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    不動産管理会社に任せる業務と最新動向

    不動産経営の成否は、不動産管理業務をどれだけ体系的に理解し、適切に委託できるかに左右されます。本レポートでは、日常管理・法務・会計の実務を整理し、賃貸住宅管理業法で求められるポイントと最新DX事例を網羅しました。「管理会社に何を任せるべきか」を可視化し、オーナー様が安心して資産運用に集中できる指針をご提供します。より具体的な運用プランや管理体制のご相談は、INA&Associates株式会社までお気軽にお問い合わせください。

    不動産管理業務とは何か

    「不動産管理業務」とは、賃貸物件のオーナー(賃貸人)から委託を受けて物件の維持管理や家賃などの金銭管理を行う事業のことです。法律上は「賃貸住宅管理業」と定義されており、建物の維持保全家賃・敷金・共益費等の金銭管理の業務をオーナーに代わって行うビジネスとされています。ただし家賃等の金銭管理「のみ」を行う事業はこの法律上の「賃貸住宅管理業」には含まれません。要するに、賃貸経営に伴うさまざまな実務(入居者対応や設備管理、家賃集金など)を専門会社がオーナーの代理として引き受けるものです。

    こうした不動産管理会社は、遠方在住や物件数が多いオーナーにとって欠かせない存在です。実際、日本全国で数多くの管理会社が活動しており、2023年時点で国土交通大臣に登録している賃貸住宅管理業者は約8,943社、その管理戸数は約790万戸に上ります。近年「賃貸住宅管理業法」が施行されたことで、管理会社の業務範囲や義務が明確化され、オーナーと入居者双方にとって安心して任せられる環境が整いつつあります。

    不動産管理会社の主な業務分野

    不動産管理会社が担う業務は多岐にわたり、大きく日常管理法務(契約)管理会計・財務管理の分野に分類できます。以下、それぞれの内容を具体的に見ていきましょう。

    日常管理業務

    オーナーに代わって物件と入居者を日々管理するための業務です。入居者からの連絡対応や物件の維持管理など、日常的に発生する事柄への対処が中心となります。

    • 入居者対応: 入居者からの問い合わせや苦情に対応し、近隣トラブルや設備不良の苦情処理を行います。騒音・水漏れ・異臭・ペット問題などのクレームがあれば迅速に対処し、入居者の快適な生活とオーナーの資産保全に努めます。経験豊富な管理会社に任せることで、オーナーの精神的負担も大きく軽減されます。

    • 入居者募集と契約手続き: 空室が出た際には、新たな入居者募集を代行します。適切な賃料設定や広告媒体の選定、内見対応、入居希望者の審査(収入状況や信用情報の確認)などを行い、入居者が決まれば賃貸借契約の締結手続きを進めます。契約書類の作成や重要事項説明、鍵の受け渡し、入居時の説明なども含まれます。

    • 契約中の対応: 入居中は、設備の故障対応や修理の手配、定期的な建物・設備の点検や清掃を実施します。共用部の清掃(廊下やエントランス、ゴミ置き場の清掃等)や植栽管理など日常管理を通じて物件の美観を保ち、入居者が快適に暮らせる環境を維持します。給排水設備・消防設備など法定点検が必要な設備については専門業者に委託し、適切に維持管理を行います。

    • 家賃収納・滞納督促: 毎月の賃料を入居者から回収し、オーナーへの送金管理を行います。多くの場合、入居者には家賃保証会社への加入を求めるため、万一滞納が発生しても保証会社から立替えを受け取れます。ただし保証会社から入居者への督促が行われるまでの初期対応(入居者への督促連絡や滞納状況の管理)は管理会社が代行します。

    • 退去時対応と原状回復: 入居者が退去する際には、退去立会いを実施し、室内の損傷箇所を確認します。国土交通省の「原状回復ガイドライン」に沿って敷金精算を代行し、適切に修繕費用の精算を行います。退去後は必要に応じてクリーニングやリフォーム工事の手配を行い、物件を入居前の状態に回復させて次の募集に備えます。

    以上のように、入居者対応から建物設備の管理まで日常管理業務は幅広く、オーナーが自分で対応するには時間も専門知識も必要となる事項を包括的にサポートします。

    法務・契約管理業務

    賃貸経営にまつわる契約や法律面の手続きを管理会社が代行・支援する業務です。契約書の作成や法令順守、トラブル発生時の法的対応など、専門知識を要する分野になります。

    • 契約書類の作成・管理: 新規賃貸借契約や更新時の契約書類を作成し、重要事項説明書を準備します。管理会社は不動産の専門家として、契約内容が最新の法律に適合しているか確認し、契約に必要な事項を漏れなく盛り込みます。特に近年は賃貸借契約も電子契約が可能になり、対面に限らずオンライン上で契約締結が完結できるようになっています。

    • 重要事項説明の実施: 入居者との契約時には、宅地建物取引業法に基づき重要事項説明(物件や契約内容についての詳細な説明)を行います。また、オーナーと管理受託契約を結ぶ際にも、管理内容や報酬体系について事前に書面で重要事項説明を行うことが管理会社の義務として法律で定められました。これはオーナーが管理契約の内容を正しく理解し安心して任せられるようにするための措置です。

    • 契約更新・解約手続き: 賃貸借契約期間の満了に際して更新手続きを行ったり、更新しない場合は解約・明け渡しの手続きを進めます。更新契約書の作成や更新料の収受、解約通知の送付など事務手続きを円滑に代行します。契約違反や滞納が続く入居者に対する契約解除や明け渡し交渉も必要に応じて行い、法的な助言や専門家(弁護士)との連携も担います。

    • 法令順守とリスク対応: 賃貸経営に関わる法令(借地借家法や消費者契約法、消防法など)を踏まえた適正な管理を実施します。例えば、原状回復の扱いについては国交省のガイドラインに則りトラブル防止に努める、入居者募集時の広告表示に違反がないようチェックする、暴力団排除条例に基づき反社会的勢力の入居を防止するといった配慮です。万一訴訟沙汰や近隣との紛争に発展しそうな場合も、管理会社が窓口となって状況を整理し、必要に応じて専門の法律家と連携して対処します。

    会計・財務管理業務

    賃貸経営におけるお金の流れを適切に管理し、オーナーへの送金や報告、税務面のサポートを行う業務です。オーナーの収支管理を代行する重要な役割と言えます。

    • 家賃収支管理: 毎月の家賃や共益費、駐車場代等の回収状況を管理し、オーナーへの送金(精算)を行います。集金代行サービスとして、管理会社が一旦家賃を受領し、所定の管理手数料を差し引いた上でオーナーに送金します。入居者からの入金が遅延した場合は督促をかけ、滞納が長引けば保証会社への請求手続きも進めます。家賃管理のデータは会計ソフト等で厳密に記録され、どの物件・契約の家賃か即時に判別できるよう管理されます

    • 敷金・精算金の管理: 入居時に預かった敷金や、退去時に発生する清算金の管理も行います。敷金は法律上オーナーの財産ですが、管理会社が預かり口座で保管し、退去時には原状回復費用との精算を代行します。修繕費が敷金で賄えない場合の追加請求や、余剰敷金の返還手続きも適切に処理します。これら預り金は管理会社自身の口座とは分けた専用口座で分別管理することが法的に義務付けられており、オーナー資産の流用防止が図られています。

    • 経費支出管理: 物件の維持管理に必要な経費の支払い代行も行います。例えば共用部の電気代や水道代、定期清掃の委託料、修繕費用などを一旦管理会社が立替払いし、毎月の家賃収入と相殺して清算することがあります。定期的な経費だけでなく臨時の修繕費についてもオーナーと相談のうえ支出し、帳簿に計上します。こうした物件ごとの収支は定期報告され、後述するように少なくとも年1回はオーナーに対して管理状況(収入・支出や苦情対応状況)の報告義務があります。

    • レポート作成と税務補助: 毎月または四半期ごとに収支報告書を作成し、家賃の入金状況や支出明細、手数料控除額などをオーナーへ報告します。年次では1年間の賃貸収入と経費のまとめを提供し、確定申告の参考資料となる年間収支報告書を発行します。必要に応じて税理士とも連携し、減価償却費や必要経費の計上など賃貸所得の申告に関するサポートも行います。海外在住オーナーの場合は、源泉徴収税の納付代行や納税管理人としての役割を担うケースもあります。これら会計業務により、オーナーは煩雑な金銭管理から解放され、本業や他の投資に注力できるメリットがあります。

    賃貸住宅管理業法の要点整理

    2021年6月に施行された「賃貸住宅の管理業務等の適正化に関する法律(賃貸住宅管理業法)」によって、管理会社には新たな義務や制度が課されました。オーナーが知っておくべき主なポイントを整理します。

    • 登録制度の導入: 賃貸住宅管理業を営む企業のうち、管理戸数が200戸以上の事業者は国土交通大臣への登録が義務付けられました(200戸未満でも任意で登録可能)。登録業者には各種義務が課され、無登録で業を続けると罰則の対象となります。2022年6月までに既存業者の移行登録が進められ、先述の通り約9千社が登録を完了しています。

    • 業務管理者の配置義務: 全ての登録賃貸管理業者は、事務所ごとに「賃貸住宅管理」の専門知識・経験を持つ業務管理者を1名以上配置しなければなりません。業務管理者となるには国家資格化された「賃貸不動産経営管理士」や宅地建物取引士など一定の資格・実務要件を満たす必要があり、無資格で配置せず営業した場合は罰金等の対象となります。これにより各管理会社の専門性向上と、法令順守体制の整備が図られています。

    • 管理受託契約前の重要事項説明義務: 管理会社がオーナーと新たに管理委託契約を結ぶ際、契約締結前にあらかじめ報酬や具体的業務内容・実施方法等を記載した書面を交付して重要事項の説明を行う義務があります。対面だけでなくオンラインでの重要事項説明(IT重説)や電子書面の交付も認められており、オーナーは事前に管理委託の内容を十分理解した上で契約を締結できます。これは悪質な勧誘や説明不足によるトラブルを防ぐ効果があります。

    • 財産の分別管理義務: 管理会社が業務上預かる家賃・敷金などのオーナー財産を、自社の資金と明確に分けて管理することが法令で定められました。具体的には、オーナーから預かる金銭を保管する専用の口座を設け、自社固有の営業用口座とは別に運用します。これにより万一管理会社が経営不振となった場合でも、オーナーの資金が保全されやすくなり、また金銭の流れを帳簿上でも即時に判別できるため透明性が高まります。

    • オーナーへの定期報告義務: 管理受託している物件ごとに、少なくとも年1回以上、管理業務の実施状況についてオーナーに報告することが義務付けられました。報告内容は主に「家賃の収納状況等の収支」「建物の維持管理の実施状況」「入居者からの苦情の発生有無と対応状況」などです。これによりオーナーは定期的に物件の運営状況を把握でき、管理会社とのコミュニケーションも促進されます。多くの管理会社では法律上の年1回に限らず、毎月ないし四半期ごとに詳細なレポートを提供するのが一般的です。

    以上のように、賃貸住宅管理業法によって管理会社のサービス品質の底上げと信頼性向上が図られています。オーナーにとっては、登録業者に委託することで一定の安心感が得られるといえるでしょう。

    不動産管理業務におけるDX事例

    近年、デジタルトランスフォーメーション(DX)の波が不動産管理業務にも及んでおり、IT技術の活用によって業務効率化やサービス向上が進んでいます。ここでは国内における最新のDX導入事例をいくつか紹介します。

    • 物件管理クラウドの活用: 従来、物件情報や契約書類の管理は紙やエクセルで煩雑になりがちでしたが、クラウド型の賃貸管理システムを導入する企業が増えています。例えば、大手不動産会社が**「カナリークラウド」**を導入したところ、入居者への連絡や追客業務の約半分が自動化され、担当者の負担が大幅に軽減されたとの報告があります。契約書や顧客情報が一元化されることで情報検索も容易になり、少人数でもミスなく多くの物件を管理できるようになるなど、生産性向上の効果が出ています。

    • オンライン契約・IT重説: 賃貸契約や管理委託契約の電子化も急速に進んでいます。2022年の電子契約解禁以降、不動産業界でも電子署名サービスを利用した契約締結や、テレビ会議システムを使ったオンライン重要事項説明(IT重説)が一般化しました。いえらぶGROUPの調査によれば、2023年時点でエンドユーザーの**電子契約利用率は前年比約2倍(9.1%→18.0%)**に伸びており、特に賃貸分野でペーパーレス契約の浸透が進んでいます。オンライン契約により来店不要で手続きが完結するため、遠方のオーナー・入居者や忙しい共働き世帯にもスムーズに対応できるようになりました。

    • AIによる入居者対応: 人工知能(AI)技術を活用し、入居者や入居希望者からの問い合わせ対応を自動化・高度化する事例も増えています。

    • スマートロックの導入: 物理的な鍵管理にもDXが及んでいます。スマートフォンやICカードで解錠できるスマートロックを賃貸物件に設置することで、鍵の受け渡し業務や紛失トラブルを削減する管理会社が増えています。

    これらの事例以外にも、IoTセンサーによる建物設備の遠隔監視や、RPA(ソフトウェアロボット)による定型事務作業の自動化など、様々なDXの取り組みが進んでいます。DXの導入により、管理会社は省力化できた時間と労力をより付加価値の高い業務(オーナーへの提案や物件価値向上策の立案など)に振り向けることが可能になっています。オーナーにとっても、オンラインで物件の状況レポートを閲覧できるオーナー専用WEBサービスの提供など、新たなメリットを享受できるようになっています。

    まとめ

    不動産管理会社が担う業務は、日々の物件管理から契約・法務、会計処理に至るまで多岐にわたります。法律によってその業務範囲と責任が明確化され、専門資格を持つ担当者が配置されることで、オーナーは安心して大切な資産を任せることができる環境が整いました。管理会社に委託すれば、入居者対応やトラブル処理のストレスから解放され、安定した賃貸経営による収益確保に専念できます。またDXの進展によって、サービスの迅速化・透明化が進み、物件管理の精度も高まっています。ぜひコラムの内容を参考に、オーナーの皆様には「管理会社に何を任せているのか」を体系的にご理解いただき、信頼できるパートナーと協力してより良い賃貸経営を実現していただければ幸いです。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。