近年、日本の賃貸マンション市場は顕著な好調さを見せています。2025年1月時点のデータでは、主要都市の多くで家賃が前年同月比で上昇し、2015年以降の最高値を更新するエリアも続出しています。この背景には都心回帰の復活、分譲マンション価格の高騰による購入派の賃貸シフト、外国人居住者の増加など複合的な要因があります。しかし、好調な市場環境にも関わらず、投資家は建築費高騰や金利上昇、将来の人口減少といったリスク要因にも目を向ける必要があります。本稿では、賃貸マンション市場の現状分析から将来予測まで、投資判断に必要なポイントを解説します。単なる「市場好調」の波に乗るのではなく、リスクとリターンを適切に評価し、長期的視点で成功するための投資戦略を考えていきましょう。
2025年に入っても、全国の賃貸マンション市場は堅調な上昇トレンドを継続しています。アットホームの調査によると、2025年1月時点の全国13エリアにおける賃貸マンション・アパートの平均募集家賃は、多くのエリアで前年同月比上昇を記録しています。
賃貸マンション市場が好調を維持している背景には、以下のような要因があります:
都心回帰の復活:新型コロナウイルス感染症による一時的な都心離れの傾向から、社会活動の正常化とともに都心回帰の流れが強まっています。特にオフィス勤務への回帰や学生の対面授業再開により、都市部の賃貸需要が増加しています。
分譲マンション価格の高騰:2024年の首都圏における中古マンション価格は2013年に比べて上昇し、新築価格も高騰しています。この結果、住宅購入予算をオーバーした購入希望者が賃貸市場に流入する現象が見られます。
外国人居住者の増加:在留外国人数は2023年末時点で341万992人(前年末比10.9%増)と過去最高を記録しており、特に東京都、愛知県、大阪府などの大都市で増加が顕著です。この外国人居住者の増加が賃貸需要を押し上げる要因となっています。
法人契約の拡大:企業の住宅費補助制度を活用した法人契約が増加傾向にあり、比較的高めの家賃設定でも安定した入居が期待できるようになっています。
住宅の質に対する意識の高まり:コロナ禍でのリモートワーク普及により、居住空間の質を重視する傾向が強まり、高品質な賃貸住宅への需要が増えています。
市場の好調さは地域や物件タイプによって差があります。
地域別の動向:
物件タイプ別の動向:
賃貸マンション投資における収益は主に「インカムゲイン(家賃収入)」と「キャピタルゲイン(売却益)」の2つに分けられます。現在の市場環境では、これらの収益の見通しは以下のようになっています。
インカムゲイン(家賃収入)の見通し:
キャピタルゲイン(売却益)の見通し:
賃貸マンション市場が好調を示す一方で、投資家は以下のようなリスク要因にも注意を払う必要があります。
空室リスク: 不動産投資の最大のリスクは空室発生です。立地条件が悪い物件や設備が古い物件、周辺相場より家賃が高い物件などは、空室リスクが高くなります。
建築費の高騰: 2021年頃から始まった建築費の上昇は、足かけ3年程度の間に3割から4割程度に達しており、この高コスト状態は今後も続く見込みです。これにより、新規投資の採算性が悪化するリスクがあります。
金融環境の変化: 日銀のマイナス金利政策解除後、住宅ローン金利は上昇傾向にあります。これにより資金調達コストが上昇し、キャッシュフローに悪影響を及ぼす可能性があります。
供給過剰リスク: 三菱地所リアルエステートサービスのアンケートでは、市場に悪影響を与え得る要因として「供給過剰」が最も多く挙げられています。一部地域では新規供給の増加による需給バランスの悪化が懸念されています。
高齢化と人口減少: 長期的には、日本の人口減少と高齢化が賃貸住宅需要に影響を与える可能性があります。ただし、単身世帯の増加など世帯構成の変化が部分的に相殺する要素もあります。
海外起因の不確実性: 米国の新政権の政策や各地の地政学的リスクなど、海外に起因する不確実性の高さも考慮すべき要素です。これらは間接的に日本の不動産市場にも影響を及ぼす可能性があります。
修繕コスト予測の難しさ: 特に中古物件では、購入後に想定以上の修繕費用が発生するリスクがあります。十分な調査と資金計画が必要です。
これらのリスクに対して、投資家は以下のような対策を講じることで備えることができます。
空室リスクへの対策:
資金計画とキャッシュフロー管理:
物件の質と維持管理:
分散投資とポートフォリオ管理:
情報収集と市場分析:
賃貸マンション投資で成功するためには、適切な物件選定が不可欠です。以下のポイントを重視して物件を選ぶことをお勧めします。
間取りと面積: 現在の市場データを見ると、特にカップル向け(30~50㎡)の物件で家賃上昇が顕著です。また、単身世帯やDINKS(共働きで子どもがいないカップル)の増加を考慮すると、1〜2人向けの間取り(1R、1K、1LDK、2DK等)の需要は今後も安定すると予想されます。
建物の品質と設備:
築年数とメンテナンス状況:
管理状況:
立地は不動産投資の成否を決める最も重要な要素の一つです。賃貸マンション投資では、以下の基準で地域・立地を選定することが望ましいでしょう。
交通アクセス:
生活利便施設へのアクセス:
人口動態:
将来性:
周辺環境:
競合状況:
現在、特に注目すべき地域としては、以下のようなエリアが挙げられます:
賃貸マンション投資で安定した収益を上げるためには、適切なコスト管理と正確な利回り計算が欠かせません。
ランニングコストの内訳と目安: 賃貸マンション経営におけるランニングコストは、一般的に家賃収入の20〜30%程度が目安です。主なコスト項目は以下の通りです:
建物の管理・維持費:
入居者対応費:
税金:
諸経費:
利回り計算の方法: 不動産投資の利回りには、主に「表面利回り」と「実質利回り」の2種類があります。
表面利回り:
表面利回り = 年間家賃収入 ÷ 物件取得価格 × 100(%)
例:年間家賃収入が600万円、物件取得価格が1億円の場合 表面利回り = 600万円 ÷ 1億円 × 100 = 6%
実質利回り:
実質利回り = (年間家賃収入 - 年間諸経費) ÷ (物件取得価格 + 購入時諸費用) × 100(%)
例:年間家賃収入が600万円、年間諸経費が100万円、物件取得価格が1億円、購入時諸費用が800万円の場合 実質利回り = (600万円 - 100万円) ÷ (1億円 + 800万円) × 100 = 約4.6%
実質利回りは実際の収益性をより正確に表すため、投資判断の際はこちらを重視すべきです。一般的に、賃貸マンション投資の場合、実質利回りは表面利回りから1〜2%程度低くなります。
利回りの目安: 現在の市場環境における賃貸マンション投資の利回りの目安は以下の通りです:
物件タイプ | 立地条件 | 表面利回り | 実質利回り |
---|---|---|---|
新築マンション | 都心部 | 3〜4% | 2〜3% |
新築マンション | 郊外 | 4〜5% | 3〜4% |
中古マンション | 都心部 | 4〜6% | 3〜5% |
中古マンション | 郊外 | 5〜7% | 4〜6% |
一棟マンション | 都心部 | 5〜7% | 4〜6% |
一棟マンション | 郊外 | 6〜9% | 5〜8% |
2025年以降の賃貸マンション市場については、以下のような見通しが考えられます。
家賃上昇トレンドの継続: 家賃上昇の傾向は2025年も当面続くと見られています。賃貸需要の堅調さが続く見込みです。
需要層の変化:
投資市場の動向:
エリア別の見通し:
2025年以降、賃貸マンション市場には以下のようなリスク要因が考えられます。投資家はこれらを見据えた対応策を検討する必要があります。
金融環境の変化: 日銀の金融政策正常化に伴い、今後も金利上昇の可能性があります。これにより、不動産投資ローンの金利負担増加やキャップレートの上昇(=不動産価格の調整)が生じる可能性があります。
【対応策】
供給過剰リスク: 一部地域では新規供給の増加による需給バランスの悪化が懸念されています。特に高級賃貸物件や特定エリアでの過剰供給には注意が必要です。
【対応策】
人口動態の変化: 長期的には日本の人口減少が賃貸住宅需要に影響する可能性があります。特に地方都市や郊外エリアでは注意が必要です。
【対応策】
建築コストの高止まり: 建築資材価格や人件費の上昇により、建築コストの高止まりが続く可能性があります。これにより新規開発の採算性が悪化し、既存物件の相対的価値が上昇する一方、修繕コストも上昇するリスクがあります。
【対応策】
海外要因による市場変動: 米国の新政権の政策や世界的な紛争など、海外要因による不確実性の高まりが日本の不動産市場にも影響を与える可能性があります。
【対応策】
賃貸マンション市場は現在、都心回帰の復活、分譲マンション価格の高騰による購入派の賃貸シフト、外国人居住者の増加などを背景に好調を維持しています。2025年1月時点のデータでは、多くの主要都市で家賃が前年同月比で上昇し、過去最高値を更新するエリアも続出しています。
この市場環境は投資家にとって魅力的な機会を提供していますが、同時に様々なリスク要因にも目を向ける必要があります。金利上昇 や 建築コストの高騰、将来的な 人口減少 といったリスクが存在する中、成功する投資家は以下のポイントに注力しています:
適切な物件選定: 交通アクセスや生活利便施設への近接性、建物の品質と設備など、入居需要を喚起する要素を備えた物件を選ぶ
立地重視の投資判断: 人口動態や再開発計画、交通インフラ整備など将来性を見据えた地域選定を行う
正確なコスト把握: ランニングコスト(家賃収入の20~30%が目安)を適切に見積もり、実質利回りをベースとした収益性分析を行う
リスクヘッジ策の実施: 固定金利での資金調達、余裕を持った資金計画、分散投資などにより各種リスクに備える
長期的視点での運用: 短期的な市況変動に一喜一憂せず、長期的な資産形成や収益確保を目指す
2025年以降も、当面は賃貸需要の堅調さと家賃上昇トレンドが続くと予想されますが、市場は「拡大期」から「ピーク期」に移行しつつあることを認識し、より慎重な投資判断が求められるでしょう。賃貸マンション投資は、単なる「市場好調」の波に乗るのではなく、リスクとリターンを適切に評価し、長期的視点で成功するための戦略を構築することが重要です。
A1: 賃貸マンション投資で最も重要な成功要因は「立地」です。駅やバス停、スーパーやコンビニなどの生活利便施設への近接性が高く、安定した賃貸需要が見込めるエリアの物件を選ぶことが重要です。さらに、建物の品質、適切な家賃設定、効率的な管理運営も成功のカギとなります。
A2: 現在の賃貸マンション市場が「バブル」かどうかを判断するには、価格上昇の背景にある実需の強さと金融環境を評価する必要があります。都心回帰の復活や外国人居住者の増加など、実需に基づいた家賃上昇要因がある一方、不動産投資市場の専門家の間では市場が「拡大が続き、ピークに近づいている」という見方が多数を占めています。バブルとは言えないまでも、これ以上の急速な上昇は期待しにくい「成熟期」に入りつつあると考えるのが妥当でしょう。
A3: 賃貸マンション投資のランニングコストは家賃収入の20~30%程度が一般的な目安です。主なコスト項目には、管理委託費、修繕費、修繕積立金、共用部の水道光熱費、損害保険料、入居者募集費用、空室損、固定資産税、都市計画税などがあります。管理のポイントとしては、(1)良質な管理会社の選定、(2)計画的な修繕・メンテナンスの実施、(3)入居者満足度を高めるサービスの提供、(4)適切な家賃設定と見直し、(5)税務・会計の適切な管理が挙げられます。
A4: 外国人居住者の増加は賃貸マンション市場に以下のような影響を与えています。(1)全体的な賃貸需要の押し上げ:2023年末時点で在留外国人数は341万人と過去最高を記録し、特に都市部での賃貸需要を増加させています。(2)国籍別・目的別のニーズの多様化:留学生向けの低価格帯物件から、高度専門職向けの高級物件まで、多様なニーズが生まれています。(3)外国人向け賃貸管理サービスの拡大:多言語対応や生活サポートなど、外国人入居者向けのサービスが充実してきています。今後もインバウンド回復や外国人労働者受け入れ拡大により、この傾向は続くと予想されます。
A5: 今後10年間の賃貸マンション市場は、短期的な好調さと長期的な構造変化が入り混じる展開が予想されます。2025~2027年頃までは、都心回帰や外国人居住者の増加により、特に都市部の賃貸需要は堅調さを維持するでしょう。中期的には、金利正常化の進行や建築コストの高止まりにより、新規供給が抑制され、既存物件の価値が相対的に高まる可能性があります。長期的には日本の人口減少が進む中、「質への逃避」が進み、立地条件や建物品質で優れた物件と、そうでない物件の二極化が進むでしょう。また、単身世帯や高齢者世帯向け、外国人居住者向けなど、特定のターゲットに特化した物件の需要が増加すると予想されます。
賃貸マンション投資は単なる「資産運用」ではなく、入居者の生活を支える「事業」でもあります。市場環境やデータ分析に加え、入居者ニーズへの理解と適切な運営管理が、長期的な成功のカギとなるでしょう。まずは自身の投資目的や資金状況を明確にした上で、専門家のアドバイスも参考にしながら、慎重に判断していくことをお勧めします。