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    建築計画概要書がない物件の銀行融資はとおる?

    不動産投資を検討される際、建築計画概要書がない物件に遭遇することがあります。このような物件の購入を検討している投資家の皆様にとって、最も気になるのは「銀行融資を受けることができるのか」という点でしょう。

    建築計画概要書は、建築確認申請時に提出される重要な書類であり、融資審査において金融機関が物件の法的適合性を確認するための基本資料となります。この書類がない場合、融資の可否に大きな影響を与える可能性があります。

    本記事では、INA&Associates株式会社として、これまで数多くの不動産取引に携わってきた経験を基に、建築計画概要書がない物件における不動産融資の実情と、具体的な解決策について詳しく解説いたします。

    不動産投資において、適切な融資を受けることは投資成功の重要な要素です。建築計画概要書がない物件であっても、適切な対処法を理解し実行することで、融資を受けることは十分に可能です。投資家の皆様が安心して不動産投資を進められるよう、実践的な情報をお届けいたします。

    建築計画概要書とは何か

    建築計画概要書は、建築基準法に基づいて建築確認申請を行う際に、建築確認申請書と併せて提出される重要な書類です。この書類は、建築物の基本的な計画内容を要約したものであり、建築主、設計者、工事監理者、工事施工者などの基本情報から、敷地の概要、建築物の概要まで、建築計画の全体像を把握するための情報が記載されています。

    建築計画概要書に記載される主な内容は以下の通りです。まず、建築主に関する情報として、氏名または名称、住所が記載されます。次に、設計者情報として、建築士の氏名、建築士事務所の名称、所在地、建築士免許の種類と登録番号が明記されます。工事監理者についても同様の情報が記載され、工事施工者については、建設業者の商号または名称、住所、建設業許可番号が記録されます。

    敷地に関する情報では、敷地の所在地、敷地面積、建ぺい率、容積率、用途地域などの都市計画に関する制限が詳細に記載されます。建築物の概要については、用途、構造、階数、建築面積、延べ面積、高さなどの基本的な建築データが含まれます。

    この建築計画概要書は、建築確認の審査が完了した後、一般に公開される書類となります。つまり、適法に建築された建築物については、必ずこの書類が存在し、行政機関において保管されているはずです。しかし、実際の不動産取引においては、様々な理由でこの書類が入手できない、または紛失している場合があります。

    不動産ローンの審査において、金融機関は物件の法的適合性を厳格に確認します。建築計画概要書は、その物件が建築基準法に適合して建築されたことを証明する重要な証拠書類の一つです。金融機関にとって、融資対象物件が違法建築でないことを確認することは、融資リスクを適切に評価するために不可欠な作業です。

    建築計画概要書がない場合、金融機関は物件の法的適合性を確認することが困難になります。これは、融資審査において大きなマイナス要因となり、場合によっては融資自体が困難になる可能性があります。特に、物件審査を厳格に行う金融機関では、この書類の不備は致命的な問題となることがあります。

    建築計画概要書がない場合の融資への影響

    建築計画概要書がない物件に対する銀行融資の実情は、金融機関によって対応が大きく異なります。しかし、一般的には融資審査において非常に厳しい評価を受けることになります。

    まず、メガバンクや地方銀行などの一般的な金融機関では、建築計画概要書の提出を融資の必須条件としている場合が多くあります。これらの金融機関では、物件の法的適合性を確認するための書類として、建築計画概要書(建築確認申請台帳記載証明書)または検査済証の提出を求めます。これらの書類がない場合、融資審査の段階で審査が停止されることがあります。

    信用金庫や信用組合などの地域密着型の金融機関では、メガバンクほど厳格ではない場合もありますが、それでも代替書類の提出を求められることが一般的です。これらの金融機関では、地域の実情を理解しているため、建築計画概要書がない物件についても、適切な代替手段があれば融資を検討する場合があります。

    ノンバンク系の金融機関では、銀行よりも柔軟な対応を示すことがありますが、その分金利が高く設定される傾向があります。また、融資条件も厳しくなることが多く、自己資金の比率を高く求められる場合があります。

    建築計画概要書がない物件への融資が困難になる主な理由は、以下の通りです。

    第一に、法的適合性の確認が困難であることです。金融機関は、融資対象物件が建築基準法に適合していることを確認する必要があります。建築計画概要書がない場合、この確認作業が非常に困難になります。違法建築の物件に融資を行った場合、金融機関は大きなリスクを負うことになるため、慎重な姿勢を取らざるを得ません。

    第二に、担保価値の評価が困難になることです。違法建築の可能性がある物件は、将来的に行政指導や建て替え命令を受ける可能性があります。このような物件は担保価値が著しく低下するリスクがあるため、金融機関は融資を躊躇します。

    第三に、売却時のリスクがあることです。建築計画概要書がない物件は、将来的に売却する際にも同様の問題に直面します。買い手が見つかりにくく、売却価格も低下する可能性があるため、金融機関にとって回収リスクが高い物件と判断されます。

    実際の融資審査では、建築計画概要書がない物件について、金融機関は以下のような対応を取ることが多くあります。まず、代替書類の提出を求めます。台帳記載事項証明書や建築基準法適合状況調査報告書などの代替書類があれば、融資を検討する場合があります。

    次に、融資条件の厳格化を行います。金利の上乗せ、自己資金比率の引き上げ、保証人の追加などの条件が付加される場合があります。また、融資期間の短縮や融資額の減額なども検討されることがあります。

    さらに、追加の担保や保証を求められる場合があります。他の不動産を追加担保として提供することや、信用保証協会の保証を付けることなどが条件とされることがあります。

    代替手段と解決策

    建築計画概要書がない物件であっても、適切な代替手段を講じることで不動産融資を受けることは可能です。ここでは、実践的な解決策を詳しく解説いたします。

    建築計画概要書の再取得

    最も基本的な解決策は、建築計画概要書を再取得することです。建築計画概要書は、建築確認申請が行われた市区町村の建築指導課において保管されており、一般に公開されている書類です。

    建築計画概要書の取得手続きは比較的簡単です。まず、物件の所在地を管轄する市区町村の建築指導課に問い合わせを行います。多くの自治体では、窓口での申請のほか、郵送による申請も受け付けています。

    申請に必要な書類は、申請書(自治体指定の様式)、身分証明書の写し、手数料(現金書留または定額小為替)です。手数料は自治体によって異なりますが、一般的には100円から500円程度です。東京都の場合、閲覧は無料ですが写しの取得はできないため、他の代替手段を検討する必要があります。

    申請から取得までの期間は、通常1週間から2週間程度です。ただし、古い物件の場合や、市町村合併により管轄が変更されている場合は、調査に時間がかかることがあります。

    建築計画概要書が取得できない場合もあります。建築確認申請が行われていない違法建築の場合、当然ながら建築計画概要書は存在しません。また、非常に古い建築物の場合、書類が保管されていない可能性もあります。さらに、災害等により書類が滅失している場合もあります。

    台帳記載事項証明書の活用

    建築計画概要書が取得できない場合の代替手段として、台帳記載事項証明書があります。この書類は、都道府県が管理する建築台帳に記載された事項を証明するものです。

    台帳記載事項証明書には、建築確認番号、確認年月日、建築主、設計者、工事施工者、建築物の概要などが記載されています。建築計画概要書と同様の情報が含まれているため、金融機関によっては代替書類として認められる場合があります。

    取得手続きは、都道府県庁の建築指導課または出先機関で行います。申請に必要な書類は、申請書、身分証明書、手数料です。手数料は都道府県によって異なりますが、一般的には数百円程度です。

    ただし、台帳記載事項証明書の閲覧・写しの請求可能範囲は都道府県によって異なります。一部の都道府県では、利害関係者以外の請求を制限している場合があります。事前に管轄の都道府県に確認することが重要です。

    建築基準法適合状況調査の実施

    建築計画概要書や台帳記載事項証明書が取得できない場合、または金融機関がこれらの代替書類を認めない場合は、建築基準法適合状況調査を実施することが有効な解決策となります。

    建築基準法適合状況調査は、国土交通省が策定した「既存建築物の現況調査ガイドライン」に基づいて実施される調査です。この調査では、建築士が既存建築物の現況を詳細に調査し、建築基準法への適合状況を確認します。

    調査の内容は多岐にわたります。まず、建築物の用途、構造、規模などの基本的な事項を確認します。次に、建築基準法の各規定への適合状況を詳細に調査します。具体的には、構造安全性、防火・避難安全性、衛生環境、バリアフリー対応などの項目について、現行の建築基準法に適合しているかを確認します。

    調査の結果、建築基準法に適合していることが確認された場合、「建築基準法適合状況調査報告書」が発行されます。この報告書は、金融機関に対して物件の法的適合性を証明する重要な書類となります。

    調査を実施できるのは、指定確認検査機関または建築士事務所に所属する建築士です。調査の依頼先を選定する際は、金融機関が認める機関であることを事前に確認することが重要です。

    その他の代替書類

    上記の主要な代替手段以外にも、状況に応じて活用できる書類があります。

    検査済証がある場合は、これが最も有力な代替書類となります。検査済証は、建築物の完了検査に合格したことを証明する書類であり、建築基準法への適合性を示す重要な証拠となります。

    建築確認済証がある場合も、代替書類として活用できる可能性があります。ただし、建築確認済証は建築着工前の許可を示すものであり、完成後の適合性を保証するものではないため、金融機関によっては追加の書類を求められる場合があります。

    既存不適格建築物の場合は、「既存不適格建築物調査報告書」を作成することで、現行法に適合していない部分があっても、建築当時の法令には適合していたことを証明できます。

    費用と手続きの詳細

    建築計画概要書がない物件の融資を実現するための各種手続きには、それぞれ異なる費用と期間が必要です。以下の表で、主要な手続きの詳細を比較いたします。

    手続き 費用 期間 取得先 備考
    建築計画概要書 100円~500円 1~2週間 市区町村建築指導課 最も基本的な代替手段
    台帳記載事項証明書 数百円 1~2週間 都道府県庁建築指導課 都道府県により制限あり
    建築基準法適合状況調査 20万円~50万円 1~2ヶ月 指定確認検査機関 最も確実な代替手段
    既存不適格調査 10万円~30万円 2~4週間 建築士事務所 既存不適格物件向け

    建築基準法適合状況調査の費用は、建築物の規模、構造、用途によって大きく変動します。一般的な住宅の場合は20万円から30万円程度ですが、大規模な建築物や複雑な構造の建築物の場合は50万円を超える場合もあります。

    調査費用の内訳は、書類調査手数料、現地調査手数料、報告書作成手数料に分かれます。書類調査では、既存の図面や書類の確認を行います。現地調査では、建築士が実際に現地を訪問し、建築物の現況を詳細に調査します。報告書作成では、調査結果を基に詳細な報告書を作成します。

    調査期間についても、建築物の規模や複雑さによって変動します。一般的な住宅であれば1ヶ月程度で完了しますが、大規模建築物や特殊な構造の建築物の場合は2ヶ月以上かかる場合があります。

    金融機関によっては、特定の調査機関による報告書のみを認める場合があります。融資を検討している金融機関に事前に確認し、認められる調査機関を選定することが重要です。

    調査の結果、建築基準法に適合していない部分が発見された場合は、是正工事が必要になる場合があります。是正工事の費用は別途必要となるため、調査を依頼する前に、ある程度の予算を確保しておくことが賢明です。

    金融機関との交渉戦略

    建築計画概要書がない物件の融資を成功させるためには、金融機関との適切な交渉が重要です。ここでは、実践的な交渉戦略をお示しいたします。

    まず、事前準備が極めて重要です。金融機関に相談する前に、可能な限りの代替書類を準備しておきます。建築計画概要書の取得を試み、取得できない場合はその理由を明確にしておきます。物件の詳細な情報、購入価格、投資計画なども整理しておきます。

    金融機関への相談は、複数の機関に並行して行うことが効果的です。メガバンク、地方銀行、信用金庫、ノンバンクなど、異なる特性を持つ金融機関にアプローチすることで、最適な融資条件を見つけることができます。

    相談の際は、物件の問題点を隠すのではなく、正直に説明することが重要です。建築計画概要書がない理由、代替手段の検討状況、物件の魅力や投資価値などを整理して説明します。金融機関の担当者に対して、誠実で信頼できる借り手であることをアピールします。

    代替書類の提案は、段階的に行うことが効果的です。まず、比較的取得しやすい建築計画概要書や台帳記載事項証明書の提出を提案します。これらが認められない場合は、建築基準法適合状況調査の実施を提案します。

    融資条件の交渉では、柔軟性を持つことが重要です。金利の上乗せ、自己資金比率の引き上げ、融資期間の短縮などの条件を受け入れることで、融資の可能性を高めることができます。ただし、投資収益性を損なわない範囲での妥協が必要です。

    まとめ

    建築計画概要書がない物件であっても、適切な対処法を講じることで銀行融資を受けることは十分に可能です。重要なのは、問題を正確に把握し、最適な解決策を選択することです。

    最も基本的な対処法は、建築計画概要書の再取得です。多くの場合、市区町村の建築指導課で比較的簡単に取得できます。費用も数百円程度と安価であるため、まずはこの方法を試すことをお勧めいたします。

    建築計画概要書が取得できない場合は、台帳記載事項証明書や建築基準法適合状況調査などの代替手段があります。特に建築基準法適合状況調査は、費用は高額になりますが、最も確実な解決策となります。

    不動産投資において、適切な融資を受けることは成功の重要な要素です。建築計画概要書がない物件に遭遇した場合でも、諦めることなく、専門家と相談しながら最適な解決策を見つけることが大切です。

    INA&Associates株式会社では、このような複雑な案件についても、豊富な経験と専門知識を活かして、お客様の不動産投資をサポートいたします。建築計画概要書がない物件の購入をご検討の際は、ぜひ当社までご相談ください。適切なアドバイスと具体的な解決策をご提案いたします。

    よくある質問

    Q1:建築計画概要書がない物件は購入を避けるべきでしょうか?

    A1:必ずしも避ける必要はありません。建築計画概要書がない理由を明確にし、適切な代替手段があれば購入を検討できます。ただし、違法建築の可能性がある場合は慎重な判断が必要です。専門家による詳細な調査を実施し、リスクを十分に評価した上で判断することをお勧めいたします。

    Q2:建築基準法適合状況調査の費用は誰が負担するのでしょうか?

    A2:一般的には、融資を受ける購入者が負担します。ただし、売主との交渉により、費用の一部または全部を売主に負担してもらうことも可能です。購入価格の調整という形で対応する場合もあります。契約前に費用負担について明確に取り決めておくことが重要です。

    Q3:すべての金融機関が代替書類を認めてくれるのでしょうか?

    A3:金融機関によって対応は大きく異なります。メガバンクは比較的厳格で、代替書類を認めない場合もあります。一方、地域密着型の金融機関やノンバンクは柔軟な対応を示すことがあります。複数の金融機関に相談し、最適な融資先を見つけることが重要です。

    Q4:建築基準法適合状況調査で不適合が発見された場合はどうなりますか?

    A4:不適合が発見された場合、是正工事を行うか、現状のまま既存不適格として扱うかを検討します。軽微な不適合であれば是正工事を行い、大規模な改修が必要な場合は既存不適格として扱うことが一般的です。金融機関との相談により、最適な対応策を決定します。

    Q5:古い物件ほど建築計画概要書が見つからない可能性が高いのでしょうか?

    A5:その通りです。特に昭和50年代以前の建築物については、書類の保管状況が不十分な場合があります。また、市町村合併により管轄が変更されている場合も、書類の所在が不明になることがあります。古い物件を購入する際は、事前に書類の存在を確認することが重要です。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター