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    不動産投資でよくあるトラブル事例とその対策

    不動産投資は安定した家賃収入資産形成が期待できる魅力的な投資手法ですが、その裏には様々なリスクが潜んでいます。特に初心者の場合、知識不足から思わぬトラブルに巻き込まれてしまうケースも少なくありません。しかし、事前にリスクを理解し準備をしておけば、こうした失敗を大きく減らすことができます。不動産投資の初心者の方にも安心して一歩を踏み出していただけるよう、本記事ではよくあるトラブル事例その対策方法を具体的に解説します。リスクを正しく恐れ、適切な対応策を講じることで、堅実な投資への道が開けるでしょう。

    よくあるトラブル事例

    初心者が陥りがちな不動産投資のトラブルには、以下のようなものがあります。それぞれ具体的な事例とともに原因を探り、注意点を確認してみましょう。

    購入後に発覚する物件の瑕疵(欠陥)

    購入前の調査が不十分だと、物件購入後になってから深刻な欠陥が見つかることがあります。例えば、築古物件を高利回りに惹かれて安易に購入した結果、契約直後に入居者が全員退去し、雨漏りやシロアリ被害といった隠れた瑕疵が発覚したケースがあります。このような欠陥により大規模な修繕が必要になると、想定外のコスト負担や長期の空室発生につながりかねません。また、売主から事前に説明されていなかった重大な欠陥(重大な構造上の問題、雨漏り、シロアリ被害など)が見つかれば、売主の契約不適合責任(旧瑕疵担保責任)を巡ってトラブルになることもあります。

    注意点:物件の状態については購入前に徹底的に確認することが重要です。築年数が古い物件や見た目ではわからない部分(屋根裏や床下など)は、専門家によるインスペクション(住宅診断)を活用し、雨漏りやシロアリ被害の有無、耐震性などをチェックしましょう。契約時には物件状況報告書や重要事項説明で物理的瑕疵の有無を確認し、不明点は納得いくまで質問する姿勢が大切です。

    想定よりも低い賃料収入(サブリースの誤解含む)

    不動産投資において家賃収入が計画よりも下回ってしまう事例もよく見られます。新築マンションの場合、賃料は年数とともに低下する傾向があり、新築から10年で家賃が約1割下落するというデータもあります。例えば購入当初は想定通りの賃料が得られていても、入居者が退去するたびに再募集時の賃料を引き下げざるを得ず、収入が減少していくケースがあります。結果として、ローン返済や維持費を差し引いた手残りがほとんど残らず、自前で持ち出しが発生してしまう恐れがあります。

    また、「サブリース契約(一括借上げによる家賃保証)」に関する誤解も注意が必要です。サブリース契約では一定期間家賃が保証されると聞こえは良いですが、契約内容によっては数年ごとに保証賃料の見直し(減額)が可能となっている場合が多いのです。実際、サブリースをうたう業者との間で「当初聞いていた保証賃料が途中で引き下げられ、収支が悪化した」というトラブルが各地で発生しています。安易に「30年一括借上げで安心」などと謳う宣伝を鵜呑みにせず、契約書で賃料減額条件や違約金の有無を十分確認することが重要です。

    注意点:収入については常に保守的に見積もることを心がけましょう。賃料は将来下がる可能性を織り込んでおき、「満室想定ありき」ではなく一定の賃料下落や空室を見込んだシミュレーションを行います。また、サブリース契約を利用する場合は、そのメリット・デメリットを理解した上で契約してください。契約前に賃料減額リスクや解除条件について業者からきちんと説明を受け、内容を納得できなければ契約しない勇気も必要です。不明点があれば消費者庁や国土交通省の公表しているガイドラインを確認したり、専門家に相談したりすると良いでしょう。

    空室リスクの軽視

    賃貸経営において空室リスクは避けて通れないものですが、初心者の中にはこれを過小評価してしまう人もいます。「買った物件にずっと入居者がいて当たり前」「空室になってもすぐ次が見つかるだろう」と楽観視していると、思わぬ痛手を被ることがあります。

    例えば、ワンルームマンション1室のみを投資対象とした場合、その1室が空室になると収入はゼロになってしまいます。一方でローン返済や管理費・固定資産税などの支出は続くため、たちまちキャッシュフローが悪化します。実際に、利回りの高さだけに注目して地方の安価な物件を購入したものの、賃貸需要が乏しく空室が埋まらずにローン返済計画が崩れるというケースは珍しくありません。地方物件は表面利回りが高く見えても、人口減少や需要不足で空室が長期化すれば収益どころか持ち出しが増えるリスクがあるのです。

    注意点:空室リスクを軽減するためには、需要の高いエリアの物件を選ぶことが基本です。具体的には、最寄り駅からの距離や周辺環境、大学や企業の近隣といった需要喚起要因を調査し、安定した入居需要が見込めるかを検討しましょう。また、収支計画上は年間空室率を織り込んでおくべきです。例えば「稼働率90%(空室率10%)で計画を立てる」といった具合に、満室前提ではないプランニングが重要です。家賃保証(サブリース)の利用も一つの手ですが、前述の通り保証賃料の水準や契約条件には注意を払い、空室時でも耐えられる資金的余裕を持つようにしましょう。

    管理会社とのトラブル(報告・対応遅延、修繕コストの不透明性など)

    物件の賃貸管理を専門の管理会社に委託している場合でも、管理会社との間でトラブルが発生することがあります。よくあるのは、管理会社の対応の不備に起因するケースです。例えば、入居者から設備故障やクレームの連絡があった際に管理会社の対応が遅いために入居者の不満が高まり、退去につながってしまうことがあります。また、定期報告や緊急時の連絡が滞りがちで、オーナーが物件の状況を把握できないという不満も聞かれます。

    さらに、修繕費用や管理費の不透明さもトラブルの原因となります。たとえば「管理会社に言われるまま高額な修繕工事を承諾した結果、収支計画が狂った」という事例もあります。管理会社を安易に選んでしまい、後から手数料の大幅値上げを通告されるケースも報告されています。このように、管理会社選びや委託契約の内容次第ではオーナーにとって想定外の負担や経営悪化を招くことがあるのです。

    注意点:まず、管理会社は実績と信頼性を重視して選定しましょう。空室対策のノウハウがあるか、入居者対応は迅速か、費用体系は明瞭かといったポイントをチェックすることが重要です。契約内容もよく確認し、報告頻度や緊急対応の取り決め、修繕時の見積もり提示やオーナー了承の範囲などを明文化しておくと安心です。仮に管理会社の対応に不満がある場合は、我慢せずに改善要求を伝えましょう。それでも改善されない場合は、他の管理会社への変更も選択肢に入れてください(管理委託契約の解約条件も事前に確認しておきましょう)。最後に、オーナー自身も基本的な知識を身につけ、修繕費用の相場や賃貸経営の実務を理解しておくことで、不当な請求や対応遅延を見抜きやすくなります。

    契約書・重要事項説明の理解不足

    不動産取引には専門的な契約書類や法律用語がつきものですが、初心者の中には契約書や重要事項説明の内容を十分に理解しないまま契約を結んでしまう人もいます。その結果、「聞いていた話と違う」「そんなことは知らなかった」といった齟齬が生じ、契約後にトラブルに発展するケースが多いのです。

    例えば、契約書に記載された特約事項を見落としたために予想外の制約を後から知ったり、重要事項説明で説明された物件の権利関係や設備の不具合について正しく認識しておらず、後日「告知されていなかった」と紛争になることがあります。実際には説明されていても買主が理解できていなかっただけの場合でも、認識の違いから「言った・言わない」の水掛け論になってしまうこともあります。

    注意点:契約締結前には、契約書と重要事項説明書を熟読し、不明点はそのままにしないことが鉄則です。重要事項説明は宅地建物取引士によって対面またはオンラインで行われますが、専門用語が多いため理解しにくい部分も出てくるでしょう。その際は遠慮せずその場で質問し、十分に説明してもらってください。特に、契約書の特約事項やペナルティ条項、物件の禁止事項などは後々の運用に大きく影響しますので、確実に把握しましょう。また、重要事項説明書に記載の事項(法令上の制限、境界や私道負担の有無、設備の状況など)はメモを取るかコピーを手元に残し、後からでも確認できるようにします。

    契約内容に不安がある場合は、第三者の専門家(不動産コンサルタントや弁護士など)に相談するのも有効です。費用はかかりますが、高額な不動産取引ですので必要経費と割り切る価値はあります。とにかく理解できないまま判を押すことだけは絶対に避け、納得感を持って契約に臨みましょう。

    融資に関するトラブル(返済計画の甘さ、金利変動など)

    不動産投資では金融機関からの融資(ローン)を利用するケースがほとんどですが、融資計画の見通しが甘いことによる失敗も多発しています。具体的には、「なんとか返せるだろう」と楽観的に高額な借入をした結果、月々の返済額が収入を圧迫し、空室が出ると返済が滞るような状況に陥るケースがあります。また、金利や返済期間の設定を誤り、総支払額が膨らみすぎて利益が出にくい貸借構造になってしまうこともあります。例えば、返済期間を短く設定しすぎて毎月の返済負担が重くなりすぎたり、変動金利で借入をして将来的な金利上昇リスクを考慮していなかったために、金利が上がった途端収支が悪化するといった事態です。

    近年は日本でも金利上昇の可能性が取り沙汰されており、変動金利でローンを組んでいる場合は金利変動リスクを無視できません。さらに、不動産投資ローンは住宅ローンに比べて金利が高めに設定されることが多く、借入額も大きいため、わずかな金利の上下が長期では大きな差になります。融資審査に通ったからといって安心せず、「本当にこの借入条件で持ちこたえられるか」をシビアに検証する必要があります。

    注意点:融資を受ける際には、まず綿密な返済計画を立てましょう。収支シミュレーション上は、金利上昇や空室発生を織り込んだ複数パターンを用意し、最悪のケースでも返済が滞らないことを確認します。例えば「金利が今より1%上がった場合」「空室率が想定より悪化した場合」などシナリオごとにキャッシュフローを試算し、年間収支がマイナスにならないラインを保つことが目標です。また、自己資金にも余裕を持たせ、予備費(緊急時の繰上返済や修繕に充当できる資金)を確保しておくと精神的な安定につながります。

    融資条件についても、可能であれば複数の金融機関に相談し、より低い金利や柔軟な返済条件を引き出せないか検討しましょう。固定金利と変動金利の選択も悩ましいところですが、長期保有の予定で金利上昇リスクを避けたいなら固定金利、金利動向を注視しつつ低めの利率を享受したいなら変動金利、といった具合に方針を決めます。いずれにせよ、「楽観シナリオだけで計画を組まない」ことが何より重要です。

    トラブルを回避するための対策

    上述のようなトラブルを防ぎ、安定した不動産投資を行うためには事前の対策と準備が不可欠です。以下に、初心者の方が押さえておくべきポイントを整理します。

    物件選定時のチェックポイント(立地・築年数・インスペクションなど)

    物件選びの段階でどれだけリスクを排除できるかが、その後の投資成績を大きく左右します。チェックすべき主なポイントを見てみましょう。

    • 立地条件の見極め: 賃貸需要の高いエリアかどうかを重視します。最寄り駅からの距離、周辺の大学・企業・商業施設の有無、治安や環境などを調査し、安定して入居者が見込める場所かを判断しましょう。将来的な地域の発展性や人口動態も考慮に入れると◎です。反対に、いくら物件価格が安く利回りが高そうでも需要がなければ意味がないため、需要>供給となるエリアを選ぶのが基本です。

    • 築年数と建物の状態: 築年数から、今後発生しうる修繕リスクを推測します。築浅であれば設備故障のリスクは低いですが、その分価格も高めです。築古の場合、購入後早期に大規模修繕が必要となる可能性がありますので、屋根・外壁・配管・防水といった主要部分の状態を確認しましょう。また、1981年以前の建物は旧耐震基準で建てられているため、耐震性の観点でも注意が必要です。必要に応じて耐震補強の可否も検討しましょう。

    • インスペクション(建物状況調査)の活用: 専門の建築士によるインスペクションを依頼すると、素人では見抜けない欠陥や劣化を把握できます。インスペクションを行えば、雨漏りの兆候やシロアリ被害の有無、構造躯体の健全性などを客観的に診断してもらえます。売主自身も把握していない不具合を発見できる可能性があるため、特に築年数がある程度経過した物件では実施を検討しましょう。調査結果に問題がなければ既存住宅売買瑕疵保険に加入できる場合もあり、購入後一定期間の瑕疵について保険でカバーすることも可能です。

    • 法令上の制限や権利関係: 物件が再建築不可物件でないか、用途地域や接道義務を満たしているか、といった法令上の事項も重要です。再建築不可物件は将来建て替えができず資産価値が伸びにくいですし、違法建築や越境問題を抱える物件は売却時に敬遠されます。必ず重要事項説明書でこれらの点を確認し、リスクが高いものは初心者は避けた方が無難です。

    契約・重要事項説明を理解するための工夫

    契約段階での行き違いや認識不足を防ぐには、自分から積極的に理解しにいく姿勢が求められます。

    • 事前に書類に目を通す: 売買契約書や重要事項説明書は、契約当日に初めて目にするとボリュームが多く圧倒されがちです。可能であれば事前に書類の写しを入手し、下調べしておきましょう。あらかじめ疑問点をメモしておけば、当日の説明時に質問しやすくなります。

    • 専門用語を調べておく: 不明な用語(例:瑕疵(かし)都市計画法第○条など)が出てきたら、その場で聞くのはもちろんですが、事前にインターネットや書籍で基本的な意味を押さえておくと理解がスムーズです。最近は不動産取引の流れを解説した初心者向け書籍やウェブサイトも充実していますので、契約前に一読すると良いでしょう。

    • 重要事項説明は録音OK: 重要事項説明の際は、録音を許可してもらうのも一案です。後から「説明を受けた内容を忘れてしまった」「聞き逃した箇所がある」という場合でも録音があれば安心です。宅建業法上、重要事項説明は書面交付と口頭説明が義務付けられているので、録音自体は問題ありません(ただし録音する旨を担当者に伝えておくと丁寧です)。録音データは自宅に帰ってから再確認し、理解漏れがないかチェックしましょう。

    • 第三者の力を借りる: 前述のとおり、自信がなければ不動産コンサルタントや弁護士等の専門家にセカンドオピニオンを求めるのも有効です。特に投資用物件の場合、仲介業者は販売側の論理で話を進めることもあるため、買主側の視点でアドバイスしてくれる専門家がいれば心強いでしょう。費用対効果を考えつつにはなりますが、「わからないまま契約」だけは絶対に避けるという意識を持ってください。

    収支計画の立て方

    緻密な収支計画は不動産投資の成否を分ける重要なポイントです。以下のステップで計画を立てると良いでしょう。

    1. 収入・支出項目の洗い出し: まず、その物件で見込める収入(家賃、駐車場代、礼金、更新料など)と、発生するであろう支出(ローン返済、管理費、修繕積立金、固定資産税、火災保険料など)をすべてリストアップします。特に忘れがちなのが固定資産税取得時の不動産取得税、購入時の諸費用です。初年度はこれら取得コストも考慮し、長期運用においては将来の大規模修繕費も見据えます。

    2. 保守的な数値設定: 洗い出した各項目に対し、可能な限り保守的な数値を当てはめます。収入側は満室家賃ではなく空室率20〜30%を見込んだ家賃収入や、将来的な家賃下落率(年1〜2%程度を目安)を考慮しましょう。支出側も、修繕費は毎年必ずかからなくとも平均して家賃収入の○%と積み立てる想定にしたり、管理費・税金も将来上がる可能性を踏まえてやや高めに設定します。金融機関提出用の事業計画では楽観的に書く場合もありますが、自分の中では「現実はシビア」くらいの想定でちょうど良いです。

    3. 長期シミュレーション: 少なくともローン完済まで、できれば保有予定期間全体のキャッシュフローを年次シミュレーションします。各年ごとに収入・支出と借入残高の推移を計算し、自己資金の増減も把握します。金利が変動するローンであれば金利上昇シナリオも組み込み、複数パターンで検証しましょう。将来、大規模修繕のタイミング(築○年時など)では支出が増えることも忘れずに盛り込みます。

    4. 収支計画書の検証: 完成した収支シミュレーションが現実的かどうか、客観的に検証します。提示されたシミュレーションが不自然に楽観的ではないか、不動産会社が都合の良い数字を使っていないかチェックしましょう。具体的には、周辺相場とかけ離れた高い家賃設定になっていないか、経費率が低すぎないか(経費ゼロに近い計画は疑うべきです)、ローン返済後のキャッシュフロー改善を過度に当てにしていないか、などです。自作の計画書でも、信頼できる第三者に見てもらえば思わぬ見落としに気づくかもしれません。

    5. リスクヘッジ策の用意: シミュレーション上でマイナスになりうる年がある場合、その対策を考えておきます。たとえば「○年目に大規模修繕で赤字になりそう→その前年までに修繕積立を○万円用意する」「空室が続いた場合にローンが厳しい→一部繰上返済や手元資金注入で返済額を下げる」といった事前の手当てです。プランどおりにいかない状況でも破綻を防ぐシナリオを用意しておくことで、いざという時落ち着いて対応できます。

    信頼できるパートナーの見極め方(管理会社・仲介会社・税理士など)

    不動産投資は様々な関係者の協力によって成り立つため、信頼できるパートナー選びは非常に重要です。どのような専門家・業者を味方につけるべきか見ていきましょう。

    • 賃貸管理会社: 前述のとおり、管理会社の力量次第で賃貸経営の手間や成果は大きく変わります。失敗しないためには、実績豊富で対応が迅速、費用も適正な管理会社を選ぶことです。具体的には、空室発生時の募集力(広告ネットワークや仲介業者との連携が強いか)、入居者の審査基準(入居者の質に直結します)、クレームやトラブル対応の体制(24時間対応窓口の有無など)、修繕費用の見積もり透明性と相場感、といった点をチェックしましょう。契約前に複数社から提案を受け、比較検討すると失敗が少ないです。

    • 不動産仲介会社(販売業者): 物件を紹介してくれる仲介会社や販売業者も、信頼できる相手かどうかを見極めましょう。残念ながら中には自社の販売利益を優先し、リスクを十分説明しない業者や、強引な営業で契約を急かす業者も存在します。信頼できる会社は、物件のメリットだけでなくデメリットもしっかり説明し、購入を迷っているときに無理に契約させようとはしません。また、宅地建物取引業者の免許番号過去の顧客の口コミなども参考になります。取引実績が豊富で地元の情報に詳しい会社、こちらの投資目的を理解して適切なアドバイスをくれる担当者を選びましょう。複数の仲介会社に相談し、対応や提案内容を比較することも有効です。

    • 税理士・会計士: 不動産投資を軌道に乗せるには税務面の最適化も欠かせません。家賃収入や経費計上、減価償却などを適切に処理し、税金対策しつつ正しい申告をする必要があります。不動産に強い税理士であれば、青色申告の指導や経費計上のアドバイスはもちろん、将来的な物件の売却時期の検討(譲渡税の計算)や相続対策まで見据えた相談に乗ってくれるでしょう。毎月の顧問料は発生しますが、税理士に依頼することで税務リスクの軽減や長期的な節税メリットが期待できます。特に物件数が増えてきたら専門家の力を借りることを検討しましょう。

    • その他の専門家: このほか、物件購入時には不動産コンサルタントファイナンシャルプランナーの助言が役立つ場面もあります。客観的な立場から収支計画やリスク分析をしてもらえるからです。また、建物に関しては建築士や施工業者とのネットワークを持っておくと、リフォームやリノベーションが必要になった際に安心です。要は、不動産投資に関わる領域で自分一人で判断が難しい部分を補ってくれるパートナーを作っておくことが、トラブル回避と成功への近道になります。

    リスクを織り込んだ出口戦略の立て方

    不動産投資には「出口戦略」が付き物です。出口戦略とは、最終的に物件をどのタイミングでどのように処分するか(売却するか、保有し続けるか)という計画のことです。この戦略を考えておかないと、「売りたい時に売れない」というリスクに直面しかねません。以下にリスクを織り込んだ出口戦略のポイントを解説します。

    • 目標保有期間を決める: まず、自分がその物件を何年間保有するつもりかおおまかに決めます。ローン完済を目安にするのか、〇年後の市場動向を見越して売却益を狙うのか、人それぞれ戦略は異なりますが、「ずっと持ち続けるつもりだから出口は考えない」という姿勢は危険です。出口を意識せずにいると、市場環境の変化や自身の状況悪化(収入減少や病気など)で手放したくなった時に買い手が付かず身動きが取れない事態にもなりえます。したがって、最初から売却の選択肢を排除しないようにしましょう。

    • 物件の流動性を把握する: 出口戦略を考える上で、その物件が市場でどれくらい流動性があるか(売りやすいか)を把握します。一般的に、都市部の需要が高い物件やファミリータイプのマンションなどは比較的売却しやすいですが、地方のワンルームや再建築不可物件などは買い手が限られ流動性が低いです。流動性が低い物件ほど、売却時に値下げを余儀なくされたり売却自体に時間がかかったりするため、そのリスクを覚悟しておく必要があります。もし流動性に不安があるなら、早めに売却して他の資産に組み替えることも視野に入れましょう。

    • 売却益と損益分岐の計算: 投資時点で損益分岐点(ブレイクイーブン)となる売却価格を計算しておきます。購入価格に諸費用と売却時の手数料・税金を加味し、さらにローン残高も考慮して、いくら以上で売れれば損をしないかを把握します。これによって、「○年後には最低でも△△円以上で売りたい」という目標が明確になります。市場価格がそれを下回りそうであれば長期保有に切り替えるなど、状況に応じた判断がしやすくなります。

    • 複数のシナリオを用意: 出口についても一つに絞らず、複数のシナリオを考えておきます。例えば、「10年後に売却してキャピタルゲインを狙う」が第一シナリオなら、第二シナリオとして「売却益が出せそうになければそのまま賃料収入を得続ける」、第三シナリオで「家賃下落や空室が続けば早期に売却して残債を清算する」などです。シナリオごとに、その時発生するコスト(繰上返済手数料や譲渡税など)も試算しておけば鬼に金棒です。

    • 市場動向のモニタリング: 出口戦略は立てたら終わりではなく、常に市場の動きをウォッチして適宜見直すことも大切です。不動産市況は景気や金融情勢に左右されます。価格が高騰している局面では売却戦略を前倒しし、逆に低迷期には無理に売らずインカムゲイン重視に切り替える、といった柔軟性も求められます。日頃から不動産ニュースや地域の再開発情報にアンテナを張り、出口のタイミングを判断する材料を集めておきましょう。

    まとめ

    不動産投資におけるトラブル事例と対策について見てきました。初心者の方にとっては怖く感じる話もあったかもしれませんが、適切な知識と準備があれば大半のトラブルは未然に防ぐことができます。重要なのは、リスクを正面から受け止め、楽観的なシナリオだけでなく悲観的なシナリオにも目を向けて計画を立てることです。

    不動産投資で成功する人は、闇雲に行動するのではなく事前にリスクを洗い出し、十分な対策を講じている人です。物件選びの慎重さ、契約内容の把握、収支計画の綿密さ、信頼できる専門家との連携、そして将来を見据えた出口戦略――これらをしっかりと押さえておけば、投資初心者であっても堅実に資産を育てていくことができるでしょう。

    最後に、トラブルを恐れるあまり一歩を踏み出せなくなる必要はありません。学びと準備こそ最大の武器です。不動産投資の勉強を重ね、少しずつ経験を積みながら、ぜひ安心・安定した賃貸経営を実現してください。あなたの不動産投資が成功し、将来の豊かな暮らしにつながることを心より願っています。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。