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    エレベーター点検の重要性と基本知識

    マンションやオフィスビルに欠かせないエレベーター。日々の生活や業務を支えるこの設備は、安全性の確保が何よりも重要です。エレベーター点検 は単なる法的義務ではなく、利用者の安全を守り、資産価値を維持するための重要な管理業務です。建築基準法に基づく法定点検から日常的な保守点検まで、その種類や頻度、費用は多岐にわたります。適切な点検体制を整えることで、突発的な故障や事故のリスクを低減し、修繕費用の抑制にもつながります。本記事では、不動産オーナーや管理者が知っておくべきエレベーター点検の基礎知識から実務のポイントまで、専門的かつわかりやすく解説します。

    エレベーター点検の種類と頻度

    エレベーターは多くの人が日常的に利用する重要な設備です。その安全性を確保するため、法令に基づく点検 が義務付けられています。エレベーター点検には主に3種類あり、それぞれ目的や実施頻度が異なります。

    1. 法定点検(定期検査報告)

    建築基準法第12条第3項に基づく法定点検は、エレベーターの安全性を確保するために最も重要な点検です。この点検は「12条点検」とも呼ばれ、年に1回の実施 が義務付けられています。点検結果は特定行政庁(都道府県知事や市区町村長)への報告が必須となります。
    法定点検では、国土交通大臣が定める基準に適合しているかどうかを検査し、エレベーターの機能全般を確認します。この点検を怠ると、建築基準法違反となり、最大100万円以下の罰金 が科される可能性があります。

    2. 定期点検(保守点検)

    建築基準法第8条に基づく定期点検(保守点検)は、エレベーターの性能維持と安全保持を目的としています。法律では明確な頻度は定められていませんが、一般的には 1~3ヶ月に1回 の頻度で実施されています。
    保守点検では、エレベーターの清掃・点検、オイル補給、消耗品の交換などが行われます。この点検は法定点検と異なり、行政への報告義務はありませんが、エレベーターの日常的な安全確保と故障予防のために非常に重要です。

    3. 性能検査・定期自主検査

    労働安全衛生法に基づく性能検査は、積載荷重が1トン以上のエレベーターに対して実施される点検です。クレーン等安全規則に基づく定期自主検査とともに、エレベーターの安全性を確保するための重要な検査となります。

    エレベーター保守契約の種類と選び方

    エレベーターの保守管理を行うためには、専門業者との保守契約が必要です。保守契約には主に2種類あり、それぞれ特徴と費用が異なります。

    1. FM契約(フルメンテナンス契約)

    FM契約は、定期点検に加えて、部品交換や修理費用も含まれる包括的な契約です。突発的な故障や部品交換が発生した場合でも、追加費用なく対応してもらえるため、予算管理がしやすい というメリットがあります。
    一方で、月額費用は比較的高額になります。エレベーター1基あたりの費用相場は、メーカー系で月額4万円~6万円、独立系で月額3万円~4万円程度です。古いエレベーターほど費用が高くなる傾向があります。

    2. POG契約(パーツ・オイル・グリス契約)

    POG契約は、定期点検と消耗品(パーツ・オイル・グリス)の交換のみが含まれる契約です。部品交換や修理が必要になった場合は、その都度追加費用が発生します。
    月額費用はFM契約より安く、エレベーター1基あたりの費用相場は、メーカー系で月額3万円~5万円、独立系で月額1.5万円~3万円程度です。初期費用を抑えたい 場合に選ばれることが多いですが、突発的な故障時には高額な修理費用が発生する可能性があるため注意が必要です。

    エレベーター点検の費用相場

    エレベーターの点検・保守にかかる費用は、契約形態や業者の種類、エレベーターの仕様や築年数によって異なります。適切な予算計画を立てるために、費用相場を把握 することが重要です。

    エレベーター点検・保守の費用相場

    エレベーターの保守契約形態別の費用相場を以下の表にまとめました。
    契約形態 メーカー系(1基あたり) 独立系専門業者(1基あたり)
    FM契約(フルメンテナンス) 4万円~6万円/月 3万円~4万円/月
    POG契約(パーツ・オイル・グリス) 3万円~5万円/月 1.5万円~3万円/月
    ※ 上記金額には消費税は含まれていません。
    ※ エレベーターの仕様(積載量・速度・停止階数)や築年数によって費用は変動します。

    費用に影響する主な要素

    エレベーターの保守点検費用に影響する主な要素は以下の通りです。
    1.エレベーターの種類と仕様:乗用・人荷用・寝台用など種類によって費用が異なります。また、積載量や速度、停止階数が多いほど費用は高くなります。
    2.築年数と経過年数:一般的に古いエレベーターほど部品調達が難しく、故障リスクも高まるため費用が高くなります。特に15年以上経過したエレベーターは費用が上昇する傾向があります。
    3.契約形態:FM契約はPOG契約と比較して月額費用は高くなりますが、突発的な修理費用が発生しないため、長期的な視点では経済的な場合もあります。
    4.点検頻度:一般的には月1回の点検が標準ですが、利用頻度が低い場合は2~3ヶ月に1回の点検に変更することで費用削減が可能な場合もあります。

    エレベーター点検の種類と内容

    エレベーター点検の種類と内容、頻度を以下の表にまとめました。
    点検の種類 法的根拠 実施頻度 主な点検内容 報告義務
    法定点検
    (定期検査報告)
    建築基準法
    第12条第3項
    年1回

    ・制動装置の作動状況
    ・調速機の作動状況
    ・ロープ・鎖の摩耗状況
    ・主要機器の状態
    ・安全装置の作動状況

    あり
    (特定行政庁)
    定期点検
    (保守点検)
    建築基準法
    第8条
    1~3ヶ月に1回
    (一般的に月1回)
    ・各部の清掃・注油
    ・各部の動作確認
    ・消耗品の点検・交換
    ・異常音・振動の確認
    ・安全装置の動作確認
    なし
    性能検査
    (1トン以上の場合)
    労働安全衛生法 年1回 ・荷重試験
    ・安全装置の作動確認
    ・電気系統の確認
    ・機械的強度の確認
    あり
    (労働基準監督署)
    ※ 点検記録は3年以上保管することが義務付けられています。

    エレベーター点検のチェックポイント

    不動産オーナーや管理者が日常的に確認すべきエレベーターのチェックポイントを以下にまとめました。
    確認項目 チェックポイント 確認頻度
    外観

    ・扉の開閉状態
    ・キズや凹みの有無
    ・異音や振動の有無

    毎日
    表示・操作パネル ・ボタンの動作確認
    ・表示ランプの点灯状態
    ・非常用インターホンの作動確認
    週1回
    安全装置 ・戸開走行保護装置の確認
    ・地震時管制運転装置の確認
    ・停電時自動着床装置の確認
    月1回
    点検記録 ・点検実施日の確認
    ・指摘事項の有無
    ・修繕履歴の確認
    点検実施後
    これらのチェックポイントを定期的に確認することで、不具合の早期発見につながり、大きなトラブルを未然に防ぐことができます。また、専門業者による定期点検時には、必要に応じて立ち会い、現状の説明を受けることも重要です。

    まとめ

    エレベーター点検は、単なる法的義務ではなく、利用者の安全確保と資産価値の維持に直結する重要な管理業務です。本記事のポイントを以下にまとめます。
    1.エレベーター点検には3種類ある 建築基準法に基づく法定点検(年1回)、定期点検(1~3ヶ月に1回)、そして積載荷重1トン以上の場合は労働安全衛生法に基づく性能検査が必要です。特に法定点検は特定行政庁への報告が義務付けられており、怠ると最大100万円の罰金が科される可能性があります。
    2.保守契約は2種類から選択可能 FM契約(フルメンテナンス)は月額費用は高いものの、突発的な修理費用が含まれるため予算管理がしやすく、POG契約(パーツ・オイル・グリス)は月額費用を抑えられますが、修理時に別途費用が発生します。物件の状況や予算に応じて最適な契約形態を選びましょう。
    3.業者選定が重要 メーカー系は技術力や部品調達力に優れる一方、独立系専門業者はコスト面で優位性があります。複数の業者から見積もりを取り、サービス内容と費用のバランスを比較検討することが大切です。
    4.日常的な確認と記録の保管 不動産オーナーや管理者による日常的なチェックが不具合の早期発見につながります。また、点検記録は3年以上保管することが義務付けられていますので、適切に管理しましょう。
    5.長期的な視点での管理計画 エレベーターは一般的に15~20年で大規模修繕や更新が必要になります。日々の点検・保守に加えて、長期的な修繕計画を立てておくことが、突発的な高額費用の発生を防ぎます。
    INA&Associatesでは、不動産オーナー様のエレベーター管理に関するご相談を承っております。適切な保守業者の選定から長期修繕計画の策定まで、専門的な観点からサポートいたします。エレベーター管理でお悩みの際は、ぜひお気軽にご相談ください。適切な点検・保守体制の構築が、安全性の確保とコスト最適化の両立につながります。

    よくある質問

    Q1: エレベーター点検は誰が手配するべきですか?

    A: エレベーター点検の手配責任は、建物の所有者または管理者にあります。マンションの場合は管理組合または管理会社、テナントビルの場合はオーナーまたは管理会社が手配します。特に法定点検(定期検査報告)は建築基準法で義務付けられており、これを怠ると罰則の対象となりますので、責任者の明確化が重要です。管理委託契約を結んでいる場合は、通常、管理会社が点検業者との調整を行いますが、最終的な責任は建物所有者にあることを認識しておく必要があります。

    Q2: エレベーター点検費用は管理費に含まれますか?

    A: 分譲マンションの場合、エレベーターの保守点検費用は通常、管理費に含まれています。ただし、大規模な修繕や部品交換が必要になった場合は、修繕積立金から支出されることが一般的です。賃貸物件の場合は、オーナーが負担するのが原則ですが、一部の商業ビルでは共益費として入居者に按分されるケースもあります。契約内容(FM契約かPOG契約か)によって月額費用や突発的な修理費用の扱いが異なりますので、管理規約や賃貸契約書で確認することをお勧めします。

    Q3: エレベーターの更新時期の目安はありますか?

    A: エレベーターの標準的な耐用年数は約20~25年とされていますが、使用頻度や保守管理状況によって大きく異なります。一般的には、設置後15年を経過すると部品の供給が難しくなり始め、20年を超えると故障頻度が高まる傾向があります。更新の判断基準としては、①故障頻度の増加、②部品供給の困難化、③修理費用の高騰、④安全基準の変更などが挙げられます。計画的な更新を行うためには、10年目頃から長期修繕計画に組み込み、費用積立を始めることをお勧めします。

    Q4: エレベーター点検時に立ち会いは必要ですか?

    A: 通常の定期点検(保守点検)では、建物管理者の立ち会いは必須ではありませんが、可能であれば点検の開始時と終了時に立ち会い、現状確認や報告を受けることをお勧めします。一方、年1回の法定点検(定期検査報告)では、検査機関の検査員が立ち入るため、建物管理者または代理人の立ち会いが必要となる場合があります。また、不具合が発生している場合や大規模な修繕を検討している場合は、専門業者の説明を直接聞くためにも立ち会いが望ましいでしょう。

    Q5: 点検後に不具合が見つかった場合はどう対応すべきですか?

    A: 点検で不具合が発見された場合、まず点検報告書の内容を確認し、緊急性や安全性への影響を把握することが重要です。報告書には通常、「要是正」「要重点点検」「要注意」などの区分けがされています。「要是正」項目は早急な対応が必要です。FM契約の場合は契約内容に基づいて修理が行われますが、POG契約の場合は別途見積もりを取り、修理を依頼する必要があります。複数の業者から見積もりを取ることで適正価格を把握できますが、安全に関わる不具合は迅速な対応を優先すべきです。また、修理履歴は必ず記録として保管し、将来の修繕計画の参考にしましょう。

    参考情報

    エレベーター点検に関する詳細情報は、以下の公的機関や業界団体のウェブサイトでご確認いただけます。

    法令・ガイドライン

    1. - エレベーター点検の法的根拠となる法律
    2. - 国土交通省による維持管理指針
    3. - 国土交通省による昇降機の安全対策

    業界団体

    1. - エレベーター業界の主要団体
    2. - エレベーター保守業界の団体
    3. - 日本エレベーター協会による管理者向け情報

    専門情報

    1. - 国土交通省による技術基準解説
     
    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。 【取得資格(合格資格含む)】 宅地建物取引士、行政書士、個人情報保護士、マンション管理士、管理業務主任者、甲種防火管理者、競売不動産取扱主任者、賃貸不動産経営管理士、マンション維持修繕技術者、貸金業務取扱主任者、不動産コンサルティングマスター