INA online

渋谷駅周辺再開発の全体像と不動産価値への影響

作成者: 稲澤大輔|2025/05/21 3:12:51 Z

渋谷駅周辺は、100年に一度とも言われる大規模再開発の真っ只中にあります。次々と新たなランドマークが誕生し、街の景観や機能が大きく変貌しています。この変化はオフィス市況や商業施設の集客力、居住ニーズにも影響を及ぼし、周辺不動産の価値動向に直結しています。本記事では、渋谷駅周辺で進行中・計画中の主要再開発プロジェクトの最新動向を整理し、それによる市場変化や今後の地価・賃料の推移見通し、不動産投資家にとっての機会とリスク、さらには長期的な渋谷エリアのポテンシャルについて考察します。

渋谷駅周辺の主要再開発プロジェクト動向

渋谷駅周辺では2000年代以降、鉄道の地下化や駅機能の再編と連動して大規模再開発が推進されてきました。その結果、2010年代から現在にかけて多数の大型複合ビルが誕生し、街の様相が刷新されています。まず近年完成した主なプロジェクトと、今後予定されている開発計画を時系列で整理します。

近年完成した主なプロジェクト(~2024年)

  • 2012年4月:渋谷ヒカリエ – 地上34階・高さ約182mの大型複合ビル。東口に新たなオフィス・商業拠点を創出し、渋谷再開発の先駆けとなりました。

  • 2018年9月:渋谷ストリーム – 地上35階・高さ約180m。旧東横線の地上線跡地再開発で誕生した複合施設で、オフィスに加えホテルや飲食店、渋谷川沿いの遊歩空間を備えています。Googleの日本本社が入居したことでも話題となりました。

  • 2019年3月:渋谷ソラスタ – 地上21階・高さ約107mのオフィス棟。IT企業などに人気の神南エリアで、最新設備を備えたハイグレードオフィスを供給しました。

  • 2019年11月:渋谷フクラス – 地上18階・高さ約103mの複合ビル。旧東急プラザ跡地の再開発で、西口バスターミナルと直結し、商業施設やオフィスの他、観光案内所など公共機能も包含しています。

  • 2019年11月:渋谷スクランブルスクエア(第I期:東棟) – 地上47階・高さ約230mに及ぶ超高層複合ビルで、渋谷駅直結の新ランドマークとなりました。高層部には展望施設「渋谷スカイ」も開業し、国内外から多くの来訪者を集めています。

  • 2020年7月:MIYASHITA PARK(ミヤシタパーク) – 宮下公園の再整備による地上4階建て商業棟+18階建てホテル棟の複合施設。屋上公園と商業施設の融合により、渋谷の新たな憩いとトレンド発信の場となっています。

  • 2023年3月:道玄坂通(Dogenzaka-dori) – 地上28階・高さ約119mの大型複合ビル。旧ドン・キホーテ渋谷店一帯の再開発で、2~10階を大規模オフィスフロア(1フロア約526坪)、11~28階を外資系ライフスタイルホテル「ホテルインディゴ東京渋谷」が占めます。低層部には商業店舗、敷地内を通り抜け可能な新たな通路も整備され、周辺回遊性が向上しました。

  • 2023年11月:Shibuya Sakura Stage(渋谷サクラステージ) – 渋谷駅南西・桜丘町地区の大規模再開発。約2.6haの敷地に複数棟を配置し、A街区の超高層オフィス棟(A1棟:39階・高さ179mほか)とB街区の高層複合棟(30階・高さ127m)等から成ります。大規模オフィス(基準階面積842坪)に加え、商業施設、起業支援施設、住宅・サービスアパートメントなど「働く・遊ぶ・住む」を備えた都市空間を実現しています。駅と桜丘エリアを結ぶ歩行者デッキも整備され、渋谷の新たな玄関口となりました。竣工後の2024年7月には商業ゾーンに37店舗が一斉オープンし、更なる賑わいを創出しています。

  • 2024年5月:渋谷アクシュ(SHIBUYA AXSH) – 渋谷ヒカリエに隣接し青山通り沿いに完成した地上23階・高さ約120mの複合ビルです。5~23階は最先端の環境対応型オフィス(1フロア約400坪)、1~4階は商業フロアで構成されます。ヒカリエや周辺街区とデッキや広場で接続し、高低差のある東口エリアの回遊性を飛躍的に高めています。「青山と渋谷を握手でつなぐ」という意味を込めた名称の通り、渋谷東口の新たなランドマークとして2024年7月にグランドオープンしました。

計画中の「道玄坂二丁目南地区」(高層棟・中層棟)完成イメージ。左奥に既存の渋谷スクランブルスクエア東棟、右手前に渋谷マークシティが見える。再開発によりマークシティと新棟がデッキで直結予定。

今後予定される主なプロジェクト(2025年以降)

  • 2026年度:MITAKE Link Park(仮称) – 渋谷一丁目、旧都立児童会館跡地等を活用した官民連携の複合開発計画。地上14階・地下2階建て規模で、オフィスや店舗の他、創造文化・教育施設、賃貸住宅、多目的ホール等を含む多機能施設となる見込みです。ヒューリックと清水建設が事業主体となり、2024年度着工・2026年度完成を目指しています。

  • 2027年2月:道玄坂二丁目南地区第一種市街地再開発事業 – 渋谷マークシティに隣接する約0.8haの大規模再開発計画です。老朽化したビル群7棟を一体建替えし、地上30階・高さ約155mの高層棟(オフィス主体)と地上11階・高さ約60mの中層棟(高級ホテル「TRUNK HOTEL」予定)で構成されます。2022年に再開発組合が設立され、2026年度の竣工予定です。完成すればマークシティと新棟がデッキ連絡し、道玄坂エリアと駅直結施設が一体化します。

  • 2027年度:渋谷スクランブルスクエア第II期(中央棟・西棟) – 渋谷駅直上の再開発最終段階として、既存東棟に続き中央棟(地上10階・高さ約61m)と西棟(地上13階・高さ約76m)の2棟が建設中です。中央棟はJR渋谷駅の真上に位置し駅施設と直結、西棟は旧東急東横店跡地を中心に整備されます。両棟合計の延床面積は約27.6万㎡に及び、2027年度の完成を予定しています。これにより渋谷駅街区の再編が完結し、駅東西をつなぐ巨大デッキや地下広場など交通結節機能も一体で整備される見込みです。

  • 2028年度:宮益坂プロジェクト(宮益坂下交差点地区) – 渋谷駅東口の宮益坂下交差点周辺を対象とする大規模複合開発計画です。A街区に地上33階・高さ約180m、延床約19万㎡の超高層タワーを建設し、上層部に国際水準のホテル、中上層にオフィス、低層部に多目的ホールや商業施設、産業育成支援施設等を配置予定。隣接するB街区(地上7階建て)は商業ビルとなり、A街区とデッキ接続されます。2024年度着工・2028年度竣工予定で、東口エリアに新たなランドマークが誕生する計画です。

  • 2029年度:渋谷二丁目西地区再開発(Shibuya Regeneration Project) – 青山通りと六本木通りに面した約2.9haという渋谷エリア最大規模の再開発計画です。敷地内をA・B・Cの3街区に分け、A街区には上空広場を備えた低層棟、B街区には地上41階・高さ約208mのオフィス・ホテル主体の超高層タワー、C街区には地上41階・高さ約175mの住宅主体タワーを建設予定。各街区はペデストリアンデッキで相互接続され、駅と周辺市街地を結ぶ歩行者ネットワークも整備されます。2025年度本体着工・2029年度完成目標とされており、完成すれば渋谷エリアの都市機能がさらに強化されるでしょう。

以上のように、渋谷駅周辺では既に完成した施設と今後数年で完成予定の施設が多数存在します。2010年代の「第1ステージ」では駅直結のヒカリエやスクランブルスクエア東棟をはじめ大規模ビルが林立し、2020年代後半の「第2ステージ」では桜丘・道玄坂・宮益坂など周辺エリアを含むさらなる開発が控えています。これら再開発により都市としてのキャパシティが飛躍的に拡大・高度化する一方、街全体の用途構成も多様化しています。次章では、このような開発が渋谷駅周辺のオフィス市況や商業・居住ニーズにどのような変化をもたらしているかを見ていきます。

オフィス市況:供給拡大と需要動向の変化

渋谷は近年の再開発によってハイグレードなオフィス供給が増加し、IT・クリエイティブ企業を中心にテナント需要が高まっています。事実、2023年に大量供給された新築オフィスも2024年には順調に埋まり、渋谷区全体のオフィス空室率は2024年2月に4.38%まで上昇した後、改善に転じて同年末には2.60%まで低下しました(前年同月比▲1.37ポイント)。コロナ禍以降のリモートワーク定着により一時空室増加が懸念されましたが、2024年は出社回帰の流れもあり、「対面コミュニケーションの促進」や「優秀人材の確保」を目的とした増床移転が相次いだと分析されています。特に渋谷区(中でも渋谷駅周辺)は、IT企業やグローバル企業の強いニーズを背景に空室消化と賃料回復が顕著でした。

賃料面でも、渋谷区の平均募集賃料(月額)は2024年末時点で坪32,164円と前年比+2,585円の上昇を示し、都心5区平均を上回る回復を遂げています。千代田区(大手町・丸の内エリア)の坪4万円超には及ばないものの、渋谷は港区・新宿区と並び都内で屈指の高賃料エリアとなりました。新築ハイグレードビルでは坪3万円台後半~4万円台の水準で成約するケースも出ており、渋谷のオフィス市場は従来の「ベンチャー向け安価なオフィス集積地」から、「大企業も進出する高付加価値オフィス拠点」へと進化したと言えるでしょう。

もっとも供給増加の影響が全く無かったわけではありません。2020~2023年にかけて渋谷ではスクランブルスクエア、サクラステージ、道玄坂通など大型オフィスが次々竣工したため、一時的に空室率が上昇し賃料が調整局面を迎えた時期もありました。しかし上述の通り需要が旺盛で吸収が順調に進んだため、現在は適正水準の空室率(約3%前後)に戻りつつあります。新築ビルの多くが高稼働率で稼働開始しており、渋谷を拠点とする企業の顔ぶれも、スタートアップからGoogleやMetaといった外資IT大手、金融関連の新興企業まで多岐にわたっています。再開発により質・量ともにオフィス市場がレベルアップしたことで、渋谷は引き続き「働きたい街」「拠点を構えたい街」として高い人気を維持すると見込まれます。

商業施設需要:集客力とテナント動向の変化

渋谷といえば若者文化・流行の発信地として商業の街というイメージがありますが、実はこれまで商業施設の絶対量が他副都心と比べ少なかった面があります。渋谷は、地形的に盆地状の狭いエリアで大型店の数を増やしにくく、これまで東急百貨店やパルコ、109(マルキュー)など限られた商業施設がひしめく状態でした。そのため近年の再開発でも「スクラップアンドビルド」による商業床の更新が中心で、新規に商業面積が爆発的に増えているわけではなく、過剰供給との認識はないとされています。

実際、渋谷エリアの商業空間は不足気味との見方もあり、再開発で供給された新施設には軒並み高いテナント需要があります。渋谷スクランブルスクエア、渋谷パルコ(2019年建替オープン)、ミヤシタパーク、サクラステージ、アクシュなど、新しくオープンした商業施設はいずれも話題性の高いショップやレストラン、体験型コンテンツを揃え、高い集客力を発揮しています。例えば2024年7月に本格開業した渋谷サクラステージの商業ゾーンでは、開業直後の周辺歩行者数が従前比43%増加し、渋谷の新たな回遊スポットとなったとの報道もあります。渋谷アクシュにも国内初出店の店舗を含む個性的なテナントが集積し、東口エリアの人の流れを大きく変えつつあります。

さらにインバウンド(訪日観光客)需要の回復も渋谷の商業市場を後押ししています。渋谷スクランブル交差点やハチ公前広場は海外観光客の定番スポットとなっており、コロナ後の観光再開で渋谷を訪れる外国人も急増しています。展望施設「渋谷スカイ」はSNS映えスポットとして人気を博し、渋谷パルコ内の任天堂やポケモンのオフィシャルショップは連日行列ができるほどです。渋谷中心街の小売売上高もコロナ前水準に戻りつつあり、商業賃料も堅調ないし上昇傾向にあります(テナント募集賃料がエリアによって前年比数%上昇との調査あり)。

以上のように、再開発によって商業インフラが拡充・刷新された渋谷は、一段と多様な消費ニーズに応える街へと進化しました。しかし「リアルとバーチャルの融合」「モノ消費からコト消費への転換」といった大きな課題もあります。渋谷には情報発信力があり「体験したいから渋谷に来る」人々を引き付ける力がありますが、その期待に応えるため今後も商業空間の質的充実を図る必要があるでしょう。渋谷エリアの開発事業者は引き続き体験価値を重視した商業づくりを進める方針を示しており、渋谷の商業ポテンシャルはまだ拡大の余地が大きいと考えられます。

居住ニーズの変化:都心居住と「暮らす街」への転換

従来、渋谷駅周辺はオフィス・商業が中心で居住者は少ないエリアでした。しかし近年は「都心に住む」ニーズの高まりや街の利便性向上を受け、渋谷を居住地として選ぶ人も増えています。再開発プロジェクトでも住宅用途を取り入れるケースが見られ、例えば渋谷サクラステージのB街区(渋谷SAKURAタワー等)には分譲マンションやサービスアパートメントなど住宅機能が組み込まれました。渋谷駅至近で職住近接のライフスタイルを実現できる数少ない機会とあって、高額帯ながら注目を集めています。

また、桜丘エリアや渋谷二丁目エリアでは超高層オフィスビルと並んで高級賃貸レジデンスの建設も計画されています。渋谷二丁目西地区再開発のC街区には41階建ての住宅棟が予定されており、将来的に数百戸規模の新築住宅が供給される見込みです。これは渋谷駅徒歩圏では過去例を見ない大規模な居住空間となり、完成すれば富裕層や高度専門職外国人などの新たな住民層を取り込む可能性があります。

渋谷区全体で見ても都心回帰の流れから人口は堅調で、平均所得水準も23区内で上位です。恵比寿・広尾・代官山といった高級住宅街を抱える渋谷区は元々住宅ニーズが高いエリアですが、近年は渋谷駅周辺にも暮らしの場としての魅力が生まれつつあります。再開発に伴い駅前広場や公園が再整備され、安全・快適な歩行者空間や防災性の向上など「住環境」としての質も上がっています。例えば渋谷駅東口には大規模な地下広場やペデストリアンデッキが整備され、ベビーカーや車椅子でも移動しやすいバリアフリー動線が確保されました。駅周辺の利便施設(商業、医療、行政サービス等)が充実したことで、日常生活を完結できる利点も増しています。

総じて、渋谷は「働く・遊ぶ街」から「働く・遊ぶ・暮らす街」へと進化を遂げつつあります。ただし課題もあります。住宅系用途の供給が限られるため賃料・価格水準は非常に高止まりしており、一般的なファミリー層が気軽に住める街ではありません。渋谷区の平均マンション価格(新築)は都内トップクラスで、賃貸相場もワンルームで月十数万円程度が当たり前です。したがって当面は富裕層単身・DINKSや外国人エグゼクティブ等が主な居住者となるでしょう。しかし将来的に住宅ストックが増え、街の24時間活性化が進めば、渋谷が真の意味で「住みたい街ランキング」に名を連ねる日も来るかもしれません。

地価・賃料の推移データと今後の見通し

大規模再開発による渋谷エリアの価値向上は、地価や賃料の指標にも顕著に表れています。渋谷区の公示地価平均は2025年時点で前年比+12.53%と大幅に上昇し、全国でも3位の高値水準となりました。中でも渋谷駅周辺の伸びは著しく、渋谷駅界隈の平均地価は918万6666円/㎡(坪当たり約3,036万円)で前年比+13.88%もの上昇を記録しています。例えば渋谷スクランブル交差点近接地の宇田川町23-3(QFRONTビル前)の公示地価は1㎡あたり3,350万円(坪約1億1,074万円)にも達し、もはや国内屈指の超高額商業地となっています。このように地価高騰は、再開発への期待や将来収益見通しの明るさを反映したものと言えるでしょう。

賃料面でも、先述のオフィス賃料が上昇基調にあるほか、商業賃料(路面店賃料)もコロナ禍からの回復とインバウンド復調により上昇傾向です。センター街や公園通りといった繁華性の高いエリアでは、募集賃料がリーマンショック前の水準を超える事例も出ています。不動産サービス大手の統計によれば、2024年末時点で東京主要7区(千代田・中央・港・新宿・渋谷・品川・豊島)の平均募集賃料は坪29,250円となり5ヶ月連続上昇を続けています。渋谷区単独でも平均賃料は都心平均を上回って推移しており、再開発完了に伴う街の魅力向上がテナントの支払い意思賃料を押し上げている状況です。

今後の見通しとして、渋谷駅周辺の地価・賃料は引き続き堅調が予想されます。再開発による供給増はあるものの、それ以上に需要サイドのポテンシャルが高く、完成プロジェクトが稼働するたびにエリアの集客力・産業誘引力が高まる好循環が生まれているためです。もっとも2022~2023年のような急騰ペースは徐々に落ち着き、上昇率は緩やかになる可能性があります。既に渋谷の地価水準は相当高さまで来ており、金融環境の変化(例えば金利上昇による不動産利回りの上昇圧力)が生じれば、一時的な価格調整も起こり得ます。また、新規供給がピークを迎える2027年前後にはオフィス賃料が需給緩和で横ばい~小幅下落に転じるリスクも考えられます。しかし長期的に見れば、渋谷という街のブランド価値・希少性は不変であり、都市の成長余地もまだ残されています。総合的には「短期的な調整局面を挟みつつ、中長期では持続的な価値上昇基調」と捉えるのが妥当でしょう。

不動産投資家にとっての機会とリスク

渋谷駅周辺の再開発ラッシュは、不動産投資の観点でも大きな機会潜在的なリスクの両面をもたらします。ここでは投資家にとって押さえておきたいポイントを整理します。

投資機会(チャンス)

  • キャピタルゲインの期待:再開発完了による街全体の格上げで資産価値上昇が見込めます。実際、公示地価の大幅上昇が示す通り、渋谷エリアの不動産価格は開発進展とともに上昇トレンドにあります。早期に取得しておけば中長期での値上がり益(キャピタルゲイン)を得られる可能性があります。

  • 安定したテナント需要:IT企業やスタートアップ、海外企業などからの旺盛なオフィス需要、及び世界的観光地としての商業需要により、テナントミックスが多様かつ強固です。空室率が低水準で推移し賃料も上向きのため、安定したインカムゲイン(賃料収入)を期待できます。特に最新鋭ビルはテナント競争力が高く、長期契約を結ぶ優良企業を誘致しやすいでしょう。

  • 資産の流動性向上:渋谷は国内外の投資家に知名度が高く、再開発で注目度が増すことで不動産マーケットにおける流動性が向上すると考えられます。実需・投資両面の引き合いが強いため、売却出口戦略が立てやすい点も魅力です。大型オフィスビルであればREITや機関投資家が購入対象とするケースも増えてくるでしょう。

  • 広域渋谷圏の波及効果:東急グループは渋谷駅から半径2.5kmを「Greater SHIBUYA」と定義し面的なまちづくりを進めています。この戦略により渋谷駅周辺だけでなく、原宿・表参道、恵比寿、代官山など周辺エリアの価値も底上げされる可能性があります。したがって渋谷区内の物件全般にポジティブな波及効果が及び、周辺エリア物件への投資機会も広がるでしょう。

投資リスク(留意点)

  • 利回りの低下と割高感:地価・物件価格の急騰により取得利回り(キャップレート)は低下傾向です。既に渋谷の一等地オフィスビルは NOI利回りベースで3%を下回る水準とも言われ、投資妙味に欠けるとの指摘もあります。高値掴みをすると金利上昇局面で収支悪化や含み損リスクを抱える可能性があるため、投資採算性の見極めがより重要です。

  • 景気・市場変動リスク:渋谷はテック企業比率が高いため、景気変動や業種トレンドの影響を受けやすい側面があります。たとえばIT業界の不振やスタートアップ資金調達環境の悪化が起きれば、オフィス需要が急減退する懸念もゼロではありません。また金融市場の不安定要因がグローバルに広がれば、資本の逃避で都心不動産市況自体が冷え込むリスクもあります。

  • 一極集中のリスク:渋谷エリアへの投資はリターン期待が高い反面、資産ポートフォリオが都心部に偏重するリスクを伴います。不動産投資の基本である分散効果を考えると、渋谷物件は魅力的でも集中投資は避け、他エリアとのバランスを取ることが望ましいでしょう。渋谷のみならず東京他エリアや海外物件などに並行して投資することで、局地的リスクを緩和できます。

  • 開発遅延や計画変更:今後予定されている再開発が計画通り進まない可能性も考慮すべきです。大規模プロジェクトは景気や行政手続きの影響でスケジュール遅延・縮小のリスクがあります。仮に開発完了が想定より遅れれば、その間の収益機会損失や周辺整備の遅れによる賃料成長の頭打ちといった影響もあり得ます。投資判断時には各プロジェクトの進捗状況を注視し、最新情報を踏まえてリスクヘッジ策を検討する必要があります。

  • 社会構造の変化:長期的にはテクノロジーの進展による働き方・暮らし方の変化も見逃せません。リモートワークやメタバースの普及が進めば、都心のオフィス需要が縮小する可能性があります。一方でリアルな場の価値が再認識される動きもありますが、将来の不確実性が高いテーマです。こうした社会変化に対し、渋谷という街が柔軟にアップデートを続けられるかが、長期の投資リスクを左右するでしょう。

長期展望:渋谷エリアのポテンシャル評価

最後に、長期的視点から見た渋谷エリアのポテンシャルについて評価します。結論から言えば、渋谷は今後も東京を代表する活力あるエリアとして高いポテンシャルを維持・向上していくと期待されます。その根拠として以下の点が挙げられます。

第一に、渋谷には若者文化・IT産業・クリエイティブ産業といった時代をリードする要素が集積しています。再開発によりハード面(インフラ・オフィス空間など)が整備されたことで、ソフト面の魅力(カルチャー・人材)と相乗効果を発揮しやすい土壌が整いました。今後も渋谷はスタートアップの聖地「ビットバレー」としてイノベーションを生み出し続けるでしょうし、世界的企業の日本拠点誘致も進むでしょう。そうした経済活動のダイナミズムが街の価値を支えます。

第二に、東急グループ主導の「Greater SHIBUYA 2.0」戦略の存在です。2021年に策定されたこの新まちづくり戦略では、「働く・遊ぶ・暮らす」の三要素融合と、それを下支えするデジタル・サステナブル施策によって「渋谷でしか体験できない都市ライフ」を実現する方針が示されています。単発の開発に留まらず街全体を一つの生活圏・経済圏としてグランドデザインする取り組みは、日本の都市開発でも先進的です。これにより渋谷は常に進化し続ける「未完のプロジェクト」として、長期的な成長ストーリーが描かれています。都市経営のビジョンが明確であること自体が、投資に値する街の強みと言えるでしょう。

第三に、インフラ面でも鉄道・道路網の結節強化が進み、都市としての完成度が高まります。渋谷駅の東西自由通路や地下広場、新バスターミナルの整備など、人の流れ・交通の利便性は飛躍的に向上しました。かつて入り組んで迷いやすかった渋谷駅も、再開発完了後には主要路線の乗換がスムーズで快適なターミナルに生まれ変わります。また渋谷川の環境整備や防災インフラの強化によって、安全・安心面でも課題解消が進んでいます。こうした都市基盤の充実は、長期的に見て資産価値を下支えする重要なファクターです。

最後に、渋谷固有のブランド力と知名度は今後も不動のものでしょう。世界的に見ても「SHIBUYA」は東京を象徴する地名として認識されており、観光客にも企業にも魅力的なロケーションです。若者文化の発信地として常に新陳代謝を続ける渋谷は、街として老いることがありません。こうしたブランド資産は不動産価値の源泉であり、簡単には模倣できない強みです。

以上より、渋谷駅周辺エリアは長期的にみても高いポテンシャルを有し、不動産投資対象としての魅力を維持し続けると考えられます。ただし前述のリスク項目に触れたように、市場や社会の変化に対応する柔軟性が求められる点は忘れてはなりません。幸い渋谷は「変化し続けること」が得意な街です。関係企業や行政もその点を認識しており、街全体で進化を取り込む体制が整っています。投資家にとっても、中長期スタンスで渋谷エリアに関与し、その成長物語に乗ることは大きなリターンをもたらし得るでしょう。

おわりに

渋谷駅周辺の再開発は、都市の形だけでなく不動産市場にも大きなインパクトを与えています。主要プロジェクトの進捗とそれによるオフィス・商業・居住のニーズ変化、地価や賃料の動向を詳しく見てきましたが、総じて言えるのは「渋谷は進化し価値を高め続けるエリア」であるということです。不動産投資家にとって、渋谷の変貌は好機である一方、高値水準ゆえの慎重な判断も求められます。しかし確かなビジョンに裏打ちされた街の成長力は魅力的であり、適切な視野と戦略を持てば大きな果実を享受できるでしょう。

日々姿を変える渋谷の街並みを眺めながら、その足元で不動産価値が着実に育まれていることを感じます。「100年に一度の再開発」が完成する数年後、渋谷はどんな表情を見せているのか――投資家としてその未来図に思いを馳せつつ、引き続き最新情報のアップデートと洞察を深めていくことが重要です。