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ワンルームマンション投資が危険な理由と具体的な失敗リスク

作成者: 稲澤大輔|2025/04/23 2:00:00 Z

サラリーマンを中心に「少ない自己資金でも始められる」「将来の年金代わりになる」などと勧められるワンルームマンション投資。しかし初心者が安易に飛びつくのは危険です。実際、国民生活センターには投資用マンションに関する相談が毎年1,000~2,000件以上寄せられており、その多くで「強引な勧誘」や「説明不足」といった問題が指摘されています。本記事では、ワンルームマンション投資の仕組みから潜在的なリスク、過去の失敗事例までを詳しく解説します。過度に楽観的な期待を抱くことなく、現実的なリスク認識と対策を身につけましょう。

ワンルームマンション投資の仕組みと利回り構造

● 投資の基本的な仕組み:ワンルームマンション投資とは、マンションの一室(区分所有)を購入し、それを賃貸に出して家賃収入を得るビジネスです。購入資金は自己資金や金融機関からのローンで調達し、得られた家賃収入からローン返済や管理費・修繕費などを差し引いた残りが手元に残る利益(キャッシュフロー)となります。順調に運用できれば長期的にはローン完済後に家賃収入が老後の収入源となったり、物件を売却してキャピタルゲイン(売却益)を得る可能性もあります。しかし実際には、毎月管理費・修繕積立金・固定資産税など様々なコストがかかるため、想定通りの利益を出すには慎重な収支計画が必要です。

● 利回りの構造と水準:不動産投資では利回り(年間収益÷物件価格)が一つの目安になります。広告には「表面利回り◯%」と記載されますが、これは経費を差し引く前の数字です。実際の手取りを示す実質利回りは管理費や税金等を差し引く分だけ低下し、表面利回りより1%前後低くなるのが一般的です。近年、都市部のワンルーム利回りは低下傾向にあり、東京のワンルーム平均表面利回りは約4%前後(2025年時点)と、かつて専門家が「10%以下は論外」と言っていた時代から大きく下がっています。都心の新築物件では表面利回りわずか2~3%というケースすらあり、ローン金利や諸経費を差し引けば毎月の収支がマイナスになりやすい水準です。利回りだけに惑わされず、十分な自己資金準備や堅実な収支計算が求められます。

甘い勧誘トークに潜む落とし穴

営業担当者は初心者に対し、一見魅力的なセールストークで不安を和らげようとします。しかし、その甘い勧誘文句には誤解や危険が潜んでいるので注意が必要です。よくある勧誘トークと、その落とし穴を見てみましょう。

  • 「都心の好立地だから空室リスクも低く安心です」 – 都心部は賃貸需要が高めとはいえ、家賃相場はワンルームマンションの場合は高確率で築年数とともに下落します。購入時点で収支がトントンか赤字の物件では、将来家賃が下がればさらに収支が悪化します。特に新築ワンルームは初年度の家賃に新築プレミアム(割増)が含まれるため、最初の退去後に賃料が大きく下落しやすいのです。実際、新築から10年で家賃がピーク時より20%近く下落するデータもあります。立地が良く空室が少なくても、利回りが低すぎる物件は根本的に利益が出にくいことを理解しましょう。

  • 「毎月1~2万円の持ち出しは将来への保険だと思えばいい」 – ローン返済を家賃で賄えず毎月赤字が出る状態は、賃貸経営がうまくいっていないサインです。給与から補填できるからと放置すると、追加で物件を買い増ししたくても金融機関から融資を断られる原因にもなります。また「団体信用保険付きローンだから死亡保険の代わりになる」といった説明もありますが、ローン完済時には築数十年が経過して資産価値が大幅に下がり、そこまでに払った赤字分も考慮すれば保険代わりとして十分とは言えません。毎月同額の保険料を支払って確実に保険金を受け取るほうが合理的でしょう。

  • 「減価償却で税金が戻るのでトータルではプラスになります」 – ワンルームマンションはRC造(鉄筋コンクリート)のため減価償却期間が47年と長く、毎年計上できる減価償却費は僅少です。そのため節税効果は限定的で、年収900万円以下の人ではほとんどメリットがありません。わずかな税還付のために毎月赤字を出すのは本末転倒であり、「節税になる」という勧誘は赤字経営を正当化するための詭弁といえます。

以上のように、営業トークをうのみにすると大きなリスクを見落とします。謳い文句の裏にある前提条件や数字のトリックを冷静に見抜き、楽観シナリオではなく悲観シナリオで計画を検証することが重要です。

ワンルーム投資で注意すべき主なリスク

ワンルームマンション投資には様々なリスクが内在しています。その中でも初心者が特に注意すべき代表的なリスクを解説します。不安な点があれば、専門家に相談したり対策を講じた上で投資判断を行いましょう。

空室リスク(入居者不在による収入ゼロの恐れ)

ワンルーム一戸だけを運用する最大の弱点は、空室になると家賃収入がゼロになる点です。単身者向け物件は入居者の入れ替わりも多いため、退去後に次の借り手が見つからなければその間の収入は途絶えてしまいます。しかしローン返済や管理費などの支出は毎月必ず発生するため、空室期間中はそれらを全て自己資金で穴埋めしなければなりません。(空室時にはローン返済や経費を自己負担する必要がある)

ワンルーム1室では空室リスクの分散ができないため、この点は常に念頭に置く必要があります。例えば複数戸数を持つ一棟アパートであれば、数室が空いても他の部屋の家賃で補える分リスクが分散されます。ワンルーム区分投資を行う場合は、空室が一定期間発生する前提で予備資金を確保しておき、物件の魅力を維持して早期に入居付けできるよう努めることが大切です。

家賃下落リスクと収益悪化

不動産の賃料は築年数の経過や市場環境によって変動します。特に築浅~新築物件では初期家賃が高めに設定される傾向があり、時間の経過とともに賃料が下がっていくリスクが高いです。実際、都心ワンルームの賃料指数を見ると築10年で約2割低下し、その後も緩やかに下落しています(築0年~築25年で賃料が約20%低下する傾向)

家賃が下がれば毎月のキャッシュフローも圧迫されるうえ、投資用不動産の価格は家賃収入に連動するため資産価値の下落にも直結します。サブリース契約で家賃保証がある場合でも、契約更新時に保証家賃が引き下げられるケースが見られます(後述)。将来の家賃下落を見込んだ上で収支計画に余裕を持たせないと、想定より早く赤字に転落してしまう可能性があります。

修繕積立金・維持費の増加による負担

マンション経営では建物の維持管理費用も軽視できません。購入当初は築浅で維持費が少なくても、築年数の経過に伴い修繕積立金や管理費が値上げされることがあります。新築マンションでは販売時の管理費・積立金を低めに設定し、数年後に増額される例も少なくありません。また築年数が進めばエレベーターや外壁など大規模修繕が必要となり、臨時の積立金追加徴収(いわゆる一時金)が発生することもあります。

さらに入居者の退去時には原状回復費用(ハウスクリーニングや内装補修)もかかります。長期間住めば設備の交換も必要になるでしょう。こうしたコスト増に対して家賃収入が追いつかないと、当初は黒字だった物件が徐々に持ち出し増の赤字物件に転落しかねません。特に築35年を超える頃には突発的な修繕が増え、大規模修繕費を家賃だけでは賄えない可能性も指摘されています。将来の維持費上昇リスクを織り込んで、長期的な収支シミュレーションをしておくことが肝要です。

資産価値の下落と売却リスク

不動産は購入後の市場環境によって価格が変動します。ワンルーム区分マンションの場合、新築購入直後に「新築プレミア分」が剥落して売却価格が大きく目減りしやすい点に注意が必要です。購入時の諸費用(仲介手数料や登記費用など)は10%前後かかりますが、それらは資産価値には反映されず、売却時に回収できないことが多いです。景気や不動産市況が悪化すれば物件価格自体も下落し、ローン残債以下の価格でしか売れない「オーバーローン」状態に陥るリスクもあります。

特に築古物件は利回り魅力で買ったものの、市場では買い手が付きにくく流動性が低いことがあります。賃借人がいない物件はさらに売りづらくなります。賃料の下落は収益還元法で見積もられる物件価格の低下に直結するため、投資期間中に家賃を維持・向上させる努力を怠ると、出口戦略(売却)でも損失が出る恐れがあります。長期保有前提でも最終的に売却益を得るのは容易ではない点を認識し、安易な楽観は禁物です。

その他のリスク(借入金利・滞納・災害など)

上記以外にも、不動産投資一般のリスクとして金利変動リスクがあります。昨今の低金利で変動金利ローンを利用している場合、将来金利が上昇すれば返済額が増えて収支悪化につながります。また入居者の家賃滞納リスクや、火災・地震など災害リスクも考慮が必要です。災害については火災保険・地震保険の加入である程度カバーできますが、保険で補えない空室期間の発生など間接的な損害も想定しましょう。総じて、不動産投資には多面的なリスクが存在するため、「ミドルリスク・ミドルリターンの投資」と呼ばれるゆえんを理解した上で臨むことが大切です。

新築ワンルームと中古ワンルーム、それぞれの落とし穴

一口にワンルーム投資といっても、新築物件と中古物件ではメリット・デメリットが異なります。それぞれに潜む問題点を押さえておきましょう。

● 新築ワンルームの場合:新築は最新の設備や耐震性が備わり初期修繕コストも低く抑えられます。しかしその分物件価格には新築プレミアムが上乗せされて高額になり、表面利回りは低くなりがちです。前述の通り入居開始直後から家賃が下落しやすく、購入直後に中古として売り出した途端に価格が数百万円単位で下がることもあります。また新築時点では建物の修繕積立金が低めに設定されており、10年目以降に積立金が倍増する例もあります。「新築だから安心」とは限らず、その安心感の対価として高い物件価格と低利回りを受け入れている面があるのです。

● 中古ワンルームの場合:中古物件は価格が割安で表面利回りが比較的高め(築20年程度までの首都圏中古ワンルームで3~4.5%)という利点があります。新築に比べ購入直後の価値下落リスクも小さく、適正価格で買えば家賃とのバランスが取れた投資がしやすいでしょう。反面、築古になればなるほど修繕コストや空室リスクが増大します。古い物件は見た目や設備の面で敬遠され賃料も低下しがちですし、築年が進むと金融機関からの融資期間も短くなる傾向があります。また極端に古い物件では将来的に建て替え問題(区分所有者間の合意形成)なども視野に入れる必要があります。中古物件に投資する際は、表面的な利回りだけで飛びつかず建物の管理状況や修繕履歴、周辺相場を十分チェックして適正価格で購入することが重要です。

立地選びと需給バランスの重要性

不動産投資では「立地が9割」とも言われるほど、物件所在地の要素が成否を分けます。需要の少ないエリアや治安の悪い地域、駅から遠い場所などの物件は空室が続いて家賃収入を得られない失敗例が多数報告されています。実際、立地の悪い物件を掴んだために「賃貸希望者がつかずローン返済を全て自己負担する羽目になった」というケースもあります。空室が長引けば家賃を下げて募集せざるを得なくなり、賃料下落は物件の資産価値低下にも直結します。

一方で、都心好立地でも楽観はできません。東京都心部では人口流入が鈍化し単身者向け需要に変化が出始めているとの指摘もあり、将来の需給バランスは未知数です。さらに都心は競合となる賃貸物件も多く、周辺に新築マンションが建設されれば相対的に自分の物件の魅力は薄れる可能性もあります。安定した需要が見込めるエリアか、将来的な人口動態や開発計画はどうかなど、長期的視点で立地を見極めることが重要です。物件購入前には、そのエリアの賃貸市場(空室率や競合物件の家賃水準)を不動産会社に確認したり、自分で平日昼夜や週末に現地を訪れて生活環境をチェックするなど、徹底的にリサーチしましょう。

サブリース契約に潜むトラブル

「空室リスクを心配しなくていい」として業者から勧められることが多いサブリース契約(家賃保証付きの一括借上げ)ですが、その実態にも注意が必要です。サブリースでは管理会社が物件を一括で借り上げ、オーナーに一定の保証賃料を支払います。一見メリットだらけに思えますが、契約内容に保証賃料見直しの条項があるケースが大半です。契約時には「30年間家賃保証」などと謳いながら、実際には数年ごとに保証額を減額できる旨が小さな文字で記載されていたりします。国民生活センターの相談事例でも「家賃収入を保証すると説明されたが、実は保証に期限があり途中から収支が赤字になった」というケースが報告されています。

さらに深刻なのは、サブリース会社自体が経営破綻するリスクです。実際に2018年にはシェアハウス投資で有名な会社が倒産し、家賃保証が途切れたオーナーたちがローン返済に行き詰まり自己破産に追い込まれる事件が起きました。サブリース契約を結ぶ際は、契約書で賃料減額や打ち切りの条件を綿密に確認し、不明瞭な場合は契約しない勇気も必要です。またサブリースに頼りきりになるのではなく、自力でも十分に運用できる堅実な物件選びをすることが本質的なリスク回避となります。

実際にあった失敗事例から学ぶ

ここまで述べたようなリスクは机上の空論ではなく、実際に多くの初心者が直面しています。国民生活センターの報告によれば、20代の若者からの投資用マンション相談が2013年度の160件から2018年度には405件と2.5倍に増加しました。中には「営業にレストランに呼び出され契約するまで帰してもらえず高額契約してしまった」という強引な販売手法や、「将来の家賃保証があると言われ契約したが、保証期限切れでローン返済が困難になった」というケースも見られます。このように知識や交渉力の乏しい初心者ほどターゲットになりやすく、取り返しのつかない状況に陥る例があります。

また、実際に物件を購入した投資家の体験談からも貴重な教訓が得られます。一例として、年収2000万円超の高収入会社員Hさんは営業に「減価償却で税金が戻るから赤字を補填できる」と言われ、好立地の新築ワンルームを数戸購入しました。しかし1年目こそ税還付があったものの2年目以降は激減し、結果として毎月十数万円を自腹補填する赤字に陥りました。Hさんは営業トークを鵜呑みにしたことを後悔し、最終的には物件を売却して投資戦略を見直すことになります。他にも「手頃だからとワンルームを増やし続けた結果、借入総額が膨らんで身動きが取れなくなった」ケースや、「空室や修繕でトータル赤字ではないかと不安になり投資方針を転換した」ケースも報告されています。これら失敗談に共通するのは、当初の想定が甘かったことやセールストークを疑わなかったことです。ぜひ先人の失敗から学び、同じ轍を踏まないようにしましょう。

専門家が指摘する注意点と代替戦略

不動産投資の専門家や経験者は、ワンルーム投資のリスクに警鐘を鳴らすと同時に、いくつかの対策や代替策もよく提案されています。

  • リスク分散のための一棟物件検討:資金と融資余力が許せば、最初から一棟アパートやマンションへの投資を検討するのも一案です。購入価格は上がりますが複数戸の家賃収入で空室リスクを分散でき、ワンルームより安定収益を見込みやすいとされています。管理手間は増えますが、その分リスクヘッジになるという考え方です。

  • 地方物件や中古区分で利回り確保:都市部の新築ワンルームは利回りが低すぎるため、地方都市の物件や中古区分マンションで高めの利回りを狙う戦略もあります。例えば地方主要都市で駅近の需要が見込めるエリアなら、東京より安い価格で購入でき表面利回り5~8%の物件も探せます。ただし地方は人口減リスクもあるため、需要動向を見極めて慎重に選ぶ必要があります。また中古区分であれば前述のように価格と家賃のバランスが取りやすいですが、築古すぎる物件は避け、管理状態の良いものを選ぶことが重要です。

  • 投資計画の綿密化と専門家相談:どの戦略を取るにせよ、収支計画を悲観シナリオで綿密にシミュレーションすることが不可欠です。空室率○%・家賃下落率○%・金利上昇○%といったストレスシナリオでも耐えられるか検証し、自己資金に余裕を持たせましょう。自身で判断が難しい場合は、公平な立場の不動産投資の専門家に相談するのも有効です。営業担当者以外の第三者の意見を聞くことで、見落としやバイアスを減らせます。

  • 小さく始めて経験を積む:不動産投資が初めてなら、最初から大きなリスクを取らずに小規模に始めるのも手です。例えばワンルーム投資でも、ローンを抑えて頭金を多めに入れるか、あるいは比較的安価な中古ワンルームを現金購入してみるなど、手元資金に余力を残した形で試すとよいでしょう。最悪収支が思わしくなくても致命傷とならない範囲で経験を積み、知見を得てから次のステップに進む方が安全です。

おわりに
ワンルームマンション投資は手軽に始められる反面、初心者に見えづらいリスクが数多く存在します。「ほったらかしで家賃収入が入る」といった甘い言葉に惑わされず、ここで述べた空室・家賃下落・維持費増・資産価値下落などの現実的なリスクに目を向けてください。悲観的に検証した上で成り立つ計画であれば、リスクを抑えつつ長期的な資産形成を目指せるでしょう。不動産投資はミドルリスク・ミドルリターンの堅実な運用と位置付け、「知らなかった…」では済まされない現実を知ったうえで賢く判断することが成功への第一歩です。初心者の方も本記事を参考に十分なリスク管理を行い、安心・安全な不動産投資を心掛けてください。