Press ESC to close

    市街地開発事業とは?

    不動産業界に身を置く私たちにとって、市街地開発事業は都市の発展と住環境の向上を実現する重要な制度です。

    しかし、一般の方々にとっては「市街地開発事業とは何か」「自分の生活にどのような影響があるのか」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。

    本記事では、INA&Associates株式会社として、市街地開発事業の基本的な仕組みから具体的な種類、メリット・デメリット、そして実際の手続きの流れまで、一般消費者の皆様にも分かりやすく解説いたします。

    都市計画再開発といった専門用語についても、実例を交えながら丁寧にご説明し、皆様の不動産に関する理解を深めていただければと思います。

    市街地開発事業の基本概念

    市街地開発事業とは何か

    市街地開発事業とは、すでに市街地となっている区域や市街化を図るべき区域内において、計画的な街づくりを具体的に行うための事業です。

    この事業は、都市施設の整備が市街地の骨格を線的、点的に整備することを目的としているのに対し、一定のエリアを区切って、そのエリア内で公共施設の整備と宅地の開発を総合的な計画に基づいて一体的に行うものです。

    都市計画法では、市街地開発事業として6種類の事業が定められており、それぞれが異なる目的と手法を持っています。これらの事業は、単なる建築行為ではなく、都市全体の機能向上と住環境の改善を目指す包括的な取り組みとして位置づけられています。

    市街地開発事業の目的と意義

    市街地開発事業の主要な目的は、都市における土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図ることです。

    具体的には、細分化された敷地の統合、不燃化された共同建築物の建築、公園広場や街路樹などの公共施設の整備を行うことにより、防災性の高い安全で快適な都市空間を創出します。

    また、木造密集市街地や低未利用地の残存地域において、防災や生活環境上の課題の解決を図ることも重要な目的の一つです。これにより、住民の生活の質の向上と都市全体の価値向上を実現することができます。

    市街地開発事業の6つの種類

    都市計画法第12条に基づき、市街地開発事業は以下の6種類に分類されています。

    1. 土地区画整理事業

    土地区画整理事業は、市街地開発事業の中で最も多く実施されている事業です。

    都市計画区域内でエリアを区切り、そのエリア内で公共施設(道路、公園、下水道等)の整備改善や、宅地の利用増進を図る事業として定義されています。

    この事業の特徴は、従前の土地所有者が事業後も同じ地区内に土地を所有し続けることができる点です。土地の形状や面積は変わりますが、権利関係は基本的に維持されます。

    バラバラになっている土地を整理して、きれいな区画を作り直すことで、道路や公園などの公共施設を適切に配置し、住環境の向上を図ります。

    2. 新住宅市街地開発事業

    新住宅市街地開発事業は、人口集中が著しい市街地の周辺地域で、健全な住宅市街地の開発や居住環境の良好な住宅地の大規模供給を図る事業です。

    この事業では、都市計画に基づき、区域内の土地を全面的に買収し、新しい住宅地の計画的な開発と供給を行います。大都市圏における住宅不足の解消と、良質な住環境の提供を目的としています。

    事業の実施により、計画的に配置された道路、公園、学校などの公共施設と、良好な住宅地が一体的に整備されます。

    3. 工業団地造成事業

    工業団地造成事業は、既成市街地への産業や人口の集中を抑制するために、首都圏の近郊整備地帯で計画的に市街地を整備したり、都市開発区域を工業都市として発展させるための事業です。

    この事業により、工業用地の計画的な供給と、工業と住宅が調和した都市環境の形成を図ります。また、既成市街地からの工業機能の分散により、都市全体のバランスの取れた発展を促進します。

    4. 市街地再開発事業

    市街地再開発事業は、低層の木造建築物が密集しているなど、災害の危険性がある地区で実施される事業です。

    細分化した土地を集約して不燃化、中高層化した共同建築物(ビル化)として建築し直すと同時に、公共施設を整備する事業として定義されています。

    この事業の特徴は、土地区画整理事業が「面」で行うことに対し、「空間」で行う点です。高層化により土地の高度利用を図り、新たに生み出される床面積(保留床)の処分により事業費をまかないます。

    従前建物・土地所有者等は、従前資産の価値に応じて新しい再開発ビルの床を取得することができます。

    5. 新都市基盤整備事業

    新都市基盤整備事業は、新都市の基盤(道路、鉄道、公園、下水道等の施設)を大都市の周辺部で整備することにより、大都市への人口集中の緩和と住宅地の供給を行う事業です。

    この事業により、大規模な都市基盤施設の整備と、それと一体となった住宅地の開発を行い、新しい都市の核となる地域を形成します。

    6. 住宅街区整備事業

    住宅街区整備事業は、良好な住宅地として開発整備する地区として都市計画に定められたエリア内で、共同住宅の供給と公共施設の整備をするほか、必要に応じて集団的な緑地の確保を行う事業です。

    この事業の実施例は比較的少なく、特定の地域における住宅需要に対応した開発が行われています。

    市街地開発事業のメリットとデメリット

    メリット

    1. 防災性の向上

    市街地開発事業の最も重要なメリットの一つは、防災性の向上です。

    木造密集市街地の解消や建物の不燃化により、火災や地震などの災害に対する安全性が大幅に向上します。また、避難路の確保や防災拠点の整備により、災害時の対応能力も強化されます。

    2. 土地の高度利用

    土地の高度利用により、限られた都市空間を有効活用することができます。

    特に市街地再開発事業では、高層化により新たな床面積を創出し、商業施設や住宅、オフィスなどの多様な機能を集約することが可能です。

    3. 都市機能の更新

    老朽化した建物や施設の更新により、都市機能の更新が図られます。

    最新の設備や技術を導入した建物の建設により、利便性や快適性が向上し、都市全体の魅力が高まります。

    4. 住環境の改善

    公園や緑地の整備、道路の拡幅、上下水道の整備などにより、住環境の改善が実現されます。

    これにより、住民の生活の質が向上し、地域の魅力が高まります。

    5. 資産価値の向上

    事業の実施により、対象地域の資産価値の向上が期待できます。

    インフラの整備や建物の更新により、不動産の価値が上昇し、地域経済の活性化にも寄与します。

    デメリットと課題

    1. 長期間の事業期間

    市街地開発事業は、計画から完成まで数年から十数年という長期間を要します。

    この間、住民や事業者は不安定な状況に置かれることがあり、生活や事業活動に影響を与える可能性があります。

    2. 住民の合意形成の困難

    多数の権利者が関わる事業であるため、住民の合意形成が困難な場合があります。

    特に市街地再開発事業では、都市再開発法上、再開発組合設立時に3分の2以上の同意が必要となり、合意形成に時間を要することがあります。

    3. 事業費の負担

    事業費は工事費、設計費、事務費、補償費等で構成され、事業費の負担が大きくなる場合があります。

    公共施設管理者負担金、国庫補助金、保留床処分金により資金調達を行いますが、権利者にも一定の負担が求められることがあります。

    4. 一時的な生活への影響

    事業期間中は、一時的な生活への影響が避けられません。

    移転や仮住まい、営業の一時停止など、日常生活や事業活動に支障をきたす場合があります。

    市街地開発事業の手続きと流れ

    市街地開発事業の実施には、法定の手続きを経る必要があります。以下に、一般的な手続きの流れを示します。

    段階 内容 期間の目安
    1. 基本構想の策定 地方公共団体による再開発の基本構想策定 1-2年
    2. 都市計画決定 事業区域と事業内容の都市計画決定 1-2年
    3. 事業認可 事業計画の認可取得 6ヶ月-1年
    4. 権利変換認可 権利変換計画の認可取得(再開発事業の場合) 6ヶ月-1年
    5. 工事実施 建設工事の実施 2-5年
    6. 入居・精算 建物完成後の入居と事業精算 1-2年

    1. 基本構想の策定

    地方公共団体が、地域の課題や将来像を踏まえて、再開発の基本構想を策定します。

    この段階では、事業の必要性や基本的な方向性が検討され、住民との意見交換も行われます。

    2. 都市計画決定

    事業区域と事業内容について、都市計画決定の手続きを行います。

    都市計画案の作成、公告・縦覧、都市計画審議会での審議を経て、正式に都市計画が決定されます。

    3. 事業認可

    具体的な事業計画について、事業認可を取得します。

    事業計画書、資金計画、設計図書等の提出が必要で、行政による審査を受けます。

    4. 権利変換認可

    市街地再開発事業の場合、従前の権利を新しい建物の権利に変換する権利変換計画の認可を取得します。

    権利者の合意形成と詳細な権利調整が行われます。

    5. 工事実施

    認可を受けた計画に基づき、建設工事を実施します。

    工事期間中は、権利者の仮移転や営業の継続支援なども行われます。

    6. 入居・精算

    建物完成後、権利者の入居と事業の精算を行います。

    保留床の処分や最終的な費用精算により、事業が完了します。

    よくある質問

    Q1. 市街地開発事業の対象となる地域はどのように決まるのですか?

    市街地開発事業の対象地域は、都市計画法に基づき、市街化区域または区域区分が定められていない都市計画区域内で決定されます。

    具体的には、木造密集市街地や低未利用地の残存地域、防災上の課題がある地域、都市機能の更新が必要な地域などが対象となります。地方公共団体が地域の課題や将来像を踏まえて、事業の必要性を判断し、都市計画決定の手続きを経て正式に決定されます。

    Q2. 市街地開発事業により、自分の土地や建物はどうなるのですか?

    事業の種類により異なりますが、土地区画整理事業の場合は、従前の土地所有者が事業後も同じ地区内に土地を所有し続けることができます。ただし、土地の形状や面積は変わる可能性があります。

    市街地再開発事業の場合は、従前の土地・建物の権利が、新しい再開発ビルの床の権利に変換されます。従前資産の価値に応じて、新しい建物の床を取得することができます。詳細については、事業の担当者にご相談いただくことをお勧めします。

    Q3. 事業期間中の生活や営業はどうなりますか?

    事業期間中は、一時的な移転が必要となる場合があります。住宅の場合は仮住まい、店舗や事務所の場合は仮店舗での営業継続が可能です。

    移転に伴う費用については、事業者が補償を行います。また、営業補償や動産移転費なども支給されます。事業者は、権利者の生活や営業への影響を最小限に抑えるよう、きめ細かな支援を行います。

    Q4. 市街地開発事業に反対することはできますか?

    市街地開発事業は、法定の手続きを経て実施されますが、都市計画決定の段階で住民の意見を述べる機会があります。

    都市計画案の公告・縦覧期間中に意見書を提出することができ、都市計画審議会での審議においても住民の意見が考慮されます。ただし、適法な手続きを経て決定された事業については、基本的に実施されることになります。

    Q5. 事業完了後の維持管理はどうなりますか?

    事業完了後の施設の維持管理は、施設の種類により異なります。

    道路や公園などの公共施設は、地方公共団体が維持管理を行います。再開発ビルなどの建物については、管理組合や管理会社が維持管理を行います。適切な維持管理により、事業効果の持続と資産価値の維持を図ります。

    まとめ

    市街地開発事業は、都市の課題解決と持続可能な発展を実現するための重要な制度です。

    6種類の事業それぞれが異なる目的と手法を持ち、地域の特性や課題に応じて適切な事業が選択されます。事業の実施により、防災性の向上、土地の高度利用、都市機能の更新、住環境の改善、資産価値の向上などの効果が期待できます。

    一方で、長期間の事業期間、住民の合意形成の困難、事業費の負担、一時的な生活への影響などの課題もあります。これらの課題に対しては、十分な説明と丁寧な合意形成、適切な補償と支援により対応することが重要です。

    不動産をお持ちの方や、これから不動産の取得をお考えの方は、市街地開発事業の動向にも注意を払い、専門家のアドバイスを受けながら適切な判断を行うことをお勧めします。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター