東京駅前に壮大なスケールで進行中の「TOKYO TORCH(トウキョウトーチ)」再開発プロジェクト。日本一の高さとなる超高層ビル「Torch Tower」を中心とした新たな街区が、東京の玄関口にふさわしいランドマークとして姿を現しつつあります。本稿では、不動産の専門家として、このプロジェクトの概要と最新の進捗状況、さらには都市開発が持つ意義について考察いたします。
TOKYO TORCHは、東京駅日本橋口前に位置する常盤橋街区において、東京駅周辺で最大となる約3.1ヘクタールの敷地で進められている大規模複合再開発プロジェクトです。三菱地所を中心とする開発事業者が、大手町連鎖型都市再生プロジェクト第4次事業として、街区内の下水ポンプ所および変電所といった都心の重要インフラの機能を維持しながら、10年超の事業期間をかけて4棟のビル開発を段階的に進めています。
プロジェクトの中核となるのは、高さ約385mの「Torch Tower(B棟)」で、完成すれば日本一の高さを誇る超高層ビルとなります。その他、既に完成している「常盤橋タワー(A棟)」(高さ212m)や「銭瓶町ビルディング(D棟)」、今後建設される「変電所棟(C棟)」と、街区中央に広がる約7,000㎡の大規模広場「TOKYO TORCH Park」で構成されています。
このプロジェクトは段階的に開発が進められており、2021年6月末には「常盤橋タワー」、2022年3月末には「銭瓶町ビルディング」が既に竣工しています。そして2023年9月27日に「Torch Tower」の起工式が執り行われ、現在建設工事が進行中です。2025年5月現在の工事進捗率は20%程度とされており、完成予定は2028年3月末となっています。
常盤橋タワー(A棟)は、地上40階、高さ212m、延床面積約146,000㎡のオフィスと商業施設からなる複合ビルで、既に稼働しています。外装デザインには「次の100年も東京の成長を牽引していく」という思いが込められ、未来を拓く「刀」と、歴史や伝統の奥深さを感じさせる「重ね」を表現したデザインとなっています。
Torch Towerは、地下4階・地上62階建て、延床面積約55万3000㎡の超大型複合施設です。このビルには、基準階約2,000坪の超高層オフィス、大規模商業機能に加えて、展望施設、住宅、ウルトララグジュアリーホテル、2,000席級のホールなど、多様な機能が集約されています。
設計は三菱地所設計をコアアーキテクトとし、頂部デザインに建築家の藤本壮介氏、低層部デザインに永山祐子氏、広場デザインに福岡孝則氏を迎えた建築デザインチームが担当しています。また、環境面への配慮として、LEED認証のゴールドランク予備認証とWELL認証の予備認証を取得しており、竣工後もゴールド認証を取得する見込みです。
TOKYO TORCHの街区は、江戸時代に江戸城への表玄関である常盤橋御門が存在した場所であり、参勤交代の際には各地から大名が集まる重要な場所でした。明治時代には現存する石造の常磐橋が造られ、昭和初期には東京市の銭瓶ポンプ所が設置され、高度経済成長期には下水ポンプ所・変電所などのインフラ施設との複合開発が進められました。
こうした歴史的背景を踏まえ、TOKYO TORCHのコンセプトは「想いを繋ぎ、未来を灯すまち」と定められています。このコンセプトには、この場所の持つ歴史や携わった方々の想いを次世代に繋ぎ、これからこのまちで過ごす人々とともに新たな価値を生み出していきたいという願いが込められています。
特筆すべきは、TOKYO TORCHが全国各地の自治体と積極的に連携し、日本の文化・魅力を発信する取り組みを進めていることです。茨城県つくば市の「つくばの天然芝」、新潟県小千谷市の「錦鯉が泳ぐ池」、新潟県佐渡市の「佐渡島の金鉱石」、福島県の「巨大赤べこ」など、日本各地の特色ある文化や産物を東京の中心で紹介する試みが行われています。
また、TOKYO TORCH Marketと題したマーケットを定期的に開催し、地方の名産品販売だけでなく、体験や学びの機会を提供することで、コミュニティ形成の場としても機能しています。
不動産業界の視点から見ると、TOKYO TORCHプロジェクトは単なる大規模開発を超えた意義を持っています。
第一に、都市機能の高度化と再編です。インフラ施設との複合開発という難易度の高いプロジェクトを実現することで、都市の機能を維持しながら新たな価値を生み出す先進的なモデルとなっています。これは今後の都市再生において重要な示唆を与えるものです。
第二に、持続可能性への取り組みです。環境認証の取得や、広場・空中散歩道などの豊富なオープンスペースの設置、高効率設備の導入、雨水と雑排水の効率的な再利用など、環境と人の健康に配慮した開発が進められています。これらは今後の不動産開発の方向性を示すものといえるでしょう。
第三に、複合機能による価値創出です。オフィス、商業、ホテル、住宅、ホールなど多様な機能を一体的に開発することで、24時間活気ある街区を形成し、不動産としての総合的な価値を高めています。
TOKYO TORCHプロジェクトの完成は2028年を予定していますが、その過程と完成後の運営には様々な課題も存在します。
ひとつは、コロナ禍以降のオフィス需要の変化です。テレワークの浸透により、オフィスに求められる機能や価値が大きく変わりつつある中で、これだけの大規模なオフィススペースをどのように活用していくのかが問われています。
また、インバウンドの回復やビジネス環境の変化に応じて、ホテルや商業施設の需要も流動的です。こうした不確実性の中で、柔軟に対応できる施設設計や運営体制が求められるでしょう。
さらに、地域との連携をいかに継続・発展させていくかも重要です。一過性のイベントではなく、持続的な関係性を構築することで、真の意味での「日本を明るく、元気にする街」が実現できるのではないでしょうか。
TOKYO TORCHプロジェクトは、単に日本一高いビルを建設するというハード面だけでなく、歴史や文化を重視し、地域との連携を大切にするというソフト面も含めた総合的な都市開発です。東京の新たなランドマークとしてだけでなく、日本各地をつなぎ、世界に日本の魅力を発信する拠点となることが期待されています。
私たち不動産業に携わる者としても、このような大規模開発から学ぶべきことは多くあります。建物だけでなく、そこに集う人々の暮らしや体験、さらには地域や社会とのつながりを考慮した開発こそが、真の価値を生み出すものだということを改めて認識させられます。
TOKYO TORCHが、その名の通り「世界を明るく輝かせる光」となり、「日本のこれからをつくる多様な人々を引き寄せる灯り」となることを心から期待しています。