日本の不動産市場は近年活況が続いており、価格上昇基調が鮮明です。国土交通省の公示地価調査によれば、2025年の全国平均地価(全用途)は前年比+2.7%と4年連続の上昇となり、バブル期以来となる高い上昇率を記録しました。特に都市部の住宅地・商業地はいずれも上昇幅が拡大しており、住宅地は+2.1%、商業地は+3.9%と前年を上回る伸びを示しています。背景には緩やかな景気回復と超低金利の長期化により需要が下支えされていることがあり、都心部や生活利便性の高いエリアでは住宅需要が依然旺盛です。商業用途でも観光インバウンドの急増による店舗・ホテル需要の拡大や、コロナ収束後のオフィス需要持ち直しに支えられ、地価の高い上昇率が続いています。実際、観光客数の回復と円安を追い風に全国各地でホテルや商業施設への投資意欲が高まり、2024年には地価がコロナ前(2020年)を上回った地点が全体の64%に達したとの報告もあります。
もっとも、市場の好調さの裏側で地域間格差も拡大しています。都市圏では不動産の需要超過により供給不足感が続き、売り手市場となっている一方、地方部では人口減少に伴う住宅余剰が深刻です。総務省の住宅・土地統計調査によれば、国内の空き家数は2023年時点で約900万戸に達し、住宅総数に占める空き家率は13.8%と過去最高を更新しました。こうした空き家の多くは需要の乏しい郊外・地方に集中しており、不動産市場の「二極化」が進んでいます。一方で首都圏や主要都市では優良な不動産の新規供給が限られる中で需要が旺盛なため、需給ギャップが価格を押し上げる構図です。近年は建設コストの高騰も相まって、新築住宅着工が抑制され在庫が不足気味であることも、中古物件や土地の価格を下支えしています。このように、日本の不動産市場全体としては「都市部の逼迫と地方の供給過剰」という二面性を抱えていますが、富裕層にとって投資対象となるのは主に需要が堅調な都市部・人気エリアであり、市場動向は総じて堅調と言えるでしょう。
金融環境も重要なポイントです。日本銀行の長期にわたる金融緩和策により低金利環境が続いたことで、不動産投資の採算性は高まりました。不動産の期待利回り(キャップレート)は低下傾向にありますが、それでも長期国債利回りとのイールドスプレッド(利回り格差)は直近でも概ね2%以上確保されており、安全資産である国債や預金に比べ相対的に高いリターンが得られる状況です。例えば、丸の内など都心Aクラスビルの期待利回りは4%前後と低水準ながら、10年国債金利(約0.5%)との差は数%程度あり、この利回りの魅力が国内外からの投資資金を呼び込む一因となってきました。ただし2023年以降、日銀が長年続けた超金融緩和政策の調整に着手し、徐々に金利水準を引き上げる姿勢を見せ始めています。2024年後半にはマイナス金利解除や政策金利の引上げが実施され、市中金利も上昇傾向にあります。このため、従来ほどの低金利メリットは薄れつつあり、将来的な利回り(キャップレート)上昇=価格調整への警戒感も出始めています。もっとも、不動産市場への影響は足元では限定的です。実際、国内主要金融機関の不動産向け貸出態度は概ね良好で、2025年にかけても融資姿勢が急激に厳格化する懸念は小さいと予想されています。このように、日本の不動産市場は金利上昇という課題に直面しつつも、需給環境と金融環境の下支えによって当面は安定した推移が続くとの見方が優勢です。
富裕層にとって不動産投資は、資産配分上きわめて重要な役割を果たしています。野村総合研究所の調査によれば、日本の上位1%富裕層では総資産に占める不動産の割合が平均77%にも達し、これは世界の富裕層平均(約15%)を大きく上回る突出した水準です。このように日本の富裕層は自らの資産の大半を不動産で保有する傾向があり、不動産は「富裕層の資産保全の要」となっています。それでは、富裕層は具体的にどのような目的で不動産投資を行っているのでしょうか。主な目的として以下のような点が挙げられます。
資産価値の保全とインフレ対策:不動産は実物資産であり、価格変動が相対的に緩やかで下値が堅い傾向があります。株式のように日々の相場変動に晒されることはなく、企業業績や市場センチメントによる急激な暴落リスクが小さいため、富裕層にとって財産の保全手段として適しています。また物価上昇時には不動産価格や賃料も連動して上昇する傾向があるため、インフレ局面に強い資産とされています。実際、「インフレヘッジ」として富裕層が不動産を組み入れるケースも多く、資産全体の安定性向上に寄与しています。
安定したインカムゲイン(賃料収入):不動産投資の大きな魅力は、賃貸運用による継続的な家賃収入です。入居者さえ確保できれば毎月安定したキャッシュフローが見込め、これが不労所得として富裕層の資産形成を支えます。特に自己資金が潤沢な富裕層であれば、一棟マンションや複数物件への投資によってスケールメリットを得やすく、多額の家賃収入を得ることも可能です。株式配当や債券利息に比べ利回りが高めである上、賃料は契約により安定して入ってくるため、景気変動に左右されにくい収益源となります。こうした安定収益が得られる点から、不動産投資は富裕層にも人気が高い投資手段となっています。
相続・税務上のメリット(税金対策効果):富裕層が不動産投資を行う大きな動機の一つに税金対策対策があります。不動産は現金や有価証券に比べ、相続税評価額が低く抑えられる特性があります。例えば土地は公示地価の約8割程度の路線価で評価され、さらに賃貸物件の場合は「貸家建付地」として借地権割合・借家権割合の控除が効くため、実勢価格より大幅に低い評価額となることも珍しくありません。建物も固定資産税評価額(新築時は建築費の約6割)で評価され、賃貸中であれば借家権控除が加わり評価が一段と下がります。さらに小規模宅地の特例などを活用すれば、一定面積まで土地評価額を大幅減額できる制度もあります。このように不動産を保有することで相続発生時の課税対象額を圧縮でき、富裕層にとって効果的な相続税対策となっています。また、賃貸経営で減価償却費等により帳簿上赤字を計上すれば、高額所得者ほど所得税・住民税の負担を減らせる可能性もあります。日本の所得税は累進課税のため、富裕層ほど税率が高く、経費計上による課税所得の圧縮効果は大きくなります。このような所得税の税金対策も、不動産投資の重要な役割です。
レバレッジ効果と資産拡大:不動産投資では金融機関からの融資を活用し、大きな投資を行うことで自己資金以上のリターンを狙うことができます。富裕層は高い信用力と資金力を背景に有利な融資条件を引き出せるため、レバレッジ効果を最大限活用しやすい立場にあります。低金利下では借入コストを抑えて高利回り物件に投資できるため、自己資本利益率(ROE)を高めることが可能です。もちろん借入リスクとのバランスは必要ですが、富裕層の場合は十分な返済原資や別資産の裏付けがあるため、戦略的にレバレッジをかけて資産規模を拡大する手法が取られています。これにより、資産全体の成長速度を加速させることができます。
以上のように、不動産投資は富裕層にとって資産保全・運用・承継のすべての面で有用な手段となっています。安定収益源として資産形成に寄与するだけでなく、税負担の軽減や次世代への円滑な資産移転にも効果を発揮するため、資産ポートフォリオにおける不動産の位置づけは極めて重要です。実際、国内富裕層の資産構成を見ると、預貯金や株式などの金融資産よりも不動産の占める割合が高いことが顕著であり、不動産は「富裕層にとっての実物資産による保険」として機能していると言えます。もっとも、不動産投資には流動性の低さや管理の手間などの課題も伴うため、富裕層は信頼できる不動産会社や専門家と連携しつつ、慎重に物件選定・運用を行うことが求められます。
株式や債券等の資産クラスと比較すると、不動産はリスク・リターン特性や役割が一線を画しています。株式は高い成長性と流動性を持つ一方で価格変動が大きく、短期的なボラティリティリスクが高い資産です。債券は元本が比較的安定し利回りも事前に固定されていますが、リターン水準は低くインフレに弱い側面があります。その中で不動産は「株式ほど値動きは大きくないが、債券より高い収益を生む中間的な資産」と位置づけることができます。
まずリスク・リターンの観点では、不動産は株式より低リスク・中リターンの資産です。不動産価格は企業業績や投資家心理に直接左右されにくく、短期的に半値以下に暴落するような事態は稀です。また賃料収入というインカムゲインが定期的に得られるため、トータルのリターン変動も緩和されます。一方で債券よりは価格変動リスクを伴いますが、その分賃料利回り(あるいは不動産投資信託であれば分配金利回り)は国債利回りなど安全資産より高く設定されます。不動産投資家が期待する利回りは年数%台が一般的であり、日本では長年にわたり長期金利が0%台に留まっていたことから、債券に比べ遥かに高いキャッシュフロー利回りを得られてきました。例えばJ-REIT(不動産投資信託)の平均分配金利回りは3〜4%程度で推移し、10年国債金利との差(イールドスプレッド)は近年でも約4%前後あります。このスプレッドは欧米主要都市より厚く、日本の不動産利回りが投資対象として相対的に魅力的である一因となっています。超低金利下では債券の実質利回りがマイナスになる局面もあったため、富裕層にとって不動産は確かなインフレヘッジ付きの利回り商品として映り、株式・債券に次ぐ第3の柱(あるいはそれ以上の比重)として組み入れられてきた経緯があります。
流動性と時間軸の面でも差異があります。不動産は売買に時間とコストがかかるため、流動性は株式(即時売買可能)や債券(市場で売買可能)に比べ低くなります。その代わり長期保有を前提とすることで、短期的な市場ノイズを気にせず安定収益を得ることができます。富裕層は余裕資金が潤沢なため、必ずしも現金化の迅速性を重視せず、むしろ長期安定資産として不動産を構える傾向があります。ポートフォリオ全体では必要に応じ株式や投資信託など流動性資産も保有しつつ、不動産は腰を据えて保有することで、資産全体の安定感を高めています。
また相関関係と分散投資効果も見逃せません。一般に不動産価格や賃料収入の動向は、株式市場とは完全には連動しません。経済成長や金利動向など影響要因の一部は共通するものの、不動産は地域の需給や固有の実物的要因によっても価値が左右されます。そのため、株式・債券のみのポートフォリオに不動産を加えることで資産全体の価格変動リスクを低減し、シャープレシオ(リスクあたりリターン)の向上が期待できます。特に富裕層は巨額の資産を様々なクラスに分散させることでリスクを管理しますが、不動産はオルタナティブ資産(代替資産)として重要な位置を占めます。近年ではヘッジファンドやプライベートエクイティ、金・美術品などもオルタナティブ資産として注目されていますが、不動産はそれらの中でも比較的安定性・収益性のバランスが良く、かつ実物資産ゆえの安心感があります。例えば金はインフレヘッジにはなりますが収益を生みませんし、美術品も値上がり益狙いのみです。それに対し不動産は「賃料収入+値上がり益」の両面を狙えるため、富裕層にとって攻守バランスに優れた資産となっています。
もっとも、不動産投資にも弱点はあります。最大の課題は前述の流動性の低さと管理負担であり、株や債券のようにタイムリーな売買や分割処分が難しい点です。また一物件あたりの投資金額が大きく集中投資になりやすいため、地域や用途の分散を図らなければ特定資産の不調がポートフォリオ全体に与える影響が大きくなります。さらに地震や台風など不動産固有のリスク(物理的破損リスク)も存在し、保険でカバーできるとはいえ投資判断の際に考慮が必要です。このような特性から、不動産は他の金融資産と補完的に組み合わせて保有されるのが一般的です。富裕層は株式・債券・現預金・不動産・その他オルタナティブといった形で多角的に資産を保有し、市場局面に応じてリバランスしながら長期的な資産成長と保全を図っています。不動産投資はその中で、安定収益と低相関によるポートフォリオの安定装置としての役割を果たしていると言えるでしょう。
マクロ経済要因から見ると、今後数年の日本の不動産市場は慎重な楽観が妥当と考えられます。経済全体は緩やかな成長が続き、企業収益や雇用環境も底堅く推移しています。インフレ率は日銀の目標に近い水準で推移しつつあり、一部で賃金も上向いていることから、適度なインフレ環境下での不動産需要は堅調が見込まれます。一方で金融政策の転換が最大の注目点です。日本銀行は2024年以降、段階的に金融緩和からの出口を探り始めており、超低金利時代に終わりが見えつつあります。実際に2024年7月には初の政策金利引上げを実施し、以降も市中金利は徐々に上昇基調にあります。2025年にかけて金利がさらに上昇する可能性は否定できず、不動産投資の採算面で逆風となり得ます。ローン金利上昇は投資家の利回り低下要因ですし、また利回り水準のグローバルな見直し(上昇)は不動産価格の調整圧力につながります。ただし現在のところ、投資家の心理や市場のファンダメンタルズは落ち着いています。日本不動産研究所(JREI)の投資家調査では、「今後も不動産投資を積極的に行う」と回答した投資家が9割超に達しており、金融環境の変化にも関わらず強気の姿勢が維持されています。また期待利回り(投資家が求める利回り)も直近調査で大きな上昇は見られず、利上げ局面でも不動産利回りへの波及は限定的な様子です。これは、投資家が依然として日本の不動産市場の安定性・収益性を評価している証左と言えます。
もっと長期の視点では、人口動態の変化が避けて通れないテーマです。日本は少子高齢化・人口減少が進行しており、不動産の需要構造にも大きな影響を及ぼします。国立社会保障・人口問題研究所の将来推計によれば、日本の総世帯数は2030年頃に約5,773万世帯でピークを迎え、その後は緩やかに減少に転じる見通しです。以前の推計では2023年ピークと見られていましたが、単身世帯の増加によりピークは若干先延ばしとなりました。しかし2040年には世帯数が2020年比で約5%減少するとも予測されており、長期的には住宅需要の絶対量が縮小していく可能性が高い状況です。このため、不動産市場も長期的には需給緩和方向への圧力がかかりやすくなります。特に人口減少が著しい地方や郊外では、不動産価格の下押し要因となるでしょう。一方で都市部では少子高齢化社会に適応すべくコンパクトシティ化や都市再開発が進み、利便性の高いエリアへの人口集中が続くと見られます。高齢者や単身世帯向けの都市型住宅需要、新しい働き方(リモートワーク等)に対応した郊外ニーズなど、質的な需要の変化も起こるでしょう。不動産投資においても、こうした人口動態の変化を見据えた選別投資が今後一層重要になります。富裕層は資産の長期保有を前提としますから、将来にわたり需要が底堅いエリア・用途(例:都市中心部の住宅、高齢者ニーズを捉えた施設、再開発エリアの商業物件など)へ重点的に投資することが求められます。逆に人口減で需要縮小が避けられない地域の不動産は、たとえ現在利回りが高くても慎重に見極める必要があるでしょう。
海外投資家の動向も日本の不動産市場に影響を与える重要な要素です。過去数年、低金利と安定した市場環境を求めて海外マネーが日本の不動産市場に流入し、ホテルやオフィスビル、物流施設などに大型投資が相次ぎました。しかし2023年後半以降、欧米の金利上昇や海外不動産市場の停滞を背景に、海外勢が日本物件を一部売却して利益確定に動く動きも見られました。実際、2023年下期には海外投資家による日本国内不動産の売買が4年ぶりに売り越しに転じたとの調査があります。日本銀行も金融システムレポートの中で「都心商業地に局所的な割高感が見られ、2023年後半に海外投資家が4年ぶりに売り越しに転じる変化があった」と指摘しています。このように一時的な調整はあったものの、2024年後半になると再び外資系ファンドによる大型取引が相次ぎ、海外マネーの投資額が過去最高水準を更新する局面も出てきました。背景には円安基調で日本資産が割安に映ること、欧米に比べて日本の不動産利回りが相対的に高水準であること、そして日本市場の安定性(法制度や契約の安定・政治リスクの低さ)への信頼があります。特にアジア近隣諸国の富裕層や機関投資家にとって、日本の不動産は安全な投資先と見られており、東京や大阪の大型オフィスビルから北海道ニセコのリゾート物件に至るまで幅広い資産クラスで外国人買い手の存在感が高まっています。今後も海外投資マネーの動きには注意が必要ですが、基本シナリオとしては「金融環境の変化に応じ一時的な資金の出入りはあっても、中長期的には日本不動産への海外からの需要は根強い」と考えられます。為替相場や海外経済動向によって短期的な温度感は変わるものの、日本市場の透明性・安定性は依然魅力的であり、大規模な資本流出が起きにくい構造です。ただし、グローバルな不動産市況悪化や金融市場の変調があれば、ファンドを通じて間接的に国内市場へ波及するリスクもゼロではありません。富裕層投資家としても、海外勢の動きを注視し、市場過熱感には注意を払うことが重要でしょう。
総じて、日本の不動産市場は「緩やかな経済成長と構造変化の中で安定を維持しつつ、選別が進む市場」へ向かうと予想されます。マクロ経済の観点では金利上昇という試練を迎えますが、賃料上昇や需要の強さが勝れば大きな調整は回避できる見通しです。人口減少という長期課題に対しては、都市への人口集中や新たな需要創出によって克服を図る動きが続くでしょう。海外投資家の視点からは、日本市場は引き続き魅力ある投資先であり続けるとみられます。その中で富裕層は、自身のアセットアロケーション戦略の中で、不動産への投資比率を適切に維持・調整していくことが求められます。資産保全の砦としての不動産と、収益ドライバーとしての不動産、その双方の側面を踏まえ、長期的な視野で市場動向を捉えることが肝要です。
富裕層の不動産投資において、どの地域に投資するかは極めて重要です。日本国内でもエリアによって成長性や安定性に差があり、資産価値の将来見通しは一様ではありません。ここでは大きく「東京圏」「主要地方都市」「高級リゾート地」に分けて、地域別の動向と展望を概観します。
●東京圏(首都圏):日本の富裕層不動産投資でもっとも重視されるのが首都圏、とりわけ東京都心部です。東京23区、とりわけ千代田・中央・港区などの都心3区や渋谷・新宿区などは、不動産価値の維持・上昇期待が極めて高いエリアとして知られます。実際、東京都心の高級住宅地では近年も富裕層による住宅需要が根強く、ブランドエリアのマンション分譲価格は高値圏で緩やかに上昇を続けています。土地供給が極めて限定的な中でデベロッパー各社がこぞって用地取得に動くため、希少性の高い一等地では地価が強含みで推移しており、将来的にも大崩れしにくいと見られます。また東京は日本経済の中心であり、オフィス需要や商業需要も安定しています。賃貸マーケットを見ると、都心部オフィス空室率はコロナ禍で一時上昇したものの、その後は低下傾向に転じており、グレードの高いビルを中心に底堅い需要があります。インフラ面でも再開発プロジェクトが多数進行中で、東京駅前常盤橋や虎ノ門・麻布台プロジェクトなど超高層複合ビルの竣工が控え、都市の魅力向上が続いています。2020年代後半にはリニア中央新幹線開業(東京–名古屋間、※開業時期調整中)といったビッグプロジェクトも視野に入り、東京圏の中長期的な発展性は依然高いと言えるでしょう。富裕層にとって東京不動産は「資産価値の堅い安全資産」であり、多少利回りが低くとも資産保全目的で保有する意義があります。実際、東京の一等地物件の表面利回りは3〜4%程度と低水準ですが、それでも買い手が付くのは、将来的な値上がり益や相続時の評価減効果まで含めた総合的なリターンを見込んでいるためです。今後も東京圏は富裕層にとって最重要の投資エリアであり続け、特に都心高級住宅、市街地商業ビル、一棟賃貸マンションなどへの選好が強いでしょう。
●主要地方都市(大阪・名古屋・福岡 他):東京以外の大都市圏も富裕層の関心が高まっています。中でも大阪は2025年の大阪・関西万博、そしてその先には2029年開業予定の統合型リゾート(IR、カジノ含む)計画など明るい話題が多く、国内外から注目されています。大阪市内の不動産価格も上昇傾向にあり、商業地地価は2024年に前年比+7.1%と三大都市圏で最も力強い伸びを示しました。とはいえ、物件価格水準は東京よりなお割安で、ワンルームマンション価格は「東京のほぼ半値」という声もあるほどです。この価格ギャップに投資妙味を見出し、首都圏の富裕層が大阪物件を購入するケースも増えています。「東京は高すぎるが大阪なら手頃」という評価で、大阪への資金流入が続けば価格収斂により大阪物件のキャピタルゲインも期待できるでしょう。万博開催による経済効果やIR開業による観光客増加は、大阪圏の不動産需要を喚起し、オフィス・ホテル・商業施設から住宅まで幅広く波及すると予想されます。また名古屋も自動車産業を中心に堅調な経済基盤があり、リニア中央新幹線の開業が見込まれることで注目度が上がっています。既に名古屋圏の商業地価は年+7%台の上昇を見せており(2024年)、三大都市圏の一角として安定成長が続くでしょう。福岡は人口増加率が政令市トップクラスで、若年層の流入も多く将来有望なマーケットです。人口約165万人(2025年時点)の福岡市は2040年頃まで人口増が続くと推計されており、住宅需要も旺盛です。地価上昇率でも福岡市は地方都市の中で上位に位置し、商業地・住宅地とも堅調な伸びを示しています。福岡はアジアに近く国際航空路線も充実しており、海外投資家からの関心も高まりつつあります。また札幌や仙台といった地方中枢都市も一定の需要が見込まれ、特に札幌は2030年の北海道新幹線延伸開業によるアクセス向上や観光需要増で明るい材料があります。もっとも、地方都市は東京に比べ市場規模が小さく流動性も劣るため、富裕層の投資対象としては慎重な選別が必要です。基本的には人口が増加もしくは維持され、経済基盤のしっかりした都市(大阪・名古屋・福岡など)が主要な投資候補となり、それ以外の地方都市は物件個別の魅力(再開発プロジェクトの有無、立地の独自性など)を精査して検討する段階になります。
●高級リゾート・観光地:富裕層は実需を兼ねて国内外のリゾート不動産にも関心を示します。日本国内では近年、北海道ニセコを筆頭に世界的に評価の高まったリゾート地があります。ニセコは良質なパウダースノーで知られるスキーリゾートで、オーストラリアやアジアの富裕層を中心に不動産投資ブームが起き、この15年ほどで地価が飛躍的に上昇しました。その影響で周辺の「第2のニセコ」とも呼ばれる地域にも波及効果が現れています。例えば北海道富良野市北の峰町では、2024年の住宅地公示地価上昇率が前年比+31.3%と全国トップを記録しました。ニセコに次ぐスキーリゾートとして注目され、円安による海外需要も相まって投資マネーが流入した結果です。富良野やニセコではホテル・コンドミニアム建設が相次ぎ、国内外からの別荘購入希望者や投資家が物件探しに訪れる状況となっています。地元不動産業者によれば「円安で海外から見て割安感が増している」ことも需要拡大の一因で、外国人宿泊客数は10年前の4.2倍に増えており、今後も高い上昇率が続く見通しとされています。このように北海道の高級リゾートは一種のバブル的な盛り上がりを見せていますが、富裕層にとっては魅力的な投資・保有エリアです。
他にも軽井沢(長野県)や箱根・熱海(神奈川・静岡県)など、古くから国内富裕層に親しまれてきた避暑地・温泉地も依然人気があります。別荘需要が根強く、コロナ禍以降はテレワーク普及に伴い都市近郊のリゾート地に長期滞在する富裕層が増えたことから、一部で不動産価格が上昇しました。軽井沢町の別荘地価格は上昇傾向に転じ、取引も活発化しています。また沖縄のリゾート物件も注目で、恩納村や宮古島などで高級コンドミニアム開発が進み、国内外の富裕層が購入するケースが見られます。観光客の回復とインバウンド増加が追い風となり、リゾート賃貸や民泊運用による収益も見込めることから、投資対象としての魅力が高まっています。
高級リゾート物件は値動きが都市部とは異なり、景気や外国人旅行者動向に左右されやすい側面はありますが、富裕層にとっては資産保有の楽しみと投資利回りを兼ね備えたユニークな選択肢です。自ら利用しつつ資産価値の上昇を狙ったり、賃貸に出して収益を得たりと柔軟な活用が可能です。ただし流動性は限定的で、市場参加者も限られるため、出口戦略まで視野に入れて慎重に判断する必要があります。とはいえ、日本のリゾート地の国際的評価は上がっており、ニセコの成功はその象徴です。今後も北海道を中心に世界の富裕層からの需要が続く見込みであり、富裕層投資家にとって高級リゾートはポートフォリオの一部に彩りを加える資産として検討に値するでしょう。
以上、地域別に見てきたように、富裕層の不動産投資では「東京を核に、有望な地方中枢都市やリゾートにも目を配る」ことが基本戦略となります。東京圏は不動産価値の根幹として厚く保有し、そこに大阪や名古屋などの成長余地ある都市物件を適宜加え、さらに余裕があればリゾート物件で付加価値を狙う——こうした多面的な地域分散が、富裕層の資産ポートフォリオを強靱にすると言えます。それぞれの地域で経済動向や開発計画、インフラ整備状況などを注視し、最適な投資判断を下していくことが重要です。
アセットアロケーションの観点から、不動産投資は日本の富裕層にとって欠かせない柱であり続けています。国内不動産市場は足元で堅調さを維持しつつ、金利や人口構造の変化という課題に直面していますが、富裕層は長年の経験知に基づき、的確に対応しつつ資産価値を守り・増やしていくことでしょう。不動産は実物資産ゆえの安定感と収益力を兼ね備え、他の資産クラスにはない魅力を提供します。しかし一方で市場環境の変化や個別リスクにも注意を払い、過信せずエリア・物件の見極めと分散投資を徹底する姿勢が求められます。信頼できる公的データや専門家の知見を参考にしつつ、誤りのない論理的な判断で資産運用を行うことが肝要です。富裕層における不動産投資の位置づけは、これからも資産保全と成長の両輪として重要性を保ち、国内市場の動向とともに進化していくことでしょう。