鉄骨造(S造)は柱と梁で建物を支える「ラーメン構造」が基本で、耐力壁に頼らず大空間や自由な間取り設計が可能です。この構造では、将来的に間仕切りを移動・撤去しても躯体に影響が出にくいため、リノベーションで間取り変更を行いやすいのが特徴です。一方、鉄筋コンクリート造(RC造)はコンクリートの高い耐久性・耐火性・遮音性を備え、マンションや公共施設に多用されています。本稿では鉄骨造が「リノベしやすい」と言われる理由を、構造面、施工面、コスト・工期の観点から解説します。
構造上の特徴と自由度
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鉄骨造(S造): 柱・梁で支えるラーメン構造が一般的で、室内に構造壁が不要な設計が可能です。そのため大きな吹き抜けや大スパン空間をつくりやすく、将来間仕切りを変えたい場合でも構造補強なしにリフォームできます。軽量鉄骨造でも梁が太いほど間取り自由度が高く、部屋の増減や大きな開口部設置に柔軟に対応しやすいです。
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RC造(鉄筋コンクリート造): RCラーメン構造の場合は柱・梁で荷重を支えるため、鉄骨造同様大空間が可能で間取りの自由度も高いのが特徴です。さらにコンクリート壁は遮音・断熱性に優れ、耐火性能も高い。しかし戸建て住宅や低層建築で多い壁式構造(WRC造)では、耐震のための“耐力壁”が多くなるため壁の撤去が難しく、間取り変更の幅は制限されます。
施工面での柔軟性
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壁・間仕切りの扱い: 鉄骨造では構造に影響しない壁(非耐力壁)が多いため、部屋を広げる目的で間仕切りを撤去する工事が行いやすいです。柱や梁で支える構造上、内装だけをスケルトン状態にしても躯体を活かしたリフォームが可能です。一方、RC造はコンクリート壁自体が構造要素になる壁式構造があるため、構造壁の撤去は基本的に不可です。
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配管・配線の変更: 鉄骨造は躯体の内部を後施工で配管・配線ルートにできるため、リノベ時に設備位置を変更しやすいメリットがあります。一方、RC造は建築時に配管・配線用のスペースを確保してからコンクリートを打設するため、完成後に新しく穴を開けたりルートを変えたりするのは困難です。例えばコンセントやスイッチの位置を変えるための増改築では、鉄骨造のほうが工事が比較的簡単になります。ただし、ろ天井裏や床下のスペースが限られると鉄骨造でもリノベーションが大きく制限されます。
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工期・施工性: 軽量鉄骨は素材が軽く工場生産が進んでいるため、現場施工がスピーディーで工期を短縮できるケースが多いです。施工が早ければ住みながらの工事期間中の負担も小さく、工期短縮によるコスト削減効果も期待できます。これに対しRC造はコンクリートの強度養成や解体・補強工事に時間がかかる場合があり、全体の工期は延びる傾向があります。ただし、重要鉄骨造の場合はトータルの工期はRC造と同程度になることも多くあります。
コスト・工期の違い
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解体・撤去費用: RC造は構造躯体が重量級のコンクリートと鉄筋でできているため、解体費用が高額になります。一般的にRC造住宅の解体費用は約6~8万円/坪といわれ、木造の約2倍に相当します。対して鉄骨造は、軽量鉄骨で約3.5~5万円/坪、重量鉄骨でも約4.5~5.5万円/坪とRC造より低めです。重機を使う工事でも鉄骨材は細断・分別しやすいため廃材処理費も抑えられます。
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材料・施工コスト: 同じ鉄骨造でも軽量鉄骨は材料費・施工費が重量鉄骨より安く、鉄骨造全体でも木造やRC造に比べてコスト効率がよい場合があります。部材が軽いため運搬・施工も容易になり、リノベ全体の費用を抑えられるメリットがあります。ただし、構造補強や断熱改修など追加工事が必要になれば費用は増加するため、RC造・鉄骨造ともに「何を残し何を工事するか」を専門家とよく相談して計画することが肝要です。
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工期: 軽量鉄骨の特徴を活かせば工期を短縮できます。鉄骨造はあらかじめ工場で部材を製作できるため、現場作業日数を減らせる場合が多いのです。一方、RC造はコンクリート打設後の養生期間が必要なケースがあり、工事全体では鉄骨造ほど早いとは限りません。ただし鉄骨造のスケルトンリフォームでも大規模な工事では数ヶ月かかるため、具体的な工期は建物の状態や施工範囲によって変わります。
RC造の強みも押さえてバランスよく
鉄骨造の自由度の高さを紹介しましたが、RC造にも優れた点があります。RC造はコンクリートの質量が大きいため防音性・断熱性が高く、外部騒音を遮断しやすい利点があります。耐火性能も高いため火災時の安全性に優れ、適切に維持すれば非常に長寿命な構造です。またRCラーメン構造の建物は大空間を確保できるため、オフィスビルや商業施設のように開放的な設計が求められる用途に適しています。このように鉄骨造がリノベ向きな理由があっても、RC造のメリットも忘れてはいけません。リノベーションの目的や建物条件に応じて、それぞれの強みと制約を専門家と検討しましょう。
結論
鉄骨造(S造)は柱梁のフレーム構造により間取り変更・配管変更の自由度が高く、一般に内装工事がしやすいことからリノベーションに向いています。一方、RC造はコンクリート躯体ならではの耐久性や遮音性で優れ、長く安全に住み続けるメリットがあります。どちらが優れているというより、目的や将来設計に合った構造を選ぶことが重要です。最適なリノベプランを立てるには、建物の構造形式(鉄骨造かRC造か)を把握し、専門家(建築士・施工会社など)によく相談することが大切です。