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    サブリース契約は本当に安定か?潜むリスクと失敗しないための全知識

    不動産投資における「サブリース」という言葉に、どのようなイメージをお持ちでしょうか。

    「空室リスクがなく、安定した家賃収入が得られる」といった魅力的な側面が強調される一方で、近年では「家賃が一方的に減額された」「解約したくてもできない」といった深刻なトラブルが社会問題化しています。

    本記事では、INA&Associates株式会社として、数多くの不動産取引に携わってきた専門家の視点から、サブリース契約の仕組みと、そこに潜むリスクの本質を徹底的に解説します。

    安定という言葉の裏に隠された現実を直視し、皆様の大切な資産を守るための羅針盤となることを目指します。

    サブリース契約の仕組みとメリット・デメリット

    サブリースとは、不動産会社(サブリース業者)がオーナーから物件を一括で借り上げ、入居者に転貸する仕組みです。

    オーナーとサブリース業者が結ぶ契約を「マスターリース契約」、サブリース業者と入居者が結ぶ契約を「サブリース契約(転貸借契約)」と呼びます。

    この二重構造により、サブリース業者は実際の入居者から得る賃料と、オーナーに支払う保証賃料との差額で利益を得るビジネスモデルとなっています。

    メリット:手間なく安定収入を得られる可能性

    オーナーにとって最大のメリットは、空室の有無にかかわらず、サブリース業者から毎月一定の賃料(保証賃料)が支払われる点にあります。

    これにより、賃貸経営における最大の懸念である空室リスクを回避し、安定した収入を見込むことができます。

    また、入居者の募集からクレーム対応、物件の維持管理まで、煩雑な管理業務のほとんどをサブリース業者に委託できるため、手間をかけずに不動産経営を行いたい方にとっては魅力的な選択肢と言えるでしょう。

    さらに、入居者の家賃滞納リスクもサブリース業者が負担するため、オーナーは滞納による収入減少を心配する必要がありません。

    長期契約を結ぶことで、将来の収支計画が立てやすくなるという点も、不動産投資初心者にとっては安心材料となります。

    デメリット:メリットを上回る潜在的リスク

    しかし、これらのメリットには大きな代償が伴います。

    保証される賃料は、本来得られるはずの相場賃料の80~90%程度に設定されるのが一般的です。

    つまり、満室経営を実現できた場合と比較すると、収益性は10~20%低下することになります。

    さらに、契約書には「数年ごとに賃料を見直す」という条項が盛り込まれているケースが多く、当初約束された家賃が将来にわたって保証されるわけではありません。

    むしろ、時間の経過とともに賃料減額を要求されることが常態化しているのが実情です。

    以下のテーブルは、一般的な賃貸管理とサブリース契約の比較です。

    一見するとサブリースは安定しているように見えますが、賃料減額や解約のリスクを考慮すると、その優位性は揺らぎます。

    項目 一般的な賃貸管理 サブリース契約
    収益性 相場賃料の全額(空室時を除く) 相場賃料の80~90%
    空室リスク オーナーが負担 サブリース業者が負担(形式上)
    管理業務 管理会社に委託(費用別途) サブリース業者が実施
    賃料変動リスク 市場に連動 業者から一方的に減額されるリスク大
    契約の柔軟性 比較的容易に解約可能 オーナーからの解約は極めて困難
    売却時の影響 市場価格で売却可能 相場より2割程度安くなる傾向

    後悔では遅い!サブリース契約に潜む深刻なリスク

    サブリース契約がもたらすリスクは、単なる収益性の低下に留まりません。

    契約の根幹を揺るがす、より深刻な問題が存在します。

    リスク1:避けられない「賃料減額請求」

    「30年間家賃保証」といった謳い文句を信じて契約したにもかかわらず、数年後に大幅な賃料減額を要求されるケースが後を絶ちません。

    これは、サブリース契約の多くが「普通借家契約」をベースにしており、借地借家法第32条によって、借主(サブリース業者)からの賃料減額請求権が法的に保障されているためです。

    契約書に「賃料は減額しない」という特約があったとしても、この法律の前では無効とされてしまうのです。

    これは、消費者保護の観点から見過ごせない、構造的な問題をはらんでいます。

    実際の事例として、当初月額100万円で契約したものの、5年後には50万円にまで減額されたというケースも報告されています。

    このような大幅な減額は、オーナーの収支計画を根底から覆し、場合によってはローン返済が困難になる事態を招きかねません。

    リスク2:出口のない「解約不能」の罠

    賃料を減額されたオーナーが契約解除を申し出ても、今度は借地借家法第28条が壁となります。

    貸主(オーナー)からの解約には「正当事由」が必要とされ、単に「収支が悪化した」という理由だけでは、正当事由として認められることは極めて稀です。

    正当事由として認められる可能性があるのは、オーナー自身や親族が建物に居住する必要がある場合、旧耐震基準の物件で建て替えが必要な場合、再開発事業や公共工事により売却が必要な場合などに限られます。

    事実上、一度契約を結ぶと、オーナー側の都合で解約することは非常に困難であり、資産であるはずの不動産が、逆に足かせとなってしまうのです。

    仮にサブリース業者が解約に応じたとしても、月額賃料の6ヶ月~12ヶ月分に相当する高額な違約金を要求されることが一般的です。

    リスク3:高額な「修繕費用」と「違約金」

    建物の経年劣化に伴う大規模修繕の際、その費用負担をめぐってトラブルになることも少なくありません。

    サブリース業者が修繕を主導し、オーナーに高額な費用を請求するケースや、解約に応じる条件として、賃料の6ヶ月~1年分に相当する高額な違約金を要求される事例も報告されています。

    契約書には「大規模修繕はオーナー負担」と記載されていることが多く、修繕の必要性や金額の妥当性について、オーナーが判断する余地がほとんどないのが実情です。

    想定外の修繕費用が発生することで、サブリース契約による「安定収入」という当初の目的が、完全に失われてしまうケースも珍しくありません。

    リスク4:売却価格の大幅な低下

    サブリース契約を結んでいる物件を売却しようとした際、市場価格より2割程度安くなる傾向があります。

    これは、買主側がサブリース契約を引き継ぐ必要があり、賃料減額や解約困難といったリスクを承継することになるためです。

    また、サブリース契約の内容によっては、買主が見つかりにくく、売却期間が長期化するリスクもあります。

    出口戦略を考える上で、この売却価格の低下は無視できない重要な要素です。

    「サブリース問題」とは何か

    相続税法改正により、相続税の基礎控除額が大幅に引き下げられました。

    これを受けて、相続税対策としてアパートやマンションを建設する動きが急増し、その多くがサブリース契約を伴うものでした。

    これらの契約の多くが10年間の固定賃料保証期間を設定しており、2025年前後に一斉に更新時期を迎えることから、「サブリース問題」と呼ばれています。

    更新時期を迎えたオーナーは、大幅な賃料減額を要求されるか、契約更新を拒否されるリスクに直面します。

    特に、人口減少や賃貸需要の低下が進む地域では、サブリース業者からの減額要求がより厳しくなることが予想されます。

    この問題は、単なる個別のトラブルに留まらず、不動産業界全体に構造的な変革を迫る可能性があります。

    「賃貸住宅管理業法」の施行と残された課題

    こうしたトラブルの多発を受け、2021年6月に「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)」が全面施行されました。

    この法律により、サブリース業者に対して以下の点が義務付けられました。

    • 誇大広告の禁止:「家賃保証」など、誤解を招く表現の禁止。
    • 不当な勧誘の禁止:リスクを故意に告げない、虚偽の説明をするなどの行為の禁止。
    • 契約締結前の重要事項説明:家賃の減額条件など、リスクに関する書面を交付し、説明する義務。
    • 契約締結時の書面交付:契約内容を明記した書面の交付義務。
    • 書類の閲覧:業務状況調書や財務諸表の備え置きと閲覧義務。

    この法改正は、オーナー保護に向けた大きな一歩です。

    しかし、法律の根幹である借地借家法の問題が解決されたわけではなく、依然としてサブリース契約には構造的なリスクが内包されたままであることを、私たちは認識しなければなりません。

    賃貸住宅管理業法は、あくまで不当な勧誘や誇大広告を規制するものであり、賃料減額請求権や解約困難といった根本的な問題を解消するものではないのです。

    サブリース契約を検討する際の注意点

    もしサブリース契約を検討せざるを得ない状況にある場合、以下の点を必ず確認してください。

    まず、サブリース業者が国土交通省の賃貸住宅管理業者登録を受けているかを確認します。

    登録業者であれば、一定の基準を満たしており、重要事項説明の義務も負っています。

    次に、契約書の内容を細部まで確認し、特に賃料見直しの条件、解約条項、修繕費用の負担区分について、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。

    また、「定期借家契約」での契約が可能かどうかを交渉することも重要です。

    定期借家契約であれば、契約期間満了時に確実に契約を終了させることができ、普通借家契約に比べてリスクを軽減できます。

    ただし、実際にはサブリース業者が定期借家契約に応じるケースは極めて稀であることも認識しておく必要があります。

    さらに、サブリース業者の財務状況や管理実績を調査し、長期的に安定した経営が見込めるかを判断することも欠かせません。

    業者が倒産した場合、オーナーは入居者との契約を引き継ぐことになり、大きな混乱を招く可能性があります。

    まとめ:安易な選択が未来を縛る

    サブリース契約は、一見すると安定した不労所得を実現する夢のような仕組みに見えるかもしれません。

    しかし、その実態は、法的な不均衡の上に成り立つ、極めてオーナーにとって不利な契約であると言わざるを得ません。

    特に、知識や経験の浅い不動産投資初心者の方ほど、その甘い言葉の罠に陥りやすい傾向があります。

    重要なのは、目先の「安定」という言葉に惑わされず、契約の持つリスクを正しく理解し、長期的な視点で資産形成を考えることです。

    サブリース以外にも、信頼できる管理会社に業務を委託する「一般的な賃貸管理」や、空室時のみ保証を受ける「空室保証」など、選択肢は複数存在します。

    それぞれのメリット・デメリットを冷静に比較検討し、ご自身の投資戦略に最も合致した方法を選択することが、成功への唯一の道です。

    また、既にサブリース契約を結んでいる方は、契約内容を再確認し、更新時期が近づいている場合は、早めに専門家に相談することをお勧めします。

    INA&Associates株式会社は、特定のソリューションに固執することなく、お客様一人ひとりの状況に合わせた最適な不動産戦略をご提案します。

    サブリース契約に関するお悩みや、今後の不動産経営についてご不安な点がございましたら、どうぞお気軽にご相談ください。

    専門的な知見と誠実な対応で、皆様の資産形成を全力でサポートすることをお約束します。

    よくある質問(Q&A)

    Q1.サブリース契約を途中解約したいのですが、可能でしょうか?
    A1.オーナー様からの解約は、借地借家法に定める「正当事由」がない限り、極めて困難です。まずは契約書の内容を確認し、弁護士などの専門家に相談することをお勧めします。正当事由が認められない場合でも、高額な違約金を支払うことで解約できる可能性があります。
    Q2.「定期借家契約」であれば、リスクは少ないのでしょうか?
    A2.理論上は、契約期間の満了とともに確実に契約を終了させられるため、普通借家契約よりリスクは低減されます。しかし、実際にはサブリース業者が定期借家契約に応じるケースは稀です。もし定期借家契約を結べる場合は、契約期間や更新条件を慎重に検討してください。
    Q3.賃貸住宅管理業法ができたことで、もう安心できますか?
    A3.いいえ、安心はできません。法律はあくまで不当な勧誘などを規制するものであり、サブリース契約に内包される賃料減額や解約困難といった根本的なリスクが解消されたわけではありません。契約前の十分な検討と、契約後の定期的な見直しが依然として重要です。
    Q4.サブリース業者を選ぶ際のポイントは何ですか?
    A4.国土交通省の登録業者であることは最低条件です。その上で、財務状況、管理実績、契約内容(特に賃料見直しの条件や解約条項)を徹底的に比較検討する必要があります。しかし、最も安全な選択は、サブリースという選択肢自体を慎重に再考することです。
    Q5.サブリース問題に備えて、今からできることはありますか?
    A5.まず、現在の契約内容を確認し、更新時期や賃料見直しの条件を把握してください。次に、周辺の賃貸相場を調査し、現在の保証賃料が適正かどうかを判断します。更新時期が近い場合は、早めに専門家に相談し、賃料減額への対応策や、場合によっては売却も含めた出口戦略を検討することをお勧めします。
    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター