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宮益坂地区市街地再開発事業の詳細(東京都2025年4月28日発表資料より)

作成者: 稲澤大輔|2025/04/29 7:00:07 Z

宮益坂地区第一種市街地再開発事業は、渋谷駅東口エリアに位置する宮益坂下交差点周辺の老朽化した市街地を刷新し、渋谷全体の都市機能強化を図るために計画されました。市街地再開発事業の施行により、土地の合理的かつ健全な高度利用と都市機能の更新を図り、渋谷駅の交通結節点機能の拡充、および歩行者中心のにぎわいあふれる街並み形成を目指しています。あわせて、渋谷エリア全体への波及効果を促し、渋谷を国際ビジネス交流都市として発展させることも本事業の重要な目的の一つです。従来、渋谷には大規模ホールや国際水準の宿泊施設が不足しており、本再開発でそれらを整備することでこれまで欠けていた都市機能を補完する狙いがあります。また、地域の土地権利者たちは2019年6月に準備組合を結成して事業化に向けた検討を進めており、2025年4月28日付の東京都都市整備局の報道発表資料において、この再開発組合の設立が正式に認可・告示されたことが公表されました。

対象区域の地理的・都市計画上の位置づけ

本再開発の対象区域は、渋谷区渋谷一丁目および二丁目にまたがる宮益坂下交差点東側一帯で、区域面積は約1.4ヘクタールです。宮益坂下交差点の東側で、宮益坂通り(旧大山街道)を挟んで北側がA街区、南側がB街区、宮益御嶽神社周辺がC街区に区分されています。現在、この地区には中小ビルが密集して20数棟建ち並んでおり、商業・業務ビルや銀行支店、神社などが混在する市街地となっています。用途地域は商業地域、かつ防火地域および駐車場整備地区に指定されており、渋谷駅東口地区地区計画の計画区域内に位置します。また本地区は国家戦略上重要な「特定都市再生緊急整備地域」に指定された「渋谷駅周辺地域」に含まれており、都心副都心である渋谷駅前の一角として都市再生の拠点に位置づけられています。周辺は起伏のある地形を活かして商業・業務機能が集積して発展してきたエリアで、当該再開発はその宮益坂沿道の環境を大きく再編する計画です。

主要な整備内容(ビルの高さ、用途、公共施設整備、オープンスペース等)

本事業では敷地をA・B・Cの3街区に分け、複数の建物からなる大規模な複合再開発を行います。中心となるA街区には超高層の主棟、B街区には中層ビル、C街区には神社施設を含む低層施設が配置される計画です。各街区の計画概要は以下のとおりです。

  • A街区(北側) – 延床面積約19万2,000㎡、地上33階・地下3階建て、高さ約180m規模の超高層棟。主要用途はオフィス、商業施設(店舗)、ホール、ホテル等の宿泊滞在施設、産業育成支援施設、駐車場など、多様な機能を備える複合ビル。

  • B街区(南側) – 延床面積約8,500㎡、地上7階・地下2階建て、高さ約40m規模の中層ビル。主な用途は商業施設(店舗)等。

  • C街区 – 延床面積約750㎡、地上2階・地下1階建て、高さ約10mの低層施設。宮益御嶽神社の社殿・関連施設等が整備される。神社の機能を近代的な建物内に再構築することで、地域の歴史的・文化的継承にも配慮した計画となっています。

再開発区域全体の延べ床面積合計は約20万1,300㎡に達する計画で、渋谷駅周辺でも最大級の開発規模となります。施設計画の特徴として、民間のビル群整備に加えて公共性の高い都市基盤整備が盛り込まれている点が挙げられます。例えばA街区には地上から低層・高層部へ人々を導くエレベーター・エスカレーター等を備えた「縦軸の移動空間」が設置され、歩行者が上下階を円滑に移動できる動線計画となっています。またA街区からB街区を結ぶペデストリアンデッキ(上空通路)や地下広場も整備し、立体的な歩行者ネットワークを構築する計画です。さらに、敷地周囲、とりわけ宮益坂(旧大山街道)沿いには複数の広場空間が配置され、歩行者中心のにぎわい軸として憩いやイベントに利用できるオープンスペースが創出されます。A街区には前述のホールや宿泊施設に加え、官民連携による産業育成支援施設も導入される予定であり、スタートアップ企業支援や産業イノベーション創出の拠点機能も備えます。ホールはコンサート・カンファレンスなど多目的に利用可能な大規模ホールとなり、宿泊施設は国際水準の高品質ホテルとして計画されています。これらにより渋谷にはこれまで不足していた大規模ホール機能やハイグレード宿泊施設が新たに提供されることになります。またC街区に計画されている宮益御嶽神社は、A街区の3階部分に設けられる広場と一体化した形で社殿・境内空間を再整備し、現地に保存・統合される計画です。歴史ある神社を地区内に残しつつ近代的に再興することで、地域のアイデンティティにも配慮した再開発となっています。

スケジュール(事業認可、工事着手、完成予定など)

本事業の全体スケジュールは長期にわたります。以下に主要な節目を示します。

  • 2019年6月 – 再開発準備組合設立(地元権利者による組合結成)

  • 2025年4月28日 – 再開発組合設立認可(東京都告示)

  • 2026年度(予定) – 権利変換計画の認可

  • 2027年度(予定) – 工事着手(起工・着工)

  • 2031年度(予定) – 工事完了(竣工)

2019年に準備組合が発足してから事業計画案の策定や都市計画決定などの手続きを経て、2025年に本組合の設立認可に至りました。今後、権利変換計画の認可を経て実際の工事に着手し、約4年の工期を経て2031年度内の完成(竣工)を目指す予定です。工事着手は2027年度となる見込みであり、完成まで約8年程度の長期プロジェクトとなります。竣工後は各施設の開業準備を経て、2031年頃から順次利用が開始される見通しです。

事業施行者(地権者、デベロッパー、行政機関など)

本再開発事業の施行者(事業主体)は、地元の土地所有者・借地権者など関係権利者で構成される「宮益坂地区市街地再開発組合」です。組合には約36名の権利者が参加しており、再開発法に基づく合意形成のもとで事業が進められています。事業協力者(デベロッパー)として、渋谷駅周辺開発で実績のある東急株式会社および不動産大手のヒューリック株式会社が参画しており、組合に対して事業企画や資金・技術面で協力しています。行政側では、東京都都市整備局(市街地整備部再開発課)が事業認可や指導・助言を行い、渋谷区も都市計画の手続きや地元調整で協力しています。なお、本地区は都市計画上「都市再生特別地区(宮益坂地区)」の指定を受けており、これにより容積率の緩和など柔軟な計画が可能となっています。この特別地区の都市計画原案・決定に際しては東京都都市計画審議会で審議され、必要な同意率や関係機関の承認を得て組合設立に至りました。国の制度面でも、特定都市再生緊急整備地域の一環として位置づけられることから、税制優遇や財政支援などの対象となり得る事業です(今後、公共貢献部分に対する国庫補助などが見込まれます)。

期待される経済効果・社会的意義

宮益坂地区再開発事業には、都市基盤の更新による直接的な効果だけでなく、渋谷の街全体にもたらすさまざまな経済効果・社会的意義が期待されています。

にぎわい創出と回遊性向上: 本計画で整備される広場空間やペデストリアンデッキによって、歩行者にとって快適で回遊しやすい環境が整います。渋谷駅東口から宮益坂方面への人の流れが誘導され、沿道の路面店舗にも新たな賑わいが生まれるでしょう。特に宮益坂沿いに配置される大小の広場はイベント開催やストリートライブ等にも活用可能で、昼夜を通じて人々が滞留することで街の活力向上に寄与します。駅と周辺市街地を結ぶ歩行者ネットワークの要となる「アーバン・コア」が整備されることで、渋谷駅前の新たなゲート空間が形成される効果もあります。これらにより、当地区のみならず渋谷エリア全体の回遊性・滞留性が高まり、地域全体のにぎわい創出が期待されます。

防災性・安全性の向上: 老朽化した雑多な低層ビル群を耐震性に優れた超高層複合ビルへ建て替えることで、都市防災性が大きく向上します。不燃化建築物への更新により火災延焼リスクが低減し、耐震性能の高い構造物が大地震時にも倒壊しにくい安全な街区となります。また、広場や歩道空間の拡幅整備によって避難スペースや緊急車両動線が確保され、災害時の避難誘導・救援活動が円滑に行える環境が整います。大規模災害時には広場が一時避難場所として機能し、地域住民や来街者の安全確保にも資するでしょう。さらに、最新の防災設備や非常用電源・備蓄倉庫の設置なども計画に織り込まれる見込みで、災害に強いまちづくりに貢献します。

国際競争力の強化: 渋谷は世界的にも若者文化やIT産業の発信地として知られていますが、ビジネス拠点・国際交流拠点としてのハード面では課題がありました。本事業で整備される大規模ホールや国際水準のホテルは、国内外から多様な来訪者やイベントを誘致できる施設となり、渋谷の国際競争力を高める切り札となります。これにより、これまで渋谷では開催が難しかった大規模国際会議やコンベンション、展示会等を誘致できるようになり、ビジネス・観光面で東京全体の魅力向上にもつながります。官民連携の産業育成支援施設も、新産業の創出やスタートアップ企業の育成拠点として機能し、渋谷から世界に向けたイノベーション発信を促進します。総合的に見て、本再開発は渋谷を「国際ビジネス交流都市」として発展させる原動力の一つとなり、東京の代表的なビジネス・交流拠点としての地位向上に寄与すると評価できます。

経済波及効果: 再開発事業に投入される総事業費は約2,431億円と巨額であり、建設需要を通じた経済波及効果が期待されます。建設工事期間中は設計・施工・資材調達などに関連して多くの雇用を生み出し、地域の経済活動を活性化させます。また竣工後は、新設されるオフィスフロアに誘致される企業活動や商業施設・ホテルの営業によって継続的な経済効果がもたらされます。テナント料や宿泊・商業売上の増加に伴う税収増効果も見込まれ、渋谷区および東京都の財政基盤強化にもつながるでしょう。さらに、新たなビジネス機会創出による関連ビジネスの波及や地価上昇効果による資産価値向上など、広範な経済的恩恵が予測されます。こうした経済効果と都市機能強化の相乗により、渋谷はさらなる成長と発展が期待されます。

社会的意義: 本再開発は官民協働による大規模プロジェクトであり、そのプロセス自体が都市再生のモデルケースとなります。地域の多数の利害関係者が協調して街づくりを進めることで得られるノウハウは、他地域の再開発にも活かされるでしょう。加えて、渋谷という世界的な情報発信地に新たなランドマークを創出することで、東京全体の都市ブランド価値向上にも寄与します。渋谷ならではの文化・芸術イベントの発信拠点としてホールや広場を活用することにより、都市の魅力と多様性を世界に示すことが可能になります。総じて、宮益坂地区再開発事業は都市の経済的発展と文化的活力向上を両立させ、次世代に誇れる持続可能な都市環境を実現するという社会的意義を持っています。

周辺エリア(渋谷駅周辺)の再開発との関係性

宮益坂地区の計画は、近年進行している渋谷駅周辺エリアの大規模再開発群と密接に関連しています。渋谷駅周辺では、「100年に一度」とも称される大改造が官民連携で進められており、鉄道ターミナルの再編成と複数の超高層複合ビル開発が一体的に進行中です。2000年代以降、東急東横線の地下化を契機に渋谷駅街区全体の再構築が図られ、渋谷ヒカリエ(地上34階、高さ約182m、2012年開業)を皮切りに、渋谷ストリーム(2018年)、渋谷スクランブルスクエア第Ⅰ期(地上47階、高さ約230m、2019年開業)など、大規模施設が次々と誕生しました。現在も、渋谷駅桜丘口地区(渋谷サクラステージ、地上39階ほか、2023年度竣工)や渋谷駅中央・西口地区(渋谷スクランブルスクエア第Ⅱ期、中央棟・西棟、2027年度竣工予定)など複数の再開発プロジェクトが進行中です。宮益坂地区再開発も、この渋谷大改造の一翼を担うプロジェクトであり、特に渋谷駅東口側エリアのランドマークとなることが期待されます。隣接する渋谷ヒカリエとほぼ同等の高さ(約180m)の超高層ビルが新設されることで、駅東口エリアのスカイラインが大きく変貌し、景観が刷新されるでしょう。

周辺再開発との物理的な連携も図られています。本計画では、渋谷駅東口の既存デッキ(ヒカリエデッキ)と接続する歩行者デッキを整備する計画であり、完成すれば渋谷駅から東口方面への歩行者動線がシームレスに繋がります。これにより、駅直結のヒカリエや地下鉄出口から宮益坂方面へ、人々が段差なく行き来できるようになります。既存の渋谷駅前広場・歩行者デッキネットワーク(ヒカリエデッキ~宮下パーク方面の連絡デッキ等)と宮益坂方面が一体化し、駅を中心とした回遊動線が東西南北に拡大する効果があります。この歩行者ネットワークの充実は、周辺の再開発施設間のシナジーを高め、渋谷全体を歩いて楽しめる街へと進化させます。

ソフト面でも、宮益坂地区の開発は周辺エリアと協調することでより大きな効果を発揮します。例えば、渋谷駅周辺では行政とデベロッパーが連携したエリアマネジメント活動(イベントの開催、景観統一、防犯対策など)が行われており、新たな宮益坂地区の広場・ホールもそうした取り組みに組み込まれていくでしょう。渋谷の他の新施設(例:渋谷スクランブルスクエアの展望施設や渋谷ストリームのホール等)と連動したイベントや回遊キャンペーンを展開することで、街全体の集客力を底上げすることも可能です。宮益坂地区の再開発によって東口側にも賑わいの核が生まれることで、渋谷駅周辺は西口・南口側も含めた多極的な魅力を持つ都市空間へと発展するでしょう。

住民や関係者への影響と配慮

本再開発事業は、多数の地権者が参加するプロジェクトであるため、関係者への影響に細心の配慮が払われています。まず、土地・建物の所有者や借家人に対しては、市街地再開発事業の仕組みによって権利変換が行われ、再開発後の新ビルにおいて従前の権利に見合う床(店舗やオフィス区画など)が割り当てられる計画です。これにより、従来からの地元事業者は再開発後も引き続き現地で営業を継続できる道が開かれます。実際、権利者の合意形成にあたっては、将来の入居区画や補償条件について丁寧な調整が行われました。事業協力者であるデベロッパー2社からも専門的なサポートが提供され、合意形成を円滑に進めています。また、地域の歴史的資産である宮益御嶽神社については、上述のようにC街区で社殿を再建・保存する方針が取られており、氏子や近隣住民の信仰の場を途絶えさせない配慮がなされています。

近隣住民や周辺地域への影響低減策も重要な課題です。工事期間中は、作業エリアを仮囲いで覆い騒音・粉じんの飛散を抑制するほか、工事車両の出入口や資材搬入経路にも十分配慮し、通勤・通学動線への影響を最小限にとどめる計画です。渋谷駅周辺という交通量・人通りの多い立地条件を踏まえ、歩行者の安全確保のためガードマンの配置や迂回路の整備なども検討されています。工事に先立ち、地元説明会の開催や事業計画書の縦覧(閲覧)手続きを通じて、近隣住民・テナントへの情報提供と意見聴取が行われました。寄せられた意見や懸念事項については、都市計画の審議過程や事業計画の策定段階で可能な限り反映され、騒音・日影対策や工事車両ルート変更などの措置が講じられています。一部では高層ビル建設への反対意見もありましたが、防災性向上や公共貢献のメリットなどを丁寧に説明し理解を得る努力がなされました。

完成後の運営段階でも、地域への配慮が続けられます。再開発ビルの低層部には地域住民も利用できる商業施設や憩いの広場が設けられ、誰もが立ち寄れる開かれた空間となります。広場では地域の祭りやマルシェ等のイベント開催も可能で、地元コミュニティの活動拠点として活用される見込みです。また、新設されるホールについても、地域住民向けの催事や学校行事などに開放することで地域貢献を図る提案がなされています。バリアフリー対応も徹底されており、段差のない歩行者経路や多目的トイレの整備、視覚障害者誘導ブロックの設置など、高齢者や障害を持つ方に優しい施設環境が提供されます。これらは周辺地域の誰もが安心して利用できるユニバーサルな街づくりに資するものです。

最後に、再開発事業全体を通じての地域連携について触れます。本組合は渋谷区や地元町会とも連携し、地域行事への協賛や情報共有を行っています。再開発後も、地域の防災活動や美化活動に新施設の管理者が参画するなど、「まちづくりパートナー」として継続的に関与していく計画です。これにより、大規模再開発によって生まれ変わる街と既存の地域社会が共存・共栄し、持続的ににぎわいと安心を享受できることが期待されます。宮益坂地区市街地再開発事業は、地域の人々に配慮しつつ都市機能を向上させる好例として、今後の都市再開発のモデルケースともなるでしょう。