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不動産管理業の現状とDXによる変革:次世代オーナーへの提言

作成者: 稲澤大輔|2025/05/06 15:00:00 Z

不動産管理業とは、不動産オーナーに代わって賃貸用の物件を維持管理するサービスです。具体的には、建物・設備のメンテナンス、賃貸借契約の管理、家賃の集金、入居者募集や対応、クレーム処理、退去時の原状回復など多岐にわたります。管理会社はオーナーと入居者の間に立ち、双方が安心して満足できる住環境を整える役割を担います。特に遠方に住むオーナーや不動産経営の知識が乏しい次世代のオーナーにとって、プロの管理会社に委託することは物件価値の維持・向上と安定経営に欠かせない手段となっています。

不動産管理業は不動産仲介業(売買や賃貸の契約を取り次ぐ業務)とは異なり、宅地建物取引業法上の免許が不要な分野です。そのため長らく参入障壁が低く、業者によってサービス品質に差がありました。この状況を改善するため、2011年に国土交通省は賃貸住宅管理業者登録制度を創設し、一定の基準を満たす管理業者の登録制度を開始しました。さらに2021年6月の法律施行により、管理戸数200戸以上の業者には登録が義務化され、市場の適正化と信頼性向上が図られています。

日本の不動産管理市場の規模と成長傾向

日本国内には非常に多くの賃貸住宅が存在し、その管理ニーズも年々高まっています。2023年時点で民間の賃貸住宅(民営借家)は約1,568万戸にのぼり、全国の住宅ストックの28.2%を占めています。このうち約半数が管理会社に委託されていると推計され、残りはオーナー自身が自主管理している状況です。国土交通省の統計によれば、2024年3月末時点で9,482社もの賃貸住宅管理業者が登録されており、その登録業者が管理する賃貸住宅戸数は約790万戸に達しています。登録制度開始前の2015年頃には登録業者数が約3,689社・管理戸数約549万戸(当時の民営借家数の4割弱)でしたが、法規制の強化とオーナーの外部委託志向の高まりにより、この数年で管理業者・管理戸数ともに大幅に増加しました。

市場の成長傾向としては、新築住宅着工の減少や人口減少による世帯数縮小といった逆風要因がある一方で、管理業務における一戸当たりのサービス単価(管理費)の上昇や、これまで自主管理だったオーナーの委託転換などにより、総体としては緩やかな拡大基調にあります。例えばマンション(分譲マンション管理)分野では、2022年の市場規模が管理費ベースで約8,206億円と推計され、2030年には約9,764億円に達すると予測されています。背景には、新築マンション供給戸数の微減にもかかわらず管理費の上昇が続いていることがあり、市場規模を押し上げています。賃貸管理分野でも同様に、慢性的な人手不足による管理報酬の上昇や付加価値サービスの普及により、市場が底堅く推移すると見られます。ただし長期的には、人口・世帯数の減少に伴って賃貸需要自体が縮小するため、市場の成長率は徐々に鈍化していく可能性があります。こうした中、業界内ではM&Aや再編による集約化も進みつつあり、管理戸数の多い大手企業が市場シェアを拡大しています。実際、国内最大手の一社である大東建託グループは居住用賃貸物件だけで約123万戸を管理しており、上位数社で膨大な管理ストックを抱える寡占的な構図が生まれつつあります。

DXがもたらす業界の変化と効率化の事例

近年、不動産管理業界にもデジタルトランスフォーメーション(DX)の波が押し寄せています。DXとは単に業務をIT化するだけでなく、テクノロジーの活用によってビジネスモデルや組織そのものを抜本的に変革し、新たな価値を創出する取り組みを指します。紙の書類を電子化しただけでは真のDXとは言えず、その技術導入をきっかけに顧客体験や業務プロセスを再設計し直すことで初めてDXの真価が発揮されるという点は重要です。

不動産管理におけるDXの具体的な変化として、まず挙げられるのが契約手続きの電子化です。長らく賃貸契約は紙の契約書への押印と対面での重要事項説明が必須でしたが、2022年の宅建業法改正により賃貸取引の電子契約が全面的に解禁されました。これにより、賃貸借契約書や管理委託契約書もオンライン上で締結できるようになり、物件探しから契約締結までを非対面で完結させることが可能になりました。電子契約の導入によって、契約に要する時間とコストが大幅に削減され、印紙税の負担も不要になります。国土交通省の調査では電子契約解禁などを背景にDX推進への関心が急速に高まっており、2023年時点で業界全体の22%程度だった本格的DXへの着手率も今後上昇していく見込みです。

次に、業務効率化ツールやIoT技術の活用も顕著です。賃貸管理業務はこれまで電話・FAXや対面でのやり取り、手作業の書類処理が多く、人手に頼る部分が大きいものでした。これを改善するため、クラウド型の賃貸管理システムやRPA(業務自動化ツール)が導入され、家賃請求や入出金管理、契約更新の案内といった定型業務の自動化が進んでいます。

また、オーナーや入居者とのコミュニケーションもDX化が進み、専用のオーナー向けポータルサイト入居者向けアプリを提供する管理会社も増えています。例えば従来は郵送していた収支報告書をアプリ上で即座に確認できるようにしたり、電話中心だった問い合わせ対応をチャットシステムに切り替えた事例では、印刷や郵送にかかるコストの削減につながっただけでなく、やり取りの記録が双方に残るためトラブル防止やサービス向上にも寄与しています。

IoT(モノのインターネット)機器の導入もスマート管理として注目されています。代表例がスマートロックで、ドアの施錠・解錠をスマートフォンアプリ等で遠隔管理できる電子錠です。スマートロックの普及により、内見時に鍵を物理的に受け渡ししたり入退去の度に鍵交換をしたりする手間が省け、管理効率が飛躍的に向上しました。合鍵紛失リスクも低減し、入退室履歴をリアルタイムで把握できるためセキュリティ面も強化されます。さらに物件内には各種IoTセンサー(温度・湿度、人感、漏水検知など)を設置し、24時間体制で遠隔監視することが可能です。センサーで収集したデータを分析することで建物の使用状況が可視化され、空調の自動制御による省エネや、水漏れ兆候の早期発見といった予防保全にもつながります。IoTデータに基づき適切なタイミングで設備メンテナンスを実施することで、長期的には運用コストの削減や資産価値の維持向上が期待できます。

また、オンライン内見・VR内覧の広がりも業界を変えました。360度カメラやVR技術を用いたバーチャル内見により、遠方に住む借主候補者も自宅にいながら物件の雰囲気を詳細に確認できます。コロナ禍で対面接客が難しい中、一気に普及したオンライン内見は、移動時間や日程調整の負担を減らし、内見可能な顧客層を全国に拡大する効果をもたらしました。加えて、スマートロックと連動したセルフ内見(無人内見)の仕組みも登場しています。希望者に一時的なデジタルキーを発行し、スタッフ不在でも指定時間に物件に入室してもらうことで、内見対応の効率化と顧客の利便性向上を両立しています。

これらDXの導入事例に共通するのは、業務の省力化とサービス品質の向上を同時に実現している点です。実際、DXに取り組む不動産会社の8割以上が「業務効率が上がった」と感じているとの調査もあります。

一方で、不動産業界全体を見るとDXへの対応はまだ途上であり、他業界に比べ遅れているのも現状です。特に中小規模の不動産会社ではIT化のリソースが乏しく、デジタル化できていない業務プロセスが数多く残っています。しかし、DXはもはや避けて通れない潮流であり、新世代のオーナーや入居者のニーズに応えるためにも、今後さらなる技術活用と業務変革が求められていくでしょう。

DXに対応するために必要な人財の要件と育成・採用

DXを推進する上で最大の鍵となるのが人財(人材)です。デジタル技術を導入しても、それを使いこなし組織に定着させるのは最終的に「人」であり、DX時代に適応した人材の存在なくして成功はありえません。しかしながら、不動産業界では長年アナログ業務に従事してきたベテラン人材が多く、ITやデータ活用の専門スキルを持つ人材は慢性的に不足しています。ある調査では、不動産会社の大規模企業の55%が「DX人材の不足」を課題に挙げており、小規模企業でも21.2%が同様の課題を感じているという結果が報告されています。業界全体としても、DX推進上の大きな障壁としてデジタル人材の不足が認識されており、これをどう解消するかが急務となっています。

DX時代に求められる人材像としては、単にITに詳しいだけでなく、不動産業務への深い理解とデータ志向の問題解決能力を併せ持つことが理想です。例えば、物件管理にAIやIoTを導入する場合でも、現場の課題を正確に把握し、テクノロジーで解決できるポイントを見極めるには不動産実務の知識が不可欠です。同時に、新しいツールを使いこなすリテラシーや、データから意思決定を行うスキルも求められます。こうした複合的なスキルセットを持つ人材は希少であるため、各企業は既存社員のリスキリング(再教育)と外部からの採用の双方で人材確保に努める必要があります。

既存社員に対しては、社内研修や外部セミナーへの参加を促し、ITツールの使い方やデータ分析の基礎を教育する取り組みが有効です。また、若手社員をDX推進の担い手として育成するために、プロジェクトを任せたり、社内でDXチームを組成して権限を与えるケースも増えています。経営層においてもCDO(Chief Digital Officer)を新設してデジタル戦略を統括したり、部門横断的にDXプロジェクトを推進する体制を整える企業が出てきました。外部採用では、IT企業やコンサルティング業界からの中途採用、デジタルネイティブ世代の新卒採用強化、あるいは不動産テック企業との提携により専門知見を取り込むといった手法が取られています。

重要なのは、単にスキルを持った個人を確保するだけでなく、組織全体のデジタルマインドセットを醸成することです。現場スタッフ一人ひとりが「常に学び、変化に適応し続ける姿勢」を持つことが、不動産管理会社にとって不可欠とされています。DX人材はDX推進部門だけでなく、営業・管理・技術などあらゆる部門で必要とされる時代です。次世代オーナーへのサービス向上のためにも、人材戦略の面からDXを支える体制を整えることが求められます。

INA&AssociatesにおけるDX化の実践と顧客への価値提供

INA&Associatesも、まさにDXを実践し顧客価値の向上に取り組んでいる企業の一つです。当社はテクノロジーを駆使した不動産サービスを展開しており、その一例が2021年に開始した賃貸不動産管理事業です。従来、賃貸管理の管理料は月額家賃の5%前後が相場とも言われてきましたが、当社では1区画あたり月額1,000円という低廉かつ明瞭な料金設定でサービスを提供しています。この定額制サービスを支える鍵こそDXであり、以下のような先進的取り組みにより実現されています。

  • 契約関連の完全電子化: 賃貸借契約や管理委託契約など、必要な契約手続きは全てオンライン上で完結します。紙の契約書や押印を廃止し、クラウドサイン等の電子契約システムを活用することで、オーナー・入居者双方が遠隔地からでも迅速に契約締結できます。契約書類の郵送や対面手続きが不要となり、契約スピードと利便性が飛躍的に向上しました。

  • 家賃収支のリアルタイム化: 従来は管理会社が入居者から家賃を回収し、一旦預かった後にオーナーへ送金するのが一般的でしたが、当社では入居者(または保証会社)から不動産オーナー様の口座へ直接家賃を振込む仕組みを採用しています。これにより家賃の入金遅延が解消され、オーナーは手取り収入をタイムリーに得ることができます。また管理会社側でも顧客資金を預かるリスクや手間が減り、より透明で安全な運用となっています。

  • 24時間対応の入居者サポート: 入居者専用の24時間コールセンターを設置し、夜間や休日の緊急トラブルにも即時対応できる体制を整えました。水漏れや鍵紛失など緊急時にも専門スタッフが対応することで入居者の安心感を高め、それがオーナーへの信頼醸成にもつながっています。コールセンターで受けた連絡はデジタルシステム上で記録・共有され、担当者間で情報連携を図ることで迅速な問題解決に結び付けています。

  • オープンな業者選定とコスト透明化: 原状回復工事や設備メンテナンスに関して、当社から特定の協力業者を強制的に指定することは行っていません。オーナー様の了承を得た上で柔軟に業者選定を行い、必要に応じて相見積もりによる適正価格での工事発注を実施します。これにより「管理会社指定の高額な修繕を押し付けられるのではないか」という従来の不安を払拭し、コスト面でも納得感のあるサービス提供を実現しています。

こうした施策はいずれも、不動産オーナーから寄せられていた要望を踏まえて生まれたものです。「管理費用が高すぎる」「家賃の振込が遅い」「トラブル対応が不安」「修繕費が不透明」——これらの課題に対し、INA&Associatesでは独自システムの開発も交えながら新しい管理モデルを構築しました。その結果、DXの力で低コスト・高透明性かつ安心の賃貸経営サポートを提供し、次世代オーナーの「こんなサービスが欲しかった」を形にしています。

さらに当社は不動産テックやDXに関する情報発信にも力を入れており、業界の課題解決や知見の共有を積極的に行っています。DXは単なる流行ではなく、不動産管理業の未来を形作る必須の取り組みであるとの信念のもと、人財育成からサービス設計まで一貫してデジタル時代に即した経営を追求しています。

まとめ

本稿では、不動産管理業の基本から市場動向、DXによる変革、そしてそれを支える人材や具体的事例について詳しく解説しました。親から不動産を受け継いだ次世代のオーナーにとって、紙の契約書や煩雑な手続きに悩むことなく、安心して資産を運用していくためには、業界の最新動向を理解し信頼できるパートナーを見つけることが重要です。

不動産管理業界は今、大きな転換期を迎えています。DXの進展によって業務効率とサービス品質が飛躍的に向上しつつあり、従来の常識にとらわれない新たなビジネスモデルが生まれています。こうした変化を追い風に、オーナーも積極的にデジタル活用の恩恵を享受することが賢明でしょう。例えばオンライン上で契約や報告が完結し、スマホから物件の状況を把握できる管理サービスは、時間と手間の節約だけでなく資産価値最大化にもつながります。

一方で、DXの本質は単なる道具立ての刷新ではなく、「より良い不動産運用とは何か」を追求する姿勢にあります。管理会社側も人材育成を含めた自己変革が求められており、その努力が実を結ぶ形でオーナーへの提供価値が一段と高まっていくでしょう。

次世代オーナーの皆様には、ぜひ信頼できる専門家の助言を得ながら最新テクノロジーも取り入れた賃貸経営に挑戦していただきたいと思います。不動産管理業のプロフェッショナルと二人三脚でDX時代の資産運用を成功させ、親から受け継いだ大切な不動産を次世代へとさらに価値ある形で引き継いでいきましょう。