隣地の一部を無断で使用していたことが判明し、隣地所有者から土地の返還と損害賠償を求められました。境界確定測量や法的手続きに約1年を要し、その間は物件の有効活用ができませんでした。
最終的に土地の一部を隣地所有者に返還することになり、当初想定していた土地面積より狭くなってしまいました。これにより、建築可能な建物の規模が制限され、投資計画の大幅な見直しが必要となりました。
競売物件のリスク分析表
競売物件投資のリスクを整理するため、以下の表にまとめました。
リスク項目 | 発生確率 | 影響度 | 対策の困難さ | 備考 |
---|---|---|---|---|
隠れた瑕疵 | 高 | 高 | 高 | 内覧不可のため事前発見困難 |
前所有者の居座り | 中 | 高 | 高 | 法的手続きが必要な場合あり |
滞納金の引き継ぎ | 中 | 中 | 高 | 事前確認が困難 |
建築基準法違反 | 低 | 高 | 中 | 専門家による事前調査で一部対応可能 |
境界問題 | 低 | 中 | 中 | 測量図等の確認で一部対応可能 |
融資の困難 | 高 | 中 | 中 | 金融機関との事前相談で対応可能 |
高額な保証金 | 高 | 低 | 低 | 資金計画で対応可能 |
この表からもわかるように、競売物件投資には高リスク・高影響の要素が多く含まれており、対策も困難なものが大半を占めています。
安全な不動産投資のための代替案
競売物件以外にも、収益性の高い不動産投資の機会は数多く存在します。
任意売却物件の検討
任意売却物件は、競売になる前に債務者と債権者の合意により売却される物件です。競売物件と比較して、事前の内覧が可能で、売主との交渉も行えるため、リスクを大幅に軽減できます。
価格についても市場価格より1~2割程度安く購入できる場合が多く、競売物件ほどではありませんが、十分な投資メリットがあります。
築古物件のリノベーション投資
築古物件を購入してリノベーションを行う投資手法も有効です。事前に物件の状態を十分に確認でき、リノベーション計画も自由に立てられるため、リスクをコントロールしやすい投資手法です。
適切な物件選定とリノベーション計画により、高い利回りを実現することが可能です。
新築・築浅物件への投資
安定性を重視する場合は、新築または築浅物件への投資も選択肢となります。初期の修繕リスクが低く、長期的な賃貸経営を安定して行うことができます。
利回りは競売物件ほど高くありませんが、リスクを抑えた安定的な投資を実現できます。
まとめ
競売物件での不動産投資について、様々な角度から検討してまいりました。確かに競売物件は市場価格より安く購入できる可能性がありますが、そのリスクは投資初心者の方には到底お勧めできるものではありません。
特に重要なのは、契約不適合責任の免責により、すべてのリスクが購入者に転嫁される点です。専門的な知識と豊富な経験がなければ、適切なリスク判断を行うことは困難です。
INA&Associates株式会社では、お客様の投資目標とリスク許容度に応じて、最適な不動産投資プランをご提案しております。競売物件以外にも、収益性と安全性を両立できる投資機会は数多く存在いたします。
不動産投資をご検討の際は、ぜひ一度ご相談ください。豊富な経験と専門知識を活かし、皆様の資産形成をサポートさせていただきます。
よくある質問
Q1: 競売物件は本当に安く購入できるのでしょうか?
A1: 確かに競売物件は市場価格より2~3割程度安く購入できる場合があります。しかし、隠れた瑕疵や修繕費用、各種手続き費用を考慮すると、最終的な投資コストは市場価格と変わらない、または上回ってしまうケースが多いのが実情です。
Q2: 競売物件でも住宅ローンは利用できますか?
A2: 制度上は利用可能ですが、金融機関は競売物件への融資に消極的です。担保価値が低く評価される傾向があり、融資条件も厳しくなります。また、入札から代金納付まで約1ヶ月という短期間でローン手続きを完了させる必要があり、実際には現金購入を余儀なくされるケースが多くなります。
Q3: 競売物件の情報はどこで確認できますか?
A3: 裁判所が運営する不動産競売物件情報サイト(BIT)で確認できます。物件明細書、現況調査報告書、評価書の「3点セット」をダウンロードして詳細を確認することが可能です。ただし、これらの情報だけでは判断できないリスクが多数存在することにご注意ください。
Q4: 競売物件で成功している投資家もいるのではないでしょうか?
A4: 確かに競売物件で成功している投資家も存在します。しかし、そのような方々は豊富な経験と専門知識を持ち、十分なリスク管理を行っています。初心者の方が同様の成果を期待するのは現実的ではありません。
Q5: 競売物件以外で安く物件を購入する方法はありますか?
A5: 任意売却物件、築古物件のリノベーション、売り急ぎ物件など、競売物件以外にも市場価格より安く購入できる機会は存在します。これらの方法であれば、事前の十分な調査が可能で、リスクを大幅に軽減できます。

稲澤大輔
INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター