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    持続可能な都市開発の新たな形「OIMACHI TRACKS」が示す地域創生の未来

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    JR東日本グループが進める「OIMACHI TRACKS(大井町トラックス)」は、単なる再開発プロジェクトを超え、未来志向の都市づくりの象徴として東京・大井町に誕生します。2026年3月の開業を目指すこの一大プロジェクトは、人と地域の可能性を最大限に引き出す新しい価値創造の場として注目を集めています。本稿では、このプロジェクトの概要と価値創造の視点から、地域活性化と持続可能なまちづくりについて考察します。

    OIMACHI TRACKSが目指すもの

    「OIMACHI TRACKS」という名称は、この地に大正時代から存在した鉄道車両工場と線路(TRACKS)に由来しています。この歴史的背景を踏まえながら、地域の発展と歩みをともにしてきた場所が、新たな価値を創出する拠点へと生まれ変わります。

    JR東日本グループが掲げる「広域品川圏」構想の重要な柱として位置付けられるこのプロジェクトは、単に建物を建設するだけではなく、人々の交流と流動を生み出し、都市生活の新たな価値を「共創」する場となることを目指しています。

    計画の全容

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    「OIMACHI TRACKS」の開発エリアは約2万9400㎡の敷地に広がり、主に2つの高層タワーと広大な広場空間で構成されます。

    1. OIMACHI TRACKS BUSINESS TOWER(オフィスタワー):

      • 地上26階・地下3階、高さ約115mの大規模オフィスビル
      • 基準階貸室面積約5,000㎡という都内最大級の無柱大空間オフィスフロア
      • 低層部(2階〜5階)には「TOHOシネマズ 大井町(仮称)」
      • 5階には牧田総合病院健診センター
    2. OIMACHI TRACKS HOTEL & RESIDENCE TOWER(ホテル・住宅タワー):

      • 地上40階・地下3階、高さ約122mの複合タワー
      • 6~13階に「HOTEL METROPOLITAN OIMACHI TRACKS TOKYO」(285室)
      • 14~25階に「OIMACHI TRACKS RESIDENCE」(194戸)とSOHO(20戸)
      • 15~17階に「オークウッド大井町トラックス東京」(78戸)
      • 4階にはスパ・サウナ施設
    3. パブリックスペース

      • 「TRACKS PARK」:約4,600㎡の広大な広場(広域避難場所としての機能も兼備)
      • 「STATION PLAZA」:駅前に位置する広場
      • 「CROSS PLAZA」:オフィスタワーとホテル・住宅タワーの間に位置する広場
    4. 商業施設

      • 歩行者デッキや広場空間に面した1階から5階に約80店舗が出店
      • 飲食店やライフスタイルショップ、ウェルネス施設などが集まるアウトモール型の商業空間

    人と社会を豊かにする都市開発の新潮流

    不動産開発における本質的価値とは何でしょうか。それは単なる建築物の構築ではなく、そこに集う人々の生活や活動を豊かにし、持続可能な社会基盤を創出することにあります。「OIMACHI TRACKS」は、この理念を体現するプロジェクトです。

    地域のつながりを生み出す空間設計

    大井町駅からしながわ中央公園方面のエリアをつなぐ重層的な歩行者デッキと、東急大井町線高架下に開発街区と南側のエリアをつなぐ通路の整備により、まちの回遊性を高めています。これは単なる動線確保ではなく、人々の自然な交流と地域の一体感を促進する設計思想の表れです。

    人が行き交い、集い、活動する場をつくることは、地域コミュニティの活性化に直結します。広場空間やアウトモール型の商業施設は、ただ商品やサービスを提供する場ではなく、人々が交流し、新たな価値観や文化が生まれる「共創」の場となるでしょう。

    持続可能性への真摯な取り組み

    「OIMACHI TRACKS」が注目に値するのは、環境と防災への先進的な取り組みです。環境価値の調達によるカーボン・オフセットを行い、街全体でCO2排出量「実質ゼロ」を目指す姿勢は、これからの都市開発の範となるものです。

    また、災害時には広域避難場所となる「TRACKS PARK」や、建物内に約3,000人の帰宅困難者を受け入れるスペースの確保など、地域防災力の強化にも積極的に貢献しています。72時間滞在可能な備蓄を行うことで、災害発生時の安全を確保する体制も整えられています。

    人を中心に据えた価値創造

    「OIMACHI TRACKS」で特筆すべきは、多様な機能が複合的に集約されながらも、それぞれが相互に関連し合い、新たな価値を生み出す設計になっている点です。オフィス、ホテル、住宅、商業施設、映画館、医療施設、スパなど、異なる機能が有機的につながることで、24時間活気あふれる場が創出されます。

    これは、現代社会が求める「ワーク・ライフ・バランス」を空間的に実現したものと言えるでしょう。働く場所、住む場所、憩う場所が近接することで、人々の生活の質を高め、時間的・精神的な豊かさを提供します。

    地域経済への波及効果と価値共創

    不動産開発の真の価値は、完成後の経済的・社会的波及効果にあります。「OIMACHI TRACKS」の開業は、大井町エリア全体に新たな賑わいをもたらし、周辺地域の価値向上にも寄与することでしょう。

    特に注目すべきは、この開発が単独で完結するのではなく、周辺地域との連携を重視している点です。品川区や地域事業者との協力関係を築きながら、エリア全体の発展を視野に入れたまちづくりを進めています。

    また、TOHOシネマズの出店は、品川区初となる本格的な映画館の誕生であり、文化的側面からも地域に新たな価値をもたらします。こうした文化・エンターテインメント施設の充実は、地域の魅力を高め、訪れる人々の多様性を促進します。

    未来を見据えた長期的視点の重要性

    優れた不動産開発は、短期的な収益性だけでなく、50年、100年先を見据えた持続可能性を備えていなければなりません。「OIMACHI TRACKS」は、現在のニーズに応えつつも、将来の変化に柔軟に対応できる設計思想を持っています。

    例えば、ビジネスタワーの制震構造や複数変電所からの電源確保など、高い防災性能と機能持続性は、将来にわたって安心して利用できる環境を提供します。また、環境認証「CASBEE Sランク」取得を目指すなど、環境面での持続可能性にも配慮されています。

    こうした長期的視点に立った開発は、短期的な利益追求ではなく、持続可能な価値創造を目指す経営哲学の表れであり、高く評価されるべきものです。

    おわりに

    「OIMACHI TRACKS」は、単なる建物群ではなく、人々の生活と活動を豊かにし、地域全体の発展に貢献する「価値創造の場」として構想されています。2026年3月の開業に向けて着々と進んでいるこのプロジェクトは、まちづくりの新たな可能性を示すモデルケースとなるでしょう。

    私たちINAも、不動産業に携わる者として、このような先進的な開発から学び、人を中心に据えた価値創造を追求していきたいと考えています。「OIMACHI TRACKS」の挑戦と成果に注目しつつ、私たち自身も持続可能な社会の実現に貢献していく所存です。

    建物は建てられますが、そこに集う人々の活動こそが真の価値を生み出します。「人財」が企業の最大の資産であるように、「人」こそがまちづくりの中心であるという視点を忘れてはならないでしょう。

    稲澤大輔

    稲澤大輔

    INA&Associates株式会社 代表取締役。大阪・東京・神奈川を拠点に、不動産売買・賃貸仲介・管理を手掛ける。不動産業界での豊富な経験をもとに、サービスを提供。 「企業の最も重要な資産は人財である」という理念のもと、人財育成を重視。持続可能な企業価値の創造に挑戦し続ける。